不動産会社の業務の中でも非常に大きなウェイトを占めているのが、「査定報告書の作成」なのではないでしょうか。

お客様から売却相談を受けた際には、「いくらで物件が売れるか」を示すことから仕事が始まるものですし、

購入希望のお客様の場合でも「買い替え」を伴う案件となれば、「今住んでる家がいくらで売れるか」が取引を成功させるキーポイントとなりますから、『査定報告書の作成は売買仲介を行う上での最重要業務である』と言っても決して過言ではないのです。

また、お客様である一般の方にとっても「不動産屋さんが一体どんな方法で査定を行っているか」という点は、非常に気なる部分ですよね。

そこで本日は、「不動産の査定方法について」と題して、物件査定のあれこれについて解説をして行きたいと思います。

不動産の査定方法

 

不動産鑑定評価との違いは?

一般の方がまず戸惑ってしまうのが、「不動産業者が行う査定」と「不動産鑑定評価」との違いについてなのではないでしょうか。

まず不動産鑑定評価ですが、こちらは不動産鑑定士という国家資格を有する者が行う、不動産の評価方法となります。

物件の評価額を判定するという点では、不動産会社が行う査定報告と変わりなく見えますが、厳しい国家試験をクリアーした者が「原価法」「収益還元法」「取引事例比較法」等の様々な手法を駆使して行う鑑定となりますので、『精度も高い』が『費用も高い代物』となっているのが特徴です。

これに対して不動産業者の査定報告書は、評価方法に特段の決まりがない上、資格も不要、そして殆どの不動産業者が無料で実施しているサービスとなります。

なお、ここまでの説明を聞くと、不動産業者の査定報告書は精度も品質も『不動産鑑定評価に遠く及ばないもの』のように聞こえますが、実際にはそうとばかりも言えないというのが実情です。

実は不動産鑑定士が鑑定評価を行う際には、不動産業者への市場調査が必須となっており、実際に鑑定士が不動産会社へ足を運んで、相場を聞いて回る姿もよく目にいたします。

確かに不動産鑑定評価は非常に信頼の置けるものとなりますが、日々不動産の売買をこなしている不動産屋さんの意見なしには、結論を出すことは困難であるというのが実情なのでしょう。

このように査定報告は、一般の方が手軽に、そして費用を掛けずに不動産の価格を知ることができる「非常に便利なサービス」となっているのですが、ここで気になるのが一体どんな方法で査定額を導き出しているかという点ですよね。

そこで以下では、査定報告書作成のポイントや注意点等を見ていくことにいたしましょう。

 

査定報告書作成のポイント

では早速、査定報告書作成にあって注意を払うべき点を見てまいります。

客観的な根拠を示しながら、説得力のある報告書を作る

不動産の営業マンにとって「相場観を養うこと」は非常に重要な課題となりますが、どんなに的確な相場観を有していても、それをお客様に伝え、理解していただかなければ、査定価格に納得していただくことはできません。

よって、提示する査定価格が適正なものであることを証明するためにも、具体的な取引事例等をふんだんに折り込んだ報告書の作成を心掛けるべきでしょう。

また取引事例も単なるデータの羅列とならないよう、事例同士の比較等を行いながら、論理的で起承転結が明確な報告書が望ましいと思われます。

シンプル且つ解りやすく

前項で査定報告書の説得力についてお話しいたしましたが、よく目にするのが「文章が長いばかりで解り辛い報告書」です。

文章のボリュームがあると「一生懸命感」は伝わりますし、丁寧に説明しようとすればどうしても長文になってしまうものですが、最後まで飽きずに読めるシンプルさも重要でしょう。

よって、グラフや地図を用いるなどの工夫を施し、解りやすさ重視の報告書を目指すべきです。

誠実な査定を行う

査定報告書作成において、一番問題なのがこちらのポイントです。

お客様は査定報告の作成を他社にも依頼している可能性がありますから、売却が前提の場合などは「少しでも高額な査定額を提示したい」という気持ちになって来ます。

事実、大手不動産仲介業者の中にも、驚く程の高額査定を行って売却依頼を獲得し、後々ゆるゆると値段を下げさせるという手法を使っている会社もあるようです。

しかしながら、現在ではネット検索などを駆使すれば、一般の方でもある程度の相場を調べることができますから、こうした手法もやり辛くなりつつありますし、何よりお客様が「故意に高額査定が行われている事実」を知れば、一気に信頼を失うことにもなりかねません。

お客様の期待を裏切らない誠実な仕事を心掛けたいものです。

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実際の作成例

ここまで、査定報告書作成のポイントについてお話をしてまいりましたが、本項では具体的な作成手順を見ていきたいと思います。

なお、査定報告書の作り方や構成は人それぞれかとは思いますので、「こういう作り方をする奴もいるのか・・・」という参考程度にご覧いただければ幸いです。

なお、査定対象は築5年の木造中古戸建て、北側道路、土地の大きさは30坪、建物の延べ床面積は28坪という前提とさせていただきます。

路線価・地価公示で物件周辺の土地価格を算出する

査定報告書の作成においては、まず最初に路線価地価公示の価格を提示して、物件周辺の相場を依頼者に把握していただくという手法が一般的です。

路線価・地価公示共にインターネット等で手軽に情報が入手できますし、どちらも行政が提示している評価額ですから、依頼者への説得力は抜群と言えるでしょう。

なお、路線価は実勢価格(実際に取引されている価格)の70%~60%程度の価格、地価公示はの100%~90%程度であることを説明した上、

実際の取引事例を提示して、先に述べた「路線価や地価公示価格の減額のパーセンテージが妥当である」ことを示せれば完璧かと思います。

物件周辺の取引事例を紹介

不動産業者間の物件情報共有媒体であるレインズやアットホームなどでは、成約事例の情報を入手することができますので、これらの資料を提示しつつ、取引事例の紹介を行います。

但し、これらの媒体に全ての取引事例が掲載されている訳ではありませんので、自分自身が日々の仕事をする中で入手した近傍同種物件の成約価格や、取引のある不動産業者さんから仕入れた情報等を織り込めれば、他社が行う査定報告に差を付けられるのではないでしょうか。

なお、地域によっては物件周辺に全く成約事例が登録されていない場合も多々あります。

こうしたケースでは、「現在販売中の物件」を事例として取り上げるしかありませんが、売主が個人である場合には、売主の希望やローン残額の問題で相場を逸脱した価格で売りに出ていることも少なくありません。

よって「現在販売中であり、且つ売主が一般の方である中古物件」は採用せず、建物価格が算出しやすく、地域の相場が反映されやすい新築の建売物件を事例として取り上げるべきでしょう。(建売物件は分譲会社が綿密な市場調査を行った上で値付けをしているため、相場から逸脱した価格が付けられることは殆どありません)

情報の整理

そして、本項で扱う「情報の整理」が査定報告書の中で一番の「肝」となる部分です。

ここまで「物件周辺の取引事例」等を示して来ましたが、不動産の価格は立地や周辺環境、そして建物の築年数などによって大きな差が出るものですし、全く同じ条件の取引事例など存在する訳もありません。

そこで、個々の事例の条件を比較し、物件の価格に影響を及ぼす要素について情報の整理を行う必要が出てきます。

例えば実際の査定対象物件が北側道路に面しているのに、取引事例では南側道路の物件しか存在しない場合には、「北道路と南道路でどれくらい価格に差が出るのか」という点を説明しなければなりません。

また、査定対象物件が築5年であるにも係わらず、取引事例は新築のものしか見当たらない場合には、「5年でどれだけ建物の価格が償却するか」という検討も必要になるでしょう。

※築年数の異なる建物同士の価値を比較する場合には、一般的な木造住宅の新築建築単価(坪67万円程度)に延べ床面積を掛け、新築価格を割り出した後、この建物価格が30~35年で償却するという考えの下で検討を行う方法が一般的です。

※この解説の前提となる物件は「築5年・床面積28坪」ですから、『床面積28坪×新築建物単価67万円=新築時の建物価格1876万円』という計算となり、30年で建物価値が0円になると考えれば「1年ごとに約62.5万円が償却(1876万円÷30年=約62.5万円)」し、これが5年で約62.5万円×5年=約312万円分の建物価値が失われますので、現在の建物価値は1876万円(新築時の価値)-約312万円(5年の償却分)=1564万円(現在の建物価値)という計算が成り立ちます。

更に査定対象の土地面積は30坪ですが、事例が15坪などの小さい土地の場合には「事例よりも低めの坪単価での査定となる」はずですし、逆に50坪など大きい土地が比較対象ならば「査定価格の単価は高めの査定となる」のが通常です。

※土地の坪単価は「面積が広くなればなるほど下落する傾向」にありますが、この価格のメカニズムについての詳細は別記事「不動産の土地面積のお話!」をご参照ください。

そして、こうした物件ごとの条件の差が『査定価格に如何なる影響を及ぼすか』について、説得力のある説明をするのが「情報の整理」における最重要なポイントとなりますから、正に不動産業者の腕の見せ所ともなっているのです。

ちなみに私が情報の整理において用いているのが、「土地の条件による価格差早見表」というもので、

  • 北側道路の物件(南道路に比べて)   -10%
  • 角地の物件              +10%
  • 前面道路の幅員が4m以下の物件     -10%
  • 専用通路のある物件(旗竿地)     -20%

というように、プラスになるポイントと、マイナスになるポイントを一覧表にした上、項目ごとに価格に及ぶ影響(減額・増額の%)が一目で判る資料となっています。

もちろん、減額と増額のパーセンテージには根拠が必要となりますから、一覧表作りにはかなり手間と時間が掛かりますが、一度良いものを作ると査定報告書の作成が非常に楽になるかと思いますので、是非ご参考になさってください。

査定価格算出

さて「情報の整理」において、事例として取り上げた物件と査定対象の間に『如何なる条件の差があり、どの程度の価格の違いが生じるか』が明らかになっているはずですから、いよいよ締め括りとして査定価格を提示する段階となります。

なお、ここまで展開して来た説明の内容と査定価格に矛盾する点があれば、折角苦労して作成した報告書が台無しになってしまいますので、全体をしっかりと見直して問題点がないかをチェックするようにしましょう。

また、査定報告書の末尾には「本報告書はあくまで実勢価格を算出したものであり、不動産鑑定評価とは異なるものであること」、そして「市況の変化によって今後、価格が変動する可能性がある」旨の注意書きは必ず加えておくべきです。

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不動産の査定方法まとめ

さてここまで、査定報告書の作成方法や注意点などについて解説をしてまいりました。

物件の査定は、お客様との距離を縮める大切な業務となりますから、自分にぴったりの方法を編み出し、今後のお仕事に繋げて行きたいところですよね。

また一般の方についても、不動産屋さんがどんな方法で査定価格を弾き出しているかが解れば、意図的に行われた高額査定を見抜くことができるでしょうし、

インターネット等の物件情報を元に、ご自身で自宅の査定などにチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。

では、これにて不動産査定方法の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!