これまで本ブログでは「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」など、借地権に関する様々な記事をお届けしてまいりましたが、実務上の借地権売買の流れなどについてお話する機会は殆どございませんでした。

また、借地権が設定された物件にお住いの方からは「自宅の売却を考えているが、借地権売買の具体的な情報が意外に少ない」と言った声もよく耳にいたします。

そこで本日は「借地権売却の流れについて解説いたします!」と題して、実際に借地権売買を行う際の手順や、取引の注意点などについてご説明していきたいと思います。

借地権売却流れ

 

借地権単独売買はおすすめできない?

さて、早速借地権売却の流れについてお話ししたいところではありますが、実は借地権のみを単体で売却する行為は、不動産業者としてあまりすすめできない方法であるという側面もあります。

そこでまずは「なぜ借地権の単独売買を避けるべきであるのか」という点からお話を始めましょう。

そもそも借地権とは「建物を建てることを目的として土地を借りる権利」を指す言葉となります。

そして、「土地を借りる」以上は当然貸主である「地主」が存在していますから、地主と借地契約を交わした上で、建物を建築することにより借地権という権利が設定されることになるのです。

なお、借地権者は借地借家法(借地法)という法律によって手厚い保護を受けることになりますので、「地主からの不当な地代の値上げ」や「正当事由のない借地契約の解約」などは認められない上に、借地権を単体で売却することも認められています。

但し、借地権の売買においては

  • 所有権の土地に比べて評価が低い
  • 地主への地代の支払い義務がある
  • 売却に際して地主の承諾(承諾料)が必要
  • 建替えに際して地主の承諾(承諾料)が必要
  • 地主が承諾しないと借地購入者が住宅ローンを利用できない

などの理由から、売買価格が安価になってしまうケースが殆どなのです。

そこで借地を処分しようとする場合には、借地権単体での売却を行う前に

  • 地主に借地権を購入してもらう
  • 借地権者が土地(底地)を購入して、所有権の土地として売却する
  • 地主と借地権者が協力して底地・借地の同時売買を行って、所有権の土地として売却する

などの方法について検討することになります。

※借地権と底地の同時売買の詳細については別記事「底地・借地の同時売却について取引事例を挙げながら解説いたします!」をご参照ください。

そして、これらの方法による借地権の処分が難しいということになれば、「売却価格が安価になる可能性が高いことを覚悟した上で、第三者に対する借地権単体での売却が行われることになる」というケースが殆どなのです。

借地権売却の流れ

では、具体的に借地権が売買されるまでの流れをご説明していきましょう。

不動産業者の選定と相談

借地権を売却する際にまず行うべきことは、取引を担当する不動産業者の選定作業となります。

借地の売買に当たっては地主との交渉や、権利関係の調整など様々な準備が必要となりますので、取引経験の豊富な信頼のおける不動産業者を仲介に入れるのが得策です。

そして不動産業者決まったなら具体的な売買に向けての打ち合わせを行うことになりますが、前項でお話しした通り、まずは「地主や借地権者による買取り」や「底地と借地の同時売買」などを勧めらることになるでしょう。

また、たとえ「地主に借地権購入の意思がなさそう」であっても、地主へ最初に声を掛けるのは礼儀となりますから、仲介業者と共にご挨拶と相談に行くことになります。

地主との相談

こうして地主との面会が叶えば、借地権の処分について話し合いが持たれることになりますが、地主に「借地権の購入」や「底地の売却」の意思がない場合には、借地権の単独売買しか道は残されていませんので、

  • 借地権の譲渡承諾料
  • 建替え承諾料(建物が古く、借地権購入者による建替えが必須の場合)
  • 更新料(更新が近づいている場合や更新料に明確な定めがない場合)
  • 新規購入者が建物に抵当権を設定する際に協力してもらえるか否か
  • 地代設定の変更等、譲渡に際しての諸条件

についての相談を行い、どのような条件であれば借地権の売買に協力してもらえるのかを話し合うことになります。

※借地の更新料や各種承諾料については別記事「借地権更新料の相場と各種承諾料について解説いたします!」にて詳しい解説を行っております。

こうして売却の条件が決定したなら、地主と借地権者間で取り決めた内容について覚書等の書面を取り交わした上で、販売への準備を進めて行くことになるのです。

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販売価格の決定

さて、具体的な販売活動を開始する前に、販売価格の決定を行わねばなりません。

なお一般的な借地権の価格は所有権価格の60〜70%などと言われていますが、これは国税庁が定める路線価図による借地割合を元にした考え方となり、実勢価格とは異なるものとなります。

そして、実務上の借地権の値付けにおいては、

借地割合から算出した売買価格(所有権価格の60~70%)-購入者が支払うことになる費用(建替え承諾料や更新料、建物解体費用)=借地権売却価格

という考え方で、価格の設定を行わねばなりません。

※購入者(新借地権者)が購入後に負担する費用を、あらかじめ売買代金から差し引いて販売する必要がある。

更に成約に際して、売主である旧借地権者は地主への譲渡承諾料の支払いが必要となりますから、

実際に売主の手元に残る売買代金は「所有権価格の50%以下」となってしまうケースも珍しくない

のが現実です。

借地権の販売活動の開始

こうして借地権売却希望価格が決定されたなら、いよいよ本格的な販売活動が開始されます。

なお、販売活動の流れとしては所有権の物件と大きな差はありませんが、借地権付き建物は金融機関からの融資が受け辛い傾向にありますので、購入希望者が現れても「売買契約を締結するか否か」について慎重な判断を求めらることになるでしょう。

※金融機関によっては一切借地権に対して融資を行わないところもありますし、購入価格満額を融資しない銀行も少なくありません。

一方、近年では借地権であっても建売業者が積極的に建売用地として物件を購入する傾向にありますので、思うように購入希望者が現れない場合にはこうした業者へ売却するのも一つの方法でしょう。

借地権付き建物の売買契約の締結

さて購入希望者が現れたなら、まずは地主へ「買い手が見付かった旨」を報告して、改めて『譲渡を承諾してもらえるか』を確認します。

※購入者の属性(外国人である等)や借地の利用目的(店舗にする、アパート経営をする等)によっては、地主が譲渡を承諾してくれない可能性もありますので、必ず買主の情報を開示した上で確認を行うべきです。

そして、無事に地主の承諾が得らるようなら売買契約を締結して、引渡しに備えた準備を進めていきます。

なお、引渡しまでに行う作業としては

  • 地主より買主の抵当権設定のための承諾書や印鑑証明を取得する(融資利用の場合)
  • 買主が借入先の銀行より融資の承認を取得する(融資利用の場合)
  • 私道の通行承諾の取得など、権利関係の調整
  • 司法書士の手配

などを行うことになるでしょう。

借地権の決済・引渡し

こうして買主の融資承認が無事に取得できたなら、取引の総仕上げとして「借地権の決済」が行われることになります。

ちなみに所有権の場合とは異なり、借地権の決済においては建物(借地権付き建物)のみの所有権移転と引き換えに、買主から売買代金が支払われることになるのです。

※建物の解体が前提の場合、建物の所有権移転を省略する場合もありますが、一般の方同士の売買においては「地主への唯一の対抗要件である建物」の所有権は一度しっかりと買主へ移転しておくべきでしょう。

なお、借地権の引渡しに際しては

  • 旧借地権者が地主へ譲渡承諾料を支払い、譲渡承諾書を取得する
  • 新借地権者の名義にて地主と借地契約を取り交わす
  • 旧借地権者と地主間の借地契約を解除
  • 建物の固定資産税の精算
  • 地代の精算

なども行われることになるでしょう。

ちなみに借地権の売買に際して、借地契約の残存期間に余裕がある場合には借主変更の手続きのみを行うこともありますが、通常は一度契約期間をリセットした上で、「新たに契約期間を引渡しの日から20年とする」などとった『借地契約の巻き直し』が行われるケースが多いはずです。

また、別記事「旧法借地権と新法借地権について解説!」でもお話ししましたが、旧法借地権の物件を売却する場合、買主は旧法のまま借地権を受け継ぐことになるのが通常です。

こうして無事に引渡しが完了した後は、新借地権者は新たな建物のプランが決まり次第、地主へ建替え承諾料を支払った上で、建替え承諾書を取得して、建物の解体、新築工事に着手することになるのです。

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借地権売却の流れについて解説まとめ

さてここまで、借地権売却の流れというテーマでお話をしてまいりました。

ネット上には借地権について様々な記事が存在していますが、「不動産実務において具体的にどのように借地権の取引が進行していくか」を記したものは殆ど見掛けませんでしたので、今回はこれを記事にしてみました。

借地権の設定された自宅を売却する際には、「一体何から始めれば良いのだろう・・・」と頭を抱えてしまう方も多いことと思いますのが、この記事がそんな方の一助にならば望外の喜びです。

ではこれにて、「借地権売却の流れについて解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。