近年、地球規模で発生する異常気象によって、様々な災害が引き起こされています。
ゲリラ豪雨、線状降水帯、竜巻などその枚挙には暇がありませんが、こうした災害の中でも特に注意すべきされているのが「土砂災害」による被害です。
そこで本日は「土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域の違いをわかりやすく解説いたします!」と題して、私たちの生活と命を守る「土砂災害防止法」の概要やレッドゾーン、イエローゾーンの違いについてご説明してみたいと思います。
土砂災害防止法とは
土砂災害防止法は、正式には「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」という名称であり、国民の生命・財産を土砂災害から守るため
- 土砂災害の危険個所の周知
- 被害を防止するための体制作り
- 安全性の高い住宅確保に向けた制度の整備
などを目的に、2001年に施行されました。
なお、この法律は1999年の広島豪雨により発生した大規模な土砂災害の被害を背景に施行されたものとなりますが、その特徴は
土砂災害の発生を防止するための工事等(ハードとしての災害対策)を行うのではなく、災害が発生する可能性が高い地域を調査し、徹底した注意喚起を行うこと(ソフトとしての災害対策)に重点を置いている
という点になります。
そして、危険区域の調査については都道府県知事がこれを行うルールになっており、「土石流」「地すべり」「がけ崩れ」という3種の土砂災害発生リスクが高い地域について
- 土砂災害警戒区域/通称・イエローゾーン
- 土砂災害特別警戒区域/通称・レッドゾーン
というエリア指定を行って様々な制限を課しているのです。(制限行為の許可権者も都道府県知事となる)
ちなみに、土砂災害については砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地崩壊対策法などの法律もありますが、他の法律と比べて特徴的なのは
土砂災害防止法によって指定を受ける区域は「土砂災害が発生する場所(崩れる場所)」ではなく、「土砂災害の被害を受ける(土砂が流れ込んでくる)地域」である
という点となりますので、土砂災害警戒区域等の存在を予め確認しておくことは、正に「災害において生死を分ける重要ポイント」となるのです。
そこで次項では、この土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域について更に詳しく解説していきたいと思います。
土砂災害警戒区域(通称・イエローゾーン)
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)とは土砂災害防止法第7条第1項に該当する区域であり、
土砂災害が発生した場合に「住民の生命や身体に危険が生じる可能性」があり、『危険性の周知』や『避難体制の整備』が行われるエリア
となります。
さて、このようなご説明をすると非常に恐ろしい場所であるように感じますが、
土砂災害警戒区域に指定されても、建築行為や開発行為に対する制限はなされない
というのがルールです。
よって、イエローゾーンに指定された地域の土地を購入したとしても、通常の土地と変わりない「建物の建築」や「土地利用」を行うことが可能となります。
但し、この地域に属する不動産の売買や賃貸等を行う場合には宅地建物取引業法35条に基づく重要事項説明において「土砂災害警戒区域に指定されている地域である旨の説明」が義務付けられていますので、資産価値にもある程度は影響が生じるはずです。
更に自治体が作成するハザードマップ等においても「土砂災害の危険区域」として掲載されることになります。
土砂災害特別警戒区域(通称・レッドゾーン)
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは土砂災害防止法第9条第1項に該当する区域であり、
土砂災害が発生した場合に「建物等の損壊」に加えて「住民の生命や身体に著しい危険が生じる可能性」があり、『建物に対する構造規制』および『特定の開発行為への許可』が必要とされるエリア
となりますので、前項でご紹介したイエローゾーンよりも遥に危険性が高い地域と言えます。
そしてここで気になるのが「具体的にどのような開発行為や建築行為への制限が課せられるのか」という点であるかと思いますが、
「宅地の分譲地」や「社会福祉施設・学校・病院といった災害時要援護者施設の建築用地」の確保を目的とする開発行為は、適切な土砂災害防止措置が施され、安全が確保されていると都道府県知事が認めた場合にのみ許可されることになる。
『居室』を有する建物の新築・増築等に際しては、建築確認の取得が義務付けられている上、土石流に備えるべく必要に応じて下記の仕様・設備を備えることが求めらる。
- 土砂の衝撃に備えて建物の一部を鉄筋コンクリート造(RC造)とする(基礎と一体化した耐力壁の設置など)
- 建物の周囲に土砂防止用のRC造の塀を設置
都道府県知事は特別警戒区域に存する建物所有者等へ「移転の勧告」等が行える上、下記の支援措置を行うことができる。(支援措置の内容は自治体によって異なる)
- 住宅金融支援機構からの融資/特別警戒区域から移転するための資金の融資
- 住宅・建築物耐震改修等事業における補助/特別警戒区域から移転し、新たに建物を建てる者に対しての「古屋解体費用」「新築費用」の一部補助
- 税制面での補助/移転に際しての不動産取得税等の優遇措置の適用
以上のような規制や支援措置の対象となります。
また、イエローゾーンと同様に不動産取引における重要事項説明においては必ず告知される事項となる上、ハザードマップにもその旨が掲載されることになります。
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土砂災害警戒区域等に指定された土地の売買
ここまでの解説にてイエローゾーンとレッドゾーンの違いについてはご理解いただけたことと思いますので、本項では「これらの区域指定が不動産売買にどのような影響を与えるか」についてお話ししていきたいと思います。
なお、ここでまずご注意いただきたいのが「土砂災害防止法における警戒区域の指定が、全ての地域で完了している訳ではない」という点です。
警戒区域の指定については自治体が基礎調査を行った上で、都道府県知事がその指定を行うルールとなりますが、
- 調査は完了しているものの警戒区域の指定までは済んでいない
- 5年程度のスパンで警戒区域の見直しが行われるため、将来的に指定区域となる可能性がある
といった地域も存在しています。
ちなみに、こうした地域については自治体がその情報を開示することを義務付けられていますが、不動産取引においては調査ミスにより買主に告知が行われず、トラブルに発展するケースも多いので是非ご注意いただきたいところです。
では、こうした実情も踏まえつつ各警戒区域の取引における注意点などを見ていきましょう。
イエローゾーン(土砂災害警戒区域)の不動産取引
既にご説明した通り、イエローゾーン(土砂災害警戒区域)においては土砂災害の発生する可能性が高いものの、建物の建築や開発行為などについての規制はありません。
よって、市場に流通する物件の中にもイエローゾーン(土砂災害警戒区域)の指定を受けたものは少なくありません。
また、取引価格についても「若干、割安」といった程度の値付けが一般的となるでしょう。
但し、警戒区域の指定がなされていることを知らずに、売買等が行われた場合には取引上のトラブルとなることは必至ですので、宅地建物取引業法35条に基づく重要事項説明はもちろんのこと、購入者(入居者)募集図面等にもその事実を記載した上、ハザードマップ等の資料を提示する必要があります。
レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)の不動産取引
一方、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)の指定を受けた不動産の取り扱いについては細心の注意を払う必要があります。
こちらも既に解説を行っておりますが、宅地分譲や介護施設、病院などの用地として開発行為を行う場合には「都道府県知事の許可」が必要となりますので、
土地を買ったのは良いが、許可が下りないために「購入目的が達せられない」
と言った理由で取引上のトラブルが発生する可能性があります。
更に、建築する建物に「居室」がある場合には、建築確認を取得した上、土砂災害に耐えられる構造としなければなりませんが、
買主が想定していた以上に強固な構造の建物を建築しなければならず、建築費用が捻出できない
といった事態に発展する可能性もあるのです。
更には、購入した直後に『自治体から転居の勧告を受ける』といったケースも想定できるでしょう。
このようにレッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)の不動産取引には多くのリスクが伴うため、市場全体を見渡しても「殆ど指定区域に存する物件を見掛けない」のが実情です。
但し、「どうしてもレッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)の物件を購入したい」というケースもありますので、こうした際にはイエローゾーン(土砂災害警戒区域)以上に細心の注意を払った上で取引に臨み、買主に対して想定されるリスクなどについて告知を徹底する必要があるでしょう。
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土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域の解説まとめ
さてここまで、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域をテーマに解説を行ってまいりました。
土砂災害に関連する法律については、「砂防法」「地すべり等防止法」「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(急傾斜地崩壊対策法)」などがありますが、
その中でも土砂災害防止法は「身近な危険区域を教えてくれる重要法令」となりますから、不動産取引に際してはもちろんのこと、通勤通学のルートなどに関しても「警戒区域の有無を普段から確認しておくべき」かと思います。
『災害は忘れた頃にやってくる』という格言を常に念頭に、日々の生活を送っていただければ幸いです。
ではこれにて、「土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域の違いをわかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。