前回、本ブログでは「借地権とはどのうようなものなのか?」という記事を書かせていただきました。

その中で借地権者は、借地契約の更新や譲渡に際して、底地権者(土地の持ち主・地主)に更新料や承諾料等を支払う必要があることをお話いたしましたが、『更に詳しく、借地権に係わる費用について知りたい』という方も多いことと思います。

そこで本日は、借地権更新料の相場や、各種承諾料の金額の目安について解説させていただきたいと思います。

借地権更新料の相場

 

更新料について

借地権と聞けば、直ぐに「更新料」というイメージが浮かぶ方も多いかと思いますので、まずは更新料の相場からお話を始めましょう。

借地権の契約期間

借地権には借地法が適用される「旧法借地権」と、借地借家法が適用される「新法借地権」の2種類が存在しますが、契約期間については下記の異なるルールが定められています。

旧法借地権の契約期間
  • 新規契約の最短存続期間/堅固建物(RC造等)30年以上、非堅固建物(木造)20年以上
  • 新規契約で期間を定めない場合、最短存続期間に満たない契約をした場合/堅固建物60年、非堅固建物20年の契約期間とみなされる
  • 更新契約の最短存続期間/堅固建物(RC造等)30年以上、非堅固建物(木造)20年以上
  • 更新契約で期間を定めない場合、最短存続期間に満たない契約をした場合/堅固建物30年、非堅固建物20年とみなされる
新法借地権の契約期間
  • 新規契約の最短存続期間/建物の種類を問わず30年以上
  • 新規契約で期間を定めない場合、最短存続期間に満たない契約をした場合/建物の種類を問わず30年以上
  • 1回目の更新契約の最短存続期間/建物の種類を問わず20年以上
  • 1回目の更新契約で期間を定めない場合、最短存続期間に満たない契約をした場合/建物の種類を問わず20年以上
  • 2回目以降の更新契約の最短存続期間/建物の種類を問わず10年以上
  • 2回目以降の更新契約で期間を定めない場合、最短存続期間に満たない契約をした場合/建物の種類を問わず10年以上

このように借地権の契約期間は非常に長期に及ぶことになりますが、契約が終了する際に問題となって来るのが更新料という訳なのです。

借地権更新料の支払い義務

では借地権契約が更新時期を迎えた場合、借地人は必ずしも更新料を支払わなければならないのかと言えば、実はこの更新料なるもの「借地権の契約書(土地賃貸借契約書)上で、借主がこれを負担する旨が定められていない限りは、原則として支払い義務はない」とされているのです。

但し、たとえ契約書に記されていなくとも、過去の更新において「更新料支払いの実績がある場合」などは、『負担義務あり』と判断されることがありますので注意が必要でしょう。

また、世間に出回っている契約書式にはかなりの確率で「更新料に関する条項」が入っていますから、支払いを回避できないケースも多いはずです。

更に、地主が更新料を請求してきているにも係わらず、これを拒否すれば揉め事になるのは必至ですから、地主との円滑な関係を維持するために「敢えて更新料を支払っている」という借地権者も少なくありません。

ちなみに、近年の判例で「借地権契約書に具体的な更新料の金額や計算方法が記されていないことを理由に、更新料の支払い義務はないと判断された(契約書には相当額の更新料を支払う旨の抽象的な記載はあり)」というものがありますが、これは少々特殊な事例となりますので全ての借地契約に当てはまるものではありません。

但し、こうした判例を基に更新料の支払いを拒む借地権者が増加する可能性もありますから、今後はより具体的な更新料を価格を記載した契約書を取り交わすべきでしょう。

借地権更新料の相場

さて、ここで気になるのが更新料の相場についてですが、

  • 所有権更地価格の3~5%
  • 借地権価格(更地価格に借地割合を乗じた価格)の5~10%

以上が一般的な相場であると言われています。

なお、「二つも相場の基準があると、どちらを信じてよいのやら」と思われるかもしれませんが、具体的に例を挙げて計算を行ってみると以下のような結果になります。

所有権更地価格2000万円の土地の3~5%の計算例
  • 2000万円 × 3% =60万円
  • 2000万円 × 5% =100万円
借地権価格1200万円(更地価格2000万円×借地割合6/10)の5~10%の計算例
  • 1200万円 × 5% =60万円
  • 1200万円 × 10% =120万円

このように二つの基準どちらで計算しても、計算結果に大きな差は生じないのです。

 

なお所有権更地価格とは、文字通り「建物の価格を加味せず、所有権の更地であった場合の評価額」という意味になりますが、ここで気になるのが『評価の方法』となるでしょう。

土地の評価額には

  • 実勢価格(実際に不動産が取引されてる価格)
  • 不動産鑑定評価(不動産鑑定士が算出した価格)
  • 固定資産税評価等(路線価などから計算された税務上の課税標準額)

などの様々な考え方がありますから、「この中でどれを採用するか」によって価格には大きな差が発生します。

ちなみに、借地契約書の中に「所有権更地価格算出の方法」が具体的に記されている場合には、その定めに従うことになりますが、特に記載がなく裁判などで算出方法について争われた場合には不動産鑑定評価が採用されることが多いでしょう。

ただ、不動産鑑定士に鑑定を依頼すればそれなりの費用が発生しますので、地主との話し合いで決着を付ける場合には、実勢価格をベースとして交渉するのがスムーズかと思います。(実勢価格と不動産鑑定評価額はかなり近い価格となりますが、固定資産評価等はこれらの価格と比べて低いものとなるため)

 

一方、借地権価格とは、土地の上に建てられた建物とこれを使用することのできる権利(借地権)の価格を指しますが、実際の算出方法については路線価図に記載されている「借地権割合」をベースとするのが一般的です。

路線価とは税金の計算などに用いられる『公的な土地の評価額』のことであり、これを図面化した路線価図には、借地割合という借地と地主が持つ土地の価値の割合がエリアごとに定められており、多くの地域で「借地割合60%(地主の割合40%)」、商業地などで「借地割合70%(地主の割合30%)」となっています。

そして、所有権更地価格を借地割合で按分することで借地価格を算出することになりますから、仮に「所有権更地価格3000万円」の物件で、該当エリアの借地割合が60%ならば、

  • 所有権更地価格3000万円 × 借地割合60% = 借地権価格1800万円

という計算にて借地権価格が算出されることになります。

 

なお、3~5%という所有権更地価格に対する割合(あるいは借地権価格の5〜10%)については、裁判所の判例などを基に算出した数値となりますが、「地域による格差は加味されていない」という点に注意が必要です。

つまり、都心部の一等地などの場合には、この基準を大きく上回る場合もあるでしょうし、人口の少ない過疎化の進んだ地域などでは反対に基準を下回るケースもありますので、ここまで解説してきた更新料相場の考え方をベースに、地主とじっくりと話し合った上で金額を決定することになるでしょう。

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各種承諾料の相場

さて、更新料に続いては「借地人が一定のアクションを行う際に必要となってくる、各種の承諾料」について、解説させていただきましょう。

前項の更新料に関する解説では、支払い義務の有無について「契約書に記されているかがポイントである」とお話ししましたが、本項で解説する各種の承諾料については、承諾する内容によって取り扱いが変わって来ますので注意が必要となります。

そして、借地権者は地主に以下の項目について承諾を求めなければならない(承諾料を支払わなければならない)とされているのです。

譲渡承諾(名義変更)の相場

借地権が設定された土地においては、建物は借地権者の所有物、土地は地主の所有物という権利関係が発生することとなります。

そして、借地権者は建物を売却することで「借地権自体を売買する」ことも可能となりますが、これを行うためには地主の承諾が必須となるのです。

ちなみに、無許可で借地権を譲渡した場合には借地契約を解除された上で、土地の返還を求められることになります。

よって、借地権の譲渡を行う場合には地主からの承諾が必要となり、これに際して承諾料が発生するのが通常です。

なお、この譲渡承諾と承諾料に関しては借地契約書に記載がなくても必要となります。

そして譲渡承諾料の相場については借地権価格(所有権更地価格の60~70%)の10%が相場とされています。

※各種承諾料について紛争が生じた場合、借地非訟という特別な司法システムで判断が下されるルールとなっており、表記譲渡承諾料の相場についてはその決定の内容から算出されたものであるため、地域性などによって金額が左右されることはありません。

また、相続によって借地権の名義変更が行われる場合には地主の承諾や承諾料が不要とされていますが、遺贈や贈与については通常の売買と同様に承諾等が必要となります。

譲渡承諾(名義変更)まとめ
  • 譲渡承諾料の相場/借地権価格(所有権更地価格の60~70%)の10%
  • 借地契約に記載がなくても地主の承諾と承諾料が必要
  • 相続による名義変更/承諾と承諾料は不要
  • 遺贈・贈与・売買/承諾と承諾料が必要

契約条件変更承諾の相場

契約条件の変更とは「契約存続期間の変更」や「旧法借地権における非堅固建物から堅固建物への契約目的変更」などを行うケースとなります。

こちらについても譲渡承諾と同様に、借地契約書に記載がなくとも地主の承諾と承諾料が必要となります。

ちなみに契約条件変更の承諾料の相場は所有権更地価格の10%です。

なお、承諾が必要となるのは元の契約条件に大きな変更が加えられる場合となりますので、「住居の一部を店舗にする」「建物を第三者へ貸し出す」といった軽微な変更はこれに該当しないケースが殆どです。

契約条件変更の承諾まとめ
  • 契約条件変更承諾料の相場/所有権更地価格の10%
  • 借地契約に記載がなくても地主の承諾と承諾料が必要
  • 軽微な条件変更はこれに該当しないと判断されるケースが多い

建物の建替え・増改築承諾の相場

続いては建物の建替えや増改築に際しての承諾についてとなりますが、実はここまでご紹介した各種承諾とは異なり、借地契約書に「建替え・増改築についての承諾が必要」と明記されていない場合には、借地権者にこれらの義務は発生しません。

また、承諾料の相場についても所有権更地価格の2%~5%という、他の承諾料に比べて幅の広い割合となっているのが特徴です。

こうした承諾料の幅が生まれる背景には、行われる工事が内容が「建替え」「大幅な増築」「小規模な増築」「床面積に変更の生じない改築」など様々なケースが想定されるためであり、一概に相場を示すのが困難であるというのが実情となります。

ちなみに、これまでの判例などから分析すると、建替えや大幅な増改築で3~5%、床面積の増加を伴わない工事や全面的な改築ではない場合には2~3%の承諾料となっているケースが多いようです。

建物の建替え・増改築の承諾まとめ
  • 建物の建替え・増改築承諾の相場/所有権更地価格の2%~5%
  • 借地契約に記載がない場合には地主の承諾と承諾料は不要
  • 行われる工事の内容によって、相場は大きく変動する
  • 建替えや大幅な増改築/所有権更地価格の3~5%
  • 床面積の増加を伴わない工事や全面的な改築ではない場合/所有権更地価格の2~3%

実際の擦り合わせについて

では最後に、ここまで解説してきた更新料や各種承諾料の相場に関する知識を活かして、「どのように地主と話し合いを進めて行くか」について記してみたいと思います。

まず何より大切なのは、判断の基準となる「所有権更地価格」や「借地権価格」を如何に正確に算出するかということになるでしょう。

ちなみに更新料の項でもお話しいたしましたが、借地権の契約書に価格算出の方法が示されていない場合には、不動産鑑定評価額か実勢価格を用いて計算をする他はありませんので、ここではあまり費用の掛からない実勢価格の算出方法についてお話ししていくことにいたします。

本ブログの不動産業者さんへ向けた記事「不動産の査定方法について!」でも解説していますが、『どこどこの土地が坪何万で売りに出されているから、自分の土地はこれに近い価格になるはずだ』といった短絡的な考えで、土地の相場を判断するのは非常に危険です。(実勢価格とはかけ離れた価格が算出される可能性があるため)

では「どのように土地の価格を導き出せば良いの?」ということになるかと思いますが、こうした場合には中立的な立場の不動産業者に費用を支払い、査定報告書を作成してもらうのが有効な手段となるでしょう。

なお、一社の査定だけでは信頼できないという場合は複数の業者に依頼を掛けても問題はありませんが、手間を掛ける以上、報酬だけはしっかり払うようにしていただきたいものです。

 

さて、こうして根拠のある所有権更地価格が示されれば、後はここまでご説明してきた判例ベースの相場に基づいて、地主・借地権者の両者間で協議を行うのみとなります。

そして、この交渉に当たっては、「現在の地代と土地の固定資産税のバランス」「過去に支払って来た更新料・建替え承諾等の金額」「物件所在地の地域特性」等も考慮しながら、着地点を模索していくことになるでしょう。

またここで、実勢価格の算出において査定報告書の作成を依頼した不動産業者に話し合いの仲裁に入ってもらうというのも一つの方法です。

地元の不動産業者であれば、地域の地代や更新料、各種承諾料の相場にも精通しているはずですから、彼らのアドバイスは大いに参考となるでしょう。

こうした事例が示されれば、如何に強気な地主でもあまり無茶なことは言えませんので、交渉を行う上での重要な指標になるかと思いますし、不動産屋さんという第三者の介入でよりスムーズな話し合いが行えるはずです。

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借地権更新料の相場まとめ

さてここまで、借地権の更新料や各種承諾料の相場について解説をしてまいりました。

更新料や承諾料の交渉は非常に面倒に思えますが、ここまでお話ししてきた手法を用いれば、ある程度スムーズに問題が解決できそうですよね。

なお、地元の不動産業者に交渉の仲裁に入ってもらう場合には、査定報告書の作成費用とは別にコンサルタント料などを支払うべきです。

また、不要なトラブルを避けるためにも、依頼を行う不動産業者とは事前に料金の打ち合わせをしておくことをお勧めいたします。

ではこれにて、借地権更新料の相場、各種承諾料の金額の目安についての知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!