不動産の取引と言えば「売買」や「建物の賃貸」が頭に浮かぶ方が多いかと思いますが、実はもう一つ『土地の賃貸』というカテゴリーが存在します。
なお先祖代々、不動産を相続して来た地主さんについては、第三者に借地として土地を貸し出しておられる方も多いことと思いますし、
不動産投資を目的に物件を買い漁っていると、近隣の方から「あの土地を貸してもらえないか・・・」といったお願いをされることもあるかもしれません。
もちろん通常であれば、借地権の新規契約や更新に際しては「プロの不動産業者に契約書の作成を依頼する」のが一般的なのですが、
同じ不動産屋さんでも『借地契約に関するスキルにはかなりの差がある』ものですし、中には「昔ながら市販の契約書で更新契約を済ませている」という地主さんもおられるようですから、これは少々「問題あり」と言わざるを得ません。
そこで本日は「借地契約書の雛形について解説いたします!」と題して、借地の契約に必ず組み込んでおくべき条項や、記載してはならない危険な文言などについて解説を行ってみたいと思います。
借地契約の書式について
さて早速、借地契約書の文言について解説を行いたいところではありますが、まずは前提として覚えておいていただきたい「借地権のポイント」をここで押させておきしょう。
まずご注意いただきたいのは、借地権には旧法借地権と新法借地権という2つのパターンが存在するという点です。
一般に旧法借地権と呼ばれているものは、以前存在していた「借地法」という法律に基づいた借地契約を指す言葉となりますが、1992年に借地法が廃止され、これ以降の借地契約は「借地借家法」という法律の支配を受ける契約(新法借地権)となります。
そしてこのようなお話をすると「既に廃止されている借地法(旧法)なんて理解する必要はないのでは?」というツッコミを受けてしまいそうですが、実は『1992年以前に締結され、現在も有効な借地契約』には借地法の規定が適用されるルールとなっているのです。
よって、「現在この世に存在する借地権の殆どは借地法(旧法)のルールにおいて運用されている」というのが実情ですから、後述する契約内容についても旧法をメインに解説していきたいと思います。(新法については別途注釈を入れさせていただきます)
※旧法と新法の違いについては過去記事「旧法借地権と新法借地権について解説いたします!」にて詳細な解説を行っておりますので、是非こちらをご参照ください。
なお、新法借地権(借地借家法)においては、定められた期間でスッパリと借地契約を終了させることが可能な「定期借地権」の規定が定められていますが、こちらについては「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」の記事にて詳しく取り扱っておりますので、今回は普通借地権のみにターゲットを絞らせていただきたいと思います。
また、資材置き場としての契約など「建物を建てることを目的としない契約(借地借家法、借地法の適用のない契約)」につきましては、後日、別の記事にて解説をさせていただきます。
借地契約書の契約条項
では、具体的に借地権契約書の条項を解説してまいりましょう。
借地契約の対象部分の表示
借地契約書の冒頭においては、「どのような土地が契約の対象となるのか」を明確に記載しておく必要があるでしょう。
よって、対象となる土地の地番、地目、面積をしっかりと書き込んでおく必要がありますし、分筆された土地を跨いで借地権が設定されている場合には対象の土地全てのデータを表示しなければなりません。
なお、土地によっては登記簿上の土地面積(公簿面積)と実際の面積(実測面積)の間に差がある場合もありますが、こうしたケースではその両方を記載した上、「契約面積として公簿と実測のどちらを採用するのか」もしっかりと取り決めておくべきでしょう。
ちなみに、古くから貸し出されている借地の場合には、土地を細かく分筆しておらず1つの地番の土地の上に2つの借地権が設定されているパターンもあるでしょうから、こうしたケースでは土地のどの部分が契約対象になるのかを添付図面などで明確にする必要があります。
また表記のパターンにおいては、借地契約の更新を機会に「土地を分筆してしまう」のがベストですが、これが不可能な場合には測量士等に依頼して現況図面(契約部分の現況測量図)を作成してもらって契約書に添付するのが理想です。
一方、現況図面さえ作れない場合には法務局にて取得できる「建物図面」、若しくは自身でメジャーを当てた簡単な手書きの図でも構いませんので「契約部分が特定できる図面」を作成しておくべきでしょう。
借地契約の目的
物件の表示に続いては、契約の目的を明らかにする条項を契約書に加えましょう。
借地法(旧法)においては木造等の建物を目的とする「非堅固建物」と、重量鉄骨造やRC造の建物を目的とする「堅固建物」の2種類がありますので、どちらを目的とするかをしっかりと記すようにします。
よって、文言としては『借主は貸主から先に表示した土地を非堅固な建物(堅固な建物)を所有する目的で借り受けることとします』などといった書き方になるでしょう。
また、契約自体が旧法借地権(借地法)に則ったものであることを明確にするため、「最初に借地契約が締結された年月日」と「旧法借地権による契約である旨」は明記しておくべきです。
※新法(借地借家法)の場合には建物に構造による区別はありませんので、『建物所有の目的で』くらいの表現を使用しておけば充分ですが、定期借地権等と区別する意味で『賃貸借契約(普通借地権)を締結します』との文言を加えておくべきです。
そして、借地権には賃借権と地上権に基づく2種類の権利がありますので、旧法・新法を問わず「賃借権に基づく借地権である」旨を謳っておくと丁寧でしょう。(地上権による借地契約は数が非常に少ないため、ここでは賃借権を前提に解説しています)
借地契約の期間
借地契約に関してはその期間の設定にも注意が必要です。
借地法(旧法)では非堅固建物なら20年以上、堅固建物なら30年以上という契約期間の最低限度が設けられており、これより短い契約の場合は非堅固建物なら30年、堅固建物なら60年(法定期間)という恐ろしく長い契約期間が適用されることになります。
また、更新契約においても短い期間の契約は非堅固建物20年、堅固建物30年と判断されてしまいますので、ここは20年以上、30年以上の更新期間を設定しておきましょう。
※但し新法借地権(借地借家法)においては、建物の構造に係わらず初回30年以上、次回更新時20年以上、3回目の更新以降は10年以上という期間の縛りがあります。
借地の地代について
借地契約も賃貸借契約の一種ですから、当然ながら賃料(地代)もしっかりと決めておく必要があります。
実務上は年払いなどをしている借地権者が多いと思いますが、契約書上は月額賃料を記しておくのがベストでしょう。
また賃料の支払い方法(振り込み口座)や、支払い時期(翌月分を前月の末払いなど)、日割り賃料が発生した場合の処理方法(30日割りにするなど)についても取り決めておくべきです。
更には、「借主・貸主は経済状況により地代の増減請求ができる」といった内容や、「振り込み手数料は借主の負担とする」などの文言を入れておけば完璧でしょう。
借地の敷金(保証金)について
アパートなどを借りる際には、借主が貸主に敷金を預け入れるのが通常ですが、借地契約においても同様の手続きが行われることが少なくありません。
なお敷金は、賃貸借契約中に貸主が被る損害を担保するための資金となりますので、契約終了時には貸主に返還されるのが通常です。
ちなみに相場につきましては、これといった基準はありませんが地代の月額はそれ程高額とならないケースが殆どですから、お部屋の賃貸のように数か月分というケースは稀(建物賃貸借よりも高額な設定となる)でしょう。
なお、敷金(保証金)の条文としては
- 敷金としての預り金の金額、そして利息は付かない旨
- 敷金の借地人からの相殺(賃料を敷金から支払う等)は不可
- 契約終了時には必要な費用を差し引いて、残りの敷金を借地人へ返還する
- 敷金返還請求権は他人への譲渡禁止
以上の点を加えておくのが良いでしょう。
借地の権利金(礼金)について
続いて契約書に書いておくべきなのが、お部屋の賃貸契約における「礼金」的な性質を持つ『権利金』に関する条項です。
通常、借地権が設定された土地を売買する場合、その価格の指標となるのは固定資産評価に定められた借地割合を、通常の更地価格に乗じた価格となります。
つまり借地割合が「40%(底地)対60%(借地)」のエリアで所有権価格5000万円の土地なら、5000万円×60%=3000万円が借地権売買の指標価格となる訳です。
これに対して、例えばお隣に住む方から「土地を貸して欲しい」と頼まれ、新たに借地権を設定するのであれば先程のような取得費用は掛からないことになりますが、これではあまりに地主さんが可哀想ですよね。
そこで登場するのが権利金という考え方であり、借地権を設定させて上げる代わりに、地主さんが受け取る対価とお考えいただければ良いでしょう。
なお権利金の相場は「借地権の売買と同様の考え方」をいたしますので、更地価格×借地割合にてその金額が算出されることが多いようです。
借地の更新料について
ここまで敷金・礼金のお話をしてまいりましたが、続いては更新料に関する条項となります。
お部屋の契約でも期間が満了し、更新契約が行われる際には更新料が発生いたしますが、借地契約においてもこの点は同様です。
なお、借地契約においては契約期間が長期に及ぶため授受される金額も高額となりますが、「更新料は安価な地代を補填する地主の貴重な収入源」という性質がありますので、貸主との円滑な関係を維持する意味でも支払っておくべき費用と言えるでしょう。
そこでまずは、「契約の更新に際して更新料が発生すること」を契約書に明記しておくことが重要です。
また、借地権契約書の中には「相当額の更新料を支払うものとします」などといった文言が記されることも多いのですが、具体的な更新料の算定方法を定めておくことをおすすめいたします。(例・「次回更新時における最新の土地固定資産税評価額の5%相当」など)
※更新料の相場につきましては別記事にて詳しく解説しておりますので、次項の末尾にリンクを設置しておきます。
実は近年の判例で「相当額の更新料を支払う」と定めた契約に対して、『更新料の算定基準が曖昧なため、借地人の更新料支払い義務はなし』との判断が下った事例がありますので、今後は用心のためになるべく具体的な更新料の金額や計算方法を記載するべきかと思われます。
※最高裁判決ではないので、必ずしもこの判断が今後の判決指針になるとは限りません。
ちなみに更新料の額面を明記する場合には、その金額に応じて契約書へ印紙を貼らなければなりませんので、この点にはくれぐれもご注意ください。(具体的に更新料の金額が書かれていない場合でも200円の印紙を貼る必要があります)
スポンサーリンク
建物の建替え・増改築・借地権の譲渡
さて続いては借地権が設定された後で、建物の建替えや増改築が行われるケースや、借地権の売買(建物の売買)が行われた場合の取り決め事項となります。
一般的に借地における建替えや増改築、そして譲渡については借地権者が地主に対して承諾料を支払うのがルールです。
よって契約書にも「承諾料を支払うこと」と明記しておくのが望ましいでしょう。
但し、借地契約は何十年にも及ぶ期間の長いものとなりますから、契約締結時の感覚で具体的な金額を書いてしまうと、後の景気動向などにより様々な問題が発生する可能性もあります。
こうした事情から、金額については「貸主・借主協議の上で取り決めることとします」という表現にしておくか、「具体的な算定方法(例・建替え承諾なら「土地の固定資産税評価額の3%」など)」を記しておくのが無難でしょう。
なお、このような書き方をすると『しっかりと金額を決めておかないと不安だ』と思われる方もおられるかもしれませんが、
承諾料・更新料にはある程度の相場がありますし、不当な金額を提示されても裁判等で公正なジャッジを受けることもできますから、あまり神経質になる必要はないかと思います。
※更新料とは異なり、各種承諾料は契約書に記載がなくとも借地人に支払い義務が生じるものと解されますが、念のため条文に盛り込んでおくべきです。
※更新料・承諾料の相場については別記事「借地権更新料の相場と他の承諾料について」をご参照ください。
ちなみに建物の修繕には承諾料は発生しませんが、「修繕と称して、実は増改築」というケースもありますので、『修繕を行う場合には地主に通知する』旨の文言も加えておくべきでしょう。
借地権の転貸・譲渡の禁止
不動産の賃貸借契約に付き物の条項と言えば「転貸(又貸し)の禁止条項」となりますが、借地契約でもこちらは入れておくべきです。
但し、この場合の転貸とはあくまで「土地の又貸し」となりますから、建物を他人に貸し出したり、アパートを立てて入居者を募集することを禁じるものではありません。
一方、譲渡については前項で「承諾料を支払えば可能」という条件を付けている訳ですから、「無断譲渡は禁止」という条項を入れておけば済むでしょう。
土地の譲渡について
前項にて借地権の無断譲渡が禁止である旨の条項を加えましたので、続いては地主が保有している土地の譲渡について取り決めをいたします。
但し、借地権の譲渡とは異なり、地主が土地を第三者に譲渡する場合には承諾料等は一切不要というのが法律の考え方ですから、「地主が土地を譲渡する場合には、借地人へ通知をする」という文言を加えておけば充分でしょう。
なお、地主が代われば敷金返還請求先も変更しなければなりませんので、「敷金返還債務は新地主が受け継ぐものとする」という条項も定めておくべきです。
借地の公租公課
借地契約においては「借地人名義の建物が建築されることが前提」となりますから、当然ながら建物の固定資産税等は借主に支払い義務があります。
一方、土地については地主名義のままですから、こちらの固定資産税等を負担するのは貸主です。
当然のことではありますが、契約書にはその旨をしっかりと謳っておきましょう。
借地契約の解除
ここまで多くの約束事が契約書に盛り込まれて来ましたが、当然ながらこれらのルールを破れば、ペナルティーを避けることはできません。
そこでこの条項では、「これをやると契約が解除になりますよ」という内容を定めて行きましょう。
まず必要となるのが地代を滞納した場合の条項であり、「2ケ月分以上の滞納は解除となる旨」を定めておきます。
そして続いて記すべきが、無断での建替え・増改築・借地権の譲渡、そして転貸を行った場合となるでしょう。
また、「貸主・借主が暴力団やその関係者(反社会的勢力)であった場合」や「建物を暴力団事務所として利用した場合」「禁止薬物の製造、販売、貯蔵を行った場合」、「禁止条項に違反した場合」といった内容も解除条項に加えておくべきかと思います。
なお、基本的には上記の解除条項が盛り込まれている契約書であれば充分であるかと思いますが、賃貸借契約に付き物の「公序良俗に反する行為を行った場合」や「信頼関係を破壊する行為があった場合」などの表現も入れておいて損はないはずです。
借地契約の解約・原状回復
借地契約と言えど賃貸借の契約である以上、解約や原状回復の条項を省く訳には行きません。
まず原状回復についてですが、貸主・借主の合意や契約違反による解除が行われた場合は、借主に原状回復義務があることを謳っておきましょう。
なお、借地における原状回復とは建物を解体して更地に戻すこと指しますから、賃借人の責任と費用負担にて解体を行うことになります。
但し、借地権を譲渡した場合には契約自体が終了する訳ではありませんので、原状回復義務は生じません。
一方、解約については、借地借家法の手厚い保護により地主側(貸主)からの解約はまず叶いませんので、借地権者(借主)側からの解約についてのみを記載をすることになるでしょう。(契約違反がない限り、地主からの解除はできない)
よって、解約条項においては「借地権者は3ケ月前に予告することで、本契約を解除することができます」などの文言を入れることになります。
ちなみに予告期間は3ケ月でも6ケ月、1年前でも構いませんが、解約には原状回復(建物解体)が必須となりますから、1ケ月などでは期間が短すぎるかもしれません。
借地契約の連帯保証人について
こちらも賃貸借契約ではお馴染みの条項となりますが、期間が長い借地権においては非常に重要な意味を持つものとなるでしょう。
記載する文言としては、「賃借人の負担すべき全ての債務を保証するものとします」というのが一般的ですが、非常に期間の長い契約となりますので、
「賃借人は連帯保証人に破産・死亡、成年後見人・保佐人・補助人になるなどの事態が生じた場合には、賃貸人の承諾を得た上で連帯保証人の変更を行うこと」という一文を加えておくのがベターです。
また、連帯保証人の捺印には実印を用い、印鑑証明書(発行より3ケ月以内のもの)を添付してもらうのも忘れないようにしましょう。
ちなみに2020年4月以降は民法の改正によって「連帯保証人の保証に極度額を設けるルール」となり、これを定めなかった場合には保証契約が無効となってしまいますので、この点にもご注意ください。
反社会的勢力について
「契約の解除」の項でも、借地人が反社会的勢力であることが判明した場合には、地主が借地契約を解除できる旨は謳ってありますが、ここでは改めて地主・借地人の双方が反社会的勢力に属していないことの確約をとっておきましょう。
また、折角確約をとるのですから、本人のみならず家族等の関係者や会社の役員、そして反社会的勢力への名義貸し契約ではないことも確認しておくべきです。
借地人の義務・禁止条項
民法上、賃貸借契約においては借主が「善管注意義務」という重い管理責任を負うルールとなっていますが、借地契約では改めて契約書にその旨を謳っておきましょう。
また、契約上の禁止事項として
- 借地の使用目的の変更
- 土地に改良を加える行為(盛土や切土等)
- 騒音、振動、悪臭等を発生させる行為
- 土壌汚染を生じさせる行為
- 暴力的な言動等で近隣住民に脅威を与える行為
などを盛り込んでおくべきかと思います。
その他の事項・特約
以上の解説で借地契約書の要点はほぼ押さえていただけたかと思いますが、次の条項も加えておけばより万全でしょう。
契約書に貼付する印紙代は、貸主・借主が各々負担すること。
契約面積と実測面積に際が生じても、互いに異議を申し立てないこと。
スポンサーリンク
借地契約書のひな形まとめ
さてここまで、借地契約書のひな形について解説を行ってまいりました。
地主さんの中には「ネットで拾って来たひな形や、書籍などに掲載されている書式をそのまま利用するのが不安である」「何の疑いもなく不動産業者に契約書の作成を依頼していたが、本当に内容が適切であるかが気になっている」という方も多いかと思いますので、本記事を参考に内容の確認・訂正を行っていただければ幸いです。
ではこれにて「借地契約書の雛形について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。