不動産の権利形態を表す言葉の一つに「借地権」と呼ばれるものがあります。
この借地権なるもの、文字通り「借主が土地を借り、建物を建ててこれを使用する権利」となりますが、法律上では借主である借地人に「手厚い保護」が与えられており、
土地を貸す地主にとっては『非常に不利な権利形態』となっているのが実情です。(借地権に関する詳細は過去記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」をご参照ください)
もちろん弱い立場にある借地人を守ることは重要ですが、過度な借主保護は地主を委縮させる結果を招くこととなり、「このままでは貸し出される土地が減り続け、円滑な土地利用の妨げとなるのでは」との懸念も広がりつつありました。
そこで政府は1992年にこれまで用いられて来た「借地法」を廃止した上で「借地借家法」という法律を施行し、借地権に関する更なる法整備を行うと共に「より貸主に有利な借地の貸出し」が行える新たな制度を設立することにしたのです。
そして、この法改正の中でも目玉とされたのが「更新の存在しない借地権」、つまり『定期借地権』制度の設立でした。
そこで本日は「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」と題して、定期借地権について詳しく解説してみたいと思います。

3つの定期借地権
さて冒頭にて、「定期借地権という新たな借地権の形態が創始された」とのお話をいたしましたが、実はこの定期借地権には用途や目的によって3つの種類が存在しています。
そこで本記事では、この3つの契約形態についてご説明をしながら、そのメリットやデメリットについて解説をさせていただきたいと思います。
一般定期借地権
借地借家法の制定により導入された定期借地権の中で最もオーソドックスな形態が、こちらの一般定期借地権となります。
なお、「一般」という言葉の響きから『ソフトな(ゆるい)契約内容』をイメージされる方が多いかもしれませんが、この契約においては最短でも50年以上の借地権存続期間を定めることが成立要件となっていますので、
その名称に反して「なかなかにハードルの高い契約形態」と言えそうです。(通常の更新型借地権は存続期間を30年以上とすることが定められている)
但し、契約期間が長期に及ぶ反面、一般定期借地権で契約された借地においては契約の更新がないことはもちろん、期間の延長もなし、また通常の借地権で認められている地主に対しての「建物買取請求権」も行使できないルールとなっています。
ちなみに一般定期借地権が認められて以来、マンション分譲においては「この定期借地権が設定された物件」が数多く販売されることとなり、契約満了時には「更地にして土地を返還する義務」こそあるものの、『販売価格が格安』というメリットで多くの物件購入希望者のハートをキャッチしているようです。
但し、地主さんサイドにしてみれば「50年という契約期間はあまりに長い」ですし、「契約満了時に借地人が建物の取り壊しを行えるだけの資力を持っている保証がない」などの問題点が存在しているのも事実でしょう。
こうした将来的なトラブルを回避するためには、契約締結時に取り壊しに必要な資金を地主が保証金として預かっておいたり、明け渡しを拒まれた時のために、高額な違約金を設定しておくなどの対策が必要になるかと思います。
更に、一般定期借地権は「1992年にスタートした制度」であるだけに期間満了を迎えるのは少なくとも2042年以降となりますから、「返還を巡って訴訟などに発展した際に、どのような判決が出るのかは誰も知らない」という予測不能な面があるのも確かです。
よって、こうした不確定要素の多さ故に「この制度を利用する気になれない」という地主さんが多いのが実情ですし、管理人としても「あまりお勧めできない」というのが正直な感想となります。
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建物譲渡特約付借地権
さて、2つ目にご紹介するのが建物譲渡特約付借地権と呼ばれるものです。
こちらの契約形態では借地権の最短存続期間を30年以上とすることが定められており、当然ながら更新はありません。
またその名の通り、契約が満了すると「借地人が建てた建物を地主が買い取らなければならない」という縛りが付加された契約となります。
ちなみに「建物の買取価格」に関しては法令上『相当対価』とされていますが、特約は有効であるため「不動産鑑定評価により示された価格」などとしておけば、買取価格に関する争いは回避できるはずです。
なお、「借地人が契約違反をして、第三者に建物を売却する」というトラブルも想定されますが、契約に際して建物に所有権移転の仮登記などを済ませておけば、こうした問題の発生を防ぐことができるでしょう。
ただ、この建物譲渡特約付借地権において最大のウイークポイントとなるのがたとえ契約書の定め通りに建物が地主の所有物となったとしても、借地人が建物に住みついたままの状態である場合には、法律上「期限の無い建物賃貸借契約を締結した状態」と判断されてしまうという点です。
そして結局は地主が入居者(借地人)を追い出せなくなってしまいますから、借地契約に更新がなくても「結果的に土地を自由に利用することができない」ことになってしまうのです。
事業用定期借地権
そして最後にご紹介するのが、事業用定期借地権となります。
ここまでご紹介して来た2つの契約形態はそのどれもが「大いに問題あり」なものばかりでしたが、こちらは非常に扱い易い定期借地権となるでしょう。
契約の成立要件としては、借地権の存続期間が10年以上50年以下であることに加えて、倉庫や店舗などの事業用物件のみが対象というものになります。
もちろん、契約の更新はありませんし、建物の買取請求も行えませんので、事業用物件限定という点を除けば最も地主さんに有利な契約となるはずです。
なお、こうした便利な制度であるため既に多くの契約が行われており、コンビニエンスストアやファミリーレストラン、ロードサイドの大型ドラッグストアなど、一棟タイプの商業施設の多くがこの事業用定期借地権を利用しています。
ちなみに、事業用として賃貸した土地の建物を借主が宿舎として利用している場合には、これは明確な契約違反となりますので貸主は即座に契約の解除が可能です。
但し、貸主が宿舎として利用されていることを知りながら放置した場合には更新のある一般的な借地権と解釈されてしまう場合もありますから、この点には十分な注意が必要となります。
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定期借地権まとめ
さてここまで、借地借家法に規定されている定期借地権の3つの契約形態について解説してまいりました。
なお、本記事をお読みいただければお判りのことと思いますが、一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権の2種は制度としては存在しているものの殆ど利用されていないのが現状です。(一般定期借地権はマンションの分譲において利用されていますが)
そして、こうした状況となってしまっている理由としては、あまりに契約期間が長過ぎたり、「どのようなトラブルが起こるか予測ができない」という経験値不足という問題もありますが、『そもそも制度自体に問題点が多く、使い勝手が悪い』というのが最大の理由でしょう。
こうした現状を考えると、定期借地権という制度自体は導入されたものの「借地権による円滑な土地利用の実現」という目的は殆ど果たされていないのが現実です。(事業用定期借地権は活発に利用されていますが)
2020年には民法の大改正が行われたのですから、借地借家法に関しても更なる改正をして「実務に寄り添った定期借地権の新制度の設立」を目指していただきたいと管理人は切に希望しています。
ではこれにて、定期借地権とは?という疑問にお答えする知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。
参考文献
自由国民社編(2015)『土地家屋の法律知識』自由国民社 864pp ISBN978-4-426-12021-4