これまで本ブログでは様々な「不動産賃貸に関する知識」をご紹介してまいりましたが、土地の賃貸借についてはあまり詳細な解説を行ってまいりませんでした。
そして、このようなお話をすると「借地権についての記事は読んだことがあるけど・・・」というお声も聞こえて来そうですが、実は土地の賃貸には借地権とは異なる契約形態も存在しているのです。
そこで本日は「土地の賃貸借契約について解説します!」と題して、土地賃貸の契約形態や、土地を貸す際の注意点などについて解説してみたいと思います。
実は扱いが難しい土地の賃貸
さて、冒頭にて「土地の賃貸借にはいくつかの種類がある」旨をお話しいたしましたが、土地賃貸借の最も大きな分類となるのが
- 借地権が発生する土地の賃貸借
- 民法における(借地権が発生しない)土地の賃貸借
という2つ契約形態となります。
借地権が発生する土地の賃貸借については過去記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」にてその詳細を解説しておりますが、簡単に申せば「借主が建物を所有する目的で、土地を借りる際に生じる権利」ということになります。
そして、この借地権においては「一度借地権が発生してしまうと、借地権者(借主)が徹底的に保護される」のが特徴であり、たとえ地主に継続的に土地を貸す意思がなくても『半永久的に借主を退去させることが不可能になる』のです。
これに対して、民法における(借地権が発生しない)土地の賃貸借では借地権ほどの過剰な借主保護は存在せず、ある程度自由に地主側からの契約解除も認められることになります。
但し、ここで注意しなければならないのが
当初は借地権が発生しない契約であったのに、「気が付けば借地権が発生した状態になってしまっている」というケースがある
という点です。
よって、土地の賃貸を行う者(特に地主)は土地の賃貸借の種類をしっかりと把握した上で、借地権が発生しそうな場合には適切な対策を講じなければなりません。
ではこうした前提を踏まえながら、土地の賃貸借の種類を解説していきましょう。
土地の賃貸借契約の種類
では早速、土地の賃貸借契約の種類を見ていきましょう。
建物所有を目的としない土地の賃貸借契約
土地を資材置き場として貸し出す際などに用いられるのが「建物所有を目的としない土地の賃貸借契約」であり、民法における(借地権が発生しない)土地の賃貸借の最もオーソドックスな契約形態となります。
この契約においては、
- 契約書の冒頭にて「建物所有を目的としない契約であること」を明示する
- 土地の利用目的を「資材置き場」等に限定する
- 「建物が建てられない」ことを契約書上に明示する
ことによって、借地権の発生を回避することができるのです。
そして、この契約形態にしておけば勝手に建物を建てられしまったとしても、単なる「契約違反」となりますので、建物を放置することなく異議を申し立てることでトラブルを解決することが可能となります。
※建物が建っているのを地主が知っていたにも係わらず、これを黙認している場合には「借地権が発生している」と判断される場合もありますのでご注意ください。
なお、「太陽光発電設備の設置」や「屋外型看板の設置」などについても、先程の例と同様に土地の利用目的を明確にし、建物の建築を不許可とすれば安全な『土地の賃貸借契約』を行うことができるでしょう。
但し、そもそも建物の建築を禁じた賃貸借契約であるにも係わらず、時には「資材置き場と一緒に簡易的な事務所も設置したい」「建て替えの期間だけ、仮の店舗を出店させて欲しい」などの要望が出る場合がありますから、こうした際には『きっぱりと拒否する』ことが重要です。
駐車場契約
駐車場の契約も民法における(借地権が発生しない)土地の賃貸借の形式の一つとなります。
ちなみに駐車場の賃貸については、土地の貸し出しではなく「駐車場という施設の貸し出し」となりますから、原則として借地権が発生する恐れはありません。(土地の賃貸借ですらない状態となります)
但し、未舗装で区割りの線引きもせず、車止めも設置されていない状態の場合には、「土地の賃貸借」と判断される可能性もありますから、こうしたケースにおいては前項で解説した「建物所有を目的としない土地の賃貸借契約」の作成ノウハウに基づいて契約を作成する必要があるでしょう。
一時使用目的の土地の賃貸借
これまで2つの民法における(借地権が発生しない)土地の賃貸借の形態をご紹介してまいりましたが、本項で解説する「一時使用目的の土地の賃貸借」は、他の契約形態に比べて『非常に借地権発生のリスクが高い』のが特徴となります。
なお、法律上は「一時使用目的の土地の賃貸借」であるならばたとえ借主名義の建物が建築されても『借地権は発生しない』のが原則とされているため、この契約形態を利用される方が多いのですが、紛争に発展した場合には「一時使用目的の土地の賃貸借とは認められない」と判断されるケースが少なくないというのだから驚きです。
そして実際に過去の判例を紐解いてみれば、賃貸借契約書に「一時使用目的の土地賃貸」と明記されているにも係わらず、土地利用状態から「借地権が発生していると認められる」といった判決が下されているケースも多々ありますので、これは堪ったものではありませんよね。
ちなみに、裁判所に一時使用目的の土地の賃貸借と認めてもらうには、「契約期間を1年以下とする」「客観的に見て借地権ではないと判断される要因がある」など、いくつもの要件をクリアーする必要がありますから、これを一般の方が実践するのは「非常に困難である」というのが実情でしょう。
よって、貸し出した土地に建物を建てるのであれば、危険性の高い「一時使用目的の土地の賃貸借」を避け、後ほどご紹介する「定期借地権」を用いるべきかと思います。
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借地権の契約
さてここからは、借地権が発生する土地の賃貸借について解説していきます。
更新が可能な借地契約
借地権が発生する土地の賃貸借の内、最も一般的なのがこちらの「更新可能な借地契約」となります。
ちなみに同じ借地契約でも
- 賃借権による借地権/債権に基づく、最もオーソドックスな借地権
- 地上権による借地権/物件に基づき、賃借権より強い効力を有するが用いられるケースは少ない
という2種類が存在する上、借地契約の開始時期によって
- 旧法借地権(1993年の借地借家法施行以前に締結された契約に適用、新法施行後に契約が更新された場合も旧法のルールに従う)
- 新法借地権(新法施行後の新規契約に対して適用される)
という異なる法律の支配を受ける(異なる運用ルールが適用される)2つの契約形態がありますので、借地権を扱う場合にはその種類についても注意が必要となります。
ちなみに新法に基づく更新が可能な借地権は「普通借地権」と呼ばれ、次項で解説する定期借地権と区別されています。
なお新、旧法借地権の違いについては別記事「旧法借地権と新法借地権について解説いたします!」にて詳細な解説を行なっております。
定期借地権
先程ご紹介した「更新可能な借地権」とは異なり、定められた契約期間が経過することでキッパリと終了するのが定期借地権となります。
なお、定期借地権には
- 一般定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 事業用借地権
という3種類が存在し、それぞれに異なる特性を持っていますが詳細については「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」の記事にてご確認いただけばと思います。
借地権を発生させずに貸地に建物を建てる方法
これまで解説してきた通り、一度借地権が発生してしまうと半永久的に立ち退きが不能となりますから、土地の貸し出しに際しては充分に注意を払う必要があります。
そして特に「借地権を発生させたくないが、貸地に建物を建てる必要がある」という場合には、慎重に契約の形態を選ばなければなりません。
最も安全な方法としては、前項にてご紹介した定期借地権の契約を用いる方法(借地権は発生してしまうが、期間は限定される)となりますが、契約期間が最短である「事業用借地権」であっても10年以上の契約とする必要がありますので、正直あまり使い勝手は良くありません。
そこでおすすめとなるのが相手が借りたいという土地に地主さん名義の建物を建て、それを賃貸するという手法です。
もちろん建物を建てる以上は費用が発生しますが、これならばアパートや賃貸マンションを貸すのと同様に建物を賃貸するだけですから、借地権が発生することは絶対にありません。
さて、このようなお話をすると「土地を貸すのに建物を建てて上げるなど現実的では無い」と思われるかもしれませんが、「建築に掛かったコストは賃料に上乗せして払う」などの方式で精算することも可能ですから、決してあり得ない方法ではないのです。
なお、コンビニやファミレスの店舗などにおいては、実際にこの方式の建物賃貸借がしばしば用いられています。
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土地の賃貸借契約について解説まとめ
さてここまで、土地の賃貸をテーマにお話をしてまいりました。
一口に土地の賃貸借と言っても様々な種類があり、少し取扱いを誤っただけでも非常に大きな問題が生じることをご理解いただけたはずです。
なお、実際に土地の賃貸借を行う場合には不動産業者へアドバイスを求めるべきですが、実は不動産屋さんの中にも「土地の賃貸借についてはあまり詳しくない」という方が少なからずいらっしゃいますから、もしも皆様がお困りになられた場合には本記事をご参考にしていただければ幸いです。
ではこれにて、「土地の賃貸借契約について解説します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。