この地球上に生を受けた以上、避けることができないのが「齢をとること」です。

なお、年齢を重ねることは同時に『多くの人生経験を積むこと』でもありますので決して嘆くべきことではありませんが、「将来認知症を患うのでは?」「相続はどうしよう?」などいったことを考える始めると『背筋に寒いものが走る』という方も多いことでしょう。

もちろん、こうした万が一の事態に備えて「充分な準備」をしておくに越したことはありませんが、『遺言を書くだけ』では非常に不安を感じるものですよね。

そこで本日は「家族信託とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、現在多くの注目を集めている個人信託についてお話ししてみたいと思います。

家族信託とは

 

家族信託って何?

では早速、「家族信託とは何なのか?」という点から、ご説明を始めて行きたいと思います。

信託と聞くと、「投資信託」や「信託銀行」などといったフレーズが頭に浮かんで来るかもしれませんが、この手の信託と家族信託とは『全く趣の異なるもの』と言えるでしょう。

そもそも信託とは「財産を第三者に預けて運用をしてもらうこと」を指しますから、資産運用的なイメージが湧いてきてしまうのも仕方のないことなのですが、家族信託はむしろ『財産の管理を信頼できる家族に託す』という意味合いが強くなります。

例えばアパートや賃貸マンションなど収益物件を保有している方が認知症などを患った場合、建物が老朽化して来ても適切な改修工事を行うことは困難なはずです。

もちろん、それなり年齢に達したの子供が居れば「代わりに工事を行う」ことも可能でしょうが、認知症の方の口座から勝手にお金を引き出して修繕を行うのは様々なトラブルに発展する可能性がありますよね。

そこで元気な内に「この人!」と決めた親族に収益物件を信託しておけば、信託された者(受託者)の判断で堂々と口座からお金を引出し、自分の判断で必要な工事を行ったり、場合によっては物件を売却することもできるという訳です。

 

後見人よりも家族信託が進められる理由

さて、前項のお話をお読みになった方の中には「だったら成年後見人を決めておけば良いのでは?」という疑問をお持ちになられた人もおられるかと思います。

確かに成年後見人となる親族を指名しておけば、当人が認知症になったとしても「本人に代わっての様々な法律行為が可能となる」でしょう。

しかしながら後見制度では「積極的な財産の利用」が禁じられていますから、余程生活が困窮しない限りは物件を売却することができませんし、収益物件の集客性向上させるためのリノベーション工事などを行うことも許されないケースが殆どなのです。(後見制度は必要最小限の財産の処分しか認めていない)

また、後見人には家庭裁判所へ定期的な報告義務を負うことになりますから、引き受ける側にもかなりの負担が掛かることは必至でしょう。

そしてこれでは、収益物件の運用に必要な資金を自由に動かすことができませんし、そもそも後見人を引き受けてくれる人を探すのにも苦労してしまうはずです。

これに対して家族信託を利用すれば、物件の管理に必要な権限を全て受託者に与えることもできますから、よりスムーズで効率的な不動産の運用が可能になります。

なお家族信託では、物件を家族に預ける「委託者」、物件を預かる「受託者」、物件からの収益を受け取る「受益者」の設定が可能です。

よって、物件を保有する年老いた親を「委託者」兼「受益者」とし、信頼のおける家族を「受託者」とすれば、「物件の管理運用は家族が行い、そこから上がって来る家賃は親が受け取る」という仕組みを作ることが可能となります。

 

家族信託なら、こうしたことも可能に!

さて、ここまでのお話で「家族信託がどんなものであるか」についてはある程度ご理解いただけたことと思いますので、ここからは家族信託だからこそ実現できるメリットについて解説して行きたいと思います。

収益物件から上がって来た家賃等を有効利用できる

収益物件のオーナー様が死亡したり、認知症になってしまった場合、その方の銀行口座は原則凍結されることになります。

そして、こうした状況となってしまうと『大家さんである親の口座には毎月賃料が振り込まれて来るのに、実際に物件を管理している家族はそのお金に手が出せず、ひたすら自腹を切り続けている』といった事態に陥ることも珍しくありません。

また、親御さんが施設などに入所しなけれなならない際には、毎月高額な費用が必要となりますが、この支払いに対しても賃料収入を充てることは叶わず、子供たちが費用を負担し続けることになります。

一方、家族信託を利用して「信託用の口座」を作り、親に入って来る賃料の何%かが『この口座へと振り込まれる仕組み』を作っておけば、先に述べたような「悲惨な状況」を回避することができるはずです。

遺言書以上に自由度の高い相続が可能になる

続いてご紹介するのが、家族信託を遺言の代わりに利用する方法です。(遺言代用信託)

通常の遺言の場合、「親から子供へ」といった1次相続しか行うことができませんが、家族信託を利用すれば「親から長男へ」、そして「長男が亡くなった場合には、次男の子供へ(孫へ)」といった2次・3次的な相続が可能となります。

こうした形態の家族信託は「受益者連続信託」と呼ばれるもので、『第一受益者を自分(親)、第二受益者を長男、第三受益者を次男の息子(孫)』などといった「受益者の指定」をしておけば問題なく実現が可能となるでしょう。

また、遺言において「財産の分配は家族信託にて行う」と定めることも可能ですから、これは実に便利ですよね。(遺言信託)

但し、家族信託は「30年経過した時点で受益者となっている者の次の代の受益者にて終了する」と定められており、最後の受益者が財産を取得(余剰財産の取得)して完了するのがルールですから、『未来永劫財産が受け継がれて行くものではない』という点にだけはご注意ください。

※家族信託によって発生した受益権についても、贈与税や相続税の課税対象となります。

不動産の相続がよりスムーズに

また、前項にてご説明した受益者連続信託を利用すると、不動産の相続も行いやすくなります。

例えば、1棟のアパートを3人の相続人が受け継いだ場合には「土地や建物を持分で分ける」か、「アパートを1人の相続人が引き受け、他の相続人は現金で相続を行う」のが通常です。

しかしながら、持分で不動産を相続すると売却などの際に揉め事に発展する確率が非常に高くなりますし、現金にて精算するケースにおいても他の相続人に渡す充分な貯えが無い場合だって充分に有り得るでしょう。

※問題が発生しがちな不動産相続については、過去記事「不動産相続の注意点を解説致します!」をご参照ください。

その点、受益者連続信託にしておけば受益者となった者が他の相続人に対して「家賃収入の配当」を与えるだけになりますし、売却などのついても他の相続人は口を挟めませんので、発生する揉め事も極端に少なくなるはずです。

なお、遺言によって満足いくだけの相続分を得られなかった相続人が起こす遺留分の請求(遺留分滅殺請求)については『受益権もその対象』と判断されますから、遺留分に応じて配当と与えることで問題の処理を完了することができるでしょう。

破産などの事態における財産保護

なお、家族信託の設定を受けた財産は委託者が万が一破産した場合でも、差押えなどを受けることはありません。

よって、将来的に経済状態が悪化する可能性がある方には「財産保護の手段」としても活用が可能です。

 

実践!家族信託

では実際に、家族信託を行うにはどんな手順を踏めば良いのでしょうか。

本項では家族信託を実践する際に必要となる知識をご紹介してまいります。

契約と登記

家族信託を実現するのに、まず必要となるのが関係者間での信託契約の締結となります。

この契約書の中で「委託者・受託者・受益者が誰なのか」といった基本事項から、「受託者に如何なる権限が与えられ、受益者がどのように受け継がれて行くのか」といった事項が取り決められるのです。

そして対象の資産に不動産が組み込まれている場合には、この契約を基に信託登記が行われることになります。

なお、信託財産として登記が行われた場合には「物件の所有権も受託者に移る」ことになり、通常であれば「売買」などの事項が記される登記簿謄本(登記事項証明書)の登記目的には「信託」との記載がなされるのです。

専門家への依頼

そして前項でお話しした通り、家族信託を行うためには契約と登記が必須となって来ますが、これらの手続きを一般の方が自力で行うのは少々厳しいものがあります。

また、信託契約の内容に不備があれば「後々家族間の揉め事に発展する可能性」もありますから、これでは本末転倒です。

そこで出番となるのが「家族信託の専門家」なのですが、実はこの家族信託という制度は2006年の法改正を切っ掛けに利用が可能となった新しい仕組みであり、未だその道のスペシャリストが定まっていないのが実情です。

但し、基本的には法律上の手続きがメインとなりますから、弁護士や司法書士、行政書士などに相談するのがベストとなりますが、税理士の中にも家族信託を専門で扱っておられる方がいらっしゃるようです。

なお、事前相談に契約書の作成、登記までとなると、手続きの手数料もかなりの金額になるはずですから、事前にしっかりと料金を確認した上で依頼を行うようにしてください。

契約内容の変更

前項にて解説した専門家への相談も完了し、契約書の締結や登記が完了すれば家族信託の一連の手続きは完了となりますが、その後も「やるべきこと」は残っています。

例えば「親→長男→次男の子(孫)」といった受益者の流れを定める信託契約を結んでいたものの、『次男の子がグレて行方不明になってしまった』などという事態が発生することもあるでしょう。

こうしたケースでは、後から契約内容を変更することも可能ですから、未来に向けて常に契約内容を見直しして行く必要があるのです。

家族信託とは?まとめ

さてここまで、家族信託についてのご説明を行ってまいりました。

本記事をお読みくだされば、家族信託が「実に画期的な制度であること」がご理解いただけたことと思います。

また、これまでご紹介した様々なメリットを聞くと「本当にデメリットはないの?」と疑わしく思われる方もいらっしゃることでしょう。

確かに家族信託においては、信託財産の運用で損失が発生し、その他の資産で利益が出ている時でも、損益通算や損失の繰延ができないなどの弱点はあります。

また、受託者は他の親族と比べものにならない、実務上の負担(物件の管理責任等)を負うと言った問題もあるでしょう。

しかしながら、ここまでお話しして来た利点を考えれば、『これらのデメリットを負っても、余りあるメリットが得られるのは明白』だと思います。

新しい制度を利用するのは少々勇気の必要であるとは思いますが、この機会に是非とも家族信託の利用をご検討いただければ幸いです。

ではこれにて、「家族信託とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。