現場を知るから、本当に役立つ。
不動産管理の実務経験をもとに、実際の現場で役立つ知識を分かりやすく解説します。
※賃貸保証会社の仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています
賃貸物件を運用する上で、できれば避けたいトラブルの一つが「家賃の滞納」です。
近年では賃貸保証会社への加入を契約条件とする物件が増えており、以前と比較すれば、貸主や管理会社が直接滞納家賃を回収しなければならないケースは少なくなりました。
しかし、
- 長期間入居しているため保証会社へ加入していない
- 連帯保証人のみで契約している
- 何らかの事情で保証会社から代位弁済を受けられない
といったケースでは、貸主や管理会社自身が督促を行わなければならない場合もあります。
そして、家賃の督促で非常に重要なのが、
「滞納額を膨らませないこと」
です。
1か月分の滞納なら支払うことができても、2か月、3か月と未払いが積み重なれば、入居者にとって一括での返済は急激に難しくなってしまいます。
家賃滞納への対応では、強く取り立てることよりも、早期に連絡を取り、具体的な支払約束を取り付けることが重要です。
そこで今回は、家賃滞納が発生した際の督促方法や、実際の管理現場でどのように対応を進めていくのかについて、不動産管理の実務経験をもとに解説していきたいと思います。

家賃滞納では早めの督促が重要
家賃滞納への対応で最も重要なのは、強い言葉で支払いを迫ることではありません。
滞納が始まった段階で、できるだけ早く入居者と連絡を取ることです。
「数日くらい遅れても、そのうち振り込まれるだろう」
「今月はたまたま忘れているだけだろう」
このように考えて放置してしまうと、翌月の賃料まで未払いとなり、気が付けば2か月、3か月分の滞納になってしまうことがあります。
特に注意したいのが、毎月の収入にあまり余裕のない入居者です。
家賃8万円 × 3か月 = 滞納額24万円
通常の生活費を支払いながら、この金額を一括で返済するのは決して簡単ではありません。
そのため、支払期日を過ぎても入金が確認できなければ、まずは電話やSMSなどで早めに本人へ確認することが重要です。
家賃滞納は「待つほど回収しやすくなる」ものではありません。
むしろ滞納額が増えるほど、解決は難しくなると考えた方がよいでしょう。
家賃滞納の最初の督促では理由を確認する
家賃が支払われていないことを確認すると、つい、
「いつ払ってもらえるのですか?」
「早く入金してください」
と、支払いだけを求めたくなります。
しかし、私の経験上、最初に確認したいのは、
「なぜ家賃が支払われていないのか」
という点です。
実際、家賃滞納の原因には、
- 単純に振込みを忘れていた
- 口座残高が不足していた
- 給与の入金日が変わった
- 転職などで一時的に収入が減少した
- 病気や失業などによって生活が苦しくなった
- 複数の支払いを抱えて資金繰りが悪化した
など、様々なものがあります。
単純な支払い忘れであれば、その日のうちに振り込んでもらえることもあるでしょう。
一方、本当に資金が不足しているのであれば、「すぐに全額払ってください」と言い続けても問題は解決しません。
そこで、
「何かご事情がありましたか?」
「いつ頃であればお支払いできそうでしょうか?」
などと事情を聞きながら、まず現在の状況を把握することが大切です。
督促の第一段階は「取り立て」ではなく「状況確認」です。
滞納理由が分からなければ、その後の対応方針も決められません。
「払います」だけで終わらせず支払日を決める
督促をすると、
「すみません、近いうちに払います」
「お金が入ったら振り込みます」
という回答を受けることがあります。
しかし、このような曖昧な約束だけで話を終わらせるのはおすすめできません。
督促の際には、
「何月何日に、いくら支払うのか」
まで具体的に確認しましょう。
「それでは○月○日に8万円をお振込みいただけるということでよろしいでしょうか」
といった形で、支払日と金額を明確にします。
そして電話だけでなく、
「本日お電話でお約束いただいた通り、○月○日までに○円のお振込みをお願いいたします」
とSMSやメールなどでも送っておけば、後から約束の内容を確認しやすくなります。
「払います」ではなく「○月○日に○円払います」まで決める。
これだけでも、その後の督促はかなり進めやすくなります。
滞納督促において大切なのは、単に「支払ってください」と伝えることではありません。
小さな約束を具体的に作り、それを守ってもらうことなのです。
家賃を一括で払えない場合は返済計画を立てる
既に2か月分以上の家賃を滞納しているなど、一括での支払いが難しい場合には、分割払いを検討することもあります。
- 毎月の家賃:8万円
- 滞納家賃:16万円
- 毎月の支払い:通常家賃8万円+滞納分2万円
- 合計支払額:毎月10万円
といった形です。
ただし、ここで注意したいのが、
あまりにも長期間の返済計画を組まないことです。
毎月の返済額を少なくすれば入居者の負担は軽くなりますが、その間にも新たな滞納が発生すれば、いつまで経っても未払い賃料が減りません。
そのため、本人の収入や生活状況を確認しながら、現実的に履行できる範囲で返済計画を作る必要があります。
また、分割払いを認める場合には、
- 現在の滞納額
- 毎月の支払額
- 支払日
- 通常の家賃については別途期限通り支払うこと
などを書面に残しておくとよいでしょう。
無理な返済計画も、長すぎる返済計画もおすすめできません。
「約束はしたものの、翌月から再び滞納」という状態では意味がないためです。
家賃滞納者を必要以上に追い詰めない
ここは、長年賃貸管理の仕事をしていて非常に重要だと感じているポイントです。
家賃を滞納している以上、支払いを求めるのは当然のことです。
しかし、高圧的な言葉を使ったり、相手を必要以上に追い詰めたりすることが、必ずしも回収につながるとは限りません。
むしろ、
- 電話に出なくなる
- 居留守を使うようになる
- 連絡先を変更する
- 荷物を残したまま突然いなくなる
といった状況になれば、その後の対応はさらに難しくなります。
そこで私が督促の際に大切だと考えているのが、
「滞納者との連絡ルートを切らないこと」
です。
もちろん、支払うべきものは支払ってもらわなければなりません。
それでも、
「どうすればこの滞納を解消できるのか」
という姿勢で話を続ける方が、結果的に回収につながるケースは少なくありません。
相手を追い込むことと、支払いを実現することは別です。
家賃督促というと「強く取り立てる仕事」を想像されるかもしれませんが、実際の管理現場では交渉力やコミュニケーション能力の方が重要になることも多いのです。
約束を守らない場合は督促を一段階強める
一方で、何度も約束を破る入居者に対して、いつまでも同じ督促を繰り返していてはいけません。
例えば、「金曜日に支払います」という約束をしたにもかかわらず入金がなければ、速やかに再度連絡を取ります。
そこで再び約束をしても履行されないのであれば、
- 電話・SMSによる再督促
- 書面による督促
- 連帯保証人への連絡
- 内容証明郵便の送付
- 法的手続きの検討
といったように、段階的に対応を強めていくことになります。
重要なのは、感情的に強く出ることではありません。
約束が守られない度に、督促方法を一段ずつ上げていくことです。
また、
- いつ電話したのか
- 本人はどのような説明をしたのか
- いつまでに支払うと約束したのか
- 実際に入金されたのか
といった督促履歴についても残しておきましょう。
後に法的手続きへ移行することになった場合にも、それまでの経緯を整理しやすくなります。
※実際の入金管理や督促業務の様子はこちらの記事でもご紹介しています。
連帯保証人へ家賃滞納を連絡するタイミング
保証会社を利用せず、連帯保証人を立てている契約では、本人への督促と並行して連帯保証人への連絡を行うことがあります。
特に、
- 本人と連絡が取れない
- 支払いの約束を何度も破っている
- 滞納が長期化し始めている
といった場合には、早めに連帯保証人へ状況を伝えておく方がよいでしょう。
この際、いきなり強い口調で支払いを求めるのではなく、
「現在○月分の賃料が未払いとなっており、本人とも連絡を取っておりますが、まだ入金が確認できておりません」
など、まず事実関係を説明します。
その上で、本人への連絡や支払いについて協力を求めていくことになります。
2020年4月に施行された改正民法により、個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合などの個人根保証契約では、保証する金額の上限となる「極度額」を定める必要があります。
そのため、連帯保証人へ請求する際には、現在の賃貸借契約や保証契約の内容を確認することが重要です。
家賃滞納で内容証明郵便を送るタイミング
電話、SMS、書面、連帯保証人への連絡などを行っても滞納が解消されない場合には、内容証明郵便による督促を検討します。
内容証明郵便とは、
「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰へ送ったのか」
を証明できる郵便サービスです。
内容証明を送っただけで、強制的に家賃を回収できるわけではありません。
しかし、
- 滞納している家賃の金額
- 支払期限
- これまでの督促経緯
- 期限までに支払われない場合の対応
などを書面にして送ることで、後に裁判などへ発展した際にも、それまでの経緯を示しやすくなります。
特に契約解除まで視野に入れる段階では、内容証明郵便を利用するケースが多くなります。
契約解除に関する通知は法的な意味を持つ重要な書面です。
実際に明渡しまで求める場合には、弁護士などの専門家へ相談した上で進めることをおすすめします。
家賃滞納1か月・2か月・3か月の対応方法
それでは、実際の督促業務ではどのような流れで対応すればよいのでしょうか。
もちろん、入居者の状況や契約内容などによって対応は異なりますが、管理実務では滞納期間に応じて対応を段階的に変えていくことが重要です。
※家賃滞納時に管理会社がどのように対応するのかは、こちらの記事でも詳しく解説しています。
滞納発生~1か月程度
まずは電話、SMS、メールなどで本人へ連絡します。
この段階では、
- 単純な支払い忘れなのか
- 一時的に支払いが遅れているだけなのか
- そもそも支払う資金がないのか
を見極めることが重要です。
支払可能日を確認し、「○月○日に支払う」という具体的な約束を取ります。
単純な支払い忘れなどであれば、この段階で解消するケースも少なくありません。
まずは事情確認と具体的な支払日の約束。
この段階で問題を大きくしないことが理想です。
滞納2か月程度
2か月分の滞納となると、少し対応を強める必要があります。
本人と返済計画について話し合うほか、連帯保証人がいる場合には状況を伝え、必要に応じて支払いについて協力を求めます。
また、電話だけではなく書面による督促も開始し、それまでの連絡履歴についてもしっかり記録しておきます。
本人と連絡が取れない、支払いの約束を繰り返し破るなどの状況がある場合には、法的手続きを見据えた準備についても検討する時期となります。
口頭督促だけではなく、書面・保証人への連絡などへ対応を一段階上げる時期です。
滞納3か月前後
3か月前後まで滞納が続いている場合には、単なる督促だけではなく、賃貸借契約の解除や建物明渡請求も視野に入ってきます。
ただし、
「家賃を3か月滞納すれば必ず契約を解除できる」
という単純なルールがあるわけではありません。
賃貸借契約の解除については、
- 滞納期間
- 滞納額
- それまでの支払状況
- 督促に対する対応
- 貸主と借主との関係
などを踏まえ、信頼関係が破壊されたと認められるかどうかが重要になります。
そのため、この段階では貸主や管理会社だけの判断で強引に退去を迫るのではなく、弁護士などへ相談しながら対応を進める方が安全でしょう。
「督促」から「契約解除・明渡しも含めた対応」へ切り替える時期と考えます。
家賃滞納が解消しない場合の法的手続き
督促を続けても支払いがなく、話し合いによる解決も難しい場合には、法的手続きを検討することになります。
代表的な手続きとしては、
- 民事調停
- 支払督促
- 訴訟
- 建物明渡請求
などがあります。
どの手続きを選ぶべきかは、
「滞納家賃だけを回収したいのか」
それとも、
「賃貸借契約を終了して退去してもらいたいのか」
によっても異なります。
また、判決や和解調書などの債務名義を得た場合には、その後、預金や給与などに対する強制執行を検討できるケースもあります。
滞納が長期化してから慌てて準備するのではなく、解決が難しいと感じた段階で早めに専門家へ相談することも大切です。
家賃督促でやってはいけない行為
家賃が支払われない状態が続けば、貸主側が腹立たしく感じるのは当然です。
しかし、どれだけ家賃を滞納していても、貸主が好きな方法で入居者を退去させてよいわけではありません。
例えば、
- 勝手に部屋の鍵を交換する
- 入居者の荷物を無断で処分する
- 電気や水道を勝手に止める
- 必要以上に勤務先などへ連絡する
- 威圧的な言動で退去を迫る
といった行為は避ける必要があります。
特に注意したいのが、本人が長期間不在にしているケースです。
「もう住んでいないだろう」と判断して勝手に室内へ入り、荷物を処分してしまうのは非常に危険です。
家賃を滞納していることと、貸主が自由に室内の荷物を処分できることは別問題です。
明渡しが必要であれば、適切な手続きを踏んで進める必要があります。
「家賃を払わないのだから何をしてもよい」という考え方は禁物です。
家賃滞納を発生させないための対策
ここまで家賃滞納が発生した後の督促方法について解説してきました。
しかし、賃貸経営において最も理想的なのは、当然ながら、
「督促をしなくて済むこと」
です。
そこで重要になるのが、
- 入居審査を適切に行う
- 賃貸保証会社を利用する
- 口座振替など支払い忘れが起こりにくい方法を採用する
- 滞納が発生したらすぐに対応する
といった仕組み作りです。
※家賃の集金や滞納督促を含む管理会社の仕事内容についてはこちらをご覧ください
特に現在では、保証会社を利用する賃貸借契約が広く普及しています。
保証会社を利用すれば、入居者が家賃を滞納した際に一定の条件のもとで代位弁済を受けられるため、貸主にとって大きなリスク対策になります。
ただし、保証会社を利用していれば管理会社や貸主が何もしなくてよいというわけではありません。
保証契約によっては、滞納発生後の事故報告に期限が設けられている場合があります。
報告が遅れると保証を受けられなくなる可能性もあるため、契約内容を確認し、滞納が発生した場合には速やかに所定の手続きを行うことが大切です。
家賃滞納の督促方法まとめ
さて、ここまで家賃滞納が発生した際の督促方法について解説してきました。
家賃督促において最も大切なのは、決して、
「強く取り立てること」
ではありません。
まず滞納の理由を確認し、支払日を具体的に約束してもらい、それでも約束が守られなければ、書面や連帯保証人への連絡などへ段階的に対応を進めていくことが重要です。
- 滞納が発生したら早めに連絡する
- まず滞納理由を確認する
- 支払日と金額を具体的に約束する
- 必要に応じて返済計画を作る
- 約束が守られなければ督促方法を一段階強める
- 連帯保証人や内容証明も活用する
- 長期化した場合には法的手続きを検討する
- 自力救済となるような強引な対応は行わない
そして私自身、長く賃貸管理の仕事に携わる中で感じているのは、
最後まで本人との連絡ルートを切らないことの重要性です。
滞納者に対して高圧的な態度を取り続ければ、電話にも出なくなり、最悪の場合には所在すら分からなくなってしまいます。
一方、
「この滞納をどうやって解消するか」
「今後も住み続けることが本当に本人にとって良いのか」
という立場で話を続けていれば、分割返済に応じてもらえたり、自主的な退去について話し合えることもあります。
もちろん、話し合いだけでは解決できないケースもあります。
そのような場合には問題を長期間放置せず、内容証明郵便や法的手続きなどへ速やかに移行する判断も必要です。
家賃滞納への対応は、強硬一辺倒でも、相手の言い分を聞き続けるだけでも上手くいきません。
これこそが、賃貸管理の現場における督促業務の大切なポイントではないでしょうか。



