賃貸物件の中には、オーナー様が単体で建物一棟をまるまる所有しているタイプの物件と、分譲マンションの一室のみを所有している区分所有タイプの物件の2種類があります。

近年では不動産投資が人気を博しており、初期投資を安く上げられることからワンルームタイプの分譲マンション物件を購入される方が増えており、賃貸の市場においても『分譲タイプ物件での入居者募集』を見掛ける機会が増えてまいりました。

もちろん賃貸を扱う不動産業者にしてみれば、一棟タイプの物件でも、分譲タイプの物件でも、新規の募集を任されるのは非常にありがたいことなのですが、

時として「分譲マンションならではの落とし穴」ともいうべき契約上のトラブルに見舞われてしまうこともあるものです。

そこで本日は、私が実際に経験した分譲マンション賃貸のトラブル体験記をご紹介してみようと思います。

分譲マンション賃貸のトラブル

 

分譲物件の元付け

賃貸部門に配属されて1年半が過ぎた頃、あるオーナー様から「分譲マンションの一室について新規募集をお願いしたい」とのご依頼が舞い込みます。

分譲マンションの元付け仕事は初めてのことでしたが、当時は少々賃貸の仕事にも慣れ始めた時期であり、軽い気持ちでこの募集業務を請け負うことにしました。

なお、お部屋のスペックは20㎡弱のワンルームであり、築10年という代物です。

「では早速募集を!」と行きたいところですが、お部屋の中は従前の入居者が退去したままの状態でしたので、まずはリフォームから始めなければなりません。

そしてオーナー様と打ち合わせしたところ、工事は当社にお任せいただけるとのことでしたので、早速付き合いのある工事業者に依頼をして施工を開始します。

ところが工事初日、マンションの管理会社より突然連絡が入ります。

『一体、何の御用だろう?』と電話に出てみれば、先方はかなりお怒りのご様子です。

訳も判らずお話を聞いてみれば、「リフォームを行う旨の申請を出さずに勝手に工事を始められては困る!」とのことでした。

今では考えられないことですが、当時の私は分譲マンションの内装工事を行う際、管理会社や管理組合に工事の申請をしなければならないことを知らずにいたのです。

流石に『これはまずい』と思い、管理会社に必死に謝った上で、管理組合の理事長さんにもお詫びに伺います。

理事長は既に会社を定年退職しているものの、以前は大会社の重役を務めておられたという方で、散々お叱りを受けましたがどうにか工事は「事後承認」として処理していただけるとのことでした。

ここでようやく「ホッと胸を撫で下ろす」ことができましたが、これは新たなトラブルの序章に過ぎなかったのです。

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分譲マンションならではトラブル

こうした経緯を辿りながらもどうにかリフォーム工事は完了し、いよいよ本格的な入居者募集の開始です。

ところが、決して賃料が高い訳でもないのに募集は大苦戦を強いられることとなってしまいます。

そして募集開始から3ヶ月が経過しても、お客様が付かない状況が続いておりました。

そんなある日、ある客付け業者が物件にお客様をご案内してくださり、ようやく待望のお申し込みを頂きます。

しかし、その申込書の内容はこのお部屋にて「整体店を開きたい」というものだったのです。

ちなみにお申込人は既に整体店を経営しており、5年以上の実績がある上、売り上げも上々であるといいます。

また、内容の良い連帯保証人(身元もしっかりしており、収入も充分にある)も擁立できるということで、お客様としては『文句の付けようがない相手』でした。

但し、お部屋の募集はあくまで「居住用」ということで進めていましたので、早速オーナー様にご連絡してご相談したところ、「整体店でもかまわないから、お話を進めてくれ」とのお返事をいただきます。

『このお客様に逃げられたら後がない』とばかりに、急いで賃貸借契約の準備を整え、明日は契約という段階まで無事に漕ぎ着けることができました。

すっかり書類の準備も整い、明日の契約を待つだけという状態になりますが、ここで神様が私の脳内に舞い降ります。

「リフォームの件で怒られた理事長に、一言声を掛けておくべきではないのか?」、そんな声が頭の中にこだましたのです。

そこで、ご挨拶用のタオルを片手に理事長にお会いして「新規入居者が決まった旨」のご報告をしますが、ここから話はとんでもない方向に転がって行きます。

私の報告を聞くなり理事長は「いやいや、うちのマンションは店舗利用が規約で禁止されているよ!」と言うのです。

私「えっ?えっ?」

今思えばこちらも「当たり前のこと」なのですが、当時の私にはあまりに想定外なことでした。

慌てて事務所に戻って管理規約を隅々まで確認してみると、確かに事務所、店舗利用は禁止と、非常に目立たない小さな文字で記載があります。

『またまたやってしまった!』と、早速オーナーさんに連絡を取って協議してみますが、やはりここは諦めざるを得ない状況です。

『契約前に気が付けて良かった!』と慌てて客付け業者に「契約中止の旨」を伝えますが、これを聞いた申込人の怒りは相当なものでした。

そして、その日の夕方には申込人が私の会社に怒鳴り込んで来るという騒ぎに発展してしまいます。

彼の言い分によれば、現在整体店として利用している物件には退去予告を済ませてあり、契約上退去予告を日を過ぎれば1日につき2倍の賃料を払わなければならない取り決めになっているとのこと。

また、移転に伴う広告も10万円の費用を掛けて用意してしまったというのです。

そうは言われても規約で店舗利用が禁止されている以上、契約を行うことはできませんので、お話は堂々巡りとなってしまいます。

止むを得ず、「今後の対策などは追って協議すること」として、とりあえず契約は中止とさせていただきました。

そして社長にこのミスを報告して今後の対策を練ることにしますが、幸い申込人が現在開業しているテナントの大家さんは社長の知り合いの不動産屋さんということで、そちらから手を回していただき、解約予告に伴うペナルティーは「なし」としてもらうことに成功します。

但し、10万円掛けたという広告費用については「どうにもなりません」ので、当社が負担することにいたしました。

ちなみに、この案を申込み人に伝えたのですが「これだけでは不満」とのことで、更に示談金5万円を付加した「総額15万円」で、今回の件は不問としてもらえることになったのです。

もちろん、今回の件は私が管理規約にしっかり目を通していなかったのが原因でしたから、社長から大目玉を喰らったのは言うまでもありません。

ただ有り難かったのは、物件のオーナー様は怒り出すどころか私に同情してくださり、示談金の半額を負担してくれた上、更に物件の募集を続けて欲しいと言ってくれたことです。

その後、物件もめでたく他のお客様にて成約し、このオーナー様とは現在でも良好な関係を保てています。

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分譲トラブルまとめ

さて、ここまでが私の分譲マンション賃貸のトラブル体験記となります。

今思えば、あまりに初歩的なミスでお恥ずかしばかりなのですが、あの時、私の頭に「理事長に報告するべきだ」という考えが浮かばなければ「更にとんでもない事態」に発展していたことでしょう。

仮に契約が成立し、誰からのツッコミもなく整体店が営業を始め、その後に問題が発覚していれば一体どれだけの損害が発生したいたのか見当も付きません。

そして、申込人の人柄を考えれば訴訟沙汰になっていた可能性も充分に考えられます。

「ほんの僅かなミスが、大きな事故に繋がる」という不動産業の怖さを身に染みて実感させられた事件でした。

これから不動産業界に入ろうという方や、分譲マンションの賃貸仲介の経験がない方には、是非とも私の経験を参考にトラブルを回避していただければ幸いです。

ではこれにて、分譲マンション賃貸のトラブル体験記を締め括らせていただきたいと思います。