不動産を購入する際、契約時の重要事項説明などで必ず目にすることになるのが登記簿謄本(登記事項証明書)という書類です。
A4サイズの用紙にズラズラと文字が並ぶこの書類は一般の方とって「非常に難解なもの」であるとは思いますが、登記簿謄本の記載事項の中には『見落とすと後々とんでもない事態に発展する情報』が含まれていますので、不動産を扱う上では欠かせない資料となっています。
そこで本日は「不動産の登記簿謄本とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、不動産の履歴書とも言える登記事項証明書の見方や注意すべき登記事項についてお話ししてみたいと思います。
登記簿謄本とは?
ではまず、「そもそも登記簿謄本とは何なのか?」というお話から始めさせていただきましょう。
※現在、登記簿謄本はコンピューター化が完了しているため、本来は登記事項証明書と呼ぶのが正確ですが、実務の現場においては未だに登記簿謄本との呼称が根強く使用されていますので、本記事では「登記簿謄本」の名称で統一させていただきます。
「登記」という言葉は社会生活を営んでいると何かと耳に入って来ることと思いますが、
これは法治国家において人間や不動産、会社などに設定されている権利や義務などについて、「国が一定の証明を行う」ために設けられた制度
となります。
例えば土地を売買するにしても、いくら売主が「ここはオレの土地だ!」と主張しても、初めて会う人間にはそれが真実であるか否かを判断する方法がありませんよね。
そしてこのような状態では、人々が安心して商売や取引をすることができず、経済を発展させることも叶いません。
そこで国が「この土地の所有者は間違いなくこの人です」といった一定の証明を行うことで、『経済活動や社会生活をスムーズにして行こう』というのが登記の原則的な考え方となります。
実はこの登記制度、アメリカやドイツ、フランスなど、世界中の多くの国で採用されており、我が国でもその原型となるものは奈良時代から存在していたと言われているのです。
なお、日本において現在のようにしっかりと整備された制度となったのは第二次大戦終結後のことであり、今では登記法という法律の下で厳格な運営がなされています。
また、我が国では商業登記に法人登記、船舶登記に成年後見人登記など様々な登記の種類が存在していますが、私たちの日常生活の中でも最も親しみが深い登記といえば、それは不動産登記に他ならないでしょう。
さて、既にお話したように「土地や建物の所有者の氏名」や「不動産に付加された様々な権利や義務」を証明するために行われる不動産登記ですが、第三者がいつでも『登記されている内容』を知ることができなければあまり意味がありません。
そこで登記事項の管理を管轄する法務局が発行しているのが、
「登記簿謄本」という登記事項の証明書
となる訳です。
ちなみにこの登記簿謄本、一昔前までは不動産登記を行った際に法務局が受け取った申請書(権利証と同じ内容の書面)のコピーがそのまま証明書として発行されていたのですが、
時代の経過と共に徐々に進歩を遂げ、現在では一定の書式に活字で印刷されたものとなっている上、インターネットでも情報を閲覧できるようになっています。
不動産登記簿の構成
さて、登記簿謄本の意味合いをご理解いただけたところで、以下ではその内容や構成についてお話しさせていただきたいと思います。
ちなみに不動産の登記簿謄本には土地と建物のそれぞれのバーションが存在していますが、その様式に大きな違いはなく、原則「表題部」「甲区欄」「乙区欄」という3つのセクションから構成されています。
表題部
表題部は登記簿謄本の先頭に配置されている事項となり、土地であれ、建物であれ、
対象となる物件の概要を記載した項目(物件の特定を目的とした項目)
となります。
土地であれば「地積」や「地目」等、建物であれば「床面積」や「建物の種類」、「構造」などが記載されることになるでしょう。
また、複数の土地を合体した場合に行われる『合筆登記』や、1つの土地を分割する場合の『分筆登記』、土地の面積を訂正する場合の『地積更正登記』もここに記載されますし、建物の場合なら新築や増築といった登記内容が日付と共に表示されるのです。
なお、この表題部に記載される登記事項は「表示登記」とも呼ばれ、土地家屋調査士という国家資格を有するものが土地保有者の依頼を受けて登記の申請手続きを代行して行うのが一般的な流れとなります。(詳細については過去記事「不動産登記と土地家屋調査士について!」をご参照ください)
*表示登記は権利関係者自身が行うことも制度上は可能ですが、高度な測量技術を必要とするため一般の方が行うのは非常に困難であると思われます。
甲区欄
表題部に続いて記載されるのが、
「甲区」と呼ばれる『対象物件の所有権に関する事項を表示する記載欄』
となります。
ここには歴代の物件所有者の氏名や住所などが順番に記されて行くことになります。
但し、現在取得できる謄本には「登記の情報がデータ化された後の内容」しか表示されませんので、それ以前の所有者を知りたい場合には閉鎖謄本と呼ばれる資料を取得する必要があるでしょう。
また、甲区は「所有権に係る事項」が表示されるセクションであるため、歴代の所有者名以外にも様々な権利が記載されることになります。
例えば、税金の滞納などで物件を差押えられてしまった場合には「差押えの登記」、物件の買戻し特約を結んでいるケースでは「買戻しの登記」など、物件の価値を大きく左右する権利の存在が記載されることもあるのです。(差押えや買戻しの登記の詳細は後述します)
なお、ここまでお話しした甲区欄、そして次項で解説する乙区欄については、司法書士が権利関係者に代わって登記手続きを担当するのが通常です。(司法書士についての詳細は「不動産と司法書士は切っても切れない関係!」の記事をご参照ください)
乙区欄
そして謄本の最後に記されるのが、
「乙区」と呼ばれる『対象物件の所有権以外の権利関係を表示する記載欄』
になります。
なお、所有権以外と言われても「なかなかイメージが付き辛い」ことと思いますので、敢えてザックリと説明するならば、乙区は「貸し借りに係る権利」が登記されるケースが多いパートということになるでしょう。
例えば土地を借りて建物を建てる際には「地上権」、通路として土地を借りる場合には「地役権」、土地を担保にお金を借りるのであれば「抵当権」や「質権」などが設定されます。(地上権や地役権は債権ではなく物権ですから、「貸し借り」という表現は正確ではありませんが)
ちなみに乙区に設定されている権利は、その登記が抹消されると記載欄に下線が引かれるルールとなっており、甲区とは少々記載方法が異なるのでご注意ください。
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このような登記がある時は要注意
ここまでのお話で、「土地や建物の登記簿謄本がどのように構成されているか」はご理解いただけたと思いますので、本項では物件を購入する際に登記されていると後々トラブルに繋がる可能性が高い登記事項を挙げて行きたいと思います。
甲区に登記される注意すべき権利
甲区欄で注意が必要なのは、「差押え」と「買戻し」、そして各種「仮登記」となります。
差押え
差押えという登記は、
不動産を担保に入れてお金を借入れて返済が滞っている場合や、固定資産税等の税金を滞納している際に設定される可能性がある権利
となります。
この登記がなされると、物件が競売や公売に掛けられる可能性が非常に高くなりますから、差押えが付いたままの状態で物件を購入するのは非常に危険です。
また、賃貸物件としてお部屋を借りる場合でも、この登記があるままの状態で契約すると、高い確率で「立ち退きを求められる」ことになるでしょう。(詳細は過去記事「賃貸差し押さえ物件の契約について解説いたします!」をご参照ください)
買戻し
買戻しの登記とは
権利者を設定したものが、文字通り「物件を買い戻せる」という権利
となります。
よって、この登記がなされた物件はたとえ第三者が物件を購入しても、買戻しの権利者に対抗できないルールになっていますから、こちらも知らずに購入してしまうと非常に危険な登記事項となるでしょう。
なお、あまり見かけない登記事項ではありますが、公団などが分譲したマンションなどには「転売を避けるために設定されているケース」があります。
ちなみに登記の有効期限は10年間となっており、それ程長期におよぶものではありませんが、やはり注意が必要です。
仮登記
そして最後にご紹介するのが、仮登記と呼ばれるものです。
この登記はその名の通り「仮に行われた登記」という意味になりますが、登記した人間の権利を保全する目的で行わるものとなりますから、登記があることを知らずに購入するのはやはり大問題です。
仮登記の種類としては、
- 仮差押え
- 所有権移転仮登記
- 所有権移転請求権仮登記
- 条件付所有権移転仮登記
などが主なものとなるでしょう。
なお、各種の仮登記の中でも最も多く目にするのが「仮差押え」であり、この登記はこれから提起される裁判に備えて「物件の無断売却を防ぐためのもの」となります。
このように仮登記が行われているということは、何かしらのトラブルのサインとなりますし、どの仮登記も第三者の物件購入に対抗できる権利となっていますから、「権利者に登記の抹消をしてもらった後でなければ購入するべきではないもの」となるでしょう。
乙区に登記される注意すべき権利
最も多く見掛ける「抵当権」や「根抵当権」は物件を担保にお金を借りた場合に登記される権利となりますが、
これらの登記が乙区に残ったまま売買を行うと、その効力を次の所有者がそのまま引き継ぐことになってしまう
という点に注意が必要です。
もちろん抵当権設定の原因となっている借金を返済すれば、お金を貸した側も抵当権を抹消せざるを得ませんし、その手続きも容易に行えるもとのなりますので「抹消した上での売買」が不動産取引の基本です。
但し実務においては、購入者が支払った売買代金で売主が返済を行い、所有権移転と同時に抵当権等を抹消することが殆どですから、決済の際に司法書士に抹消登記の依頼を行っていれば心配をする必要はありません。
なお、「質権」や「地上権」はあまり見かけることの少ない権利ですが、設定者は対象物件を自由に使用・収益できる権利となりますから、これらの権利が付いたまま物件の取引をおこなうのはやはり非常に危険な行為となります。
特に地上権は借地権よりも遥かに強力な権利となり、お金を積んでも解除できないのが一般的ですから、投資目的(地代で収益を上げる目的)以外でこうした登記のなされた物件を購入することはお勧めできません。
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不動産の登記簿謄本とは?わかりやすく解説まとめ
さてここまで、不動産の登記簿謄本に関して解説を加えてまいりました。
売買の取引に際しては資料としてドサッと謄本を渡されるケースもあり、思わず「見るのが億劫」になってしまうものですが、登記事項の中には非常に危険なもの数多くありますので、これを機会に是非目を通すようにしていただきたいところです。
また、どんなにボリュームのある謄本も表題部、甲区欄、乙区欄の3部構成に変わりはありませんから、本記事をご参考にしていただければその内容を読み解くことができることと思います。
登記簿謄本は土地の歴史、そして現在の権利関係を示した不動産の履歴書兼、健康診断書のようなものですから、マイホームや投資物件のご購入時には是非有効にご活用いただきたいものです。
ではこれにて、「不動産の登記簿謄本とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。