マイホームをお持ちの方や、先祖伝来の土地を受け継いでおられる方にとって、税金の問題は非常に重要な関心事であることと思います。
なお、不動産に係わる税制と言えば相続税や固定資産税、譲渡所得税などを思い浮かべる方が多いと思いますが、忘れてならないのが「贈与に関する税金」です。
そこで本日は「不動産贈与税の計算方法や制度について解説いたします!」と題して、贈与税の仕組みや住宅取得資金の非課税制度、相続時精算課税制度についてご説明してみたいと思います。
贈与とは
ではまず最初に、「そもそも贈与って何なのか」という点からお話を始めさせていただきましょう。
なお、このようなお話をすると「贈与は人に物を上げることでしょう?」というツッコミを入れられていましそうですが、正確に贈与を説明するならば
一方の当事者が無償で対象物を譲り渡す意思表示を行い、相手方がこれを受け取ることによって成立する法律行為(契約行為)
ということになります。
よって贈与は、立派な法律行為として扱われる上、契約の成立要件は「無償で何かを与えること」となる訳です。
そして贈与税法においては、この「無償」という点に課税を行うものと定めていますから、
仮に「1000万円の価値のあるものを500万円で他人が買い取った場合」であっても、『残りの500万円分の価値を無償で提供した』と解釈して、贈与を受けた側の人間に税を課する
としています。
さて、ここまでの解説にて贈与の根本的な概念はご理解いただけたことと思いますが、こうして考えると「子供にお小遣いを上げる」「友人から格安で自動車を買い取る」といった行為も立派な贈与となるはずですから、『一体何を基準に贈与税が課せられるのか?』という点が気になって来るのではないでしょうか。
そこで次項では、贈与税制の骨組みについてご説明して行きたいと思います。
贈与税制の概要
では早速、贈与税の仕組みについて解説してまいりましょう。
贈与税の課税の仕組み
贈与においてはその当事者を
- 贈与を行う人/贈与者
- 財産をもらう人/受贈者
と呼び、贈与税を支払うのは「受贈者の義務」となります。
なお、この税制では原則として
1年間(1月~12月まで)の贈与額に対して課税が行われる「暦年課税制度」
が採用されています。(後述する「相続時精算課税制度」を利用することもできます)
そして贈与税の申告と納税については「贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日に行う」ことが義務付けられているのです。
ちなみに贈与税には免除額が定められており、
年間110万円を基礎控除として、贈与額から差し引いて税額を計算することができるルール
になっています。
贈与税の不動産評価額について
ここまでの解説にて贈与税制の基本的な仕組みについてはご理解いただけたことと思いますので、本項では不動産を贈与する場合の財産評価についてお話ししていきます。
贈与の対象が現金や有価証券であれば、課税対象となる財産の金額(課税標準額)は一目瞭然ですが、贈与するものが不動産である場合にはその評価方法が問題となるはずです。
なお、贈与税制においては
- 建物/固定資産評価額
- 土地/相続税評価額
にて算出するルールになっています。
ちなみに、建物の固定資産評価額については自治体が発行する「評価証明書」や「納税証明書等」を確認すれば、課税標準額を容易に知ることができるでしょう。
これに対して建物の課税標準額については「路線価方式」または「倍率方式」を用いて相続税評価額を算出する必要があります。
贈与税の税率について
さて、贈与税の評価額に続いては「税率」についてご説明いたしましょう。
贈与税の税率については一般税率と特例税率が用意されています。
- 200万円以下 ・・・10%
- 200万円超~300万円以下 ・・・15%(但し税額から10万円控除)
- 300万円超~400万円以下 ・・・20%(但し税額から25万円控除)
- 400万円超~600万円以下 ・・・30%(但し税額から65万円控除)
- 600万円超~1000万円以下 ・・・40%(但し税額から125万円控除)
- 1000万円超~1500万円以下 ・・・45%(但し税額から175万円控除)
- 1500万円超~3000万円以下 ・・・50%(但し税額から250万円控除)
- 3000万円超 ・・・55%(但し税額から400万円控除)
*上記の一覧は基礎控除110万円を差し引いた後の金額を当てはめて計算してください。
なお、上記の税率一覧を基に具体的な計算例を上げてみれば、1200万円を他人に贈与した場合には、受け取った者(受贈者)は(1200万円ー基礎控除110万円)×45%(税率)―175万円(控除額)=税額315.5万円を税金として納めることになる訳です。
一方、この一般税率以外にも親が子供に、そして祖父母が孫にお金を渡した場合などには特例税率が用意されています。
- 200万円以下 ・・・10%
- 200万円超~400万円以下 ・・・15%(但し税額から10万円控除)
- 400万円超~600万円以下 ・・・20%(但し税額から30万円控除)
- 600万円超~1000万円以下 ・・・30%(但し税額から90万円控除)
- 1000万円超~1500万円以下 ・・・40%(但し税額から190万円控除)
- 1500万円超~3000万円以下 ・・・45%(但し税額から265万円控除)
- 3000万円超~4500万円以下 ・・・50%(但し税額から415万円控除)
- 4500万円超 ・・・55%(但し税額から640万円控除)
*上記一覧についても基礎控除110万円を差し引いた後の金額を当てはめて計算してください。
さて、一般税率と比較していただければおわかりのことと思いますが、親子間、祖父母・孫間の贈与はかなりお安い税率となっています。(この税率が適用されるのは受贈者が20歳以上の場合となります)
しかしながら、親子間等の贈与が如何に優遇されていても「家を買う際の資金援助」ともなれば、かなり高い税率にて課税されることになるのは間違いありませんよね。
そこで贈与税法においては親子間等(直系尊属からの)の住宅購入資金の贈与に関しては特別なルール(優遇措置)を用意しています。
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不動産贈与税の非課税措置
さてここまで、不動産の贈与税の概要について解説してまいりましたが、住宅取得などについては非課税措置がございますので、こちらの内容も確認しておきましょう。
直系尊属からの住宅取得資金の非課税制度について
この制度の適用が可能なのは、20歳以上の者がその両親又は祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合となります。
そして減税の方法としては、一定の贈与額に達するまで贈与税は非課税というもので、住宅の種類によって以下のように定められているのです。
- 質の高い住宅/非課税限度額1000万円
- 一般住宅/非課税限度額500万円
なお、「質の高い住宅」については新築と中古住宅等でそれぞれに下記の要件が定められています。
新築住宅
- 断熱等性能等級5以上(結露の発生を防止する対策に関する基準を除く)から一次エネルギー消費量等級6以上
- 耐震等級(構造体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
※令和5年末までに建築確認を受けた住宅又は令和6年6月30日までに建築された住宅は、 断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上
既存住宅・増改築
- 断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上
- 耐震等級(構造体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
引用元: 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置
また、この非課税措置を受けるためには
- 2024年(令和6年)1月1日から2026年(令和8年)12月31日までに行われた贈与であること
- 贈与を受ける年の収入が2000万円以下であること
- 家屋面積が50㎡~240㎡以下であること(年収1000万円以下の場合は40m以上50m未満の住宅でも適用)
- 床面面積の1/2以上が居住用スペースとなっていること
- 新耐震基準を満たしていること
などの特例を受けるための条件があります。
贈与税の配偶者控除
また家族間贈与の非課税制度については、直系尊属からのもの以外に配偶者控除と呼ばれる制度が存在しています。
こちらの制度では、最高2000万円までの居住用不動産の贈与または、居住用不動産の取得資金の贈与が非課税とされている上、「贈与税制の概要」でご紹介した基礎控除110万円も併用できるという優れものとなっているのです。
但し、それだけに適用要件も厳しく、
- 20年以上連れ添った夫婦であること
- 贈与を受けた物件に居住し続けること
- この控除を利用できるのは一生に一度
といった制限がある上、3年以内に贈与者が亡くなった場合には、贈与された資産も相続財産に組み入れて計算しなければなりません。
相続時精算課税制度について
そして最後にご紹介するのが、相続時精算課税制度と呼ばれるものです。
こちらの制度は贈与税の原則である「暦年課税制度」と選択適用が可能となっており、
60歳以上の直系尊属(親・祖父母)が20歳以上の子供や孫に贈与を行った際には2500万円までを非課税とし、これを超える部分については贈与税率を一律20%にする
という内容となります。(父・母・祖父・祖母による個別の贈与にも適用可能)
なお、先程「直系尊属贈与の特例税率」をご紹介いたしましたが、こちらを利用して2500万円を渡した場合には、45%もの税率を課せられることになりますから、この相続時精算課税制度が如何にお得なものかご理解いただけるはずです。
但し、この制度を利用した場合、
贈与者が亡くなった際にその相続税の計算において「既に受けている贈与額」を組み入れて、再計算(精算)を行うことが必要
となります。
つまり、相続時精算課税制度を利用して2000万円の贈与を受けて、その後の相続で3000万円を相続する場合には、贈与分2000万円+相続分3000万円の合計5000万円にて、相続税の計算をやり直すことになるのです。
また、相続時精算課税制度で2500万円を超える贈与を受け、既に20%の贈与税を支払い済みの場合には、再精算した相続税額から「支払い済みの贈与税額」を差し引くことが可能となります。(例・贈与で50万円税金を払っており、相続税額が80万円の時は、80万円-50万円=30万円の相続税額となる)
住宅取得資金を贈与する場合の特例
さてここまで相続時精算課税制度の概要をお話ししてまいりましたが、実はこの制度にも「住宅取得資金を贈与する場合の特例」が用意されています。
これは家を買う場合に親などから受けた贈与について、
本来は「親の年齢が60歳以上」でなければならないところを、住宅取得資金については『年齢制限なし』とする
というものです。
よって親が50歳である場合でも、子供が20歳を超えていれば相続時精算課税制度が利用できることになります。
なお、2010年までは住宅取得資金に関する相続時精算課税制度の非課税枠が3500万円となっていましたが、現在はこの特例は廃止されているのでご注意ください。
相続時精算課税制度のメリット
前項までの説明で、相続時精算課税制度の概要についてはご理解いただけたことと思いますが、ここで浮かんで来るのが「この制度を利用して良いことあるの?」という疑問なのではないでしょうか。
そこで本項では、この制度のメリットについてお話ししてみたいと思います。
まずこの制度によって最もメリットを受けられるのが、「相続に際して基礎控除にて全額が引ききれてしまう方々」です。
現在の相続税制では、基礎控除が3000万円となっており、相続人1人頭600万円を控除することができますが、この範囲内で相続が済んでしまう方(相続税の納付が不要となる方)については「贈与を非常に有利な税率で行うことが可能」となります。
また、「親等が都心の一等地などに不動産を保有している場合」や「株式を持っている場合」も、メリットを得られる可能性があるでしょう。
相続時精算課税制度では、相続発生時に税金の再計算する場合でも、対象の資産評価は『贈与が行われた当時の価格とする』ことが定められています。
よって、今後土地や株が値上がりするのがわかっていれば、価格が安い内に贈与してしまうことで相続税の節税効果が見込めるという訳です。
相続時精算課税制度のデメリット
さて、メリットがあればデメリットも存在するのがこの世の常です。
そこで本項では、相続時精算課税制度の問題点を解説してまいりましょう。
まずデメリットとして挙げられるのが、この制度を利用すると相続税対策に非常に役立つ「小規模宅地の特例」が利用できなくなるという点です。
小規模宅地の特例は、一定の条件が揃うことによって相続財産となる土地の評価を最大で80%も減少させることができる制度となりますから、これが利用できないのはかなりの痛手となる場合があるでしょう。
*小規模宅地の特例についての詳細は別記事「不動産の相続税対策について考えてみたいと思います!」をご参照ください。
また、冒頭でご説明した110万円の贈与税の基礎控除も、相続時精算課税制度を利用した贈与者には適用できなくなるのです。
その上、一度相続時精算課税制度を利用することを税務署に申告すれば、二度と取り消しはできなくなりますから、この点には充分にご注意いただければと思います。
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不動産贈与税の概要や計算方法について解説まとめ
ここまで不動産と贈与税というテーマにて解説を行ってまいりました。
そして本記事をお読みいただければ、贈与を上手に利用することこそが相続税の負担を軽減し、子孫へのスマートな資産の受け渡しを可能にする「鍵」であることをご理解いただけたはずです。
時代によって様々に変化する税法ですが、常に最新の知識を身に付け、家族の財産を守って行きたいものですよね。
ではこれにて、「不動産贈与税の概要や計算方法について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。