現在、市場に流通する中古マンションの価格は「大変に高騰している」と言われています。
もちろん、不動産の価格が上がることは喜ばしいことなのですが、そんな分譲マンションの中には「自主管理物件」という購入に際して少々注意が必要な物件も存在しているのです。
そこで本日は「自主管理マンション購入のポイントと注意点を解説いたします!」と題して、管理会社が存在しないマンションの概要や問題点、管理人が実際に経験した「自主管理マンションにおける管理組合復活プロジェクト」の模様をレポートしてみたいと思います!
自主管理マンションとは
ではまず最初に、「そもそも自主管理マンションとはどのようなものなのか」という点からはお話を始めていきましょう。
分譲マンションにおいては、1段の建物でありながら区分登記を行うことでお部屋ごとに所有者(区分所有者)が存在しており、この区分所有者が集まって管理組合を結成することになります。
そして管理組合は建物を維持していくために、管理費・修繕積立金の徴収、共用部分の清掃や必要な建物修繕などを行っていくことになりますが、こうした管理業務について
- 自主管理/管理業務の全てを管理組合が自力で行うスタイル
- 全部委託/マンション管理会社へ管理業務を委託するスタイル
- 一部委託/管理業務の一部(清掃や修繕業務)を外部委託するスタイル
上記の3つのスタイルのいずれかを選択して、組合の運営を進めていくことになるのです。
もちろん、組員である区分所有者もそれぞれ仕事を持っているケースが殆どですから、管理業務の労力を軽減するべく「全部委託(マンション全体の80%近くを占める)」や「一部委託(マンション全体の10%超を占める)」といったスタイルを選択する分譲マンションが殆どなのですが、稀に『自主管理』を貫いている物件も存在するのです。
このようなお話をすると「どうして、わざわざ自主管理を選択するの?」というお声も聞こえて来そうですが、その一番の理由は『管理会社へ支払う費用の問題』となるでしょう。
全部委託ともなれば「かなり高額な費用」を管理会社に支払う必要がありますが、世帯数の少ないマンションなどでは各戸への負担が大きくなり過ぎてしまい、自主管理を選択せざるを得ないという管理組合も少なくないようです。
さて、自主管理を選択するとなれば全ての管理業務を自力で行うことになりますが、その内容としては
- 事務的な業務/管理費・修繕積立金の徴収、会計業務、総会や理事会の開催 等
- 日常の管理業務/共用部分の定期清掃、エレベータ―や貯水槽の設備点検作業 等
- 建物の修繕業務/定期的な外壁や屋根のメンテナンス、災害などで生じた不具合の修繕 等
- 日々の雑務/入居者からのクレーム対応、掲示物の作成 等
以上が主なものとなるでしょう。
自主管理マンション購入における問題点
ここまでの解説において自主管理マンションの概要についてはご理解いただけたことと思いますが、こうした管理スタイルの物件購入に際しては
- 管理組合の財務状態が好ましくない場合がある
- 管理組合が適切に運営されていないケースがある
- 購入した場合、管理業務の負担が圧し掛かる
- 管理が行き届いておらず、建物が傷んでいるケースがある
- 全部委託等の物件に比べ資産価値が低くなる
以上のような問題が生じてくる可能性があります。
もちろん、しっかりと組合運営を行っているマンションも多いでしょうが、中には「管理組合が既に機能していない」「会計報告に不審な点がある」といった物件も存在しているのです。
更には「管理を委託できない段階で、組合の財務状態に問題がある」という考え方もできるでしょう。
また、自主管理物件では組合員が自ら管理業務を行う訳ですから、購入直後に「管理費、修繕積立金の徴収係」や「総会の資料作り」といった業務を任される可能性もあるはずです。
なお、マンション管理会社は物件管理のプロですから、建物のメンテナンスなどについても適切なアドバイスをしてくれるものですが、一般の方が寄り集まった自主管理マンションでは適切な建物の修繕が行われていない可能性がありますし、
財務状態の問題により「修繕が必要なことはわかっているが、工事をする余裕がない」といったケースもあるでしょう。
そして、こうしたリスクを鑑みれば『売却に当たっても価格が伸び悩む』こととなり、結果として資産価値の低い物件となってしまうのです。
ただ逆を返せば、『一般的な相場ではあり得ない価格で分譲マンションが購入できる可能性』もある訳ですから、自主管理マンションの購入に際しては「しっかりと物件を見極める目」が不可欠ということになるでしょう。
さてここまでの解説にて、自主管理マンションの実態はしっかりとご理解いただけたことと思いますので、次項からは管理人が自ら経験した自主管理マンション購入の体験記をお届けしたいと思います。
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実録!自主管理マンション購入記
私がこの分譲マンションの話を初めて耳にしたのは、今から数年前の真冬の出来事でした。
これまで仲介という形で何度か取引をしたことがある建売屋さん(戸建て分譲を生業とする不動産業者)から連絡が入り、「かなり利回りの回る投資物件があるんのだけど・・・」とのお話をいただいたのです。
以前、他の記事でも書きましたが、私が勤める会社のコンセプトは「儲かる話なら何でも首を突っ込め」というもので、売買の仲介から交換、借地の更新に至るまで、様々な案件を扱っていました。
特にこの頃は、収益物件の買取りに力を入れていた時期であり、分譲マンションの一室から、アパート、商業ビルまで、あらゆる投資用物件の買取りを行っていたのです。
そして「これは美味しそうなお話の臭いがする」と、早速詳細の説明を聞きにその業者さんを訪ねます。
今回紹介を受けた物件は、世帯数20世帯程の小ぶりな分譲マンションであり、築年数は30年以上というスペックでした。
なお、私にこの話を持って来てくれた建売屋さんが、このマンションを5部屋程所有しており、それをまとめて売却したいというのです。
また驚くべきはその破格の値段であり、全室空室ながら利回りに換算すると表面で30%を超える高利回りとなっています。
「これは何か訳があるのでは・・・?」と思い、更に細かい事情を聴き出したところ、以下の事実が浮上して来ました。
- 現在の所有者である建売屋さんは、このマンションを競売で取得した(但し占有者は居なかった)
- マンションを分譲した会社は既に倒産している
- 管理会社への委託は行っておらず、一応自主管理という形態となっている
- 但し、管理組合自体は既に機能しておらず、内部の荒れ方はかなりのものらしい
- 転売を目的に購入したが、こうした条件から買い手が付かず、出血大サービスで販売中
以上のような内容でした。
「うーん、これはどうしたものか・・・」、これまで聞いたこともないようなレア案件に頭を悩ませながら会社に戻り、とりあえずは社長に詳細を報告してみます。
社長「よし!買おう!」
私『マジか・・・』(心の声)
自主管理とは
社長の「竹を割り過ぎた決断力」には毎回驚かされますが、この物件にはかなりの問題が山積しています。
自主管理の分譲マンションとは、外部の管理会社に委託をすることなく、管理組合が自力で管理を行っているマンションのことです。
その件数は少ないものの世間には確実に存在しているタイプのマンションであり、修繕積立金や管理費の徴収から、共用部分の清掃・修理、大規模修繕などの業務を管理組合が自力で行うこととなります。
ちなみに分譲マンション黎明期の日本では、こうした自主管理のマンションは決して珍しいものではなかったようですが、やはり素人が分譲マンションの管理を全てを行うのはかなり困難であるため、
時代の流れと共に管理費などから予算を捻出し、プロの管理会社に委託を行う「委託管理」へ移行していくマンション(管理組合)が増えて行きました。
但し、この物件においては、建築された当初から投資目的で作られたこともあり、所有者(組合員)同士の繋がりは皆無な上、管理組合自体が立ち上げられないまま放置されて来たようですから、「通常の自主管理のマンションとは根本的に異なるもの」と考えるべきでしょう。
そしてこのマンションを分譲した会社も「売れれば良い」的な考えであったらしく、分譲が完了して間もなく廃業し、後は荒れるに任されていたとのことです。
とりあえずは社長を連れて、物件を内覧に行ったのですが、廊下はゴミだらけな上、壁などにも無数の爆裂現象(コンクリートの隙間から侵入した雨水が鉄筋が腐食させ、壁が崩れ落ちる現象)が確認できます。
そして肝心なお部屋の内部についても、何年人が住んでいないのか判らない程の荒れ具合であり、『これは流石に無理なのでは・・・』というのが、当初の印象でした。
ところが、この「凄まじい有り様」を見ても社長のヤル気は衰えず、話はドンドン進んで行きます。
確かに自主管理のマンションでも、組合さえしっかり機能していれば売却すること自体は不可能ではありません。(委託管理の物件にと比べて価格はかなり落ちますが)
しかし、ここまで荒れ果て、建物の修繕計画も皆無のマンションとなると、正直買い手はまず居ないはずです。
事実、今回の売主さんも「転売先に困って格安で売りつけようとしている」のですから、敢えてこの物件を購入する必要は無いように感じます。
そこで、この旨を社長に進言して、購入を諦めるよう説得したのですが、ボスの口からは驚愕の言葉が飛び出します。
社長「お前が新たに管理組合を立ち上げれば、問題はないだろう」
つまり、「所有者全員に声を掛け、規約を制定し、総会を開て管理費や修繕積立金を取り決め、このボロマンションを再生させろ」と言うのです。
『そんなの無理に決まってるじゃん!』という言葉が口元まで出掛りますが、サラリーマンとしては頷く他はありません。
そしてプロジェクトは始まった
こうして我が社の「購入意思」は決定され、お話は契約・決済とトントン拍子に進んでいきます。
そして、誰もがそうであるとは思いますが、嫌な予定を控えている時ほど時の流れは速いもの。
あっと言う間に引渡しが完了してしまいます。
なお、社長からは「しばらく固定給にするから、このマンションの面倒を全力で見ろ」との仰せもあり、早速滅びゆく分譲マンションの再生プロジェクトが始動されることになりました。
そこでまずは、分譲マンションの管理を専門に請け負う管理会社に問い合わせをし、「委託管理の見積もり」を取りまくることにします。
もしも可能であるならば、管理を請け負ってくれる会社を見付け出し、組合の再生から日々の業務までを「丸投げしたい」と考えた訳です。
例えば月額10万円で委託管理を請け負ってもらえるなら、10万÷20世帯で、1世帯あたりの月額負担は5000円ということになります。
これくらいであれば「新たに設定する管理費の中からでも捻出できるのでは?」と思ったのですが、各管理会社から提示された月額管理費は、お話にならない程に高額なものでした。
これは最早、自分で組合を再生させ、自主管理行って行く以外に道は無さそうです。
そこで次に考えるべきは、「一体どれくらいの管理費と修繕積立金を組合員から徴収するば、マンションの運営を続けられるのか?」という点となります。
月々の共用部分の掃除代や電気代、急ぎで対処しなければならない補修工事、外壁の塗り替えなど長期で計画すべき修繕工事の見積もりを集めて検討を続けます。
もちろん、各組合員から充分な管理費・修繕積立金を徴収することができれば、より行き届いた管理を行うことができますが、彼らからの合意が得られなければ意味がありませんので、「一世帯月額5000円の管理費と、8000円の修繕積立金」というギリギリ運営が可能なラインの案を作り、区分所有者に相談して回ることにしました。
ちなみに各部屋の所有者は、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得することにより住所までは判明しますので、まずはお手紙を出して「管理組合再生プロジェクト」の立上げとご協力のお願いを打診してみます。
ちなみに、今回のマンションは投資用の間取りとなっているため、購入して自宅として利用している方は意外に少ない上、オーナーの中には1人で複数の部屋を所有してる方もおられるようです。
実際に持ち主の内訳を見てみると、
- 私の会社/5部屋
- 投資家Aさん/3部屋
- 投資家Bさん/5部屋
- 自己居住所有者/7部屋
といった具合です。
よってまずは、大口の所有者AとBに当たりを付けた後、自己居住所有者を各個撃破する作戦で話を進めて行くことにします。
区分所有者たちとの邂逅
管理組合の再生を図るためには区分所有者全員に声を掛けて協力を仰ぐ必要がありますが、まずは議決権も大きく、話も通じそうな投資家A・Bに当たりを付けることにします。
なお、A・Bには既に手紙で「私の会社が5部屋を購入した旨、そして管理組合の再生を行いたい意向がある」ことは伝達済みです。
そして幸いなことに、手紙を読んだAさんからはお電話まで頂いておりましたので、すんなりとお会いすることができた上、提示した「1部屋月額5000円の管理費と、8000円の修繕積立金を徴収」というプランにもご賛同を頂けました。
「これはラッキー!」と、Bさんからの連絡も待ってみましたが、流石にそこまで世の中は甘くないようです。
そこで止む無く、アポなしの自宅訪問を敢行しますが、2~3回訪れてもご不在の様子です。(登記簿謄本には住所しか記されていないため、こちらからの電話連絡はできない)
それでも諦めず根気良く自宅訪問を続けたところ、ついにBさんを捕まえることができました。
そして、これまでの経緯をお話しすると共に「マンションの資産価値を維持していくには組合の復活が必要不可欠である」旨を伝えますが、Bさんは自分の家賃収入が管理費等の負担によって目減りしてしまうことに明らかな不快感を示しておられます。
但し、ここで無理に食い下がっても「面倒なことになるだけ」という予感がしましたので、この場は一旦撤退することにしました。
確かに5部屋を保有する投資家Bさんにプランへの賛同を頂けないのは「なかなかの痛手」ではありますが、ここは残りの自己居住所有者7人(部屋)を調略するのが先決と考え、1軒1軒訪問して打ち合わせを進めて行きます。
自己居住所有者の中には、朽ちて行くマンションの未来に不安を感じて快く管理費等の支払いに同意してくれる方もおられましたが、これまで固定資産税等の支払いのみで済んでいたところに、出費を迫られたことに憤慨し始める方も少なくありませんでした。
しかし、一人でも多く賛同者を増やさなければお話は前に進みませんので、何度も訪問して組合再生の必要性を説いて回ります。
そして遂に、7人中の5人が私の管理費・修繕費案に賛同してくれることとなりました。
これによって賛成派13部屋、反対派7部屋という状況となり、ようやく「お話がまとまりそうな手応え」がじんわりと漂い始めます。
そこで組合員たちに声を掛けて、初めての総会を開催する運びとなりました。
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初めての総会
参加者の人数を考えれば『予定が合う日なんてあるのか?』と心配していたのですが、ラッキーなことに全員が出席できる日程を確保できたため、私の会社が所有するお部屋にていよいよ総会が始まります。
まずは出席者全員に改めて資料を配布し、今の建物の状況が如何にマズイものであるかを一から説明します。
また、「このままでは売却もできない、数年後には多くの部屋で雨漏りが発生し、大きな地震がくれば倒壊する恐れもある・・・」等々の事情を、熱く熱く語って行きました。
そしていよいよマンション再生に不可欠な「1部屋月額5000円の管理費と、8000円の修繕積立金の負担をお願いしたい」という案に対して、採決を行うことにします。
実はこの案に反対していた、5部屋を所有する投資家Bさんには事前に連絡を入れて、「賛成派が13、反対派が7であるという状況」を伝えておきました。
その上、「総会の場で多数決となれば管理費5000円・修繕積立金8000円というプランが可決されることとなるが、組合再生のスタートから数で押し切るような手法は避けたいと思っている」旨をお話しして、
「管理費・修繕費それぞれ1000円ダウンとなる管理費4000円・修繕積立金7000円という妥協案にて、賛同派に回ってはもらえないか?」という提案を持ち掛けていたのです。
また当然、他の賛成派の方々には「Bさんに対する提案」の内容を伝えておきましたから、後々トラブルとなる心配もありません。
こうして迎えた評決の結果は予定通り「賛成派が13、反対が7」となりましたが、ここですかさず「いくらなら納得してもらえますか?」と反対派の方々に話を振ります。
突然の問い掛けにBさん以外の反対派はオドオドするばかりですが、ここでBさんが「1000円ずつ金額を下げるなら、私は払う!」と宣言しました。
これで一気に「賛成18、反対2」という構図となり、反対派の2名もついに軍門に下ります。
こうして無事に管理費・修繕積立金の金額も決まりましたから、後は他の分譲マンションから拝借して来た規約の内容を叩き台にして管理規約を制定、これでどうにか最低限の形を整えることができました。
最後の仕上げに、複数の部屋を持つAさんかBさんに『理事長を押し付けられれば!』と考えていたのですが、残念なことに全会一致で私が指名されることになってしまいます。
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自主管理の難しさ
こうして晴れて理事長となった私ですが、この後がまたまた大変でした。
何と言っても、これまで停止していた組合には1円のお金もありませんから、当初数年は一切修繕工事をすることができません。
そして、管理費・修繕積立金の滞納者の出現に、予想通り発生した雨漏りの応急処置など、問題は正に山積の状態です。
但し、激安で購入した5部屋はガンガン収益を上げてくれていますので、この点だけは救いとなりました。
また、長い時間を掛けながらも「外壁塗装」に「屋上防水」など、お金が溜まる毎に工事を行い、今では『腐りかけていたマンションとは判らない』程の復活を遂げているのです。
さてここまでが、私が経験した自主管理マンションの管理組合再生プロジェクトの概要となります。
今回のようなお話は非常にレアなケースだとは思いますが、この記事が皆様の自主管理マンション購入のヒントとなれば、管理人にとって望外の喜びです。
ではこれにて、「自主管理マンション購入のポイントと注意点を解説いたします!」の記事を締め括らせていただきたいと思います。