発生からある程度の時間が経過しているにも係らず、未だに記憶に新しい「衝撃的なニュース」の一つに挙げられるのが、2016年11月に発生した福岡県博多駅前での道路陥没事件なのではないでしょうか。

駅前の一等地で突然陥没事故が発生し、30メートル四方の地盤が崩落するという事態は正に「悪夢」としか言いようがないものですよね。

また、こうしたニュースと聞いて「この事件にはとても驚かされけど、自分の身のまわりで起きることはないだろうか・・・」などと不安に苛まれている方も少なくないことと思いますが、実はこうした地盤の沈下現象は私たち周辺でも「かなり頻繁に発生している」ものなのです。(もちろん規模は小さいものですが)

そこで本日は「地盤沈下は下水が原因?という体験記をお届け!」と題して、私が実際に体験した陥没事件の顛末をレポートしてみたいと思います。

地盤沈下は下水が原因

 

地盤沈下事件発生

私がこの事件に遭遇したのは、売買部門に転属して「収益物件の買取り」に力を入れている頃のお話です。

問題が発生した物件は、築30年、鉄筋コンクリ―ト造4階建ての賃貸マンションであり、私の会社が3年前に購入して長期保有物件として運用しているものでした。

但しこの物件、購入当初は末永く資産として保有しようと考えていたものの、思うように空室が埋まらないため「やはり転売してしまうべきなのでは・・・」という気運が社内で高まりつつあり、我が社の社長も遂に『売却』という決断を下します。

なお通常、物件を売りに出す時にはレインズやアットホームにて購入者を募るのが定石ですが、自社保有の物件ということもあり『まずは各社員の知り合いの不動産業者に情報を流して内々に売却してしまおう』ということになりました。

そして私も『他の社員に遅れをとってはならない』と、普段からお付き合いのある不動産屋さんへ声を掛けて「(購入を検討するための)物件の下見」に同行することにします。

現地においては、建物の修繕状況などを説明しながら共用部分、そして外観を見て回りますが、その際に建物周辺のコンクリート土間の数か所が陥没している(土間が少々凹んでいる程度のもの)ことに気付くのでした。

そこで慌てて社長に状況を報告したところ、「売却前に適切な処置をせよ」との命令を頂きましたので、様々な案件でお世話になっている建築業者のA社長に調査を依頼することにします。

※これまでのA社長の活躍については別記事「一棟マンション投資の流れをレポート(大規模収益物件購入・前編)」「木造防音対策工事の体験記をお届けします!」をご参照ください

後日、私とA社長、そしてAさんの部下数名とで沈下箇所を確認して回りますが、どうやら土間の地下にはかなり大きな空間が存在している模様です。(陥没している部分に棒を差し込むとドンドン奥へと入って行きますし、石を投げ込むとかなり時間を空けて水音が返って来る)

自分の会社が保有している物件の地下に「謎の地下空間が存在する」というは、それだけでもかなりのインパクトのある事件なのですが、まずは原因を突き止めなければなりませんので調査を続行していると、Aさんの部下が大声で異変を知らせて来ました。

ちなみに声を発した作業員は敷地内にある下水枡(マンホール)の蓋を開けて点検を行っていたのですが、陥没箇所に近いマンホールの内部を調べたところその地下に下水の経路とは別の『高さ1m、幅5m×奥行3m程の地下空間』が存在するのを発見したのです。

また、蓋を開けたマンホールの内部からは鼻が曲がるような凄まじい悪臭が漂い出していました。

「これは何事?」とA社長に説明を求めたところ、この現象はマンホールに接続されている下水配管が途中で外れていることが原因であるとのことです。

そして地中で外れた配管からは、当然ながら下水を流れる汚水が漏れ出すことになり、この汚水が長い年月を掛けて土を削り取り、地下に大きな空洞を作ったというのがA社長の見立てでした。

なお、冒頭でお話しした福岡の崩落事故も「粘土の地層に小さな穴が空き、そこから侵入した水が地下空間を作った」とされていますから、水の力というのは本当に恐ろしいものです。

だた、感心している暇はありませんので、すぐさま対策に乗り出さねばなりません。

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復旧工事

早速、私の会社の社長も同席して、建築会社との対策会議が行われることとなります。

なお、今回の地下空間はマンホールへと続く下水配管の破損が原因となりますから、まずは配管の修理を行い、地中に造られた空間を埋め立ててしまえば万事解決となりますが、そこには大きな障害が存在していました。

それは、配管の修理中にトイレを使われると「作業に当たる者たちが汚水の直撃を受けてしまう」ということです。

このようなお話をすると、まるで冗談のようにも聞えますが衛生面での問題に加え、こうしたリスキーな仕事を受けてくれる設備会社も少ないとのことですから、A社長の人脈を活かして業者の選定をお願いします。

また、被害を最小限に止めるためには一定の時間、マンションの住人にトイレを我慢して貰わなければならいのですが、施工業者から求められた工事時間は丸一日(配管の復旧作業のみ)という非常に長いものでした。

とても入居者に「一日トイレを我慢して欲しい」とは言えませんので、どうにか「半日に作業を短縮する」ということで話をまとめることに成功します。

後は入居者にご協力をお願いするだけですが、実はこれも『なかなかにしんどい作業』でした。

やはり、半日の間「トイレを含めて水を流すな」というお願いは受け入れ難いものがあるようで、必死に作業の必要性を説いても納得してもらえません。(近隣の公園やコンビニのトイレを利用して欲しいと頼んだのですが)

そこで仕方がなく、敷地の空スペースに2基の仮設トイレを手配することにいたしましたが、20世帯以上が入居するマンションであるだけに「このトイレの数で本当に処理しきれるか」という点に大きな不安を残したまま、工事当日を迎えます。(スペースの関係上、これ以上の数の仮設トイレは設置できない)

そして工事開始から1時間、順調に作業が進んでいるかに見えましたが突然マンションに悲鳴が木霊しました。

慌てて声の方に近付くと、使用禁止にしているはずの下水配管から汚水が流れ出て作業員が被弾してしまった様子です。

あれだけ周知して回ったにも係らず、約束が守れない方がおられたのでしょう。

その後も数回、不幸な事故が発生しましたが、どうにか無事に工事は完了し事無きを得ることができました。

以降は地下空間の埋め立て作業を残すのみですが、実際に砂やコンクリートを流し込んでみると、想定を遥かに上回る物量が必要となりましたので地下空間は更に奥に続いていた可能性もありそうです。

ちなみにA社長曰く、あのまま放置していれば建物の基礎の下まで汚水に浸食され、最悪の場合には建物が傾いていた可能性もあるとのことでした。

また、沈下が発生していたマンホールの上を自動車が通過していれば、崩落事故が発生していた可能性もありますので、こうした状況を考えると背筋に寒いものが走ります。

更に、1階に住む住人からは『ここ数年ネズミやゴキブリが異常発生している』との報告もあったそうです(おそらく、これも地下空間が原因)から、地下空間に気付くことなく転売を完了していれば、後々大変なトラブルとなっていたのは火を見るよりも明らかでしょう。

この時は本当に運良く危難を回避することができましたが、今から思い出しても冷や汗が滲むような経験でした。

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地盤沈下まとめ

さてここまでが、私が体験した下水による地盤沈下事件の顛末となります。

なお「下水配管が外れる」という軽微な不具合が原因で、陥没事故が起こったり、建物が傾いたりといった『大惨事』を招くことなど、正直考えてみたこともありませんでしたが現実にこうした事例は存在するようです。

そしてこの事件以降、収益物件の仕入れなどで中古アパートや中古賃貸マンションをいくつも見てまいりましたが、今回と同様の「下水管の損傷による陥没の兆候」を既に数件の物件で確認しています。(無論、自社で保有する物件ではありませんが)

もちろん件数としては「それ程の数ではない」かもしれませんが、こうした症状が進行しつつある物件は確実に存在しますので、投資物件などを購入する際には、必ず沈下の兆候が無いかをチェックしていただきたいところです。

ちなみに異変の兆候としては、「下水枡の周辺の地盤(土間)などが陥没している」「コンクリート土間を叩くと、カンカンという空洞を窺わせる音がする」「ゴキブリやネズミが大量発生している」などのパターンが多いですから、こうした症状が現れている物件は特に要注意だと思います。

また既に収益物件をお持ちの方については、大切な資産を少しでも長持ちさせるためにも常に物件の異変にアンテナを張り巡らせておくことが重要となるでしょう。

ではこれにて、「地盤沈下は下水が原因?」の体験記を締め括らせていただきたいと思います。