「生活の基盤となる場所は何処ですか?」と尋ねられれば、多くの方は「自宅である」と答えることでしょう。

また一口に自宅といっても「戸建て」と「分譲マンション」、「持ち家」と「賃貸住宅」など、その種類や権利の形態は様々ですが、マイホームは『ゆっくりと心身を休め、明日への英気を養う場所』となりますから、可能な限り快適な空間であって欲しいものです。

しかしながら、本来は安らげる場所であるはずの『自宅の住環境』を脅かす存在は意外に多いもので、「迷惑な隣人」や「害虫・害獣の出現」、そして時には「生活設備の不具合」などによっても平和は掻き乱されてしまいますよね。

そして、不動産関係の仕事に携わっていて実感する「最も発生頻度の多い住環境上の問題」といえば、これは騒音の問題に他ならないでしょう。

「道路や電車の騒音」に「隣人の物音」、そして同じ家族でありながら「2階に住む子供たちが立てる騒音に悩まされている」という方も決して珍しくはないのです。

なお、本ブログにおいては以前にも「騒音対策について!不動産屋さん目線で考えてみます!」という記事にて、騒音対策工事の方法などについて解説をいたしましたが、先日再び『防音に関する案件』を取り扱いましたので、本日はその顛末をレポートさせていただきたいと思います。

では早速、「木造防音対策工事の体験記」をスタートさせましょう。

木造防音

 

木造住宅の防音工事はこうして始まった

私が木造住宅の防音工事に携わることになったのは、「賃貸の部署に在籍した当時のお客様(大家さん)」からのお呼び出しを受けたことが全ての始まりでした。

現在、私は社内の売買部門に席を置いており、賃貸の担当をしていたのは10年前以上のことなのですが、時折「当時のお客様からのご指名」が入ることもあるのです。

そして、こうしたご指名を受けた際には「必ず厄介な案件」が転がり込んで来るのが常ですから、少々憂鬱な気分でお客様のご自宅へ伺うことになりました。

なお、こちらの大家さんは60代のご夫婦暮らしで「築30年の木造2階建ての1階に自分たちが住まい、2階をファミリー向けの2LDKに改築して貸し出している」という状況となります。(建物は延べ床面積150㎡越えの大型住宅)

以前は2階にご夫婦の子供たちが住んでいたのですが、ご結婚などの事情で家を巣立っていったのを機会にリフォームを施し、賃料収入が得られる態勢をとられたようです。

また、当初は他の不動産会社に物件の管理を任せていたのですが、我が社の社長と知り合いだったことから当社が管理を引き継ぐこととなり、私がその担当を務めていたのです。

ちなみに現在も管理業務は継続中であり、別の賃貸担当者が業務を引き継いでいるのですが、そのような状況にも係わらず『私をご指名してくる』ということは、やはり厄介ごとである可能性が高いでしょう。

さて、大家さんのご自宅にお邪魔して簡単な挨拶を済ませたなら、いよいよお話は本題へと入って行きますが、その内容を要約すれば

  • 当社の賃貸管理業務には大変に満足している
  • この度、2階の入居者が退去することになった
  • 実は2階を貸し出して以来、歴代入居者の生活騒音に悩まされていた
  • 家も古くなって来たので、この機会に2階を大リフォームしたい
  • リフォームするなら、徹底的な防音工事を施したい
  • 防音工事をしてくれる建築会社を紹介して欲しい
  • 建築会社に丸投げされるのは不安なので、建築に詳しい当社の担当者も付けて欲しい
  • 現在の賃貸担当者にこの旨を伝えたところ「管理人(私)が適任である」と言われた

以上のような内容でした。

お話の内容はよく理解できましたが、どうやら今回の案件は「大家さんが私をご指名」したのではなく、「賃貸担当者が面倒な仕事を私に押し付けた」だけのようです。

『あの野郎~!』と心の中で毒づきますが、ここまで来ては後にも引けませんので、この仕事を引き受けることにいたしました。(後日、賃貸担当者は「焼肉食べ放題おごりの刑」に処しました)

さて、こうした経緯で携わることとなった木造住宅の防音工事でありますが、引き受けてしまった以上はのんびりとはして居られませんので、早速行動を開始します。

スポンサーリンク

木造の防音対策について

今回、こちらの物件の防音工事をお願いすることにしたのは、建築会社として管理人が最も信頼を置いている「A社長が率いる工務店さん」となります。

60代のAさんは10代の頃から大工一筋で生きてこられた方で、現在は10名程の従業員が在籍する工務店の社長をされている方です。

なお、A社長は大工の出身ながら、木造はもちろん、鉄骨造からRC造まで建築全般に精通した人物であり、これまで何度も管理人を窮地から救ってくださった恩人でもあります。

※これまでのAさんの活躍ついては過去記事「マンション外壁塗装工事の流れや注意点を解説いたします!」「地盤沈下は下水が原因?という体験記をお届け!」をご参照ください。

そしてA社長と現場を下見しながら、工事のプランを詰めて行くことにします。

ちなみに施主である大家さんからは、事前に

  • とにかく2階の生活音が筒抜けである
  • 「テレビの音」や「会話」、「いびき」まで聞こえる
  • 特に気になるのが「足音」であり、子供が走る音などには非常にストレスを感じる

といった現状をお聞きしていましたので、これをそのままA社長に伝えたのですが、話を聞く社長の表情は非常に険しいものでした。

実は大家さんからこのご相談を受けた際、私は「これまで分譲マンションの防音工事などは何度か経験がありますので、おそらく防音等級の高いフローリングを使えば音はかなり軽減できると思いますよ」とお伝えしていたのですが、

A社長の表情を見る内に『もしかして自分は、大家さんにとんでもない嘘をついてしまったのでは・・・』という不安が頭をもたげ始めます。

そして、重い口を開いたA社長の説明を聞き、この不安が的中していたことを思い知らされるのでした。

A社長によれば、分譲マンションなどの鉄筋コンクリート造の建物における床防音工事と、木造住宅におけるそれは「全くの別物」と考えるべきであると言うのです。

そこで以下では、A社長からお聞きした木造住宅の防音工事に関する知識をまとめてみます。

木造住宅の床防音

フローリングの防音等級を表す数値として、「L値」と呼ばれるものがあります。

そしてフローリング材のカタログなどを見ていると、L60~L40など商品ごとの防音等級が示されており、この数値が低ければ低い程に『防音性が優れている』との判断となるのです。(L60よりもL50、L50よりもL40の方が防音性に優れている)

なお、これくらいの知識は私も持っていましたので、大家さんに対して「等級の高いフローリング材を使用すれば・・・」などという軽々しい発言をしてしまったのですが、

実はカタログに書かれたL値は『一定の広さ(10㎡~15㎡)、そして一定の厚み(厚さ150mm)のコンクリート板の上にフローリングを施工した際の参考数値』という前提があるのです。

よって、L値の等級が如何に高いフローリング材を使用しても、土台が木製である木造住宅では、殆ど効果を期待することができないと言います。

また、通常の木造住宅の防音性能をL値で示すとすれば「L65」くらいの建物が多いといいますから、「木造住宅の床の防音性能が如何に低いか」がご理解いただけるはずです。

※現在、分譲マンションにおけるフローリング材の防音等級はLL45以下とすることが推奨されている上、新築マンションなどではコンクリートスラブを更に厚くし、床を2重構造にするなどの二重三重の防音対策が進められています。

※L値の中には、更に「LL値」と「LH値」が存在しており、LL値は話し声やペンを落とす音など『高くて軽い音』の数値を表すものであり、これに対してLH値は足音などの『重く低い音』を表す数値です。

なお、ここで最も気になるのが「一体何をすれば木造住宅の床に防音対策を行えるのか」という点となりますが、LL値(高い音)についてはコルク材などの軟らかい素材を使用することで、かなりの防音効果が得られるといいます。

但し、LH(低い音や振動)については、軟らかい素材は殆ど効果がなく、「これを防ぐには建物自体の強度をアップさせる以外に方法はない」というのです。

つまり、鉄筋コンクリート造の場合には既に建物の強度が充分であるため、軟らかいフローリング材を使用してLL値の対策のみを行えば良いのですが、木造の建物では「まず建物の骨組みから強化する必要がある」ということになります。

そして、この事実が示すことは「かなりの大規模工事が必要となり、費用も法外に掛かる」ということです。

そこで恥を忍んで、大家さんに「フローリングの交換で防音工事ができるという話は誤りでした・・・」と伝え、A社長から改めて工事の概要と見積もり金額が伝えられました。

ちなみに、大家さんとしては『たとえ大工事になっても騒音から解放されたい』というお気持ちが強かったらしく、高額な見積もりにもご納得いただき、工事の発注へとお話は進んでいきます。

 

防音対策工事施工開始!

こうして木造住宅の防音対策工事がスタートすることになりましたが、ここで今回の工事の概要をご説明いたしましょう。

  • 1階の床下、1階の天井裏、2階の床下の柱や梁を金物で可能な限り補強する
  • 1階の天井には「防振吊り木」を使用する
  • 2階床下の断熱材を撤去し、新たな断熱材をミッチリと詰め込む
  • 2階の床はコンパネ(合板)+遮音マット+コンパネ+フローリングの4層構造とする

まず、建物の強度をアップさせるために、可能な限りの金物(柱や筋交いなどの接合部に取り付ける金属補強材)による補強を加えていきます。

1階の床下は、点検口から職人さんが床下に入って「出来る範囲」で金物を取り付け、1階の天井裏は2階の床を剥いで、そこから手を突っ込んで補強を加えて行く方法で施工が進められました。

また、1階に伝わる振動を防ぐために、1階の天井を支える部位に「防振吊り木」なる部品を設置していきます。

これは自動車のオイルダンパーのような機能を果たす部品であり、『2階の床の振動が1階の天井に伝わるのを軽減する役割を担う』のです。

そして、2階の床下に「これでもか!」と断熱材(断熱材にも多少の防音効果がある)を詰め込み、捨て貼りのコンパネ(ベニヤ板)、遮音マット(厚さ18mmの恐ろしく重いゴム板)、この上に更にコンパネを敷いた上で、フローリングを張り付けて行きます。

なお、2階の壁や窓についても防音工事は可能であるとのことでしたが、大家さんが訴える症状は主に床に起因する可能性が高そうですし、工事費用の予算の関係もあり、「床の施工で不足があるなら、後から壁や窓の工事をする」ということなりました。

こうして工期約1.5ヶ月、施工費用数百万円を掛けた工事は無事に完了し、いよいよ竣工の時を迎えます。

スポンサーリンク

工事完了!そしてまとめ!

『これだけの時間とお金を掛けて、全然防音ができていなかったらどうしよう・・・』、A社長の腕を信用していない訳ではありませんが、大きな不安に苛まれながら「工事完了後の立会い」に臨みます。

そして、2階で大工さんに「飛んだり」「跳ねたり」「走ったり」「歌ったり」してもらい、防音の仕上がり具合の確認を行いました。

なお、その結果は・・・見事に「合格レベル」です。

確かにジャンプなどをすれば音は聞こえますが、「普通に歩く足音」や「話し声」はほぼ完全にシャットアウトされています。

また、施主である大家さんからすると「涙ぐむ程の成果」であったらしく、その出来映えを前に奥様の目には「光るもの」が見えておりました。

この状態であれば、小さなお子さんのいるお客様でも問題なく入居さることができますし、大家さんが騒音のストレスに悩まされることはないでしょう。

私としても木造住宅の防音工事に関する知識を身に付けることができたのは大きなプラスとなりましたし、A社長的にも施主さんにあれだけ喜んでいただければ、満足のいく現場となったはずです。

ではこれにて「木造防音対策工事の体験記をお届けします!」の知恵袋を締め括らせていただき、管理人は「おごりの焼肉食べ放題」へといってまいります!