離婚や経済的な事情、仕事の関係など、不動産を売却する理由はそれぞれでしょうが、買主へ「思い出の詰まった家の鍵」を手渡す際には様々な思いがこみ上げてくるものです。
ところが近年では、こうした自宅の売却に新たなトレンドが生じており、状況によっては「自宅に住み続けながら、売却資金を得ることができる」という驚きの取引形態が存在するのをご存じでしたでしょうか。
そこで本日は、「リースバックとは?不動産の新たな売却手法を解説いたします!」と題して、自宅を手放さずに売却資金だけを手に入れる売買手法をご紹介してみたいと思います。
リースバックとは?
ではまず、「リースバックとは何なのか?」という点からお話を始めてみたいと思います。
皆様もご存知の通り、「リース」は『貸す』ことを意味し、「バック」はこの場合『戻す』という意味で使われていますから、リースバックを直訳すれば「貸し戻し」ということになるでしょう。
そしてこの取引手法は先程の直訳通り、『一旦物件を売却するが、そのまま貸し戻す』という趣旨の取引となります。
つまり「リースバック」とは
自宅を売却し、所有権は買主に移転され、売却代金は売主の懐に入るものの、「売主・買主間で自宅の賃貸借契約」を締結することで、そのまま借家として売主が住み続けることができる取引の形態
を指す言葉となるのです。
さて、このようなお話をすると「随分変わった取引形態だなぁ・・・」などと思われる方も多いかもしれませんが、実は不動産業界では『かなり昔から当たり前に行われていた取引手法』でもあります。
例えば「一棟ものの賃貸マンションなどが売りに出された場合に、その最上階の部屋に売主本人(大家さん)がお部屋を賃貸で借りて住み続ける」というケースは以外に多いものです。
但し、近年注目を集めているリースバックにおいては、
この手法を一戸建てや分譲マンションにおいて用いるのが特徴であり、賃料こそ発生するものの、自宅に住み続けながら売却資金を手に入れることができる方法
として注目を集めているのです。
リースバックのメリット・デメリット
さて、リースバックの概要をおおよそご理解いただいたとこで、この取引手法のメリット・デメリットについて解説してまいりましょう。
リースバックのメリット
リースバックの利点は、何といっても
住み慣れた我が家を手放すことなく、大金(売却代金)を手に入れることができるという点
となるでしょう。
お子さんが未だ学生である場合には、マイホームの売却に際して「学区を変更したくない」「幼馴染の多い地域から遠ざかりたくない」という想いに駆られるものですが、リースバックを利用すればこうした問題を回避しつつ、資金を手にすることが可能となります。
また、買主と売主は新たに賃貸借契約を締結することになりますから、
屋根の葺き替えや外壁のメンテナンスなど「費用の掛かる修繕」も買主の負担で行うことが可能となる
という点も大きな利点です。(自分が希望する時期に、メンテナンスを行ってもらえるとは限らない点には注意が必要です)
その上、借主は賃貸借契約は借地借家法による手厚い保護を受けることになりますから、
賃料を滞納しない限りは一方的に退去を迫られる心配がない
という点もメリットの一つに挙げられるでしょう。
リースバックのデメリット
一方、デメリットとしてまず挙げられるのが、
売却資金は得られるものの「毎月の賃料を支払う負担を逃れることができない」という点
になります。
また、リースバック物件の買い手は「投資を目的とする不動産投資家」や「収益物件として運用し、退去後に転売などを目指す不動産業者」となりますから、買取価格の決定は地域のマイホーム物件の相場ではなく『収益物件としての利回りをベースに算出される』ことになるでしょう。
よって通常の不動産売却に比べて、
リースバックでの売却は「価格が安めになってしまう」
のが特徴です。
なお、収益物件の値付けが安くなる理由については過去記事「分譲マンションのオーナーチェンジ賃貸物件で稼ぐ方法!」にて詳しく解説していますが、10年分~13年分の賃料相当額が値付けの1つの基準(利回り10%~7.5%)となりますので、地域性や賃料設定によっては通常の売却価格を下回る結果となります。
そして、当然のことながら
賃料を滞納すれば「買主(貸主)から督促」を受けることになり、最悪の場合は強制執行を掛けられて住む家を失う可能性もある
という点には是非ご注意いただきたいと思います。
このようにリースバックにはメリットもあれば、デメリットも存在していますが、自宅を売却した後も思い入れのある我が家に住み続けられるというのは、やはり「非常に魅力的である」ことに変わりはないでしょう。
そこで次項では、実際にリースバックで自宅売却を行うにあたって「どのようにお話を進めるべきなのか」についてご説明してまいりましょう。
リースバックの買い手はこうして探す
不動産に興味をお持ちの方であれば、ラジオなどでリースバックによる物件の買取を行っている業者のCMを耳にしたことがある方もおられるでしょう。
しかしながら、リースバックはまだまだ認知度の低い取引手法となりますから、町場の不動産業者に突然相談を持ち掛けても、相手にしてもらえない可能性が充分にあるはずです。
また、リースバックのデメリットでも解説した通り、この取引手法では通常の売却価格より安価な値付けがなされる可能性も高いですから「仲介手数料など無駄な経費がなるべく掛からないようにすること」も非常に重要なポイントとなります。
そこでまず行うべきなのが
仲介業者を介さず、直接「買取先を見付け出すこと」
となるはずです。
なお、ここまで「リースバック物件を買うのは主に投資家」や「転売等が目的の不動産業者」と解説してまいりましたから、『投資物件の買取先を探すのは大変そう・・・』と思われるかもしれませんが、この点に関してはあまり心配する必要はないでしょう。
過去記事「建売とは?戸建て分譲の仕組みや舞台裏を解説いたします!」でも解説いたしましたが、現在「建売屋さんと呼ばれる一戸建て分譲業者」や「中古分譲マンションのリノベーション販売を行っている業者」は物件の仕入れに非常に苦労しているのが実情です。
そして、こうした業者からしてみれば、
「ある程度の賃料収入が得られ、いつかは商品化できる可能性のある物件」は是非とも押さえておきたいもの
となります。
よって、リースバックによる物件買取を専門に行っている会社以外でも、「戸建てであれば建売屋さん」、「中古マンションであればリノベーション物件販売業者」を中心にリースバックの取引を持ち掛ければ、効率的にお話を前に進めることができるはずです。
リースバックで自宅を売却する場合の注意点
さて続いては「リースバックにより自宅を手放す際の注意点」を解説しておきましょう。
リースバックによる自宅の売却に際しては、
- 定期借家契約ではなく、普通借家契約を締結すること
- 賃料が適切に設定されていること
- 建物の維持管理について借主に不利な特約が付されていないこと
- 買戻しが前提の場合は契約書にその旨が明記されていること
以上の点に注意して、売却後の賃貸借契約を締結することが重要です。
リースバックで自宅を売却した場合には、買主と売主が賃貸借契約を締結し、売主が賃借人となって居住を続けることになりますが、賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」という2つの種類があり、定期借家契約の場合は定められた期間で契約が終了してしまいます。
よって、末永く物件への居住を望むのであれば賃貸借契約は「普通借家契約」を選択するする必要があるでしょう。
また、リースバックに際しては「物件の収益率」を向上させるために、相場よりも高額な賃料設定を提案してくる買主が多いので注意が必要です。
なお、借地借家法においては借主に賃料減額請求権が認められていますので、近隣の相場よりも高額な賃料が設定されている場合には訴訟等を起こすことで減額が実現する可能性もありますが、トラブルを避けるのであれば契約当初に適切な賃料を設定しておくべきでしょう。
一方、賃貸借契約書においては建物の維持管理の関する定めにも注意を払う必要があります。
例えば「建物の修繕費は借主が負担する」などといった特約が賃貸借契約に定められているのでは、借主は非常に不利な立場となってしまうはずです。
ちなみに、リースバックの契約の中には「一度は自宅を手放すが、数年後に再び買戻しを行う」という『再売買の予約』という特約が付加されたものも存在します。
こちらの特約は文字通り、『あくまでも自宅の売却は一時的なもので、買戻しが大前提』という場合に定められることになりますが、「買戻しの時期」や「買戻し価格」などに明確な定めがないケースではトラブルに発展することも少なくありませんので、契約書に具体的な時期や価格を明記するようにしましょう。
但し、買戻しに際しては「かなり高額な資金」が必要になる場合が殆どである上、リースバックの買戻しに際して「金融機関からの融資が利用できるケースは稀」ですから、『再売買の予約』の前提とした取引はあまりお勧めできません。
不動産投資でのリースバック活用
では最後に、個人の不動産投資家様に向けてリースバック物件購入の魅力についてお話しさせていただきます。
不動産投資ブームと呼ばれて久しい昨今ですが、既に市場には多くの投資家が溢れかえり、「利回りの良い物件など滅多に見掛けることがない」のが実情です。
その点、このリースバックという手法を用いれば、
相手方(売主)との交渉次第で「市場に流通している物件以上の利回りを確保する」ことも不可能ではない
はずです。
更に、過去記事「不動産転売のノウハウをお教えします!」にて解説した通り、
物件が空室となれば「利回りによる値付け」ではなく、『マイホーム物件としての値付け』での売却が可能となりますので、転売によって大きな利益を上げらえる可能性
もあるでしょう。
その上、プロの不動産業者でも『未だにリースバックには未参入』という会社が多いですから、「競争率の低さ」という意味でも魅力が見出せるのではないでしょうか。
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リースバックとは?まとめ
さてここまで、不動産売却の新たなトレンドとなり得る「リースバック」について、解説を行ってまいりました。
今はまだ、「珍しい取引形態」というイメージが強いかもしれませんが、数年の内には『当たり前の売却法』として社会に浸透していることが予想されますから、今はまだ本格的に売却を考えていないという方も知識としてそのノウハウを理解しておいて損はないでしょう。
また個人の投資家さんにとっては、新たな投資対象発掘の手段として非常に魅力的な取引方法であるかと思いますので、付き合いのある不動産業者などに「リースバック物件求む!」と声を掛けておき、物件獲得の門戸を広げておくことも重要かと思います。
ではこれにて、「リースバックとは?不動産の新たな売却手法を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。