現在、深刻な社会問題となりつつあるのが、高齢化社会を迎えたことにより増え続けている「空き家」を巡るトラブルとなります。
さて、このようなお話をすると「空き家が増えて何が困るの?」などという声も聞えて来そうですが、誰も住まないまま放置された古家は地震発生時に倒壊する可能性も高いでしょうし、犯罪に利用されたり、放火の標的になったりと決して野放しにはできない問題を多数孕んでいるのです。
そこで本日は「空き家3000万円控除(所得税控除)をわかりやすく解説いたします!」と題して、減税制度の概要や必要書類、他の特別控除との併用の可否などについてご説明したいと思います。
空き家の3000万円控除とは
3000万円の所得税控除と聞くと、「マイホームを売却時の3000万円控除」を思い浮かべる方も多いと思いますが、今回ご紹介する制度はその空き家バージョンとでも呼ぶべき内容となります。
こちらの減税制度においては、
空き家となっている戸建て物件を相続した者が建物(被相続人居住用家屋)および土地(被相続人居住用家屋の敷地)を売却した場合に、発生した譲渡所得を最大3000万円まで控除できる
というのがルールです。
※相続人が2人の場合は各々3000万円の控除が受けられる(3000万円控除×2人=合計6000万円の控除)ことになりますが、相続人が3人以上の場合は各々2000万円の控除が上限となります。(相続人3人の場合なら2000万円控除×3人=合計6000万円が控除限界)
なお、この減税制度が利用できる期間については
令和9年12月31日まで
と定められています。
そして、この制度を利用すれば「相続はしたものの、売却しても税金を差し引くと殆ど利益が出ないから」という理由で古家を放置している所有者の背中を強烈に押すことができそうですよね。
但し、こちらの優遇を利用するには
- 戸建て物件であること(2世帯住宅は適用不可)
- 相続が発生してから3年以内(3年を経過する年の年末まで)の譲渡であること
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(新耐震基準を満たしていること)
- 被相続人(亡くなった人)が自分で住んでおり、賃貸などをしていない(貸し出していない)こと
- 譲渡価額が1億円以下であること
以上のポイントをクリアーしている必要がありますのでご注意ください。
さて、ここで気になるのが「3.昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(新耐震基準を満たしていること)」という条件であるかと思いますが、これは『いくら古屋の売買を活性化したいとはいっても、倒壊の危険性がある建物の売買は推奨できない』という国の方針によるものです。
よって、たとえ旧耐震の建物であっても
- 譲渡までに耐震補強工事を完了する
- 譲渡までに更地にする
- 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震補強工事を完了する
- 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに更地にする
以上の条件を満たしていれば、この減税制度を利用することができるのです。
また、「4.被相続人(亡くなった人)が自分で住んでおり・・・」という点については、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するといった事情がある場合には、一定の要件を満たすことで減税制度の利用が可能になる特別ルールが定められています。
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空き家の3000万円控除の必要書類
ここまでのご説明をお聞きになり、「何て素晴らしい制度なんだ!」とお思いの方も多いはずですが、この制度の唯一の弱点とも言えるのが『優遇制度を利用するのに多くの必要書類を集めなければならない』という点です。
また必要書類の中には「取得するのが非常に面倒なもの」も含まれており、利用するならば「書類集めに相当な労力を要する覚悟」が必要になるというのが実情でしょう。
では実際に申請書類の一覧を見て行きたいと思いますが、必要書類は「被相続人居住用家屋等確認書の発行に必要なもの(地方自治体提出用)」と「税務署提出用」の2種に分かれますので、各々ご説明して行きます。
「被相続人居住用家屋等確認書」の発行に必要なもの
「被相続人居住用家屋等確認書」は対象物件が存在する地方自治体にて発行してもらう書類であり、「耐震補強後の売却」・「更地売却」どちらの場合にも必ず必要な書類となります。
そして、これを発行してもらうために必要なのが、
- 被相続人居住用家屋等確認申請書
- 被相続人の除票住民票の写し
- 被相続人居住用家屋の譲渡時の相続人の住民票の写し
- 家屋又はその敷地等の売買契約書の写し
- 家屋又はその敷地等の登記事項証明書
- 電気若しくはガスの閉栓証明書又は水道の使用廃止届出書(他にも代用可能な資料あり)
- 取り壊し以前の状態が判る写真(更地売却の場合のみ)
- 取り壊しから売却時までの固定資産税の課税明細書(更地売却の場合のみ)
などの書類となります。
これらの書類を提出することで地方自治体から「被相続人居住用家屋等確認書」の発行を受けられますので、続いては税務署に対して書類の提出を行うことになります。
税務署提出用の書類
地方自治体から「被相続人居住用家屋等確認書」を受け取った後は、税務署に下記の書類を提出することになります。
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 譲渡所得の金額の計算に関する明細書
- 土地・建物の登記事項証明書(更地売却の場合も必要)
- 売買契約書の写し
- 耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し(耐震補強工事後の売却の場合のみ)
このように税制優遇を受けるまでには数々の書類を用意し、提出する手間と時間が必要となるのです。
他の不動産売却減税制度との関係
ここまでのお話で、空き家の3000万円控除を申請するまでの流れはおおよそご理解いただけたことと思います。
そこで本項では、不動産売却時に受けられる他の減税制度との関係についてご説明していくことにいたしましょう。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例との関係
相続した不動産を売却した際に、売れた金額をほぼそのまま「取得価格」として譲渡所得から控除できる特例制度「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」との関係は、「選択制」となります。
つまり「空き家の3000万円控除」と「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」はどちらか一方しか利用できませんから、選択を誤らないように細心の注意と検討が必要となるでしょう。
居住用財産売却時の3000万円控除(マイホーム)との関係
「マイホームの3000万円控除」と「空き家の3000万円控除」の関係は、『併用可能』ということになります。
但し、2つの制度を合わせての上限が3000万円(6000万円ではない)となりますから、同時にこの2つの優遇制度を利用しても基本的にメリットはないと言えるでしょう。
特定のマイホームを買い換えたときの特例(買い換え特例)との関係
マイホームの買い換えに際して、現在住んでいる物件を売却して譲渡所得が発生したとしても、新たに購入した物件の価格がその譲渡所得を上回る場合には「所得税の支払を免除(繰り延べ)できる「買い換え特例」との関係は、「併用可能」となります。
なお、前項にてご説明した「マイホームの3000万円控除」と「買い換え特例」は選択制の関係となりますから、「マイホームの買い換え」と「空き家の売却」を同じ時期に行うのであれば「買い換え特例」と「空き家の3000万円控除」を併用する方が有利と言えそうです。
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空き家3000万円控除まとめ
さてここまで、空き家の3000万円控除の制度についてご説明してまいりました。
「空き家対策特別措置法」という法律においては、空き家の所有者に不利な法的規制(固定資産税の優遇を排除など)が行われることになりましたが、この空き家の3000万円控除の制度を上手に利用すれば「不利な点を補って余りあるメリット」を得られるはずですから、これを活用しない手はありませんよね。
そしてメリットが大きいだけに、「手続きを煩雑にして不正な利用を防ごう」という趣旨が行政側にはあるのでしょうから、ここは面倒くさがらずに手続きを進めるべきでしょう。
空き家を無くして地域や社会に貢献すると共に、自分自身も税制優遇を受けられる「空き家の3000万円」の利用をこの機会に是非ご検討いただければと思います。
ではこれにて、「空き家3000万円控除(所得税控除)をわかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。