不動産の取引を成功させる上で、売買契約書が非常に大きなウェイトを占めることはこれまでの記事でもお伝えして来ました。

そして、契約書の書き方について解説した「不動産売買契約書の作り方について解説いたします!」の記事では、基本的な条項に関する解説は行ったものの、契約書の最後に記される「特約条項」については「後日、別記事にて・・・」ということにさせていただいておりました。

そこで本日は、契約書の中でも最大の「肝」となるであろう特約の書き方について、参考例文を挙げながらお話をさせていただきたいと思います。

では、不動産契約書特約条項についての知恵袋を開いてみましょう。

不動産契約書特約条項

 

売買契約書の特約とは

ではまず、「そもそも売買契約書の特約とは何であろう?」という点からお話をスタートさせていただきたいと思います。

特約という言葉の響きから、「通常の条項以外の特別な約束ってことでしょ?」とお考えの方も多いかもしれませんが、この定義では少々不足があるかもしれません。

そして法解釈上、特約とは「通常の条文より強い効力を持ち、優先されるべき約束ごと」という意味になります。

よって他の条文と特約の間に、矛盾する内容が記されている場合には、特約の内容が優先されることとなるのです。

事実、特約の中には「第●条の取り決めに係らず、●●すること」など、契約の本筋を変更する内容のものが少なくありませんが、これは先にお話した特約の優先効力に則った条文ということになります。

さて、ここまでの解説をお読みになり「では、どのような約束事でも特約とすれば有効になるの?」と思われる方もおられるかもしれませんが、売主が不動産業者である場合などには、少々注意が必要です。

契約の当事者一方が事業者(不動産業者)であり、相手方が一般の方である場合には、消費者保護の観点から一般の方に極端に不利な契約内容は「無効」とされてしまうケースも多いですから、「無効になるくらいならもっとライトな内容にしておけば良かった・・・」などということにならないよう、慎重に文言作成を行いましょう。

なお、契約書の作成する中で「特約の有効性に不安がある」という場合には、お付き合いのある司法書士や弁護士に相談してみるのがおすすめです。

 

頻繁に用いられる特約例をご紹介

ではここからは、実際の契約において用いられることの多い「特約の例文」を見て行きましょう。

①本物件に関する登記手続は、売主指定の司法書士・土地家屋調査士にて行うものとします。

建売物件などの売買において、登記手続きを行う者についての指定がある場合に付加する特約です。

売主が建売屋さんの場合には、普段からお付き合いのある司法書士や土地家屋調査士が必ずいるものですから、契約書作成時にこうした文言の追加を求められるケースも少なくありません。

②買主は当該物件の周辺環境を充分確認してた上、本売契約締結するものとします。また契約後に生じる近隣トラブルについては当事者同士間で解決するものとします。

近隣トラブルによるクレームを避けるために、近年記されることが増えた特約条項です。

③天候不順及び関係官庁の指導等により建築工事が遅滞する場合には、売主は買主にこれを通告するものとし、買主はこれを了承するものとします。

未完成物件の売買契約には必須の引渡し延長用特約です。

④売主は建物の諸設備に関し仕様書に基づき買主に引渡すものとします。但し、近隣の関係及び施工上の都合により目隠しの設置、ブロックフェンスの設置及び撤去、曇りガラスの使用等、止むなく軽微な変更をする場合には、買主はこれを了承するものとします。

未完成物件の場合、施工途中に近隣からクレームが入る場合もありますので、こうした予防的特約が必要となります。

⑤本物件は未完成ですが、外壁材・内装材・壁紙等の選択、及び外構工事の仕様変更を行うことはできません。

物件が完成していない場合、使用する部材などに対して「お客様からの要望」が出る場合がありますが、これを防止するための特約となります。

⑥本物件のテレビアンテナの設備は、買主の負担にて設置を行うものとします。

建売物件においては、アンテナを売主が設置することはまずありませんので、その旨を買主に念押しする文言となります。

⑦本物件においては、隣家と互いの自動車の乗り降りの利便性を確保する為、敷地境界線付近にブロック塀等の設置を行わないものとします。

分譲物件などで、隣家と駐車場同士が接しており、ブロック塀などを建てると自動車のドアが開かなくなってしまう場合などに付加する文言です。

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⑧買主が本物件上に存する建物について建物滅失登記を希望する場合には、売主はこれに協力するものとします。

古屋付きの土地を売買する場合などには、建物の所有権移転登記を行わずに、売買完了後に買主が建物を解体するケースも珍しくありません。

しかしながら建物の所有権の移転が行われない場合には、建物を解体した後の滅失登記に売主の委任状等が必要になるため、こうした書面の作成等に協力をしてもらうための特約となります。

⑨売主は物件の引渡し日までに、本物件上の古屋を自己の負担で解体し、滅失登記を行うものとします。

前項では、古屋を残したまま売買を行い、買主が解体作業を行うパターンでしたが、本項の特約は売主の手で解体をした上で引き渡す、「更地渡し」の場合に用いられる特約です。

なお、この特約を加える場合には解体費用が売主・買主どちらの負担となるのかを明確にしておく必要があります。

⑩売主は本物件の引渡し日までに農地転用の手続きを完了し、地目を「宅地」に変更した上で、買主に引き渡すものとします。

売買対象が農地である場合などには、売買に際して農地法上の農地転用を行う必要があり、この際に用いられる特約となります。

なお、状況によっては農地転用ができない場合もありますから、本特約を入れる場合には「農地転用が不能であった場合の定め(契約の白紙解除など)」も加えておくべきでしょう。

⑪本物件は相続登記が未了であるため、売主は引渡し日までに自身の名義による所有権移転登記を完了するものとします。

相続によって物件を受け継いだ方が売主の場合には、未だ相続登記が完了していないケースも珍しくありません。

このような場合には、売主が他の相続人と遺産分割協議書などを取り交わし、登記名義を売主に改めてから売買に臨む必要がありますので、こうしたケースで利用される特約となります。

⑫売主は引渡し日までに確定測量を完了させた上で、買主に物件を引き渡すものとします。また測量の結果、越境物や共有物の存在が明らかになった場合には、それらの取り扱いについて定めた覚書等を関係権利者と取り交わし、これを買主に交付するものとします。

取引対象となる土地の中には、隣接地との境界が確定していない物件も少なくありませんので、引渡しまでに境界の確定を求める際に使用する特約です。

なお、確定測量とは「隣接する民間の土地」および「道路などの官地」も含めて、全ての隣接地との境界の確定を行う行為 を指します。

また測量の結果、境界線を跨ぐ工作物(ブロック塀など)や建物の一部があることが判明した場合には、「これらの越境物や共有物に係わる問題を今後どようのうに処理して行くか」について定めた覚書を売主の責任で作成してもらうのがベストです。

⑬本契約に関し、近隣住民、私道共有者などとの間に覚書等の取り決めがある場合には、買主はその内容を承継するものとします。

前項でもお話しした通り、物件に越境物・共有のブロック塀等が存在していたり、私道に接している場合には、権利関係者と覚書などを交わしているケースも少なくありませんので、こうした文言を加えておくべきでしょう。

⑭重要事項説明書備考欄に記された内容につき、買主はこれを承諾するものとします。

重要事項の備考欄には「越境物があります」「物件の前にはゴミ捨て場があります」など、取引上大きな問題となり得る事項が記載されることも多いため、後になって異議が出ないように「契約書の特約でも念押しする」ための特約となります。

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契約書特約条項の書き方まとめ

さてここまで、売買契約書に登場することの多い特約のパターンをご紹介してまいりました。

なお、不動産の取引においては「全く同じパターン」は決して存在しませんので、実際の取引において本記事をご活用いただく際には、個々の状況に合わせて文言をカスタマイズしてください。

また、近年の売買においては中間省略に関する特約を用いるケースも多いかと思いますので、こちらに関しては別記事「不動産の中間省略とは?解りやすく解説いたします!」をご参照いただければと思います。

ではこれにて、不動産契約書特約条項の書き方に関する知恵袋を閉じさせていただきます!