ご先祖様から代々土地を受け継いでいる地主さんや、投資目的で収益物件を買い集めている投資家様にとって、相続は非常に大きな問題であるかと思います。

もちろん、自分が苦労して維持して来た資産や運用して来た収益物件を、愛する子孫たちに残して行きたいと考えるのは至極当然のことかと思いますが、現在の我が国の制度では、そう簡単に資産を受け継がせて行くことはできないのが実情でしょう。

そして本ブログでは、こうした皆様の相続を応援するべく「不動産の相続税対策について考えてみたいと思います!」「不動産相続の注意点を解説いたします!」などの記事をお届けしてまいりました。

しかしながら不動産の運用を行っていると、時として「自分や家族とは直接係りのない相続の問題に頭を悩ませられる」こともあるものです。

そこで本日は「賃貸の相続に関する法律知識をお届け!」と題して、賃貸中の物件にて発生する相続の問題について解説してまいりたいと思います。

賃貸の相続

 

建物賃貸借の相続

冒頭での解説をお読みになり、「物件オーナーが自分に関係ない相続で巻き込まれるトラブルって何だろう?」と疑問に思われた方も少なくないことでしょう。

そしてこの疑問の答えは「賃貸物件における、賃借権の相続にて引き起こされるトラブル」ということになります。

我が国の法律上、お部屋などを借りる権利である「賃借権」は相続の対象と解されており、借主が死亡した場合には『相続人にその権利が引き継がれる』ことになります。

また、このようなお話をすると「そんなの知っているよ!」とのお声も聞こえて来そうですが、現実に賃借権の相続が発生した場合には、『賃借権のもう一方の当事者である貸主にも大きな影響が及ぶ』こととなり、時にはそれがトラブルとなって降り懸かって来ることもあるのです。

ちなみに、この賃借権の相続により起こり得るトラブルは「建物の賃貸」と「土地の賃貸(借地権)」によっても内容がかなり異なって来ますので、まずは建物賃貸借のケースからご説明を始めたいと思います。

賃貸権の相続対象がワンルームなど単身者向け物件の場合には、たとえ賃借人が亡くなったとしても「荷物を誰が片付けるか」程度の問題しか残らないのですが、ファミリータイプの物件ともなれば『物件に残された妻などに賃借権が相続される』こととなるでしょう。

もちろん「奥様も仕事をしている」といったご家庭なら、賃貸借契約を更新する際に名義を書き換える程度の作業で済むのですが、専業主婦で子だくさんなどという場合には、なかなか困った問題が発生しますよね。

なお、既に申し上げた通り、賃借権は当然にして相続されていくものですから残された配偶者が無職であっても、物件から立ち退かせることはできません。

更に、賃借権が相続によって配偶者に移るのは仕方がないにしても、場合によっては残された者が「同棲相手」でも、立ち退きが求められない可能性があります。

これは亡くなった方と共に生活する者が法律的に「内縁関係」にあると判断される場合です。

さて、このようなお話をすると「そんなの堪ったものではない!」という物件オーナー様の声も聞えて来そうですが、ここでいう『法律上の内縁関係』とは単に一緒に住んでいるいだけで認められるものではありません。

法律上の内縁関係とは、籍こそは入れていないものの外観上は「夫婦そのもの」である上、周囲の第三者からも「ほぼ夫婦」と認められている場合に限ります。

よって単にカップルが同棲しているなどのケースでは、賃借人死亡を理由に立ち退きを求めることが可能です。

しかし、これが内縁関係と認められる場合には、残された内縁の妻などは借地借家法により保護されることとなりますから、大家さんは相手方に対してお部屋の賃貸を続けざるを得ないことになるでしょう。

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借地権付き建物の相続

建物賃地借に関する相続問題に続いては、借地権に関する相続の問題を解説してまいりましょう。

借地権とは、ご存じの通り「建物を建てる目的にて土地を貸出し、土地の上に借りている人間名義の建物が建築されているケース」を指します。(借地権に関する詳細は過去記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」をご参照ください)

そして建物賃貸借同様、借地権についても借地借家法による手厚い保護がなされていますから、借地契約の名義人が亡くなった場合にも、その配偶者や子供といった相続人が引き続き土地を借り続けることが可能となるのです。

もちろん、借り手が相続によって変更となったからといっても地代は収めなければならない訳ですから、地主さんに不利ということはないでしょうが、譲渡承諾料や名義の書き替え料といった金銭を要求することはできませんので、ご注意いただければと思います。

また借地の場合についても、「対象の物件に残された者」と「亡くなった契約者」が『内縁関係』にあった場合に面倒な事態が発生することになるでしょう。

建物賃貸借の項でもご説明した通り、契約者と内縁関係にあったものが物件に住み続けている場合、借地借家法による保護がなされるのは借地権のケースでも同様です。

しかしながら相続に関する法律(民法)は、借地借家法ほど内縁の妻や夫に親切ではありません。

例えば借地契約をしている借地人に、前妻との間に授かった子供が居たとしましょう。

その上、借地人はこの子供とは別居しながら、対象物件で内縁の妻と生活を続けているという状況だったとします。

こうしたケースで借地人が亡くなれば、内縁関係の者は借地借家法により物件に住み続けることができますが、相続対象である建物は子供が相続することになります。(内縁関係の者には原則として相続権が無い)

ここでもしも「相続人である子供」と「内縁の妻や夫」の関係が良好であるならば、子供が契約者の立場を引き継ぎ、建物を内縁関係の者に賃貸するという方式が可能となるでしょうが、仲が悪い場合には、面倒な事態になるのは目に見えていますよね。

ちなみに建物の持ち主(相続人)とは言え、やはり内縁関係の者に立ち退きを迫ることは法的に不可能ですから、建物を格安で内縁の妻に譲渡するなどの方法しか解決への道はないのです。

ただ地主としては、こうした相続人と居住者の話し合いがまとまるのを「萱の外で傍観している」しか方法はありませんから、こうした状況となってしまった場合は、気長に事の成り行きを見守って行くしかないでしょう。

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賃貸の相続まとめ

さてここまで、建物賃貸借・借地権に関する賃借権の相続についてお話ししてまいりました。

「賃借権は相続される」と一言で説明すると非常に単純なことのように思えますが、実際に自分が当事者になってしまうと『実に様々な問題が発生して来る』ことをご理解いただけたことと思います。

また特に、相続を受けて居住を続ける者が「通常ならば絶対に契約したくないタイプの人間」であった場合には、オーナー様の負担は非常に大きなものとなることでしょう。

法律は常に「弱者の保護」を謳い、地主や不動産投資家という立場の人間に厳しい判断ばかりを下しますが、社会的な強者とされる者も、実は非常に多くの悩みを抱えているのが実情です。

戦後の住宅難の時代ならともかく、現在のように誰もが自由に住処を選べる時代には、もう少し不動産オーナーに寄り添った判断を行っていただけれるとありがたいのですよね。

ではこれにて、「賃貸の相続に関する法律知識をお届け!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。