ニュースなどを見ていると、時折「未発見の新たな遺跡が見付かった」などという情報を耳にすることがあります。
こうした発見には「古代のロマン」を感じるものですが、不動産取引においてはこうした遺跡の存在が『大きな問題となる』ことがあるのをご存知でしたでしょうか。
そこで本日は「埋蔵文化財包蔵地の売買ついて解説します!」と題して、不動産取引に係わる埋蔵文化財のお話をさせていただきたいと思います。
文化財保護法と埋蔵文化財包蔵地
ご存知の通り、当ブログは皆さんにお役立ていただける不動産の知識をテーマに記事をお届けしておりますから、冒頭の文章をお読みになって「何で遺跡の話?」と不思議に思われた方も多いことでしょう。
そして、その疑問の答えとなるのが文化財保護法という法律の存在です。
文化財保護法は昭和25年施行という非常に古い法律であり、その名の通り文化財の保護に関する様々なルールを定めた法律となります。
なお、その中身を簡単に見てみれば、有形文化財 ・無形文化財・民俗文化財などの定義や、文化財指定に係わるルールなど、実に多岐に渡る内容となっていますが、その中には埋蔵文化財と言われる「未だその全ての発掘が済んでいない古墳や遺跡などの文化財に関する定め」がなされているのです。
更に、文化財保護法第93条ではこの埋蔵文化財が存在すると考えられる地域を「(周知の)埋蔵文化財包蔵地」と名付け、土地利用者等に対する様々な制限を定めています。
埋蔵文化財包蔵地の制限の概要
ここまでの解説をお読みいただければ、「埋蔵文化財の存在が土地の利用に様々な影響を及ぼし得る」ことをご理解いただけたことと思いますが、本項では更に詳しく埋蔵文化財包蔵地の規制概要についてお話ししてまいりましょう。
さて、まず気になるのが「埋蔵文化財包蔵地が何処に存在しているか?」という点であるかと思いますが、その情報を管理しているのは各行政の教育委員会となります。
また文化財保護法では「財包蔵地の存在を周知するべし」と謳っていますから、役所や教育委員会の事務所に赴けば、誰でも簡単に指定エリアを知ることができるのです。(閲覧可能な台帳などが置かれているパターンが多い)
ちなみに、(周知の)埋蔵文化財包蔵地に指定されている場所は日本全体で約46万箇所もあると言われていますし、未発見の(周知されていない)埋蔵文化財包蔵地を含めればその数はとんでもないものとなるはずです。
*役所の資料で確認できるのは「周知の埋蔵文化財包蔵地」のみですが、工事などに際して新たな遺跡や遺物が見付かれば、こちらも同様の制限を受けることなります。
そして、この埋蔵文化財包蔵地に属する土地(自治体によっては指定エリアに近接しているだけでも)に建物を建てる際には、工事着工の60日前までに教育委員会への届出を行わなければなりません。
※法令上は「文化庁長官への届出」となっていますが、実務上は自治体の教育委員会へ届出ることになります。
なお、このようなお話をすると「何だ、届出をするだけか・・・」などと思われてしまいそうですが、大変なのはここからとなります。
届出を受けた教育委員会は、まず対象の遺跡について検討を行い、
- 慎重工事
- 立会調査
- 試掘
以上、3種の選択肢の中から指示を出して来るのです。
慎重工事は『建物の建築により埋蔵文化財が影響を受けることがない』との判断であり、文字通り注意しながら工事を進めて良いという意味になります。
一方、立会調査は一度現地で確認を行い、問題がなければ工事を進めて良いとの判断となりますが、ここで遺物が出土した場合には発掘調査(本掘)に移行することになるでしょう。
3つ目の試掘については「試しに掘ってみよう」という指示であり、立会い調査と同じく結果によっては発掘調査(本掘)をしなければなりません。(もちろん建築計画自体を中止にすれば、調査をする必要はありませんが)
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では、発掘調査(本掘)の指示を受けてしまった場合はどうなるのでしょうか。
実は発掘調査の判断が下った場合には、工事を計画している施主が自力+自費で調査を行う義務があります。(重要な遺跡を破壊して工事を進めたいなら、自力で調査をして記録を保存せよという趣旨)
このようなお話を聞くと「そんなバカな!」と思われるかもしれませんが、これは紛れもない現実です。
当然、施主側には調査を行う知識はないでしょうから、教育委員会から専門家を紹介してもらうことが可能ですし、調査に必要な作業員の手配についてもアドバイスをもらうことはできます。
但し、遺跡の規模によっては調査に膨大な時間が掛かり、多くの人員を必要とする可能性もありますので、仮説トイレに現場事務所などまで手配するとなれば、これは「時間的な意味」でも「金銭面」でも大きな負担となることは間違いありませんよね。
なお、事業を計画しているのが個人の場合(自宅の建替えなど)には、国から補助金が出る制度となっていますが、それでも時間的なロスは避けられないでしょう。
※発掘調査の期間は最短で2~3ヵ月、長い場合は1年を超える場合もあります。
ちなみに発掘調査の指示が出ても、これを回避する方法もあるにはあります。
例えば、「建物の基礎」と「土中の遺跡」の間に土を盛って(空間を作って)、これを保護層とすることで発掘調査をせずに建築の許可が下りることもあるでしょう。
但し、この方法ですと保護層を設けた分、建物の高さが高くなってしまいますから、高さ制限等の規制を受けることもありますし、既に建築確認を取得済みの場合には変更を行うための費用と時間が生じることになります。
また、柱状改良等の地盤改良は地中の遺跡を傷付ける可能性が高いため、通常はNGとなりますが、木製の杭を使用した「環境パイル工法」などを用いれば遺跡のダメージを最小限に留めることが可能となりますから、状況によっては建築の許可が下りる場合もあるようです。
※環境パイル工法は特殊な加工を施した木製の杭を使用するため、60年以上の耐久性があると言われています。
但し、遺跡の状態や希少性によっては如何なる手段を講じても、発掘調査を回避できないケースもありますのでご注意ください。
埋蔵文化財包蔵地の売買について
さて、このように様々な問題が発生し得る埋蔵文化財包蔵地は、不動産の取引においても充分に注意しなければならい調査項目となります。
そして、周知の埋蔵文化財包蔵地に属する物件は「地域の相場よりも割安な価格設定」がなされ、売買に際しての重要事項の説明にあたっては「埋蔵文化財包蔵地に該当するか否かを必ず説明する」のがルールですから、物件調査にミスがない限りは「知らずに購入してしまう」ということは滅多にないはずです。(中古戸建てなど建物付きの物件でも埋蔵文化財包蔵地に属するものがあります)
そこで問題となってくるのが、周知の埋蔵文化財包蔵地には指定されていないが、建物の建築などに際して遺跡が出て来てしまった場合です。
※文化財保護法では、文化庁長官が必要と認めた場合には建築等の行為を禁止できるルールとなっています。
こうしたケースでは教育委員会への届け出や調査を行う義務者は「買主」となりますが、当然ながら仲介に入った不動産業者や売主の責任が追及されることとなり、実際に「埋蔵文化財を巡る訴訟」は数多く起こされていますので、不動産の売却や購入に際しては十分に注意を払いたいところです。
なお実際の裁判の行方を追ってみれば、埋蔵文化財の存在が瑕疵担保(契約不適合)として認められる可能性は五分五分といったところであり、判決の決め手となるのは「売主が遺跡の存在を知り得たか、否か」という点がポイントとなって来ます。
地形的に素人が見ても「古墳ぽいな~」と感じられる場合には、当然売主に不利な判決が下るでしょうし、地域に残る伝承の有無なども重要な判断材料となるようです。
よって、ガーデニングや家庭菜園などをしている際に、土器の欠片と思われるものが出てきた場合には、売却に当たって十分な注意が必要となって来るでしょう。
また、購入した土地で遺跡が出てきた場合には決して無視して工事を進めることなく、教育委員会への届け出を行った上で、弁護士などの専門家に相談するべきです。
ちなみに、土器などの遺物が出土した場合には、遺失物法の定めに従い1週間以内に警察へ届け出る義務(出土品は遺失物として扱われる)がありますし、遺跡の存在を知りながら工事を進め、これを破壊した場合には文化財保護法197条の規定により20万円以下の罰金に処せられることになります。
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埋蔵文化財包蔵地の売買について解説!まとめ
さてここまで、不動産の取引と埋蔵文化財というテーマで解説を行ってまいりました。
この記事を読まれて「でも私の家には無関係だな・・・」と思われた方も多いことと思いますが、埋蔵文化財包蔵地は意外に数多く存在しておりますし、不動産売買や土地利用に当たっては厄介事の種になる確率が非常に高いですから、是非ご注意いただければと思います。
ではこれにて、「埋蔵文化財包蔵地の売買について解説します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。