私たちが生活を送る上で欠かすことのできない施設となっているのが「道」であり、道路がなければ目的地に辿り着くことはもちろん、自宅の敷地から外に出ることさえできなくなりますよね。
さて、このようなお話をすると『何を当たり前のことを!』と思われるかもしれませんが、現代の日本においても「道路の通行を巡っての紛争」は数限りなく発生していますから決して他人事ではありませんし、これからマイホームや収益物件を購入しようとお考えの方にとっては「道路の通行に係る知識」は絶対に身に付けておくべきものとなるのです。
そこで本日は「私道の通行権について解説いたします!」と題して、道路の通行に関する法律知識の解説を行ってみたいと思います。
通行権とは何か
では早速、通行権に関するご説明を始めて行きたいと思いますが、まずは『通行権』という権利の考え方からお話をしてみましょう。
基本的に道路には、「公道」と「私道」という大別があります。
そして公道は国や県、市などの行政機関が保有・管理を行っていますから、私たちはこれらの道路を自由に行き来することが可能です。(但し、占有するのは禁止されており、これを行うには道路使用承諾などが必要となります)
これに対して民間(個人や法人)が所有し、管理を行っている「私道」は
原則、道路の所有権を持たない人間の利用が禁止された道路
となります。
但し実際に世間を見渡せば、私道にしか面していない土地は無数に存在しており、こうした方々の全てが道路の権利を有しているとは到底思えませんし、
パッと見た目、道路に接続しているとは思えない宅地もたくさんありますから、「そもそも道路に面していない方はどうやって出入りしているのだろう」と不思議に感じてしまいますよね。
そこで登場して来るのが、権利を持っていない者が「私道」や「他人の敷地」を通路として利用することのできる『通行権』という権利になる訳です。
ちなみに、通行権がない道路に面した私道を購入した場合には様々な揉め事に巻き込まれる可能性が出てきますが、私道を巡る紛争の解決方法などについての詳細は、過去記事「不動産の私道トラブルについて考えてみます!」をご参照いただければと思います。
通行権の種類
ここまでの解説にて通行権の考え方については、ある程度ご理解いただけたことと思いますので、本項では具体的に認められている「通行権」の種類についてご説明して行きましょう。
所有権による通行権
ではまず最初に、「最も強い権利」となる所有権から生じる通行権についてご説明して行きましょう。
所有権は民法206条にて規定された権利であり、
「物を全面的支配し、自由に使用・収益・処分できる物権」
となります。
そして、この説明からもわかる通り、所有権は非常に強力な権利となりますから、私道について所有権を有していれば、通行権はもちろん、掘削(穴を掘る)から占有(車を駐車する等)まで、自分勝手に行えることになるでしょう。
但し、私道全体の所有権を1人で所有しているならば問題はありませんが、世間には複数の人間が所有権を持ち合っている私道も無数に存在しています。
なお具体的な所有の形態としては、道路の権利を「持分」にて保有しているケース(共同所有型私道)も多いでしょうし、分筆登記によって道路上の土地を細切れにして、その一部を所有しているパターン(相互持合型私道)もあるはずです。
もちろん「持分」だろうと「細切れ」であろうと、道路の所有権の一部を有している訳ですから、通行権自体は持っていることになりますが、長年生活を続けていると通行以外にも様々な問題が生じる可能性があります。
例えば、自分の家へと続く私道内の配管が壊れて掘削工事を行うことになった場合などには、共有の道路(土地)に手を加えることになる訳ですから、少なくとも他の所有者への「声掛け」くらいはするのが筋道でしょう。
しかしながら、道路が完成してから時間が経過していると、相続などで所有者が変更されており、その者が遠方に住んでいたりするケースも増えて来ますから、なかなか所有者全員に声を掛けることが難しい状況となってくることも珍しくありません。
そこで必要となるのが、所有者全員の同意の上で作成された
「道路管理の約束事(私道利用の協定書)」
となる訳です。
ちなみに近年の不動産取引などにおいては、覚書等の名目にて私道利用の協定書が作成されるのが一般的ですが、昔ながら私道についてはこうした取り決めが行われていないケースもありますので、必ずしも「所有権による通行権があるから盤石」とは限らないのが実情となります。
地役権による通行権
所有権の次に確実な通行権となるのが、地役権と呼ばれる権利です。
地役権の詳細については、別記事「地上権・地役権とは?わかりやすく解説いたします!」にて詳しく解説しておりますが、簡単に言えば
自分の土地を利用するにあたり、他人の土地を利用しなければならない事情がある時に設定できる物権の一種
ということになります。
なお、私道や他人の敷地を通行のための地役権は通行地役権という特別な名称が付けられており、登記も可能な権利となりますから所有権に次いで強力な通行権ということができるでしょう。
ちなみに、地役権の登記を行うのには「土地の所有者(承役地所有者)」と「通行したい者(地役権者)」との間に『地役権を設定する契約』が必要となりますから、この契約を結ぶ際に自動車の通行や掘削についても取り決めを行っておくのが望ましいかと思います。
また、法律上は地役権を主張するために「登記が必要」と書かれていますが、判例を見ると「たとえ登記がされていなくとも、土地所有者が外観上地役権の設定を予測できれば足りる」とされていますから、
無登記でも既に私道が道路として使用されていることが明らかであり、長年実際に利用されている場合には、地役権が認められる可能性が高いでしょう。
但し、私道の権利を第三者が取得した場合には、地役権の主張を行う行うことが困難になる(対抗力が認められない)可能性が高いですから、こうした状況に備えて可能であれば登記はしておくべきです。
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通行の自由権
ここまでご紹介してきた「所有権や地役権による通行権」は『物権』と呼ばれる強い権利だったの対して、ここでご紹介する「通行の自由権」は『人格権』と呼ばれるものを根拠としています。
なお、人格権を正確にご説明するとかなり難解になってしまいますから、「人として当然に有する権利」程度にご理解いただければよろしいのではないでしょうか。
さて、この人格権に由来する「通行の自由権」は、これまでお話しして来た物権と比べて非常に効力の弱いものと言わざるを得ません。
それだけに登記や契約といった要件を備える必要もなく、「私道を通行できないと生活に支障が出る」という事情があれば良いのですが、過去の判例を見れば
建築基準法上の道路に対してのみ認められている通行権
というのが実情です。
ちなみに建築基準法上の道路については、過去記事「不動産の道路調査について解説いたします!」にて詳しく解説していますが、簡単に申し上げれば『建物を建てる際などに建築確認が取得できる道路』ということですから、多くの私道がこれに当てはまることになります。
よって、この種の道路については「通行の自由権」が主張できると考えて差し支えないかと思われますが、弱い権利であるだけに「徒歩は問題ないが、自動車や自転車での通行を認めない」とする判例も多いので注意が必要です。
囲繞地通行権
こちらの権利もまた、「通行の自由権」と並んでそれ程効力の強くない通行権となります。
囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)とは、
周囲を他人の土地に囲まれ、単独では道路に出ることができない土地に対して認められる通行権
のことです。
なお、この権利の根拠となっているのは民法210条~213条であり、「通行の自由権」では不可とされている建築基準法上の道路以外でも通行権が認められているばかりか、現況道路の形態さえ成していない「家と家の隙間」なども対象となります。
さて、このようなお話をすると「そんな都合の良い権利があって良いのか?」という声も聞えて来そうですが、この囲繞地通行権は道路に接していない土地を持つ人間の権利を守る『最後の砦』とも言うべきものとなりますので、非常に柔軟な解釈がなされているのです。
但し、最後の砦だけに贅沢は許されておらず、判例によっては「人が通れるギリギリの幅のみ」しか通路として認定しなかったケースもありますし、たとえ充分な通行スペースが確保できる場合でも自動車の通行などは禁止する判断が下されることも珍しくありません。
更には、道路に接しない土地(囲繞地)を所有する者が新たに道路に接する土地を手に入れた場合には、即座にこの権利が失われるなど、それなりの厳格さを持って運用される権利となっているのです。
賃貸借契約等による通行権
ここまで様々な権利に基づく通行権をご紹介してきましたが、最後にご紹介するのが
賃貸借契約や使用貸借と言った「債権」に基づく通行権
となります。
使用貸借という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、簡単に言えば「無償で行われる貸し借り」のことであり、費用が発生しない分だけ権利としても弱いため、通行権を設定するのであれば賃借権の方が望ましいでしょう。
なお、通行権の賃貸借契約は土地自体を借り上げる訳ではなく、土地を通行させてもらうためだけの権利を設定するのが一般的であり、「私道通行契約」などの名目で契約書を取り交わし、地主に一定の賃料を支払って通行権を確保することになります。
但し、所有権や地役権などの物権に基づく通行権と比べると脆弱な点も多く、「万全の通行権」とは言い難いものがあるでしょう。
通行権を獲得する方法
では最後に、「如何にして通行権を確保するべきか」という点について解説をさせていただきます。
ここまで解説してきた「通行の自由権」や「囲繞地通行権」は一定の条件が揃っていれば、自然と認められる通行権となりますが、それだけに権利として「脆弱」な面があるのも確かです。
そして、地主が異議を唱えて裁判になった場合には通行権が認められない可能性もありますし、不動産を売却する場合には「通行の自由権」や「囲繞地通行権」では買い手が付かない可能性が高いでしょう。
そこで、まず行うべきは私道の所有者に対して
- 所有権を購入させてもらう
- 地役権を設定させてもらう
以上のどちらかをお願いしてみることです。
所有権の購入というと煩雑な手続きが必要な気がしてきますが、私道の持ち主に「土地所有権の持ち分」を少し譲ってもらうのであれば、費用も安価で済むはずです。
もちろん、道路持ち分の所有権移転を一般の方が行うのは厳しいでしょうから、お付き合いのある不動産業者にしっかりと費用を支払って依頼を行えば
- 所有者との価格の交渉
- 売買契約の締結
- 所有権移転登記
- 掘削承諾等の覚書の取り交し(通行権以外の権利の確保)
と言った必要な手続き行ってくれるはずです。
なお、私道の所有権を複数の方が保有している場合には、その内の誰か一人から、僅かな持ち分(持ち分の割合に制限なし)を購入するだけで所有権を取得することができますが、他の所有者からの異議申し立てを防ぐため、所有者全員から念のため「私道の通行や掘削を認める覚書」を取得しておくべきでしょう。
また、地役権を設定する場合には
- 私道所有者への地役権設定費用の支払い(無償でも法的な問題はなし)
- 地役権設定契約の締結
- 地役権の登記(法的に登記は不要だが、第三者へ対抗できない)
- 月々の地代の支払い(無償でも法的な問題はなし)
以上のような手続きが必要な上、「土地所有者が複数の場合」には更に煩雑な手続きが追加されることになりますので、所有権を取得してしまった方がスムーズかもしれません。
一方、私道の持ち主から「所有権の譲渡」や「地役権の設定」を拒否されてしまった場合には、通行権を賃貸借契約(債権)によって確保するしかありません。
但し、既にお話しした通り「所有権や地役権などの物権」に比べて、債権である賃借権はその権利が弱いですから、契約書の内容を充分に精査した上で契約を締結するべきでしょう。
また契約締結後は地代をしっかりと納め続け、契約の更新になどに当たっては「所有権の買取り」や「地役権の設定」を根気強くお願いしていくことが重要です。
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私道の通行権について解説まとめ
さてここまで、日本の法律で認められている通行権についてまとめてみました。
複数ある通行権のそれぞれに利点と問題点、そして効力の強弱があるものですが、これから不動産を購入するのであれば少なくとも、私道の「所有権(僅かな持分でも構わない)」か「地役権」を有している物件を選ぶべきでしょう。
ちなみに僅かな持分であれば、それなりの対価さえ払えば売ってくれる地主さんも多いはずですから、諦めずに交渉を続けてみてください。
一方、通行の自由権・囲繞地通行権による権利では、不動産を売却するにも評価が非常に低い上、買い手が付き辛いのは確実ですから、資産を受け継ぐ方のためにも通行権の強化を図る努力(持分を購入したり、地役権設定の交渉を行うなど)をしておくべきです。
ではこれにて、「私道の通行権について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。