賃貸・売買の別を問わず、発生すると非常に厄介なことになるのが漏水の被害となります。
漏れ出した水は床をグシャグシャに濡らした上、下階へ降り注ぐことになりますから、これは最早「最悪の住宅トラブルの一つ」と言っても過言ではありませんが、その発生場所が分譲マンションの一室であった場合には、実に様々な問題を引き起こすことになるのです。
そこで本日は「分譲マンション水漏れトラブルについて解説いたします!」と題して、区分所有物件での漏水事故における法律的な問題や対処法などについて、体験記を交えながらお話ししていきます。
分譲マンションの水漏れトラブルについて
ではまず最初に、分譲マンションで漏水が発生した際の法律上の問題点や対処方法、そしてトラブル発生に備えて加入しておくべき保険などについてお話ししてまいりましょう。
分譲マンション水漏れの法律問題
さて、一口に漏水事故と言っても、
- 上階住人の過失等によって生じた漏水
- 配管の老朽化等によって生じた漏水
以上の2つのパターンが考えられます。
また、分譲マンションにおいては原則として
- お部屋の内側(専有部分)/区分所有者が責任を負う部分
- 廊下など部屋以外の部分(共用部分)/管理組合が責任を負う部分
となっていますから、
- 上階住人の過失等による漏水 → 上階住人の責任
- 共用部分での配管老朽化等の漏水 → 管理組合の責任
- 専有部分での配管老朽化等の漏水 → 上階住人の責任
というように、漏水の原因や発生個所によって「誰が責任を負うべきか」が変わって来るのです。
なお、責任を負うべき者となった場合には
- 漏水の原因となった配管の修繕
- 下階住人への損害賠償(天井や壁の修繕費用、家財道具の弁償)
- 下階が店舗などの場合は営業補償
などを行わねばなりません。
そして、ここで最も問題となるのが『何処からが専有部分であり、何処からが共用部分であるか』という点になります。
ちなみに一般論としては、
- 床下も含めた部屋の内部/専有部分
- 部屋の外側/共用部分
- パイプスペース/共用部分
という解釈にはなっているものの、各マンションの管理規約において
- パイプスペース内であっても、水道メーターより室内側の水道配管/専有部分
- 室内の床下/共用部分
以上のような独自のルールが定められているケースも多いので、まずは自分のマンションの規約を確認してみることが重要です。
ちなみに、漏水箇所が
スラブの内部(コンクリートの壁や床の中)に設置された配管であり、点検やメンテナンスが不能な状態にある場合には、これを共用部分と認定した判例があります
ので、類似のケースにおいては規約の定めに係わらず、管理組合と交渉をしてみる価値はあるかもしれません。
水漏れトラブルの対処の流れ
では続いて、分譲マンションで漏水が発生した場合の対処方法について解説してまいりましょう。
なお、今回は自分の部屋から漏水が発生した「加害者の立場」から、その流れを見て行くことにいたします。
- 被害状況の確認と応急対応
- 管理会社・管理組合への連絡
- 漏水箇所の調査、修繕工事
- 事後処理
さて、自分の部屋から漏水が発生した場合には、下階の住人からの連絡により事故の発生を知らされるケースが殆どとなるでしょうが、こうした状況においては「下階に赴いて被害状況の確認を行う」ことから事故の対応がスタートします。
そして、漏水現場に到着したなら
- 部屋のどこから、どれくらいの水が漏れているかの確認
- 漏れている水の色や臭いの確認
- 両隣や、更に下階の部屋などへ被害が拡大していないかの確認
- 漏水被害の状況を画像や動画の記録
などを行うことになります。
また、漏れている水の様子から「上水(水道)が原因であるようなら、水道メーターの元栓を閉じる」、「下水であるようなら排水を停止する」などの応急対応をした上で、「下階の家財を安全な場所へ移動する」などの処置を行いましょう。
こうして状況確認と応急対応を終えたなら、続いては管理会社や管理組合へ連絡を入れて『修繕を依頼する業者を誰が手配するか』などについて協議することになります。
工事業者の選定が完了すれば「漏水箇所の調査」と「修繕工事」が行われることになりますが、床下で漏水が発生している場合などには、
漏水箇所を突き止めて修繕するのではなく、別ルートの配管を新設する
という対応が講じられることも珍しくありません。
但し、こうしたケースでは漏水箇所の特定ができないため、「漏水箇所が専有部分であるか、共用部分あるかの判断が微妙である」という場合には、責任の所在を明確にするために『後日調査目的の工事が行われる』ことも少なくないのです。
ちなみに漏水箇所が明らかになり、これが専有部分であった場合には、「工事費用の支払い」や「被害が及んだ部屋への補償」などの事後処理を進めていくことになります。
分譲マンション水漏れトラブルと保険
ここまでお話ししてきた通り、分譲マンションで漏水が発生した場合には、実に様々な問題が発生するものですが、こうした状況で非常に心強い味方となるのが「保険」となります。
なお漏水の原因が専有部分にあり、上階の住人が加害者となったしまった場合には
- 自分の部屋の被害/火災保険における「水濡れ特約」
- 下階の部屋への賠償/火災保険における「個人賠償特約」
などによって保険金の支払いを受けることが可能となりますので、保険加入時には「こうした特約が組み込まれているか」をしっかりと確認しておくべきでしょう。
但し、配管自体の修理費用や調査費用については自己負担となるのが通常ですし、個人賠償についても「時価」でしか補償が行われないため、自腹で不足分を支払うことになるケースも多いようです。
※例えば、漏水により下階住人が所有する「数年前の購入当時に20万円だったパソコン」が壊れても、『時価である10万円』しか保険金が出ないというのが通常です。(ご近所なので非常に気まずい)
一方、共有部分から漏水が発生した場合には管理組合が加入する「施設賠償保険」によって、被害者は補償を受けることができますが、こちらについても個人賠償のケースと同様に『時価でしか保険金が支払われない』のが通常ですから、自分が被害者なった場合に備える保険に加入しておくことが重要となるのです。
分譲マンション漏水トラブルの体験記をお届け
ではここからは、私が実際に体験した分譲マンション漏水トラブルの体験記をお届けしてみたいと思います。
水漏れトラブル発生
私がこのトラブルに直面したのは、以前からお付き合いのあるお客様から「投資用にファミリータイプの分譲マンションを購入したい」とのご依頼を頂いたのが、その切っ掛けでした。
なお、「分譲マンションの一室を購入して、これを賃貸することで収益を上げるという手法」は非常にポピュラーなものとなりますが、その対象がファミリータイプとなると、これは少々物件探しに苦労させられることになります。
そもそも、既に賃貸済み(賃借人入居済み)の「ファミリータイプのオーナーチェンジ物件」が市場に出回ることは稀ですし、空室となっている場合にはマイホーム用としての価格設定となっているため、お客様が満足する利回りが確保できる物件を探すとなると、これはかなりしんどい作業となる訳です。
*過去記事「分譲マンションのオーナーチェンジ賃貸物件で収益を上げる方法を解説いたします!」においてはこうした物件を利用した投資法をご紹介いたしましたが、この記事の頃には前述の投資法が広く知られるようになっており、物件の入手が困難になっていました。
そして「これはかなり時間が掛かりそうだ・・・」などと考えていたのですが、この時はどういう訳か、知り合いの不動産業者からサクッと条件に見合う物件情報が入ってきたのです。
ちなみに物件のスペックは、築25年の30世帯が住まう分譲マンションの一室で、専有部分の面積は50㎡程というものになります。
ファミリータイプの物件としてはやや面積は小さいですが、相続絡みでの売却であり、とにかく素早く現金化したいというのが条件でした。
その点、私のお客様は投資目的ということで融資なしでの購入が可能でしたから、売却を急ぐ売主にはピッタリのお相手となり、あっさりとお話が進んで行くことになります。
『今回は何だかツイているな・・・』、心の中でそうつぶやきながら粛々と契約・決済へと取引は進んで行きました。
こうして無事に引渡しも完了し、後はのんびりと買主が賃料収入を得た上で賃借人が退去したら、マイホーム物件として転売して売却益を得るという寸法です。
しかしながら、世の中そう簡単に儲け話は転がっていないもので、引き渡し後の僅か3ヶ月で入居者は退去してしまった上、その室内は正にボロボロの状態となっており、これでは転売したとしても売買価格はかなり減額されてしまうはずです。
そうなれば当初に見込んでいた利益を上げることは困難となりますので、「ここは最低限のリフォームを行い、再び賃借人を入れて賃料収入を得た後に退去のタイミングで再び転売する」というのがオーナー様のご判断でした。
そこで急遽、新規募集に備えて私が手配した業者がリフォーム工事をスタートすることになります。
また以前、分譲マンションのリフォームにおいて「管理組合への工事申請」をせずにトラブルとなったこともありましたので、今回はこちらもキッチリと済ませてから工事に着手しましたので、これで問題はないはずです。
ところが、悪いことは不思議と重なるものでリフォーム工事も終盤に差し掛かったところ、施工業者から緊急連絡が入ります。
業者の話によれば、朝現場に来てみたところ玄関に昨日までは無かった水たまりが出現していたというのです。
慌てて現場に急行して状況の確認を行いますが、水の出所はどうやら天井である様子なので、上階のお部屋が漏水の原因である可能性が濃厚です。
よって、まずはオーナー様にご連絡をして状況をご報告し、許可を頂いた上で上階の方に声を掛けてみます。
なお本来であればここで原因が究明され、水の回った下階の壁紙などの修理費用を上階の所有者に頂ければ「問題は無事に解決」なのですが、今回はそう単純に事は運びませんでした。
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解決編
さて、上階の住人は50代後半と見受けられる男性でしたが、なかなか性格にクセもありそうな雰囲気の人物です。
ただ、ここまで来て引き下がる訳にも行きませんので、事情を話して洗濯機の排水パイプの外れや、水をこぼした覚えがないかを確認してみますが、「全く身に覚えがない」とおっしゃいます。
そこで仕方がなく、下の階のリフォームを行っている業者に「原因の究明」を依頼することにしました。
ちなみに床下などを走る配管に亀裂が生じている場合には、フローリングを剥ぐ等の大掛かりな作業が必要となりますが、今回の件は水が漏れている位置から見ても廊下にあるPS(パイプスペース)の水道メーター廻りに原因がありそうです。(漏れ出している水の様子から見て、原因は上水道であることに間違いはなさそうです)
そして実際にPS内部の水道メーター周りを確認してみれば、確かに露出している配管の表面が湿っている上に水滴も付着しており、この水が少しずつ流れ落ちて下の階の玄関付近に水を降らせているのは間違いないでしょう。
『さて、これからどうするか・・・』と考えていたところに、上階の入居者が呼び出した管理組合の理事長が登場します。
なお、上階の入居者の言い分としては「水道メーターよりも廊下側からの水漏れなら、そこは共有部分なので管理組合の責任であり、メーターより部屋側なら自分の責任となるので、水漏れの箇所がはっきりするまでは補修費用は払えない」と言うのです。
そこで管理組合の理事長はマンションの管理会社に連絡し、専属の水道屋さんを手配しますが、「見えている範囲に配管の亀裂等は見当たらない」と言います。
よって恐らくは「廊下側か部屋側、どちらかのコンクリートの壁に埋もれた部分の水道管で漏水が発生し、配管の表面を伝わって水が流れているのではないか」との予想です。
つまり、この状況が意味することは「壁を壊してみない限り、共用部分での水漏れなのか、専有部分からの水漏れなのかはわからない」ということになります。
ちなみに、この期に及んでも上階の住人は「はっきりするまで修理費用は負担しない」の一点張りですし、理事長は「おろおろ」するばかりです。
ところで通常、こうした見えない部分で水漏れが発生して場合には原因究明に費用を掛けず、他の箇所から水道管を分岐して直接室内の配管と接続し、古い配管はそのままにしておくのが定石となります。
そこで私は「まずはこの配管ルート変更の工事を行った上で、後からどちらの費用負担にするか話し合うべきなのでは?」との提案をしてみました。
すると幸いなことに、この提案はあっさりと受け入れられ、とりあえずは漏水を止めることに成功します。
下階の内装についてもリフォーム業者にやり直してもらいましたので、後は上階のオヤジと管理組合の話し合いが決着してから、責任を負う方に費用を請求するだけです。
こうして今回の漏水事件は無事に解決されましたが、「分譲マンションの漏水事故はなかなか面倒なものである」ことを痛感させられました。
ちなみに、後に聞いた話では結局壁を解体しても漏水の原因は判明せず(ピンホールと呼ばれる非常に小さな穴の場合もある)、オヤジが無理やり管理組合に工事費用を負担させることで、事態は解決したようです。
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分譲マンション水漏れトラブルについて解説まとめ
さてここまで、分譲マンションの漏水トラブルをテーマに解説を行ってまいりました。
今や分譲マンションは我が国の住宅事情を語る上で、欠かせない物件となっていますが、その特異な権利形態故に今回お話ししたようなトラブルが発生することもありますので、是非ご注意いただければ幸いです。
また、築年数の古いマンションがリノベーション物件として流通するケースも増えていますが、こうした物件を購入する際には『床下などの目に見えない配管を更新工事を行っているか』という点については必ず確認をしておくべきでしょう。
ではこれにて、「分譲マンション水漏れトラブルについて解説いたします」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。