土日や休日などに、時折街中で目にするのが「現地販売会」なるイベントとなります。

不動産業界では「売出し」や「オープンハウス」などとも呼ばれるこれらの催しは、読んで字の如く『不動産業者が現地に出向いて開催する物件の販売促進用のイベント』となりますが、一般の方やこれから業界に飛び込もうとお考えの方にとって、その舞台裏などについては正に未知の世界であるはずです。

そこで本日は「新築一戸建ての現地販売会の舞台裏をレポートいたします!」と題して、私が初めて経験した売出し(オープンハウス)の模様を体験記風にお届けしたいと思います!

※現地販売会の成功の秘訣については、別記事「現地販売会のコツについて」にて解説を行っております。

現地販売会開催

 

現地販売会開催の決意と準備

管理人が初めて現地販売会を経験したのは、現在の会社にて売買部門へ配属となり、最初の仲介取引を終えた直後のことでした。

初の売買契約は、まだ右も左も判らないド素人状態であったにも係らず、ラッキーパンチ的に契約を取ることができたのですが、その後は1ヵ月以上も成約なしという厳しい状況に立たされていたのです。

当然のことながら、これでは給料が増える訳もありませんし、時折向けられる「社長の視線」が胸に突き刺さるような錯覚に襲われ始めます。

このままでは影で「給料泥棒」と言われてしまう!

そんな危機感を持ち始めた私は、先輩社員たちが行っている現地販売会なるものを、自分でも開催する決意をします。

但し、物件がなくては販売会が開催できる訳もありませんので、まずは知り合いの建売屋さんをしらみ潰しに当たって行くことにしました。

早速、「売出しさせてくれる現場ありませんか?」と尋ねて回りますが、その反応は今ひとつ。

実は建売屋さんが現地販売会を許可する業者には一定の序列があり、まずは「建売用地を買わせてくれた(卸してくれた)仲介業者」、そして次が「親しいお付き合いのある業者」、これらの業者が販売会を行っても買い手が付かない物件については「知らない業者」に任せてみるといった感じです。

私としては、声を掛けた業者さんとは「親しいお付き合いをしている」つもりだったのですが、一度取引をしたくらいでは、未だ「知らない業者」扱いなのでしょう。

そうとなれば「一度でも名刺交換をしたことがある」程度の業者さんにまで枠を広げて、売れ残り物件を漁るしかありません。

但し、こうした物件は既に販売会をやり尽くされているため、成約するのは非常に困難ですし、たとえ費用を掛けて広告を打っても「来場者なし」なんてことも覚悟しなければなりませんが、事務所で暇しているよりは遥かにマシなはずです。

そして手当り次第に電話を掛け続けていたところ、遂に5棟現場の最後の売れ残りで、間もなく完成後1年を迎えようという物件にて、販売会の許可を頂くことができました。

そこで早速、下見へと行ってみたのですが、16坪程の土地に建てられた3階建ての物件は、建物自体に問題はないものの、とにかく日当たりの悪さが弱点となっているようです。

それでも、これでようやく現地販売会の準備に取り掛かることができます。

ここまでの記事をお読みいただき、『現地販売会に準備なんてあるの?』というお考えの方もおられるかもしれませんが、実は意外にやることはあるものです。

実はこれまでにも何度か、先輩の現地販売会のお手伝いをさせられた経験がありましたので、過去の記憶を頼りに早速準備を始めます。

まずは、売出し現場に少しでも人を呼び込むためにチラシ(広告)作りをしなければなりません。

そこで「なけなしのアートセンス」をフルに活かしてチラシを作成してみたのですが、完成品を見た先輩から「このチラシ、違反だよ」との冷静なツッコミを受けてしまいます。

この頃の私は全く知らなかったのですが、実は不動産の広告には様々な制約が存在しており、

土地の面積や建物の床面積、セットバック部分の面積に用途地域など、「必ず記載しなけらばならない事項」が多数存在していることに加え、『スーパー目の前』『爆安』などの「根拠のない売り文句はNGである」等、かなり細かいルールがあるのです。

相当な時間を掛けて作成した広告原案だっただけに、非常に納得できない気持ちではありましたが、止む無く完成したチラシは破棄することにして、事務所にあった広告マニュアルを頼りにチラシを作り直し、ここから印刷作業に入ります。

不動産会社によっては、外注の広告業者に印刷から配布まで任せるところもあるようですが、我が社の場合は事務所に印刷機があるため、自分でチラシを刷らなければなりません。(会社の経済的な事情も大きく影響しているかと思いますが)

ちなみにこの時は5000枚のチラシを新聞折り込みに入れるつもりでしたので、夜を徹して印刷を続け、これが完了したら配布業者に連絡を入れて、チラシの集荷と配布を依頼するのです。

そして次の作業は、新聞折り込み用とは別に擦っておいたチラシを、物件周辺のアパートや賃貸マンションへ直接ポスティングする作業となります。

アパート等の賃貸物件の住人は新聞を取っていない方も多いですし、これから売買のお客となってくれる可能性が高いですから、この作業にはかなりの効果が期待できるはずです。

但し、このポスティング作業はなかなかに大変なもの。

1000枚のチラシを撒くだけでも何時間も掛かりますし、投函禁止と警告のあるマンションなどでは管理人に咎められ、最悪の場合には不法侵入の罪に問われる可能性もありますから、この点は大いに注意が必要です。

そしてどうにかポスティングのノルマを終え、この日の作業がようやく終了。

また翌日は、売出し物件周辺で販売されている競合物件をチェックし上、これらの物件に対するご案内の手順も確認しておきます。

なおこれは、販売会に来場されたお客様が売出し対象物件を気に入らず、「他の物件が見たい」と言い出した時に、スムーズにご紹介とご案内ができるようにするための準備です。

更に、来場者に連絡先などを書いてもらうための「お客様カード」に、銀行融資のシュミレーションを現地で行うための「ローンチェックシート」の用意、そしてペンや計算機、ガムテープなど「現地販売会に持ち込む備品」を全て揃えて、事前の準備は終了となります。

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現地販売のスタート

そしていよいよ、販売会当日の朝を迎えます。

販売会は土曜・日曜の二日間、朝10時から夕方18時までの予定です。

また、この日は7月もそろそろ終わりの時期でしたので、気温は30℃を軽く超える予報となっていましたから、なかなかハードな売出しとなることが予想されます。

眠い目を擦りながら8時前には会社へ行き、営業車に機材を積み込みんだら、現地に向かって出発。

現場に着いたら、まずはチラシを見て物件に向かう来場者のために、矢印の掛かれた看板を電柱などに貼って行くのですが、これは十数年前のお話であり、今ではこうした行為には厳しい罰則が科せられますのでご注意ください。

実は当時も合法的という訳ではなかったようなのですが、貼っている現場を警察官に見られない限りは「お咎めなし」というのが通常でした。

ちなみに看板が禁止された後は、「道路に矢印の描かれたカラーコーンを置いて、来場者を誘導する」などの手段も用いられましたが、これも今では取締りの対象となっています。

なお現在、現地販売会を行う場合には物件に向かう途中のお宅に謝礼を支払って、ブロック塀などに看板を貼らせてもらっています。

さて、こうして誘導看板の設置を終えたなら、次はいよいよ物件のセッティングです。

閉じられた雨戸を全て空け、玄関前の空きスペースにキャンプ用の折りたたみテーブルを設置。

次は会社の備品である販売会用の旗を組み立てて行きます。

「売出し中」「現地販売会開催中」などと書かれた旗数本が組立終わったら、テーブルやブロック塀などに固定して準備は完了です。

最後に電卓に来場者カードなどをテーブルに並べて、後はお客様の来場を待つのみとなります。

現地販売会の一日

さて販売会用のセッティングが完了すれば、後はお客様が来場するまでひたすら「待ちの時間」が続きます。

この待ち時間のスタイルには、「会社ごとの方針の差」が如実にあらわれるのですが、私の会社では「お客様が来るまで、外で待ち続ける」のがルールです。

会社によっては「車の中でエアコンを掛けて待つ」というスタイルもあるようですが、自動車のアイドリング音は近隣の迷惑となりますし、お客様がご来場された際に『無人のように見えてしまう可能性』もあるため、我が社では「禁止」となっていました。

しかしながら、季節は7月末の「真夏」。

最初の一時間くらいはどうにか耐えられましたが、徐々に汗が止まらなくなって来ます。

そして5000枚もの新聞折り込みチラシを入れたのにも係らず、開始2時間が経過しても、誰一人お客は現れません。

『・・・・帰りたい』、早くもそんなことを考え始めた矢先、突然声が掛かります。

声の主を見ると、ちょっとラフな格好をされた「おばさん」が歩み寄って来ました。

「いらっしゃいませ!」と、汗ドロドロの顔で笑顔を浮かべてみますが、何故かおばさんは「憤怒の形相」です。

おばさん「あんた、あたし隣の家の者だけど、工事めちゃくちゃ五月蠅かったわよ!ノイローゼになったらどうしてくれるのよ!」

どうやら、建築工事の際のクレームが今頃になって噴出してきたご様子です。

管理人「あっ、私は販売要員でして、建築した会社さんとは別の会社の者なんですよ・・・」

しかしおばさんのテンションは下がらず、「あんたに言っても仕方ないけど・・・」と前置きしながら、激しく文句を垂れ続けます。

『完成後一年近く経っても、まだ苦情が来るって一体どんな工事してたんだよ』と心の中で毒づきながら、心を「空(くう)」にして話を聞いている内に、おばさんの気も晴れたらしく、最後には「頑張ってね」と何故か勇気付けられ、また一人の時間が始まります。

蝉の声しか聞こえない状況が続く中、『このまま待っていても仕方がない』と考え、前を通り掛かる人々に徹底的な声掛け作戦を開始することにしました。

もちろん、どんなに大きな声で呼びかけても殆どの方が無視ですが、時折「買う気はないんだけど」と前置きしながら、中を見て下さる方もおられました。

そして気が付くと、既に午後2時を過ぎていましたので、近所のコンビニでトイレを済ませ、お弁当を買って現場で頂きます。

※現地販売会では、当然ながら物件のトイレの使用は厳禁となります。

昼食を済ませた後、『また無為な時間が流れるのか・・・』と覚悟していたところ、初めてまともなお客さんにご来場を頂くことができました。

お客様は小さなお子さん3人を連れた若いご夫婦で、手には私が撒いたチラシを持っておられ、これが非常に嬉しかったのを今でも覚えています。

そこで早速、室内を案内しますが「やっぱり暗いね~」と出だしから残念なお言葉を頂き、それ程盛り上がることもなく内覧は終了。

実はこの物件、いまいち日当たりが悪いという弱点であり、それが売れ残ってしまった要因であることは明らかでした。

但し、実際に室内を見てみると、それ程日が差さない訳でもないのですが、何故か非常に「暗い印象」を受けるという不思議な物件だったのです。

家路に着こうするご夫婦を引き留め、近隣の物件をおすすめしてみますが、周囲の建売は既にチェック済みとのことでしたので「新しい物件が出たら紹介します」とお約束し、来場カードにお名前・連絡先等を頂きました。

なお、その後は全くお客が現れず、この日の売出しは終了となってしまいます。

後片付けを行い、売主の不動産屋さんに来場者数や、近所の方からクレームがあったことを報告したら、明日に備えて撤収です。

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その後の売出しの模様

翌日の日曜日も、朝から現場に貼り付いていましたが、お客様カードを書いてくれたのは一組のお客様のみ。

もの凄く太ったご夫婦で、名刺を渡しているのにも係らず、私のことを「不動産屋!」と上から目線で呼び付けては、的外れな質問ばかりをぶつけて来ます。

他の不動産屋さんからも物件の紹介を受けている様子でしたし、やたらと態度が悪い方々なので、かなり「ぶっきらぼうな対応」をしてやったのですが、お客様カードだけはしっかり記入して帰って行きました。

そこでカードの内容を見てみると、年収もなかなかのものであり、お客様としては申し分はなさそうですが、成約の見込みは薄そうなので、その後も特に物件の紹介はせずに放置することにします。

そして結局2日間の売り出しを終えて、名簿にすることができた(今後もお付き合いをしていくお客様のリストに加えることができた)のは1組のみという結果です。(若いお子様連れのご夫婦のみ)

しかしここで売出しを止める訳にもいきませんから、もう1ヶ月ほど販売会の期間を延長してもらい、その時間を利用して「他の売出し現場をゲットする作戦」を展開することにしました。

なお、翌週は1組、翌々週は2組といまいちの状況が続きますが、その間に『次の販売会物件』も確保できましたので、後は消化試合という雰囲気で最終日の売出しに臨みます。

最終日の恐怖体験

そして最終日の売出しも特に成果がないまま夕方を迎え、撤収準備を開始します。

当然、戸締り等は売出し業者の責任となりますので、雨戸を閉めたり、窓の施錠は万全に行わなければなりません。

しかしこの日、私は大きなミスをしてしまいます。

これまで撤収の際には三階から雨戸を閉めて行き、最後に一階の雨戸を下すのが常でした。

その理由は、ずばり怖いからです。

実はこの不思議と薄暗い建売物件では、売出し期間中に色々と奇妙な現象が起きていたのです。

とは言え、勝手にインターフォンが鳴ったのが一回、消したはずの電気が点いていたのが一回ですから、イタズラや勘違いで処理できるレベルなのは間違いありません。

ただ、撤収の際に一階から雨戸を閉めて行った場合には、真っ暗闇の中を三階から一階の玄関まで歩くことになりますから、流石にこの物件でそんな肝試し的な行為は避けたかったのです。

ところがこの日は、何故か一階から施錠を開始してしまい、自分の間違いに気付いたのは、三階の最後の雨戸を閉める時でした。

しかし、ここから全ての窓を開け、改めて三階から雨戸を閉めて行くのはあまりにも面倒です。

そこで覚悟を決め、携帯電話の明かりを頼りに一階を目指すことにしました。

完全に暗闇に沈んだ物件内部は、これまで感じたことのない嫌~な雰囲気と凄味を漂わせており、鼓動のリズムが急上昇していくのが判ります。

そしてようやく階段を降り切り、玄関に向かって歩き出した時、背後から濃厚な気配が迫って来るのを感じました。

「ここで振り返ってはいけない・・・」、本能的にそう感じた私は脇目も振らず玄関を目指し、無事に屋外へと続く扉を開けることに成功します。

胸を撫で下ろし、ドアを閉めようとした時、廊下の突き当たりにある浴室に「女」が立っているのを見てしまいました。

ドアが閉まる一瞬のことなので詳細は判りませんが、顔も体も薄い墨汁で描いたような「ぼやけた印象の女」がこちらを向いて佇んでいたのです。

「女!女!女!」心の中で連呼しながら、足早に車に乗り込み、コンビニで塩を購入し、車や身体にこれでもかと振り掛けて家路に着きます。

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現地販売会の終了

それ以来、私は二度とその物件に足を踏み入れることはせず、売主の不動産業者さんにお礼を述べた後、他の現場で改めて現地販売会を開始することになりました。

また新しい現場では、難なく契約を取ることができましたから、会社での居辛さも解消され、私の中であの恐怖は徐々に薄れていったのです。

そして、ちょっとした油断から極力近付かないようにしていた例の物件の前を車で通過するハメになってしまいます。

徐々に近づいて来る物件を目前に「嫌だな・・・」と思いながらも、ついつい玄関に視線を移すと、玄関前に以前販売会でお会いした『上から目線の巨漢夫婦』が立っている光景を目撃。

あぁ・・・この人たち、結局別の不動産屋さんであの物件を買ったのね・・・。

「4LDK、床暖房、食洗機、怨霊付きの新築」を。

後に調べたのですが、物件が建っていた土地に曰くなどは一切なく、以前は古い木造アパートが建っていただけだそうです。

不動産屋さんをしていると、時折こういうことがあるのですよね。えぇ。

今回は後半から少々オカルト的になってしまいましたが、これにて「新築一戸建ての現地販売会の舞台裏をレポートいたします!」の体験記を閉じさせていただきたいと思います。

ではまたの機会にお会いしましょう。