近年、私たちの生活に深刻な被害を及ぼしているのが、洪水や高波などの「水害」です。

そして、こうした状況受けて注目を集めているのが『自治体発行のハザードマップ』となりますが、この地図に大きな係わりを持っているのが「水防法」と呼ばれる法律となります。

そこで本日は「水防法とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、水防法の概要や洪水浸水想定区域における不動産売買の注意点などについてお話ししてまいりましょう。

水防法とは?わかりやすく

 

水防法の概要

水防法は1949年(昭和24年)に施行された、

洪水や雨水出水(内水)、高潮などの「水害の被害」を軽減することを目的とした法律

となります。

『水防(すいぼう)』という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、「水災から街を防御する」という意味となるでしょう。

そして、この水防法においては

  • 水防組織/水防に関しては原則として市町村が責任を負い、都道府県知事が水防計画を定めるなどの「水防組織」のルール
  • 水防活動/河川等の巡視や洪水予報の発表(ハザードマップの発行を含む)、浸水想定区域や浸水被害軽減地区の指定などの「水防活動」に関するルール
  • 費用の負担及び補助/水防に関する都道府県や水防管理団体の費用負担に関するルール

などが定められています。

なお、私たちの生活に直接係わってくるのは「ハザードマップの作製」や「危険区域の指定」といった部分になるかと思いますので、以下で詳しくご説明してまいりましょう。

水防法で指定される区域

さて、水防法においては「水害の被害を受ける可能性のある地域」や「災害への備えを行う上で重要なエリア」について『区域指定』を行うことができるルールとなっています。

そこで以下では、水防法による区域指定について解説してまいります。

浸水想定区域

浸水想定区域は大雨が降った際に発生する浸水被害の状況を予測し、被害のレベルごとに区域の指定を行ったものとなります。

なお、浸水想定区域には

  • 洪水浸水想定区域(降雨による被害想定)
  • 内水浸水想定区域(下水などの氾濫による被害想定)
  • 高潮浸水想定区域(高潮【台風などの高波】による被害想定)

以上の3種類があり、それぞれにハザードマップが作成されることになります。

ちなみに「洪水浸水想定区域」については、国土交通省及び都道府県が指定する

  • 洪水予報河川/流域面積が大きく、洪水により重大または相当な損害を生ずるおそれがある河川
  • 水位周知河川/洪水予報河川以外で、流域面積が小さく洪水予報を行う時間的余裕がない河川

以上の2つ河川を対象とし、「想定し得る最大規模の降雨」によりその河川が氾濫した場合に浸水が予測される区域となります。

*「想定し得る最大規模の降雨」とは1000年に1回程度の割合で発生する降雨量となります。

そして、この洪水浸水想定区域においては

  • 0~0.5m/床下浸水(大人の膝までつかる)
  • 0.5~1.0m/床上浸水(大人の腰までつかる)
  • 1.0~2.0m/1階の軒下まで浸水する
  • 2.0~5.0m/2階の軒下まで浸水する
  • 5.0m~/2階の屋根以上が浸水する

といった具合に、地域ごとの浸水レベルが表示されることになります。

浸水被害軽減地区

浸水被害軽減地区とは、浸水被害を抑制・軽減する効果が期待できる区域として、水防管理者が指定するエリアです。

なお、このエリアが指定されるのは

  • 洪水浸水想定区域の区域内
  • 帯状の盛土構造物(堤防など)がある区域

となっています。

そして、浸水被害軽減地区においては、

土地の掘削、盛土などの開発行為を行う場合、工事着手の30日前までに水防管理者への届出が義務付けられる

こととなり、水防管理者は必要に応じた助言や勧告を行うことができるルールとなっています。

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家屋倒壊等氾濫想定区域

こちらの家屋倒壊等氾濫想定区域は水防法に定められたものではありませんが、浸水想定区域と共に必ずハザードマップに記載される危険区域となります。

この指定を受けた区域は、豪雨によって堤防が決壊した場合などに建物の倒壊や流出が発生する可能性が高いエリアとなりますから、災害発生時にいち早く非難する必要があるでしょう。

また、一口に家屋倒壊等氾濫想定区域と言っても、

  • 氾濫流/堤防の決壊など、直接的な洪水の被害で建物等が倒壊する
  • 河岸侵食/洪水により河岸(地盤)が削られることで建物等が倒壊する

という2つのパターンがありますので、対象地域に住まう方はその違いをしっかりと把握しておく必要があります。

なお、この家屋倒壊等氾濫想定区域は2015年(平成27年)の関東、東北豪雨をきっかけに区域指定が始まった新しい制度となりますので、しばらくハザードマップを見ていないという方は是非一度ご確認いただきたいところです。

都市洪水想定区域、都市浸水想定区域

こちらも水防法による指定区域ではありませんが、「浸水想定区域」と非常に良く似た名称であるため、念のためここで触れておきます。

都市洪水想定区域および都市浸水想定区域は、「浸水想定区域」と同様に洪水等による被害を最小限に止め、災害の危険性を周知するために定められるエリアとなりますが、この2つの区域は『特定都市河川浸水被害対策法』という水防法とは別の法律を根拠に指定されるエリアとなります。

なお、この2つの区域は

  • 都市洪水想定区域/河川の氾濫による洪水被害が対象
  • 都市浸水想定区域/内水による浸水被害が対象

以上のように「想定される被害の違い」によって使い分けられています。

また、特定都市河川浸水被害対策法においては一定の条件を備えた河川を「特定都市河川」に定めた上で、都市洪水想定区域等の区域指定を行いますが、対象の河川が「既に水防法において洪水予報河川や水位周知河川に指定されている場合」には、重ねて指定を行わないルールになっています。

水防法と不動産取引

ここまで水防法の概要や、これに係わる区域指定について解説を行ってまいりましたが、水防法は不動産取引にどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか。

売買や賃貸などの不動産取引に際して不動産業者が仲介を行う場合には、契約締結前に重要事項説明を行うのがルールとなります。

そして、この重要事項説明においては

「水防法に基づくハザードマップ」が存在する場合には、これを提示する(物件所在地を地図上で示す)ことが義務付けられていますので、対象物件が浸水想定区域に存する場合には必ず告知が行われる

ことになるでしょう。

また、家屋倒壊等氾濫想定区域についても必ず洪水ハザードマップに反映されることになりますので、取引に際して説明が省かれることはまずありません。

更に家屋倒壊等氾濫想定区域へ指定された場合、対象の地域は都市再生特別措置法における「居住誘導区域」から除外されることとなり、『居住誘導区域ではない』こと自体が重要事項説明における告知事項となりますので、こうした意味でも説明を省くことはできないはずです。

一方、浸水被害軽減地区については『売買の取引でのみ告知される事項』となります。

ちなみに、売買の重要事項説明書においては取引後のトラブルを回避するために浸水レベルについても記載と説明が行われるケースが多いでしょう。

※重要事項説明記載例/「本物件は洪水浸水想定区域内に存し、想定し得る最大規模の降雨に際しては2.0~5.0m【2階の軒下まで】程度の浸水が発生する区域とされています」

このように売買のみならず、賃貸の取引においても水防法に係わる制限は「重要な告知事項」となりますので、所有する土地が指定区域となっている場合には『不動産の資産価値への影響は不可避』というのが実情です。

但し、浸水想定区域は非常に広い範囲に指定されるケースが多いため、

「〇〇駅周辺に住みたいなら、ある程度の浸水リスクは覚悟するしかない」といった場合も少なくありませんので、指定区域に保有物件が存在しているという理由だけで大幅に査定価格が減額される訳ではない

という点にはご注意ください。

水防法とハザードマップ

前項において「水防法に基づくハザードマップ」というワードが登場しましたので、この点について少々補足のご説明をさせていただきます。

不動産取引における重要事項説明では「水防法に基づくハザードマップが存在する場合には、マップ上のどこに物件が所在するかを説明しなければならない」というルールになっていることは既にお話ししましたが、そもそも『水防法に基づくハザードマップ』とは如何なる意味なのでしょうか。

実は水防法14条には国土交通大臣または都道府県知事が浸水想定区域を指定し、予想される被害状況を公表することが義務付けられています。

そして、水防法15条においては公表された情報を基に、

市町村長がハザードマップ等の印刷物を作成し、これを周知するために住人へ配布するルール

となっているのです。

よって、「水防法に基づくハザードマップ」とは水防法15条の定めに従って作成された地図を指すことになりますが、自治体が発行しているハザードマップの中にはこれに当たらないマップ(水防法に基づかない地図)も存在していますので注意が必要となります。

また、自治体によっては「洪水と高潮の水防法に基づくハザードマップは完成しているが、内水のマップについては水防法に基づいていない」といったケースもあり得ますから、

重要事項の説明に際しては、情報のソースとなるハザードマップが如何なる種類のものであるかをしっかりと理解することが重要となるのです。

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水防法とは?わかりやすく解説まとめ

さてここまで、水防法をテーマに解説を行ってまいりました。

不動産取引に際しては必ずハザードマップについての説明がなされるようになりましたが、「その情報が如何なる法律に基づき、どのような目的で公表されているものであるか」という点については、説明をする不動産業者も詳しく理解していないケースが多いようなので、この記事を書いてみることにいたしました。

水害はしっかりと「被害の予測」ができていればダメージを最小限に止めることができる災害となりますので、この機会に是非もう一度、ハザードマップに目を通していただければ幸いです。

ではこれにて、「水防法とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。