これまでも本ブログでは、賃貸物件の空室対策などの記事において「設備を充実させることが物件の付加価値向上に繋がる」といったお話をしてまいりました。
但し、いくら付加価値を上げたいからといっても、「備え付けの家具」などは入居者の好みに合わない場合も多いですし、設備の中には大家さんにとって「完全なマイナスとなってしまう危険な代物」も存在していますから、その選定には充分な注意を払う必要があるでしょう。
そこで本日は「賃貸物件の設備に加えてはならない物を解説いたします!」と題して、大家さんに思わぬ不利益をもたらす賃貸物件の設備についてお話ししてみたいと思います。
充実した設備は両刃の剣
では早速、「設置するのをなるべく避けたい設備」を具体的にご紹介して行きたいところではありますが、より深く記事の内容を理解いただくために、まずは『賃貸物件の設備の扱い』についてのご説明から始めることにいたしましょう。
過去記事「賃貸の残置物と設備の使い分けについて!」にて詳しくご説明しておりますが、賃貸のお部屋の中に設置されている備品は
- 設備/建物に付属した備品
- 残置物/過去の入居者が所有権を放棄して置いて行った備品
という2通りに分類することができます。
「設備」は建物に付属した備品という扱いですから、その所有権は物件オーナー様が有することとなり通常の使用により生じた故障については、大家さんの負担で修理をしなければなりません。
また「設備とされている備品が故障して修理不能となった場合」については、『大家さんには同等品への交換義務がある』と解釈されますから、「壊れたら、撤去して終わり」などということは許されないのです。
これに対して「残置物」は以前の入居者が所有権を放棄して置いて行った備品となりますから、メンテナンス費用も入居者の負担となりますし、備品の撤去処分も借主が独断で行えるものとなります。(入居前に借主に「不要」と言われた場合は、大家が処分を行う)
もちろん、退去する者がそう簡単に「価値ある物品」を置いていってくれるはずはありませんが、この『残置物が持つ性質』を上手に活かすことは賃貸物件経営を成功させるために非常に重要なテクニックとなるのです。
例えば、元々は設備として取り付けていた型の古いエアコンがあれば、
新規入居者募集にあたって「残置物」と謳っておくことで、メンテナンス費用を入居者に負担させることができる(所有権は放棄しなければならない)
ので、こうした「状況に応じての設備と残置物の使い分け」は既に多くの投資家さんが実践しておられる手法となります。
ただ、こうした手法を知らない経験の浅い大家さんは、あらゆる備品を「設備扱い」としたまま部屋を貸し出してしまい、後々『圧し掛かる修理費で痛い目をみる』というケースも多々ありますので、新規募集に当たっての「設備とするか、残置物として扱うかの判断」は非常に重要となってくるのです。
一方、こうした契約上の設備、残地物というの取り扱い以前に、『そもそも貸室に設置するべきではない物品』も存在していますので、次項では具体的な例を挙げながらご説明をしてまいりましょう。
危険な設備はこれ!
では実際に、「設備として扱ってはならない」「そもそも設置してはいけない」備品を見てまいりましょう。
食洗機
最近では建売住宅や分譲マンションにおいても標準装備となっていることが多い食洗機ですが、実は非常に故障が多い器具でもあります。
もちろん売買物件に装備されるくらいですから「アッと言う間に壊れてしまう」という訳ではありませんが、3年、5年と経過すると様々なパーツに不具合が生じることも珍しくありません。
よって、設置したばかりの時は問題ありませんが、時間の経過と共にメンテナンスの頻度が急上昇して行くことになります。
なお、私が以前に担当した物件にも食洗機が備えられていましたが1年間に数回修理の手配をした上に、「結局は買い替える」という憂き目にあった大家さんがおられますから、貸出すお部屋に設置されている場合にはたとえビルトイン式あっても「残置物扱い」とするのがおすすめです。
ディスポーザー
あまり馴染みのない設備かもしれませんが、キッチンの排水口などに設置されており、生ゴミなどを粉々に粉砕して下水に流してくれるという器具となります。
なお、利用する分には非常に便利なのですが、こちらも食洗機同様に時間の経過と共に故障が目立つ器具ですし、「生ごみの中に金属ゴミが混入して故障する」といった使い方の問題でメンテナンスが必要になることも多々ありますので、設備で扱うには少々危険な備品となるでしょう。
また、動力として電気を用いるためランニングコストが掛かりますし、それなりの騒音も発生させますので、新規の設置に際しては充分にご注意いただければと思います。
浴室テレビ
お風呂に入りながら、ゆっくりとテレビが見られるという人気の製品ですが、高い防水性能を求められるだけに経年変化には弱い器具となります。
特に壁に埋め込まれた形状のものは、修理や交換に際してなかなかの費用が掛かりますから、こちらも是非ご注意いただきたい備品となるでしょう。
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浴室乾燥機
こちらも近年の新築住宅では標準的な設備となりつつありますが、賃貸物件への導入となると少々悩ましい点もあります。
まず浴室乾燥機の最大のメリットは「雨でも浴室内に洗濯物が干せる」という点になりますが、正直あまり乾きはよくありませんので、室内物干しを設置した方が「生乾きを防げる」という意見も耳にいたします。
また、導入に際してはかなりの費用を要しますし、故障時に掛かる費用も決して安価ではありませんので、「設置に掛かるコスト」と「物件の付加価値の向上度合」を天秤に掛けた場合、それ程の効果が期待できないというのが実情かもしれません。
お掃除機能付きエアコン
近年ではお掃除ロボットを内蔵した多機能型エアコンが数多く販売されています。
こうしたエアコンを導入すれば掃除の手間が省けるため、入居者にも喜ばれそうな気がいたしますが、実際の効果はかなり微妙です。
このタイプのエアコンは確かにフィルターなどを自動で掃除してくれますが、エアコンの機器内に発生するカビなどを自浄する機能は備えていないものが殆どとなります。
よって、定期的なメンテナンスが必要になりますが、構造が複雑なために入居者が自力で内部の清掃を行うのは少々無理があるでしょう。
また、清掃業者に依頼する場合も通常のエアコンよりも費用が割高になる上、最新機種の場合は施工自体を断られるケースもありますので注意が必要です。
ビルトイン式エアコン
ビルトイン式エアコンは別名「埋め込みエアコン」とも呼ばれ、文字通り「壁」や「天井」にエアコンを埋め込んでしまう空調機器です。
こうすることによりエアコン機器の出っ張りをなくすことができますから、室内をシンプルな状態にできるのが利点となりますが、問題は故障が発生した時です。
このタイプのエアコンは価格が非常に高額となりますので、交換を行う際にはかなりの出費を覚悟しなければなりません。
また、内部洗浄も一般の方ではまず不可能ですから、メンテナンスに関しても割高なコストが発生することになるでしょう。
全館空調設備
全館空調設備は別名「セントラル空調設備」とも呼ばれ、物件内の各部屋を一台のエアコンで集中的に管理するシステムとなります。
このシステムを導入することで、全てのお部屋の温度を一定にすることができますので、バブル期の高級物件ではよく目にする空調システムとなりますが、賃貸物件の設備としては非常に厄介な代物です。
ビルトイン式エアコンと同様に機器の価格自体が非常に高額であり、交換などに際して多額の費用が発生する上、一度故障してしまうと全てのお部屋の空調が停止してしまいますから、近年の夏の猛暑下では「命に係わる問題」となるでしょう。
更に各部屋へはダクトを通して風を送り込みますので、ダクト内部のカビや埃を定期的に掃除する必要がありますが、これを素人が行うことは不可能に近いと思われます。
節水型便器
お部屋を貸し出す以上、便器を残置物とする訳には行きませんが、リフォームなどに際して『物件の付加価値を上げよう』と安易に節水型便器へ交換するのは少々リスキーな行為です。
近年の節水型便器の性能は非常に優秀であり、水道代の削減効果はかなりのものとなりますが、節水タイプ故にどうしても流れる水の量は少なくなってしまいます。
なお、便器の先にある下水配管に充分な勾配(水をスムーズに流すための配管の傾斜)が確保されていれば問題はないのですが、「そもそも節水型便器を想定していないギリギリの角度の勾配」しか備えられていない場合には『配管の詰まりが頻発する』というトラブルが生じることになるのです。
よって、節水型便器を導入する際には配管の勾配をしっかりと確認すると共に、これが確保されていない場合には「節水型を諦める勇気」も必要となるでしょう。
庭・花壇など
こちらは設備というカテゴリーには入らないかもしれませんが、庭・花壇についてはその取扱いに注意が必要となります。
「賃貸物件に庭や花壇があるの?」などというお声も聞えて来そうですが、貸家や一棟アパートの一階部分、専用庭付きの分譲マンションでは充分に有り得るはずです。
そしてここで最も重要となるのが、「その庭の管理を誰が行うか?」という点です。
土が露わになった部分は季節の変化と共に確実に雑草が生えて来る上、ここに入居者が植物を植え始めたりすると、下手な雑草駆除もできなくなりますし、入居者の植物があるとなれば「大家さんと入居者のどちらが管理すべきものなのか」も曖昧な状態になってしまいますよね。
そこでお勧めしたいが、「庭・花壇は入居者が自由に利用して良いが、雑草、害虫駆除等も入居者が責任を負う」という管理の取り決めをすることです。
これならば契約書に一言加えておくだけで済みますし、何度も除草作業を求められることもありません。
また、「管理が悪い」と近隣からクレームが入った際にも、堂々と入居者に文句が言えるでしょう。
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賃貸物件の設備に加えてはならない物を解説まとめ
さて、ここまで見て来た通り、物件の付加価値を向上させるはずの「設備」が後々オーナー様を悩ませる『厄介なもの』へと変貌してしまうケースがあることをご理解いただけたことと思います。
また、本文中に挙げた事例をご覧になって既にお気付きの方もおられるかもしれませんが、備えると厄介な設備はその多くが「やや贅沢な品々」であるのも特徴でしょう。
なお、これはエアコンなどでも言えることですが、「様々な機能が付いた機種は故障が多くなる」のが道理ですから、収益物件に設備として導入するならシンプルで耐久性重視の製品にするのがおすすめです。
ちなみに本文中では触れませんでしたが、近年トラブルが増えているのがシングルレバーの水栓(水を出すのにレバーを上げ下げするタイプの水栓)についてとなります。
今時はキッチンのみならず洗面所にもシングルレバーの水栓が取り付けられていることが多いのですが、このタイプの水栓はパッキンの交換が非常に困難なのが特徴です。
通常、賃貸借契約においては「水道パッキン等の消耗品の交換は入居者の負担」と定められていますが、シングルレバー水栓については『少々手にあまる作業』となりますし、交換方法に誤りがあれば『漏水が発生する可能性もある』でしょう。
こうした事情から、プロの業者にパッキン交換を依頼するケースも少なくありませんが、「工事費用は決して安くない」ため費用負担を巡ってトラブルに発展する事例が多いのです。
このようなトラブルを回避するためには、契約書にはっきりと「消耗品の交換費用は借主の負担となる」旨を定めた上で、「交換工事費用の目安(例・2万円程度の工事費用を要します)」も併せて記しておくべきでしょう。
収益物件の設備を充実させることは、賃貸経営を成功に導く上で重要なポイントとなりますが、お金を掛ける以上は充分に検討を重ねて失敗のない設備投資を行いたいところですよね。
ではこれにて、「賃貸物件の設備に加えてはならない物を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。