あらゆる事柄が目まぐるしく変わって行く今の世の中ですが、こうしたトレンドは法律の世界にも押し寄せているらしく、約130年間に渡り殆ど変更が加えられなかった民法についても2020年の4月に大幅なリニューアルがなされました。

本ブログでも過去に「賃貸の民法改正による影響を解説いたします!」という記事にて、賃貸に係る民法の改正内容を解説しましたが、これだけの大改正ですので当然売買にも大きな影響が生じています。

そこで本日は「契約不適合責任とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、改正民法の目玉とも言える契約不適合責任についてお話ししてみたいと思います。

契約不適合責任とは

 

旧民法における瑕疵担保責任

2020年4月に行われた民法大改正の目玉とされているのが、債権に関する項目の抜本的な見直しであると言われています。

さて、このようなお話をすると「債権はあまり不動産取引と関係がないのでは?」などというツッコミも聞えて来そうですが、実は非常に大きな関わりがあるのです。

そして、その係りの中でも最たるものと言えるのが「瑕疵担保に係る事項」となります。

以前にも本ブログでは「瑕疵担保責任について考えてみます!」と題した解説記事をお届けいたしましたが、この瑕疵担保責任の根拠となっているのが旧民法の415条と566条、そして570条です。

これらの条文においては、売買対象に隠れたキズ(瑕疵)があった場合には契約の解除や損害賠償請求が可能である旨、

そして「売買対象が特定の物であるか、否かによって法的な扱いが変わること」などが定められており、引渡し後に物件に問題が生じた際にはこれらの条項を基に瑕疵に関する問題解決が図られて来ました。

なお、旧民法における瑕疵担保責任の要点をまとめてみると、

  • 瑕疵の定義   ・・・契約時に存在した隠れたキズであること
  • 責任の種類   ・・・特別法定責任
  • 責任の取らせ方 ・・・契約解除・損害賠償
  • 責任の範囲   ・・・該当取引単体の実損害(信頼利益)
  • 責任追及可能期間・・・知った時から1年以内の請求
  • 時効      ・・・10年間

以上が主な内容となっていましたが、今回の民法改正ではこの瑕疵担保の定義が『まるごと変更される』こととなったのです。

2020年改正民法における契約不適合責任

前項をお読みになり、「まるごと変更って、どういうこと?」という疑問をお持ちの方も多いことと思いますが、より厳密に言えば『瑕疵担保責任という考え方自体が消滅し、新たに契約不適合責任なるものが改正民法により生み出された』というのが正しい表現となります。

よって2020年4月以降、購入した物件において雨漏り等の瑕疵が発見された場合には瑕疵担保責任ではなく、契約不適合責任という新しい考え方で紛争の解決が図られることになるのです。

では、この契約不適合責任とはどのような内容の責任となるのでしょう。

以下では前項で示した瑕疵担保責任と対比して、契約不適合責任の要件を見て行きましょう。

  • 瑕疵の定義   ・・・契約内容に反する事実があること(債務不履行)
  • 責任の種類   ・・・債務不履行責任
  • 責任の取らせ方 ・・・契約解除・損害賠償・追完請求・代金減額請求
  • 責任の範囲   ・・・該当取引のみならず、転売後の利益等にも責任が及ぶ(信頼利益および履行利益)
  • 責任追及可能期間・・・知った時から1年以内の通知
  • 時効      ・・・5年間、または10年

※時効については、賠償請求等が可能であることを知った時から5年、請求ができる時から10年という解釈となります。

このように瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを見比べてみると、その要件が大きく変更されたことをご理解いただけることと思いますが、更に理解を深めるために各変更点をより細かく見て行きましょう。

「契約時に存在していた隠れた欠陥(瑕疵担保責任)」から『契約内容に反する欠陥(契約不適合責任)』へと変更

旧民法の瑕疵担保責任では契約締結時に既に存在しており、且つ、存在が明らかになっていないキズ(欠陥)に対してのみ「売主が責任を負う」のがルールでした。(見るからに雨漏りしているのが判れば責任は追及されない)

これに対して契約不適合責任では、契約後に発生したキズもその範囲に含まれますし、たとえ欠陥が目に見えていても『契約の主旨としてキズが無いことが前提であれば、売主はその責任を逃れることができない』というルールに変更されたのです。

特別法定責任(瑕疵担保責任)から債務不履行責任への変更

旧民法において瑕疵担保責任は、「特別法定責任」と解釈されていました。

通常、購入した物品(自動車やパソコンなど)に欠陥があった場合に売主が負う責任は債務不履行責任なのですが、自動車等とは異なり不動産は唯一無二の存在(他に代わるものがない)であるため、

「他の物品と同等に扱う訳にはいかない」というのがこの考え方の根本にあり、そこで誕生したのが「特別法定責任」という文字通りの特別な考え方でした。

しかしながら先程の解説でもわかる通り、この考え方は「非常に難解」です。

そこで改正民法では、特別法定責任という瑕疵担保責任の考え方を破棄して、通常の物品と同様の債務不履行責任へと切り替えを行うことにしました。

但し、不動産という「ものがもの」だけに、パソコン等と全く同じという訳には行きませんので『契約不適合責任』という新たな考え方を提起したという訳です。(契約不適合責任も債務不履行責任に含まれます)

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解除・損害賠償(瑕疵担保責任)に、追完請求と代金減額請求(契約不適合責任)を追加

旧民法における瑕疵担保責任にて、買主が売主に求めることができたのは契約解除と損害賠償という責任の取り方でしたが、

契約不適合責任(債務不履行責任)へと変更された改正民法の下ではこの2種に加えて追完請求・代金減額請求という『新たな責任の取らせ方』が可能となりました。

追完請求は読んで字の如く「追って契約の完遂を請求する」という意味なりますから、売主が建物の欠陥を修理を行ったり、別の物件と交換するといった方法が可能となるでしょう。

一方、代金減額請求なら売買代金を減額する方法などが代表的なものとなります。

さて、こうして旧民法と改正民法を比較してみると契約不適合責任の方が「様々な責任の負わせ方ができて、買主に有利」といった印象を受けるかもしれませんが、そうとばかりも言えない部分もあるのです。

例えば旧民法での瑕疵担保責任においては、損害賠償について「売主に過失がなくても請求できる(無過失責任)」と定められていましたが、契約不適合責任においては『売主の帰責事由が必要』との変更がなされています。

よって、新民法の下では「売主に責任のない欠陥」については損害賠償請求ができなくなっているのです。(契約解除・追完請求・代金減額請求は可能)

更に契約の解除についても、旧民法では「契約の目的が達成できない時に限って解除可能」としていましたが、改正民法では「目的が達成が可能でも解除できる」との変更がなされています。

 

信頼利益(瑕疵担保責任)のみならず、履行利益(契約不適合責任)にも責任が及ぶ

旧民法の瑕疵担保責任においては物件に欠陥があった場合の責任については、「対象となった取引の範囲内(信頼利益)で責任が及ぶ」というのがルールでした。

これに対して改正民法における契約不適合責任では、「対象となった取引の範囲内(信頼利益)のみならず、購入後に転売すれば見込めたはずの利益(履行利益)にまで責任が及ぶ」ことになったのです。

よって、転売目的で買主が購入した物件に欠陥があり、これが原因で転売が不能となった場合には、売主は「欠陥に対する責任」に加えて「転売で得られるはずだった利益」に対しても責任を負うことになるでしょう。

1年以内の請求(瑕疵担保責任)→1年以内の通知(契約不適合責任)

物件に欠陥が存在することを知った場合、旧民法では「1年以内に損害賠償の請求などを行わなければならない」というのがルールでしたが、改正後は「契約不適合(欠陥)を発見しました」という通知だけを行えば良いルールになりました。

請求から通知への変更ですから、買主にとってはハードルが非常に低くなったと言えるでしょう。

時効10年間(瑕疵担保責任)→5年間または10年間(契約不適合責任)

改正民法の下では、欠陥に対して買主が権利を行使できる期限(時効)についても変更がなされました。

瑕疵担保責任においては一律10年であった時効が、契約不適合責任においては知った時から5年、または権利の行使が可能となった時から10年へと変更されたのです。

契約不適合責任で売買契約書はどう変わる?

ここまでの解説をお読みくだされば「改正民法においては不動産売買における瑕疵(契約不適合)の扱いが如何に大きく変わったか」がご理解いただけたことと思いますが、売買契約書の作成時には更に多くの事項に気を配る必要が出てきますので、本項ではこの点について解説していきます。

なお、売買契約書の記載内容は「売主が誰か」によっても大きく内容が変わってきますので、以下ではケースごとにご説明をしていきましょう。

売主が一般の方の場合の契約不適合責任条文

契約不適合責任についての条文においては、「欠陥が見つかった際にどのような保証がなされるのか(保証の内容)」「何に対して何時まで売主が責任を負うのか(保証の範囲)」という2点が重要なポイントになってきます。

そしてまずは「保証の内容」についてですが、旧民法の下の瑕疵担保責任で認められていた「契約解除」と「損害賠償請求」に加え、契約不適合責任では『追完請求』と『代金減額請求』が追加されたのですから、欠陥が発見された際の「売主・買主のリアクション」も選択肢が大幅に増えたことになります。

なお、選択肢が増えたことは良いことのようにも思えますが、「買主は損害賠償を請求したいのに、売主は修理したい(追完請求で済ませたい)」といった意見の相違が生じてしまう可能性が高まりますから、決して手放しで喜ぶ訳にはいかないのです。

更には同じ追完請求でも、「売主は修理したいが、買主は別の物件に代えて欲しい」というのでは、まとまる話もまとまりませんよね。

そこで実務においては契約書をカスタマイズすることで『旧民法時代の瑕疵担保責任の考え方に準じた契約内容とする』ことで、契約不適合責任への対応を行っている不動産業者が大多数となっているようです。

実はここまでご紹介してきた「契約不適合責任ならではのルール」は、契約書に特約を設けることで、ある程度は自由にカスタマイズすることが可能となります。

よって、新民法で追加された「追完請求」「代金減額請求」については、特約によって『請求できない』とすることができますし、「解除」についても『物件購入の目的が達成できない場合のみ解除が可能』といった具合に変更することで、旧民法時代の契約内容に「なるべく寄せる努力」をしている訳です。

但し、損害賠償請求については『売主の帰責事由がなければ請求できない』という、契約不適合責任のルールをそのまま契約書に活かしている会社さんが多いようです。

さて続いては「保証の範囲」ということになりますが、こちらについても特約によって自由に調整が可能ですから、

  • 契約不適合責任は全て免責
  • 契約不適合責任の一部免責(雨漏りや土壌汚染など範囲の限定)
  • 責任を負う期間の限定(半年、3ヶ月など)

といった具合に、取引対象や売主・買主の希望に合わせてカスタマイズしていくことになります。

但し、契約不適合責任では「売主が知っていた欠陥」については、たとえ免責特約を組み込んでいても売主が責任を負うことになりますから、物件の不具合については買主に対してしっかりと告知し、容認事項として契約書に明記しておくことが重要です。

売主が不動産業者の場合の契約不適合責任条文

ここまで売主が一般の方の場合の契約書条文を見てまいりましたが、売主が不動産業者となると内容は大きく変わってきます。

実は宅地建物取引業法の40条においては、取引の安全性を高めるために「民法に記されている内容よりも不利な特約は全て無効となる」という不動産業者限定の特別ルールが定められているのです。

よって、不動産業者が売主の場合の「保証の範囲」については、解除・損害賠償・追完請求・代金減額請求の4種類すべてが有効となります。

一方、「保証の範囲」については、免責については認められない(全部免責、一部免責共に)ものの、期間ついては新築物件で引き渡しから10年間(構造耐力上主要な部分等に限る、その他の部分は2年間)、中古物件で引き渡しから2年間とする特約が許されていますので、このルールに則った契約書が主流となっています。

※売主が不動産業者以外の法人であるケースでは、消費者契約法の定めにより「契約不適合の免責」は認められませんが、責任を負う期間を1年程度に短縮することは可能と考えられます。

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契約不適合責任とは?まとめ

さて、これまで民法改正と瑕疵担保責任に代わる契約不適合責任について、解説を行ってまいりました。

通常の法改正であれば「契約書の文言を若干変更する」といった程度の作業で済むことが殆どでしたが、120年ぶりの大改正ということで、今回は『契約書の大リニューアル』を余儀なくされる結果となりました。

また、前項でもお話しした通り、既に各不動産業者は改正民法(契約不適合責任)を踏まえた契約書を作成して多くの取引をこなしてはいますが、実は内心ドキドキな部分があるのも確かです。

もちろん、各社とも新民法対応の売買契約書の作成に当たっては弁護士などの専門家のアドバイスに基づいてこれを行っていますが、実際に紛争となった場合に「裁判所がどのような判断を下すか」は全くの未知数となりますから、今後も判例の動向などに着目しながらの『手探りの状態』が続くことと思われます。

そして、このような状況の中で本ブログが皆様の取引の一助となれば、管理人としましては望外の喜びです。

ではこれにて、「契約不適合責任とは?民法改正と瑕疵担保について解説!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。