2020年の春に不動産業界を揺るがす事態となったのが、民法の改正に関する問題となります。
なお、今回の改正は「契約に関するルールの変更」という重大な内容となっており、これに合わせて売買・賃貸共に契約書の内容も見直す必要が生じましたので、不動産投資やアパート経営を行っている方々にとっては「決して人ごとではない」というのが実情でしょう。
そこで本日は、「賃貸の民法改正による影響を解説いたします!」と題して、賃貸借契約における条項変更点等、2020年民法改正が収益物件の運用に与える影響をわかりやすくご説明していきたいと思います。
民法改正の概要
「民法改正」というテーマについては、これまでもニュースなどで耳にしたことがあるかと思いますが、『どうしてこのタイミングで改正する必要があるのだろう』と疑問に感じておられる方も多いことでしょう。
実はこれまで使われていた民法は、120年前の明治時代から殆ど変更のないまま運用され続けている、云わば骨董品のような法律でした。
なお、このようなお話をすると『あれ?これまでにも改正してなかったか?』と思われる方もおられるでしょうが、戦後直後の「家族のルールに関する条項の変更(家長制の廃止)」、そして平成16年に条文の一部が口語体に書き換えられてはいたものの、
メインの内容には一切手が加えられておらず、時代の流れにより運用面で様々な弊害が出始めている
という状況だったのです。
そこで今回の改正においては、冒頭でもお話した通り「契約に関するルール」という大きなテーマに切り込んでいる上、大幅な内容変更がなされましたから、これは是非改正のポイントを把握しておくべきでしょう。
なお今回は、アパート・マンションの賃貸経営に係る箇所のみに焦点を当てた解説となりますので、その点にご注意いただいた上で解説を読み進めていただきたいと思います。
賃貸借契約に影響を及ぼす改正点
では早速、改正ポイントを整理しながら解説を始めて行きたいと思います。
事業用不動産の連帯保証人
まずは事業用契約(店舗や事務所の賃貸借契約)に関してですが、改正民法が施行された後に締結される契約では保証人の扱いに大きなルール変更が加えられます。
そのルール変更とは、「物件を借りる人間(賃借人)」は一定の情報公開した上で、連帯保証人を引き受けてもらわねばならないという点です。
つまり事業用の賃貸借契約において、
賃借人は、連帯保証人を擁立する際に「自分の借入れの状況」や「会社の経営状態」を説明した上で、保証人を引き受けてもらわなければならない
ということになります。
さて、このようにお話すると「大家さんにはあまり関係がなさそう」と思われるかもしれませんが、これは非常に大きな問題となります。
もしも、この改正を知らずに「これまで通りの方法」で連帯保証人を擁立させてしまった場合、賃借人と保証人間での説明が不十分であることを理由に、法的に連帯保証人として認められない可能性(保証契約が無効となる可能性)が出てくるのです。
そして実際に滞納が発生した場合には、連帯保証人へ督促を行ってみれば「保証人を引き受ける時に賃借人から説明を受けていないから、支払義務はない!」という言われ、訴訟を起こしても「保証人として認めらない」という判決が下る可能性もありますから、これは堪ったものではありませんよね。
この問題への対策としては、賃貸借契約締結に際して
- 保証人が賃借人から「財務状況の説明を受けている」ことを証明する書式
- 借主が連帯保証人に対して説明を行なった旨の誓約書
を借主と連帯保証人から提出してもらうなどの対策を講じる他はないでしょう。
連帯保証人への情報提供
こちらも情報提供絡みの事項となりますが、前項ほど重要な変更点ではありません。
そして改正内容を簡単にご説明するならば、
居住用であろうが事業用であろうが、「連帯保証人から貸主へ、賃借人の滞納状況などについて確認を求められた場合には、その情報を開示しなければならない」
というルールです。
なお通常、滞納が発生すれば「まずは連帯保証人に連絡を入れる」の定石ですから、こちらはあまり問題にはならないかと思いますが、変更点として把握しておいてください。
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連帯保証人の債務に極度額を設定
そしてこちらの極度額の設定が、今回の改正で賃貸借契約に最も影響を及ぼすポイントとなります。
これまでの民法では、賃借人の賃料滞納などに関して連帯保証人は「無限の責任」を負うことが定められていましたが、今回の改正により、これが「限定的な責任」へと変更されたことになります。
つまり、連帯保証人が負担することとなる
保証額には上限(極度額)を設けなければならず、これを定めない保証契約は「無効」となる
というのが改正民法における新ルールです。
このようなお話を聞くと、大家さんの立場からすれば1000万円、2000万円と法外な極度額を設定したくなるでしょうが、あまりに法外な金額を提示すれば「保証人が保証契約を引き受けてくれなくなる可能性」もありますので、極度額の設定をいくらにするかについては大いに頭を悩ませることになるでしょう。
また、極度額に加えて
「連帯保証人が死亡・破産、強制執行等を受けた時」および、「賃借人が死亡」した場合には、それ以降の賃料は『保証の対象外』となる
こともにも注意が必要です。(これらの事態が発生した場合には保証契約の元本が確定する)
このように「極度額の設定」と「元本の確定」はオーナー様に大きな負担を強いる可能性のある変更点となりますから、新規契約にあたっては充分にお気を付けください。
建物が破損した場合の賃料減額
さて続いては「建物と賃料等の関係」についての変更となりますが、万が一地震などにより
建物が破損して専有部分が一部使用不能となった時には、その面積に比例して賃料を減額しなけらばならない
というのが改正後のルールです。
当然と言えば当然なのかもしれませんが、これまで明確な取り決めがありませんでしたので、改めて条文に加えられることになりました。
ちなみに、こうした法改正が行われると「給湯器が故障したから賃料をまけろ」などと言い出す入居者も現れそうなものですが、この改正が適用されるのは『物件の価値に甚大な影響を及ぼす事態のみ』と解釈されますから、こうした入居者からの要望を受け入れる必要はありません。
但し、新たに定められたルールである故に今後どのような運用がなされて行くかが不明確ですから、今後の判例などには充分な注意を払っていく必要があるでしょう。
その他の変更点
そして最後に賃貸物件の運用にそれ程は大きな影響を及ぼさないであろう変更点をまとめてご紹介してまいります。
なお、以下の変更点については『既に多くの不動産会社が当たり前に賃貸契約書に反映させている内容を改めて法律に明文化した』という趣のものとなりますので、ご自身が保有する物件の契約書にもしも書かれていない内容があれば、今後は加えておくべき内容とご解釈ください。
敷金について
「賃貸借契約が終了した際には原状回復費用などを差し引いた上、大家は賃借人に敷金を返還する」ことが新たなに定められました。
これまでは敷金に対して、民法上明確な定義ありませんでしたので「敷金は借主の債務を担保するためもの」であることが明文化されたものとなります。
建物の全滅失について
「賃貸の対象となる建物が完全に滅失した際には、賃貸借契約は終了する」ことが民法上で定められたことになりました。
建物本体の修繕
「賃借人から雨漏り等の報告を受けても、オーナー様がこれを修繕しない時には賃借人が自ら修理を行い、費用を大家に請求できる」ことが明文化されました。
原状回復
「賃借人には原状回復義務があるが、故意・過失は対象となるものの、経年変化によるものに回復義務はない」という賃貸物件の運用上では当たり前だったルールが正式に民法に組み込まれました。
この様に、実務の場では当たり前に運用されていた暗黙のルールが、改めて条文に加えられることとなったのです。
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賃貸の民法改正による影響を解説まとめ
さて以上が、「今回の民法改正において、収益物件の運用を行うのに際して知っておくべきポイント」となります。
あまり問題のない変更もありますが、「事業用契約での連帯保証人への情報提供」や「連帯保証人の債務に極度額を設定する必要がある」などの事項は、非常に重要な変更といえるでしょう。
なお新しいルールができた後は「何かと現場はゴタ付くことも多いはず」ですが、時の流れと共に『新たな対処法』も生まれて来るものですから、こうした新たな情報が入りましたら、またご報告させていただくつもりです。
ちなみに、改正民法の規定が適用されるのは2020年4月以降の賃貸借契約となりますが、それ以前に締結した契約が4月以降に合意更新された場合(通常の更新手続きがされた場合)は新民法のルールが適用されることになるのでこの点にはご注意ください。
更に、改正前から継続する連帯保証契約については少々複雑なルールが存在しますので、こちらについては後日別記事をお届けするつもりでおりますので、ご興味のあるかたは是非そちらをご一読願います。
何かと煩わしい法改正ですが、正しい知識を身に付け、トラブルのない賃貸経営を行いたいものです。
ではこれにて、「賃貸の民法改正による影響を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。