現在、社会問題ともなりつつあるのが、高齢化や核家族化に伴う孤独死の問題となります。

孤独死の中には若い1人暮らしの方が病気で亡くなられたり、自ら命を絶つというケースも少なくありませんが、2015年に行われた国の調査によれば単身高齢者世帯数(65歳以上)は約600万世帯にも及ぶとのことですから、

アパートや賃貸マンションを所有している大家さんたちにとっては、「物件内での孤独死」は最大の懸念事項であり、「トラブルを未然に防ぐための対策」や「事後処理のノウハウ」は是非とも知っておきたいところですよね。

そこで本日は「賃貸物件の孤独死対策について解説いたします!」と題して、陰惨な事故を防ぎ、被害を最小限に止める方法についてお話ししていきたいと思います。

賃貸物件の孤独死

 

素早い対応が最も大切

では早速、孤独死に関する対策を解説して行きたいと思いますが、トラブルを回避する上で最も重要なのは「事故を未然に防ぐ」ことに他なりません。

なお、物件オーナー様の中には事故発生の予防策として「60歳以上の単身入居は不可」などといった募集条件を付けておられる方もいらっしゃいますが冒頭でもお話しした通り、

年齢が若ければ孤独死を確実に防げる訳ではありませんし、今後高齢者が増え続ける社会情勢を考えれば、入居審査で年齢制限を課することは空室リスクは各段に向上させることになるはずです。

そうとなれば「高齢入居者を受け入れながらも、如何に事故を防いでいくか」という点が重要となって来る訳ですが、具体的にどのような対策を行っていけば良いのでしょう。

そこで、まず最も大切なことは入居者の異変を素早く察知できる感覚を養っておくことです。

私の経験上、事故発生の危険サインとなるのは

  • 集合ポストに郵便物が溜まる
  • 洗濯物が干しっぱなしの状態である
  • カーテンの開閉がない
  • 電気の点けっぱなし(消えっぱなし)

などの状態となりますから、こうした異変に気付いたならば、

  • お部屋のドアの隙間に紙を挟んで、落下の有無で部屋の出入りを確認
  • 水道メーターや電気メーターの数値を記録し、極端な変動がないかを調べる

といった対応を行い、更に詳細に「住人の状況」を観察することになります。

※住人の安否を効率的に確認する方法として「見守りシステムの導入」という方法もありますが、こちらについては別記事「見守りサービスについて解説いたします!」をご参照ください。

こうした観察を通して「これはやはりおかしい!」と感じた場合には、賃貸借契約上の連帯保証人や緊急時の連絡先の方にその事実を伝え、いち早く安否の確認を行ってもらうことが重要です。

そして、ここまでしても入居者の無事が確認できない場合には、警察へ通報して

警官立会いの下でお部屋に踏み込む(安否確認のための開錠を行う)

ことになります。

ちなみに警察の立会いなしでのドアの開錠は「住居侵入罪に問われる可能性」や「民事上の賠償責任を追及される」こともあり得ますから絶対に避けるべきです。

事故が発生していた場合の対応

こうしてお部屋に踏み込み、入居者の無事が確認できれば何も問題はありませんが、困るのは実際に事故が発生していた場合です。

そこでここからは、事故が発生していた際の正しい対処方法をお話しして行きます。

お部屋の開錠から警察の到着まで

安否確認でドアを開錠した際、警官が立会ってくれていれば、すぐさま警察の応援と救急車が到着することになるでしょう。

こうなると物件の外には野次馬が集まって来るものですが、彼らに「何があったのですか?」と聞かれても詳しい事情は話さないようにするのがベストです。

万一迂闊に話をしてしまえば「事故物件である」ことをわざわざ広めることにもなりますから、「入居者にトラブルがあったみたいです」などといった感じで言葉を濁しておくのがおすすめでしょう。

ちなみに両隣のお部屋や近所の方については警官や救急隊の出入りで自ずと状況が知れてしまうでしょうが、こうした方々に対しても積極的に事実は伝える必要はありません。

国土交通省が2021年に策定した「事故物件に関するガイドライン」においても『賃貸物件の隣室の事故については、新規契約に際して告知義務なし』とされていますので、法的に入居者へ報告を行う義務はないと考えられます。

但し、入居者の方から「何かあったのか?」という問い合わせを受けた場合には、

法律的にも、道義的にも「真実を包み隠さず告知するべき」

となるでしょう。

なお、警察到着後は現場検証が行われた後、ご遺体は検視を受けることとなり、ここで身元確認と事件性がないことが確認されれば、事後処理のフェーズへと進んで行くことになります。

孤独死後の処理

さて、次に降り懸かって来るのが「事故のあったお部屋をどのように片付けて行くか」という問題になります。

基本的には、連帯保証人や遺族にお部屋の片付けと原状回復をしてもらうのが通常となりますが「相手が連帯保証人であるのか遺族なのか」、そして「どのような対応をしてくるのか」によっても、その後の流れは大きく変わってくるでしょう。

相手方が連帯保証人の場合

相手方が連帯保証人であり、こちらの原状回復の要望を受け入れてくれない場合には、少々厄介な問題が発生します。

連帯保証人と言えば、借主が負う全ての債務を負うことになりますから「当然お部屋の原状回復義務も負うべき」という気がいたしますが、この点については死因が「自殺」であるか「自然死」であるかによって、扱いが大きく変わってきます。

自殺の場合には「管理義務のある管理物件の中で事に及んだ」という借主の過失があるため、連帯保証人は原状回復の義務を逃れることができません。

これに対して、自然死の場合には

「借主の故意、過失はない」と判断される可能性が非常に高く、このケースでは連帯保証人も原状回復義務を負わない

こととなるのです。

但し、連帯保証人が非協力的であったために「安否確認のための入室が遅れた場合」などには、連帯保証人の過失が認めらえる可能性もあるでしょう。

また、連帯保証契約において「借主に過失がない場合でも原状回復義務を連帯保証人が負う旨の特約がある場合」には費用の請求できる可能性がありますので、こうしたケースにおいては弁護士等の専門へ相談してみるべきかと思います。

相手方が親族の場合

交渉の相手方が親族の場合には、借主の財産を親族が「相続する」のか「相続放棄するのか」という選択によって方向性は大きく変わってきます。

相続が行われる場合には、お部屋の賃貸借契約も相続財産と扱われるため「原状回復義務は相続人へと受け継がれる」ことになりますが、連帯保証人のケースと同様に自然死においては原状回復費用の請求ができない可能性が高いでしょう。

これに対して親族が相続放棄をした場合には、非常に厄介なことになります。

これらのケースでは「相続人が不在」となってしまいますから、

お部屋の荷物の所有権は故人のまま、そして賃貸借契約も故人の名義で継続することになり、原状回復も新規入居者募集もできない状態

となってしまうのです。

そして、このような状態になってしまった場合には貸主が家庭裁判所に申し立てを行い、相続財産管理人を選任してもらった上で賃貸借契約の解除やお部屋の後始末をする必要が出て来ますから、弁護士費用が掛かる上に、お部屋を貸せる状態にするまでに6ヶ月~1年近い時間を要することになるでしょう。

なお「そんなに時間を掛けている余裕はない!」という方には、

残された相続財産を相手に訴訟を行うという方法

もあります。

実は相続人の存在しない財産は「法人」として扱われるという民法上の規定があり、この制度を利用して『相続財産法人を相手に裁判をする』という訳です。

実際には裁判所が選任した特別代理人を相手に訴訟をすることになりますが、この方法ならば相続財産管理人を用いる方法よりも遥かに素早い解決が可能となります。

ちなみに、家庭裁判所で相続放棄の手続きが完了する前に、借主の財産の処分等(家財の売却や賃貸借契約の解除)を親族が行った際には「相続放棄が認めらない場合」もありますので、こうしたケースにおいては弁護士等の専門家へ相談してみるべきです。

生活保護受給者の場合、賃貸保証会社に加入している場合

さて、孤独死される方の中には「生活保護を受給している」「賃貸保証会社に加入している」といったケースもあるはずです。

ちなみに、亡くなられた方が生活保護受給者の場合には「たとえ身寄りがなくとも行政が面倒をみてくれるのでは?」とお思いの方も多いようですが、これも期待はしない方が良いでしょう。

生前に施設に入ることが決まっており、財産(家財道具)の権利を放棄する旨の書面でも差し入れていない限り、行政は何もしてくれないのが通常ですから、相続放棄が行われてた場合と同様の方法で「大家さんが自力で解決を目指す」しかありません。

一方、賃貸保証会社の保証契約においては、孤独死した場合の原状回復についても保証の範囲内となっている商品が存在します。

借主がこうした賃貸保証会社の商品に加入している場合には、その保証の範囲内で貸主は原状回復費用等を受け取ることができるでしょう。

但し、賃貸保証会社であっても「相続財産管理人の選任」等の正式な法的な手続きは踏まねばなりませんし、原状回復費用についても満額を保証するプランは殆どありませんから、ある程度の費用負担は覚悟する必要があります。(弁護士費用等については保証される場合が多いようです)

孤独死後の入居者募集

原状回復工事完了後は「新規入居者募集」を行うことになりますが、

自殺の場合はもちろん、自然死でも時間が経ってから発見されたケース(特殊清掃が必要となったケース)では、賃料を大幅に下げての募集(従前の半額程度のケースが多い)となる上、入居者に対しては「事故があった事実」を告知しなければならない

のがルールとなります。

※「新規契約に際して告知が必要になるか否か」については別記事「事故物件の告知義務についてわかりやすく解説いたします!」にて詳細な解説を行っておりますので、是非こちらをご参照ください。

なお、物件の価値が下落したことへの相続人や連帯保証人への損害賠償については、「自殺の場合には認められる判例が多い」のに対して、『病気などによる自然死については請求を棄却されるケースが殆ど』です。

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死亡事故用保険を活用

このように自分が所有する収益物件において事故が発生した場合、大家さんはかなりの経済的、精神的な負担を強いられることになります。

そして、こうした境遇に立たされた物件オーナー様への救済策となるのが、死亡事故用の保険商品です。

まだまだ認知度の低い保険ではありますが、既に数社の保険会社が商品化しておりますし、今後はその数も増えていくことでしょう。

なお、こうした死亡事故用保険には

  • 借主加入型
  • 物件オーナー加入型

の2つの保険加入方式があります。

借主加入型については借主が入居時に加入する借家人賠償保険の特約として、死亡事故用保険を組み込むパターンが多いようです。

この方法であれば保険加入を「入居条件」とすることができる上、保険料の支払いも借主の負担となりますので、大家さんの立場としては非常にありがたいはずです。

但し、借主加入型のデメリットとしては

  • 手厚い保証を求めれば、借主の保険料負担額が増大する
  • 借主が保険の加入者となるため、商品によっては大家が保険金を受け取れない場合がある(借主に過失がない場合など)

といった点が挙げらるでしょう。

一方、物件オーナー加入型については、原状回復工事等については100万円程度、空室保証については期間1年、100万円~200万円程度といった内容の保険が多いようです。

また中には、「事故が発生した部屋の上下両隣の賃料収入減額分まで保険の範囲に含まれている商品」もありますから、貸主の保険料負担はあるものの保証の手厚さを考えれば「物件オーナー加入型」がおすすめとなります。

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収益物件の孤独死まとめ

さてここまで、収益物件での孤独死に関する防止策や、後始末、リスクヘッジに関する事項をご説明してまいりました。

私自身、何度かこうした事故に直面したことがありますが、早期発見の項でお話しした対策を実践することにより、亡くなる前の救助に成功した例も多くありますので、「自分の物件は大丈夫」と油断することなく常に注意を払っていただきたいところです。

また、たとえ遺族から賠償金が取れても、保険に加入していても、事故の発生によって大家さんが受けるダメージは甚大なものとなりますから、少しでも異変を感じたならば「警察に連絡して、ドアを開けてみる」のが最大の防衛策となるでしょう。

なお事前に異変を察知する手段として、「大家さん・入居者間での挨拶や立ち話を日常的に行う」「入居者に町内会への参加を勧める」などの方法は非常に有効ですし、

民生委員や電気・ガス・水道の検針員などとコミュニケーションを取るように心掛けることも重要です。(彼らと会話を交わすことによって入居者の異常を察知できるケースも少なくありません)

そしてこのように考えて行くと、アパートや賃貸マンションの経営をビジネスとして割り切るのではなく、人と人との繋がりを重視した「血の通った」ものとすることこそが、孤独死を未然に防ぐポイントとなるのではないでしょうか。

ではこれにて「賃貸物件の孤独死対策について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいとます。