2015年、世間を大いに騒がせたのがマイナンバー制度の運用開始のニュースでした。

そして当時は、この制度がスタートすることによって「日々の生活が飛躍的に便利なる」との期待が膨らむ反面、「様々な問題が発生する」との不安の声も大きく、人々は大いにこの話題で盛り上がったものです。

但し、既に制度が始まって数年が経過していますが、日常生活においてその名を耳にする機会はめっきり少なくなりましたし、「マイナンバー通知カードは持っているが、マイナンバーカードの交付はまだ受けていない」という方も多いようですから、この制度が浸透して行くのにはもう少し時間が必要なのかもしれません。

その一方で確定申告等の「税務系イベント」では、既に個人番号の記載は必須となっていますから、制度がスタートしたばかりの時は「慣れない手続きに頭を悩ませた!」という方も多かったのではないでしょうか。

なお、こうしたマイナンバー絡みの問題として、一時期不動産業界を騒がせていたのが「賃貸物件を借りている法人様から、大家さんへマイナンバーを教えて欲しいという問い合わせが殺到する」という事件でした。

そこで本日は「支払調書とマイナンバーについて解説いたします!」と題して、問い合わせが殺到する結果となった経緯や、大家さん側の対応方法などについて解説してみたいと思います。

支払調書とマイナンバー

 

支払調書とは

さて、この「大家さんのマイナンバーを教えて欲しい」という問い合わせは、法人が税務署より提出を求められる「支払調書」という書類についての制度変更が問題の発端となっていました。

そこでまずは、「この支払調書という書類がどのようなものであるか?」という点から解説を始めさせていただきたいと思います。

そもそも『支払調書』とは事業を行っている法人に対して、一定の事情が発生した際に税務署より提出を求められる「法定調書」の一種を指す言葉です。

ちなみに法定調書には60にも及ぶ種類があるとされており、その中にはサラリーマンにはお馴染みの「源泉徴収票」なども含まれます。

そして、これらの法定調書の中でも多くの種類を占めるのが『支払調書』と呼ばれる一群の書式であり、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」「利子等の支払調書」「国外公社債等の利子等の支払調書」など様々な種類が存在しているのです。

なお、支払調書をわかりやすく説明するならば「法人が何らかの支払いを行ったことを明確にするため、税務署と相手方に対して発行する証明書類」ということになるでしょう。

そして今回の問題の原因となったのは「不動産の使用料等の支払調書」という書式についてであり、法改正によって『法人名義にてアパートや駐車場などを借りており、賃料の合計が年額15万円を超える場合には支払調書を税務署に提出しなければならない』という新しいルールが定められたことによります。

もちろん単なる制度変更ならば、法人が自分で勝手に支払調書を作って提出するだけなのですが、マイナンバー制度の導入に伴い「支払調書の提出時に、大家さんのマイナンバーを記入しなければならない」ということになってしまったのです。

こうした事情から、物件の管理を請け負う不動産業者や大家さんに対して、一時期「マイナンバーを教えて欲しい」という問い合わせが殺到した訳ですが、様々な危険性が指摘されるマイナンバーをそう簡単に教えられる訳がありませんよね。

特に物件の管理を請け負う不動産屋さんにしてみれば、「自分が大家さんからマイナンバーを聞き出しておいて、それが万が一悪用されてまったら・・・」という懸念から、この問い合わせへの対応に大変苦労させられることとなったのです。

 

不動産の使用料等の支払調書について

では実際、自分が大家さんの立場で「マイナンバーを教えろ」と言われたら、どのような対応をすれば良いのでしょうか。

この点をご説明するためには、「不動産の使用料等の支払調書」の制度について更に深い理解が必要ですから、如何に要点をまとめておきます。

大家さんに罰則なし

まず申し上げたいのは、たとえ借主の法人からマイナンバーの問い合わせを受け、これを拒否したとしても、大家さんには一切罰則はありません。

マイナンバーを聞いて来る側の法人さんの中には、この点を勘違いしている方々も多いようですが、物件オーナー様がどうしても教えたくないのであれば、それはそれで構わないのです。

オーナーが法人であれば、マイナンバーの提示は不要

そしてもう一つご理解いただきたいのが、大家さんが法人名義で賃料を受け取っている場合には「マイナンバーを教える必要がない」という点です。

もちろん法人にもマイナンバーは割り振られていますが、法人のマイナンバーは国税庁のホームページにて番号を誰でも確認できるシステムとなっています。

よって法人の場合には「国税庁のホームページで勝手に確認して」と返事をしておけば良い訳です。

なお、支払調書の作成が義務付けられているのも「法人だけ」となりますから、個人の借主から「マイナンバーを教えてくれ」という問い合わせについては、断ってしまって構いません。

拒否された法人には説明義務がある

では、大家さんからマイナンバーの公開を拒まれた法人さんは、その後どうなるのでしょうか。

実は、支払調書の提出を税務署から求められている法人さんも、処理の仕方次第では罰則を逃れることができます。

その方法は「自分が努力したにも係らず、大家さんからマイナンバーの公開を拒否された経緯」を記録にして、税務署に提出するという方法です。

この制度自体が運用を始めたばかりですから、「どのレベルの記録を提出しなければなかないか」については意見が分かれる部分でもありますが、「電話や訪問、郵送などで何回断れらたかの記録」や「大家さんがマイナンバーの公開を拒否した理由」などは最低限必要になることでしょう。

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どのようにしたら、リスクなく番号を教えられるか

さて、ここまでお話しして来た通り、大家さんに番号を教える義務はありませんし、番号を教えてもらえなかった法人にも「救済策」は用意されています。

しかしながら、オーナー様から見れば、相手の法人さんは物件を借りてくれているお客さんでもありますから、「あまり無下な対応をするのも心が痛む」という方もおられるでしょう。

そして、こうした場合には安全性を確保した上で、ナンバーを教えるという方法もあります。

実は他人のマイナンバーを管理するにあたり、法人には様々な「情報漏えいを防ぐための対策」が義務付けられており、各会社はマイナンバーが記された書類を金庫に保管するなどの防犯対策を講じているはずです。

そこで、「自分がマイナンバーを知らせた場合に、どのようなセキュリティー対策を講じてくれるか」などと言った質問をして、納得の行く回答が得られた場合にのみ番号を教えるのであれば、恐怖心もかなり薄らぐことでしょう。

また、法人によっては「情報を漏らさない旨を記した念書」などを用意している場合も多いようですから、こうした文書を作ってもらえれば更に安心感が高まるはずです。

大家さんにもメリットがある

なお支払調書の作成は、実は大家さんにもメリットがあります。

実はこの「不動産の使用料等の支払調書」の提出義務者は、物件を借りている法人さんと、貸している大家さんの双方です。

そして、このようなお話をすると「税理士に申告をお願いしているが、一度も提出を求められたことはない!」と反論される方もおられるでしょうが、法令にはしっかりと『大家さんにも提出義務あり』と記されています。(個人のオーナー様のみ)

ちなみに現在の時点では、大家さんに対して税務署から「支払調書」の提出が求められるケースは稀ですが、今後も現状のままの状態が続くとは限りません。

ですから、「マイナンバーを教える代わりに、自分の分(大家さんの分)の支払調書もしっかりと発行するように」と約束させれば、大家さんにとってもそれなりのメリットがある訳なのです。

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支払調書まとめ

さてここまで、支払調書とマイナンバーについて解説してまいりました。

マイナンバー制度の導入により、私たちの生活にも様々な影響が出始めていますから、「余計なことをしてくれた」と感じておられる方も多いことと思います。

しかしながら、この制度の導入には「税収を漏れなく確保したい」という狙いの他にも、「犯罪組織の活動を停止させ、不正な会計処理を行う企業を撲滅する」という意図も隠されていますから、面倒ではあるとは思いますが、是非ともご協力をお願いできればと思います。

今後も本ブログでは、マイナンバー制度に係る不動産の話題があれば、逐次ご説明してまいるつもりです。

ではこれにて、「支払調書とマイナンバーについて解説致します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。