近年、巷で囁かれているのが「生産緑地に係わる2022年問題によって地価が急落する」との噂です。

そして、バブル経済崩壊時に「地価の大暴落」という憂き目を経験している日本人としては、このような噂を耳にすれば『正直、非常に不安になる』というのが本音のはずです。

そこで本日は「生産緑地の2022年問題について解説いたします!」と題して、この噂の真偽について考えてみたいと思います。

生産緑地2022年問題

 

生産緑地って何だろう?

ではまず最初に、「そもそも生産緑地って何だろう?」という点からお話を始めてまいりましょう。

生産緑地とは都市計画法によって定められる地域地区の一種となり、都市部において一定規模の緑地を確保するべく開発に制限が課せられたエリアとなります。

高度経済成長時代、我が国の都市部は深刻な住宅不足の状態となっていたため、政府はそれまでの「農地に対する税務上の軽減制度」を撤廃しました。

これによって農地を放出する農家が激増し、「住宅地を確保したい」という政府の思惑は成功することになりますが、過度な開発は『住環境の悪化』や『防災の観点からも大きな問題がある』ことを指摘され始めます。

そこで国は生産緑地法を施行し、一定の条件を満たした農地については再び税制の優遇を受けられる制度を導入することにしたのです。

そして1992年、この生産緑地法の改正が行われ500㎡以上の面積があり、地方自治体が指定を行った農地(生産緑地)については、

  • 30年間、農地として利用(営農)すること
  • 営農に必要な施設以外は建築できない

などの条件を付する代わりに、東京23区や首都圏・近畿圏等の政令指定都市において

  • 固定資産税の優遇
  • 相続税等の納税猶予措置(更に20年間営農を続ければ猶予された分の納税は免除)

という特典を与えることにしたのです。

なお、この法改正によって全国で12000ヘクタールを超える生産緑地が誕生することとなり、都市部においても適度な緑地が残るバランスの良い住環境が維持されることとなりました。

生産緑地の2022年問題はこうして起こる!

さて、これまで解説にて生産緑地の概要についてはご理解いただけたことと思いますが、ここで気になるのが「何故、2022年問題が生じるのか」という点でしょう。

前項でもお話しした通り、生産緑地においては30年間の営農義務が課せられることになりますが、生産緑地法が改正された1992年から数えて30年目に当たるのが「2022年」ということになります。

また、この30年が経過した後は特典として与えられていた税務上の優遇措置も適用されないルールとなりますから、生産緑地を保有する農家の負担は一気に増大することになるのです。

そして、もしもこれらの生産緑地が一気に売りに出されることになれば、都市部において12000ヘクタール(東京で言えば世田谷区と大田区の面積合計を超える広さ)もの土地が売却されることになりますから、『地価が一気に下落するのでは?』という予測が成り立つことになります。

※生産緑地の指定が解除された土地については地方自治体に買取りを求めることができる等のルールもありますが、必ず買ってもらえる訳ではありません。

そこで次項では、「果たして2022年に本当に地価の大幅な下落が発生するのか?」という点について考えてみることにいたしましょう。

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生産緑地の指定解除で本当に地価は急落するのか?

ここまでの解説をお読みいただいた読者の方の中には『地価の大暴落が発生したらどうしよう?』と不安な気持ちになられている方もいらっしゃることと思いますが、結論から申し上げれば「地価の下落が起きる可能性は非常に低い」というのが私の予測となります。

そこで以下では、「地価の暴落が発生しないと思われる理由」についてお話ししてまいりましょう。

特定生産緑地の指定

実は生産緑地に係わる2022年問題については、政府も危惧していたようで2018年から「特定生産緑地」という新たな制度をスタートさせています。

この制度を利用して特定生産緑地の指定を地方自治体から受けることができれば、たとえ2022年に生産緑地の指定解除を受けても、その後10年単位で特定生産緑地として固定資産税等の税制優遇を受けることが可能となるのです。(10年毎に更新も可能)

また、生産緑地の場合にはビニールハウスや農具小屋等の営農に関連した施設しか敷地内に建設できなかったのに対して、特定生産緑地では「野菜や果物の直売所」や「収穫した作物を利用したカフェ・レストラン」の設置が許可されることになりました。

近年、農家は潜在的な後継者不足の問題を抱えていますが、特定生産緑地の指定を受ければ営農の義務も10年刻みとなり、高齢となった農業従事者の負担を軽減させることができるでしょうし、カフェやレストランの経営ができるとなれば年老いた両親の跡を継いで農家に転身する若者も増えていくように思えます。

農地賃貸制度の拡充

これまでの生産緑地においては、「農地を第三者に貸し出した場合には固定資産税等の税制優遇を受けることができない」というのがルールでした。

また、農地を第三者に貸し出した場合には土地の返還について地方自治体の許可などが必要(農地法18条)であり、一度農地を賃貸してしまうと『簡単には取り戻せない』のが実情だったのです。

しかしながら2018年に施行された「都市農地の賃貸の円滑化に関する法律」においては、農地を第三者に貸し出した場合でも生産緑地の税制優遇を継続することが可能となりましたし、農地法18条による制限も受けることがなくなりました。

これにより、今後とはビジネスとして農地の貸し出しが行える可能性も出てまいりますので、2022年を境に一気に農地が売り払われるリスクはかなり軽減されているはずです。

生産緑地の分布と期限

1992年の生産緑地法の改正から30年目となる2022年ですが、この年を迎えたからと言っても一気に全ての農地が生産緑地の指定を外される訳ではありません。

ちなみに国土交通省の資料によれば、2022年に生産緑地の指定を外れるのは全体の約80%程度とされています。

また、各県の生産緑地の分布を見てみれば、東京は全体の約25%を占めるものの23区内には指定区域が少ないですし、大阪府16%、埼玉県13%、神奈川県10%といった具合にかなり分散されていますから、一定量の生産緑地が売却されたとしても地価への影響は限定的となるはずです。

更に、相続税の優遇を受けるためには相続発生から20年間は営農を続ける必要がありますから、たとえ1992年に生産緑地の指定を受けていたとしても、2022年に土地の売却できない農家さんも多いことでしょう。(特定生産緑地制度を利用せざるを得ない)

 

このように考えていくと、2022年に生産緑地の指定が解除されたからといって全ての農地が売りに出されるとは考え辛いですし、某地方自治体が行ったアンケートにおいても「直ぐに農地を売却する気はない」と答えた農家さんは意外に多いとの結果も出ています。

以上の理由により、管理人としましては「生産緑地に関連した2022年の地下暴落が起きる可能性は非常に低い」と予想しています。

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生産緑地の2022年問題まとめ

さてこれまで、生産緑地の2022年問題というテーマで記事をお届けしてまいりました。

冒頭でも申し上げた通り、バブル崩壊時の地価の大暴落を経験している日本国民としては、このような噂を耳にすると『気が気ではない』というのが正直なところであるかと思いますが、今回の問題については「まずあり得ない」と考えていてよろしいのではないでしょうか。

但し、現役の不動産業者としては『近年の地価の上昇はバブル期と同じく、実態を伴わない非常に危いものである』との感覚が否めませんので、不動産の転売をなさっている方は是非ご注意いただければと思います。

ではこれにて、「生産緑地の2022年問題について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせいただくことといたします。