お部屋探しにおいて「お気に入りの物件」が見付かり、入居審査を通過すれば、その後に待ち構えているのが『賃貸借契約の締結』というイベントとなります。
そして「賃貸物件の契約」と聞くと、『なにやら気軽なイメージ』を持たれるかもしれませんが、実はこのイベントには注意すべき点が多々存在しているのです。
そこで本日は「賃貸契約の注意点を解説いたします!」と題して、これからお部屋を借りる方には是非覚えておいていただきたい『賃貸借契約締結時のポイント』についてお話ししてみたいと思います。

賃貸借契約においては事前確認が最も重要
賃貸借契約の締結は「管理会社の事務所」で行われることが多く、
- 契約必要書類の確認
- 契約金の入金確認
- 重要事項説明と説明書への署名・捺印
- 賃貸借契約書の読み合わせと署名・捺印
- 賃貸保証会社の利用手続き
- 借家人賠償保険への加入手続き
- 鍵の引渡し(契約時点で賃料発生日を迎えている場合のみ)
以上の流れで手続きが行われることになります。
そして、ここで注目すべきなのが「契約金の入金確認」が執り行われることからもわかる通り、この段階で既に契約金の授受が完了しているという点です。
よって、もしも重要事項の説明において「はじめて事故物件であることを知らされた」、契約書の読み合わせで「借主に極端に不利な条項が組み込まれている」といった事実が判明した場合には、手続きを中断して契約金の返還を求めなければなりませんが、一般の方がこれを行うにはかなりの勇気を必要とするのは間違いありません。
そこで重要となってくるのが、
事前に契約書や重要事項説明書のひな型を入手して、その内容を把握してから契約締結に臨むこと
となるのです。
一般的に賃貸の契約においては事前に契約書等のひな型を渡されるケースは稀ですが、入居審査が完了した段階で管理会社へ提示を求めれば断られることはまずないはずです。
※審査が完了した段階ではまだ書類が未作成のため、手元に届くまでに時間が掛かる場合もありますが、ひな型の提示事態を拒む業者ような管理会社は要注意となります。
但し、一般の方が契約関係書類のひな型を見ても問題点に気づかない場合もあるでしょうから、ここからはチェックすべきポイントや注意点について解説していきます。
重要事項説明書の確認
重要事項説明書において確認すべきポイントは
- 設備に関する事項
- 備考欄や告知事項
- 登記に関する事項
以上の3点となりますので、以下で詳しくご説明してまいります。
設備に関する事項
入居審査を通過した段階で既にお部屋の内見は完了していることと思いますが、契約締結に際しては室内の住宅設備が
- 残置物/以前の入居者が所有権を放棄して置いていった備品であり、故障等が発生しても物件オーナーは責任を負わない
- 設備/物件オーナーの所有物であり、使用方法に問題がない限りはメンテナンス費用・交換費用を大家が負担する備品
以上のどちらであるかをしっかりと確認することが重要となります。
例えば契約しようと考えている部屋にエアコンや温水暖房便座が設置されていれば「設備が充実した物件だな」と思うでしょうが、これが残置物である場合には故障した際の修理費用や、撤去・交換費用の全てを借主が負担しなければなりませんので、この点には大いに注意が必要です。
なお、重要事項説明書において(有り)と記載されている備品は「設備」ということになりますが、
『設備の欄に記載がない』『設置されているのに(無し)と記載されている』という場合は原則として「残置物」となる
ので、この点はしっかりと確認しておきましょう。
ちなみに、元々は「設備」として設置してあったものの、型式が古くなった来たので大家が責任を逃れるために新規募集に際して『残置物』として扱うというケースも決して少なくありません。
よって、事前に重要事項説明書のひな型を入手して「エアコンは残置物ではなく、設備にして欲しい」などの要望を、管理会社を経由して大家さんに相談することもできますので、こうした意味でも『設備と残置物の確認』は契約前に行っておくべきなのです。
備考欄や告知事項
重要事項説明書においては
- 生活環境に影響を及ぼす騒音や振動等を発生させる施設の存在(線路や幹線道路、工場等)
- 対象物件特有の容認事項(サッシの建付けが悪い、生活音が響きやすい等)
- 心理的瑕疵に該当する事案が発生したことがある(事故物件である)
など、「入居に際して借主に知っておいてもらいたい事項」が必ず記載されているものです。
そして、こうした事項が書かれているのが重要事項説明書の『備考欄』や『告知事項』といった部分になりますから、契約前にひな型を入手した場合には必ず確認を行うようにしましょう。
なお、心理的瑕疵に該当する事項でも
- 隣室や他の部屋で発生した事故
- 共用部分で発生した事故
については、国土交通省のガイドラインにおいて「説明が不要(賃貸物件に関してのみ)」とされているため、告知がなされないケースも少なくありません。
但し、入居希望者から「他の部屋や共用部分で事故が発生していないか?」と尋ねられた場合には、包み隠さずに告知を行うルールになっていますので、記載がなくとも心理的瑕疵については事前の問い合わせは行っておくべきでしょう。
更に、重要事項説明書に特別な記載がなくとも「極端に生活音に敏感な入居者」や「近隣トラブルを起こしたことがある癖のある入居者」が住んでいないかという点について、管理会社へ口頭で確認しておくと安心です。
ちなみに、重要事項の説明においては洪水ハザードマップの内容についても取り扱われることになりますが、こちらについては自治体のホームページからハザードマップを閲覧することができますし、重要事項説明では扱われない「地震」や「液状化」等の災害予測図も見ることができますので、契約前にしっかりとチェックしておきましょう。
登記に関する事項
我が国には登記という「国が国民の権利を保証する制度」があり、土地や建物を保有している者(大家さん)については登記簿へ『所有権を有していることが記載されている(登記されている)』のが通常です。
よって、不動産の取引においては「物件の真の所有者が誰なのか」を知るために登記事項証明書(登記簿謄本)を取得しての調査が行われることになります。
また、登記事項証明書には所有権以外にも「物件に設定されている権利」が掲載されており、その内容を重要事項説明書に記載しなければならないのですが、
- 抵当権
- 差押え
- 仮差押え
以上の権利が登記されている場合には注意が必要です。
「抵当権」は土地や建物を担保に入れて資金の借入れを行う際に設定される権利となります。
よって、アパート等の建築や購入に際してローンを利用した場合には必ず設定される権利となりますので、権利が設定されていること自体が問題という訳ではありません。
但し、ローンの返済が滞った場合には物件が競売に掛けられ、これを競落した者に退去を求められた場合には、
6ヵ月間の猶予期間をもって退去しなければならない上、敷金の返還も受けられないルール
となっていますので、そのリスクを覚悟の上で契約を締結する必要があります。
※市場に流通する多くの賃貸物件には抵当権が設定されていますので「抵当権が設定された物件を避ける」という訳ではなく、リスクを理解した上で契約に臨んでいただきたいという意味です。
一方、「差押え」はローンの返済などが滞り、物件が既に競売に掛けられる寸前であることを示す登記事項となりますので、
差押えが登記されている物件は契約をすべきではない
ということになります。
また、「仮差押え」は大家さんが裁判などにおいて一時的に財産を凍結されている状態を示す登記事項であり、『物件オーナーが何らかのトラブルに巻き込まれている』ことを示しますので、こちらについても契約を見合わせのが賢明と言えるでしょう。
登記事項証明書(登記簿謄本)の確認
前項において「重要事項説明書の登記に関する事項」についての解説を行いましたが、登記についての確認は『これだけでは不十分』となります。
実は重要事項説明の登記についての記載は『現在登記されている権利』のみが対象です。
よって、重要事項説明書には一切記載がないにも係わらず、
- これまで何度も差押えを受けてきた
- 物件所有者(大家)が頻繁に変わっている
といった危険な経歴を有する物件も存在し得るのです。
もしも「これまで何度も差押えを受けてきた」というのであれば、資金難により『ローンの返済』や『税金の納付』が滞っていた過去があることがわかりますので、こうした物件は借りない方が得策でしょう。
一方、頻繁に売買されている(大家が変わる)物件は『土地や建物に何らかの問題がある可能性』もありますし、オーナーが外国人などの場合には、日本の賃貸住宅における一般的な常識が大家さんに通じない可能性があるので注意が必要です。
なお、まともな管理会社であれば重要事項説明書作成前に最新の登記簿謄本を取得しているはずですから、説明書のひな型と共に登記識別情報も確認させてもらうべきでしょう。
ちなみに、「登記識別情報の見方がわからない」という方につきましては、本ブログの過去記事「不動産の登記簿謄本とは?わかりやすく解説いたします!」にて詳細な解説を行っておりますので、こちらを是非ご一読ください。
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賃貸借契約書の確認
ここまでご説明してきた重要事項説明書や登記事項証明書は「対象物件の客観的な事実」を知る資料となりますが、本項で取り扱う賃貸借契約書は『大家さんと借主が如何なる内容の契約を締結するか』が書かれた書類となります。
よって、借主にとって極端に不利な契約内容等があれば「承服できない」「訂正を希望する」といったリアクションを行っていくことになるでしょう。
但し、一般の方が賃貸借契約書に目を通しただけで「借主に不利な点」を見つけ出すのは非常に困難であるかと思いますので、契約内容の確認においては本ブログの過去記事「賃貸契約書の内容を解説いたします!(居住用)」をご一読いただければと思います。
この記事においては一般的に広く用いられ「お約束の契約条項」について解説しておりますので、『この記事の内容から逸脱いない条文が並んでいる』ようなら大きな問題はないはずです。
なお、ここで注意が必要になるのが「特約条項」と呼ばれる部分です。
賃貸借契約書の大部分は不動産の業界団体などが提供する『ひな型』が用いられるケースが多いため、どこの管理会社でも大きく内容が変わらないの通常ですが、この特約条項には「対象の物件ならではの特殊なルール」や「大家さんの要望で組み込まれた約束事」などが記されることになります。
ちなみにこの特約条項に組み込まれがちなのが
- 退去時の原状回復に関するルール
- 近隣トラブルを回避するためのルール
などとなります。
原状回復については
借主の故意や過失によって生じた汚損や破損は借主負担、それ以外の経年変化や自然損耗よるものは貸主負担
というのが法律上の原則となりますが、契約書上で特別な約束(特約)を結ぶことで「原則を覆すことが可能となる」という訳なのです。
そして、具体的な原状回復特約の例としては
- ルームクリーニング、エアコンクリーニング費用は借主負担
- 原状回復工事は貸主指定の業者が行う
- 畳の表替え、襖の張替え費用は借主負担
- 壁紙交換は借主負担
などが挙げられるでしょう。
さて、ルームクリーニングやエアコンクリーニング、そして施工業者の貸主指定については一般的に広く組み込まれている特約となりますので、これらの特約についてはあまり問題にならないはずです。(この特約がない物件を探す方が難しい)
これに対して「畳の表替え」や「壁紙交換」については、かなり『貸主に有利な特約である』ということになるでしょう。
こうした特約については『特約を削除してもらえないか』と交渉してみるのも一つの方法ですが、大家さんの強い希望である場合には
不利な特約を結んででも「借りる価値のある部屋であるのか、否か」
という点を十分に精査した上で判断すべきかと思います。
一方、近隣トラブルを回避するための特約の具体例としては
- 深夜の洗濯や掃除は禁止とする
- 近隣トラブルについては大家が介入して助言等を行う、これを無視した場合は解約となる
などが挙げられます。
一見すると「そこまで干渉されたくない」と思うような条文かもしれませんが、迷惑な隣人などと揉め事に発展した場合には『身を守るために非常に有効な特約』とも言えますから、この手の特約が組み込まれた物件の契約には非常に安心感を得られるはずです。
借家人賠償保険の補償内容の確認
そして最後にご紹介するのが「借家人賠償保険の補償内容」の事前確認となります。
借家人賠償保険とは賃貸借契約において借主に加入が義務付けられている保険契約であり、
- 火事を起こして建物に損害を与えた
- 漏水事故を起こし、下階の住人の家財が被害を受けた
- 転倒した際に部屋の備品を壊してしまった
以上のような場合に保険金が支払われることになります。
また、こうした賠償責任以外にも
- 家財保険/家財が盗難被害にあった場合に補償される保険
- 個人賠償保険/自転車事故などで他人に怪我をさせた場合などに補償される保険
などの保険が組み込まれているケースも少なくありません。
なお、通常は賃貸管理会社が代理店を務める保険会社の商品に何の疑問もなく加入させられることになりますが、この保険の内容についてもチェックしておくのが得策です。
例えばお部屋の備品を壊してしまった際などには、当然保険金が支払われるように思われますが、加入する保険商品によっては全く保険金が支払われないケースがあるのです。(保険金が支払われない場合は、借主が自腹で修理を行うことになる)
よって、契約締結までに借家人賠償保険の補償内容を確認しておく必要があり、
- 浴槽
- 洗面化粧台の洗面ボウル
- 便器
- 建具(収納や室内の扉など)
- 窓ガラス
- 壁や床
などに対する破損や汚損について、「どの程度補償される保険商品であるか」は是非チェックしておきたいところでしょう。
もちろん、上記の全ての設備を万全にカバーする保険は滅多にありません(あっても保険料が高額となる)が、極端に補償範囲が狭い商品もありますのでお気を付けください。
また、自転車事故などに備えた個人賠償保険については、安価な保険料でも1億円の補償が付いた商品がありますので是非こうした保険に加入しておきたいですよね。
ちなみに、賃貸管理会社で用意した保険の内容に不満がある場合には、借主が自分で探してきた借家人賠償保険に加入することも原則許されています。
※自己発見の保険会社を利用する場合は保険内容を提示した上で、「貸主が求める最低限の補償内容をクリアーしているか」を確認してもらう必要があります。
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賃貸契約の注意点を解説まとめ
さてここまで、「賃貸契約を締結する際の注意点」をテーマに解説を行ってまいりました。
売買の契約に比べて気軽に考えられがちな賃貸の契約ですが、こうして見ていくと実に多くのチェックポイントが存在することをご理解いただけたはずです。
たとえ賃貸であっても意に沿わない物件に引っ越してしまえば、多くのストレスと損失を抱えることとなりますから、入居審査通過後は是非もう一度この記事を読み返していただければ幸いです。
ではこれにて、「賃貸契約の注意点を解説いたします!」の記事を閉じさせていただきたいと思います。