不動産の権利形態を表す言葉の一つに「借地権」と呼ばれるものがあります。

そして借地権においては、1992年にそれまで用いられて来た「借地法」が廃止され、「借地借家法」という新たな法律の下で制度の運用がなされることとなり、この法改正によって誕生したのが「定期借地権」という、原則として契約の更新が行われない新たな契約形態だったのです。

そこで本日は「定期借地権とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権・事業用定期借地権という3種類の定期借地権について丁寧にご説明いたします!

定期借地権とは

 

普通借地権と3種類の定期借地権

さて冒頭にて、「定期借地権という新たな借地権の形態が創始された」とのお話をいたしましたが、実はこの定期借地権には用途や目的によって3つの種類が存在しています。

そこで本記事では、更新のある通常の借地権(普通借地権)とこの3つの契約形態を比較しながら、そのメリットやデメリットについて解説をさせていただきたいと思います。

※借地権についての詳細は別記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」をご参照ください。

普通借地権

借地借家法の施行に伴い定期借地権という制度が創設されましたが、この新法の下でもこれまで通り「更新が可能」な借地権は存在しており、定期借地権と区別する意味でこれを「普通借地権」と呼んでいます。

そして、この普通借地権においては建物の種類や構造に係らず初回の契約期間を30年以上、1度目の更新では20年以上、2度目以降の更新においては10年以上とするルールが定められています。

なお、借地借家法施行前の旧法借地権(借地法による借地権)と同様に法定更新が認められる上、借地人は建物買取請求権(地主が借地権の譲渡等を認めない場合に、買取を請求できる権利)を行使することができます。

また、地主が契約の更新を拒絶するためには正当事由が必要ですし、契約の成立に当たっては必ずしも書面の取り交しを必要としない点も普通借地権の特色と言えるでしょう。

普通借地権まとめ
  • 契約更新/可(法定更新も認められる)
  • 契約期間/最短でも新規契約時30年以上、1回目の更新で20年以上、2回目の更新以降10年以上
  • 建物買取請求権の行使/可
  • 地主の更新拒絶/正当事由を要する
  • 契約の成立/書面であることを要しない

※旧法借地権(借地法による借地権)の詳細については別記事「旧法借地権と新法借地権について解説いたします!」をご参照ください。

一般定期借地権

前項の解説により更新が可能な普通借地権についてはご理解いただけたことと思いますので、ここからは更新のない「定期借地権」のご説明を進めていきましょう。

借地借家法の制定により導入された定期借地権の中で最もオーソドックスな契約形態が、こちらの一般定期借地権となります。

なお、「一般」という言葉の響きから『ソフトな(ゆるい)契約内容』をイメージされる方が多いかもしれませんが、この契約においては最短でも50年以上の借地権存続期間を定めることが成立要件となっていますので、

その名称に反して「なかなかにハードルの高い契約形態」と言えそうです。(普通借地権の初回契約期間が30年以上であることと比較すると非常に長期となる)

但し、契約期間が長期に及ぶ反面、一般定期借地権で契約された借地においては契約の更新がないことはもちろん、期間の延長もなし、また通常の借地権で認められている地主に対しての「建物買取請求権」も行使できないルールとなっています。

※契約期間を50年以上とすることにより、契約更新なし、期間延長なし、建物買取請求権なしという特約が認められるようになるという解釈です。

※一般定期借地権の成立には書面で契約を締結する必要があります。

なお、契約期間を満了した場合には土地を更地に戻した上で地主へ返却することになりますが、ここで新たに一般定期借地権を締結することも不可能ではありません。

ちなみに一般定期借地権が認められて以来、マンション分譲においては「この定期借地権が設定された物件」が数多く販売されることとなり、契約満了時には「更地にして土地を返還する義務」こそあるものの、『販売価格が格安』というメリットで多くの物件購入希望者のハートをキャッチしているようです。

但し、地主さんサイドにしてみれば「50年という契約期間はあまりに長い」ですし、「契約満了時に借地人が建物の取り壊しを行えるだけの資力を持っている保証がない」などの問題点が存在しているのも事実でしょう。

こうした将来的なトラブルを回避するためには、契約締結時に取り壊しに必要な資金を地主が保証金として預かっておいたり、明け渡しを拒まれた時のために、高額な違約金を設定しておくなどの対策が必要になるかと思います。

更に、一般定期借地権は「1992年にスタートした制度」であるだけに期間満了を迎えるのは少なくとも2042年以降となりますから、「返還を巡って訴訟などに発展した際に、どのような判決が出るのかは誰も知らない」という予測不能な面があるのも確かです。

一般定期借地権まとめ
  • 契約更新/不可
  • 契約期間/最短50年以上(延長不可)
  • 建物買取請求権の行使/不可
  • 契約の成立/書面であることが必須

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建物譲渡特約付借地権

さて、2つ目にご紹介するのが建物譲渡特約付借地権と呼ばれるものです。

こちらの契約形態では借地権の最短存続期間を30年以上とすることが定められており、当然ながら更新はありません。

またその名の通り、契約が満了すると「借地人が建てた建物を地主が買い取らなければならない」という縛りが付加された契約となります。(地主が建物を買い取ることで契約が終了する)

「建物の買取価格」に関しては法令上『相当対価』とされていますが、特約は有効であるため「不動産鑑定評価により示された価格」などとしておけば、買取価格に関する争いは回避できるはずです。

なお、「借地人が契約違反をして、第三者に建物を売却する」というトラブルも想定されますが、契約に際して建物に所有権移転の仮登記などを済ませておけば、こうした問題の発生を防ぐことができるでしょう。

そして、契約締結時に建物譲渡特約付借地権と一般定期借地権(後述する事業用定期借地権でも可)を併用する契約を結んでおけば、地主は期間満了時に建物の買取を拒んで、更地にして土地の返還を求めることも可能です。

ちなみに、この建物譲渡特約付借地権において最大のウイークポイントとなるのがたとえ契約書の定め通りに建物が地主の所有物となったとしても、借地人が建物に住みついたままの状態である場合には、法律上「期限の無い建物賃貸借契約を締結した状態」と判断されてしまい、結局は地主が入居者(借地人)を追い出せなくなるという点です。

こうした事態を回避するためには、借地人と定期建物賃貸借契約を締結して契約期間を限定してしまう方法が有効でしょう。

建物譲渡特約付借地権の契約締結に当たっては必ずしも書面の取り交しは必要ありませんが、後々のことを考えればやはりしっかりと契約書は作成するべきです。

建物譲渡特約付借地権まとめ
  • 契約更新/不可
  • 契約期間/最短30年以上(延長不可)
  • 建物買取請求権の行使/可
  • 契約の成立/書面であることを要しない

事業用定期借地権

そして最後にご紹介するのが、事業用定期借地権となります。

ここまでご紹介して来た2つの契約形態はそのどれもが「大いに問題あり」なものばかりでしたが、こちらは非常に扱い易い定期借地権となるでしょう。

契約の成立要件としては、借地権の存続期間が10年以上50年以下であることに加えて、倉庫や店舗などの事業用物件のみが対象というものになります。

ちなみに設定する契約期間によって運用のルールが若干異なるという特性がありますので注意が必要です。

まず、契約期間10年以上30年未満の事業用定期借地契約については

  • 契約更新なし
  • 期間延長なし
  • 建物買取請求権なし

以上の3点が自動的に特約として付加され、契約終了後は更地で土地を返還しなければなりません。

※契約書から表記3点の特約を排除しても、特約は有効と判断される。

これに対して、30年以上50年未満の事業用定期借地契約の場合は

「契約更新、期間延長、建物買取請求権なし」の特約付加が任意となり、地主と借地権者の間で自由な取り決めが可能となる

というのが特色です。

 

なお、事業用定期借地権の契約締結に当たっては公正証書で契約書を作成する必要があります。

このように、事業用定期借地権は公正証書での契約や事業用物件限定という面倒な点もありますが、これを除けば一般定期借地権や建物譲渡特約付借地権よりも使い勝手の良い契約形態ということができるでしょう。

そして、こうした便利な制度であるがため既に多くの契約が行われており、コンビニエンスストアやファミリーレストラン、ロードサイドの大型ドラッグストアなど、一棟タイプの商業施設の多くがこの事業用定期借地権を利用しています。

ちなみに、事業用として賃貸した土地の建物を借主が宿舎として利用している場合には、これは明確な契約違反となりますので貸主は即座に契約の解除が可能です。

但し、貸主が宿舎として利用されていることを知りながら放置した場合には更新のある一般的な借地権と解釈されてしまう場合もありますから、この点には十分な注意が必要となります。

事業用定期借地権まとめ
  • 契約期間/10年以上50年未満
  • 契約更新/不可(契約期間30年以上なら可)
  • 期間延長/不可(契約期間30年以上なら可)
  • 建物買取請求権の行使/不可(契約期間30年以上なら可)
  • 契約の成立/公正証書であることを要する
  • 契約対象/事業用の店舗など(寄宿舎などは不可)

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定期借地権とは?わかりやすく解説まとめ

さてここまで、借地借家法に規定されている定期借地権の3つの契約形態について解説してまいりました。

なお、本記事をお読みいただければお判りのことと思いますが、一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権の2種は制度としては存在しているものの殆ど利用されていないのが現状です。(一般定期借地権はマンションの分譲において利用されていますが)

そして、こうした状況となってしまっている理由としては、あまりに契約期間が長過ぎたり、「どのようなトラブルが起こるか予測ができない」という経験値不足という問題もありますが、『そもそも制度自体に問題点が多く、使い勝手が悪い』というのが最大の理由でしょう。

こうした現状を考えると、定期借地権という制度自体は導入されたものの「借地権による円滑な土地利用の実現」という目的は殆ど果たされていないのが現実です。(事業用定期借地権は活発に利用されていますが)

2020年には民法の大改正が行われたのですから、借地借家法に関しても更なる改正をして「実務に寄り添った定期借地権の新制度の設立」を目指していただきたいと管理人は切に希望しています。

ではこれにて、「定期借地権とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。

 

 

参考文献

自由国民社編(2015)『土地家屋の法律知識』自由国民社 864pp ISBN978-4-426-12021-4