私たちが日々の生活を送る上では、地震や火災など災害に備えておく必要がありますが、近年特に注目されているのが「土砂災害への対策」となります。

なお、一口に土砂災害と言っても「土石流」に「地すべり」など様々な種類のあるのですが、その中でも『がけ崩れ』については急傾斜地法という法律が定められており、土地利用に様々な制限を行っているのです。

そこで本日は「急傾斜地法とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、急傾斜地崩壊危険区域内の制限の内容や不動産売買への影響などについてお話ししていきたいと思います。

急傾斜地法とは

 

急傾斜地法とは

ではまず最初に「急傾斜地法とはどのような法律であるのか」という点から解説を始めていきましょう。

急傾斜地法は正式名称を「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」と言い、昭和44年(1969年)に『人命を守り、がけ崩れへの対策を講じる』ことを目的に施行された法律です。

なお、「がけ崩れ」とは地震や豪雨などで緩んだ地盤が、斜面を一気に崩れ落ちる土砂災害を指す言葉となります。

そして、急傾斜地法においては

  • 傾斜度が30度以上
  • 高さが5m以上
  • 5戸以上の民家、または学校や病院等の公共施設に被害が発生する可能性がある

以上の条件を満たす土地について、都道府県知事が急傾斜地崩壊危険区域の指定を行った上で

  • 掘削等の作業について都道府県知事の許可制とする
  • 崩壊防止工事等の事業の実施

といった処置を講じることができるのです。

急傾斜地崩壊危険区域内の制限について

さて、前項では急傾斜地法により「都道府県知事が急傾斜地崩壊危険区域の指定を行うことができる」旨をお話しいたしました。

そして、急傾斜地崩壊危険区域においては

  • 水を放流し、又は停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為
  • ため池、用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設又は工作物の設置又は改造
  • のり切、切土、掘さく又は盛土
  • 立木竹の伐採
  • 木竹の滑下又は地引による搬出
  • 土石の採取又は集積
  • 前各号に掲げるもののほか、急傾斜地の崩壊を助長し、又は誘発するおそれのある行為で政令で定めるもの

以上の行為について、作業等を行う前に都道府県知事の許可が必要となります。

なお盛土や切土、掘削などが必須となる「建物の新築や増築」は、当然ながらこの制限の対象となりますのでご注意ください。

急傾斜地法と他の土砂災害に係る法律の関係

ここまで急傾斜地法の制限の内容について解説してまいりましたが、土砂災害については他にも様々な法律が定められています。

そして、これらの「他の土砂災害に係る法律」の中には、急傾斜地法の定めと混同しやすいものや、法律同士の関係性をしっかりと把握しておくべきものもございますので、この項で詳しくご説明しておきましょう。

土砂災害防止法との関係

土砂災害防止法(正式名称/土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)は国民の生命と財産を土砂災害から守るために2001年に施行された法律となります。

なお、この法律では都道府県知事によって「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」という2種類の地域指定が可能な上に、これらの区域と土砂災害防止法における「急傾斜地崩壊危険区域」が隣接していることも多いため、制限の内容等について混同してしまいがちとなりますが、この二つの法律の最大の相違点は

  • 土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域/土砂が降り注ぐ場所(土砂災害の被害を受ける場所)
  • 急傾斜地崩壊危険区域/土砂が崩落する場所(土砂災害の原因となる場所)
  • 以上の違いとなります。

    よって、「土砂災害の原因となる場所」と「土砂災害の被害を受ける場所」が隣接しているのは致し方のないことではありますが、その性質は大きく異なりますから、ハザードマップなどを確認する際には区域の違いをしっかりと把握しておくことが重要でしょう。

    急傾斜地崩壊危険箇所との関係

    ハザードマップで急傾斜地崩壊危険区域を見ていると、時折「急傾斜地崩壊危険箇所」という非常に似た名称の地域指定がなされた場所を見掛けることがあります。

    この急傾斜地崩壊危険箇所は昭和41年(1966年)の建設省砂防課長通達を根拠に指定されるものであり、急傾斜地法との直接的な関係性はありません。

    また、この急傾斜地崩壊危険箇所については建築等についての制限などもなく、単に「土砂災害に注意すべき地域」となりますが、その性質上、急傾斜地崩壊危険区域内と隣接していることも多いため、こちらも混同することがないようにご注意ください。

    がけ条例との関係

    土砂災害を防止するための制限の中には、各自治体が定める「がけ条例」というものも存在します。

    なお、この条例の対象となるのは

    • 傾斜度が30度以上
    • 高さが5m未満

    という条件を備えた崖(がけ)となりますから、急傾斜地崩壊危険区域では対象とならない「低い崖の安全性を確保するための制限」と言えるでしょう。

    なお、このがけ条例で注意が必要となるのは、条例だけに地域によって制限の内容が大きく異なるという点です。

    よって、不動産取引などにおいては条例の内容をしっかりと調査することが重要となります。

    急傾斜地法と不動産取引

    ここまで、急傾斜地法と急傾斜地崩壊危険区域について解説を行ってまいりましたが、こうした法令上の制限は不動産取引にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

    不動産取引においては、賃貸・売買を問わず契約を締結する前に重要事項の説明を行うことが宅地建物取引業法第35条に定められていますが、急傾斜地崩壊危険区域は必ずこの説明において告知されるべき事項となっています。

    また、急傾斜地法においては崩壊防止工事等の事業(急傾斜地崩壊対策事業)の実施を都道府県知事が決定できることとなっていますが、この事業資金の一部については土地の所有者等(受益者)に対しても請求が可能なルール(受益者負担金)となっているのです。

    ※受益者負担金の負担割合などについては、自治体ごとに違いがある点にもご注意ください。

    よって、重要事項の説明においては急傾斜地崩壊危険区域に指定されていることと共に、上記の負担金などが発生する可能性がある場合には、その旨についても告知が必要となります。

    このように急傾斜地崩壊危険区域の不動産取引においては、買主が色々な意味で大きな負担を強いられることになりますので、不動産の資産価値としては低くなってしまうのが通常です。

    なお、急傾斜地崩壊危険区域で建物を新築しようとする場合には、都道府県知事の許可が必要となる旨はお話しいたしましたが「建物のプランによっては許可が下りない」というケースも十分に考えられますし、中古住宅の増築などにおいても同様の事態が発生する可能性が高いでしょう。

    ちなみに、急傾斜地崩壊危険区域に住まう者には引っ越しのための助成金などを用意している自治体もあり、これを目当てに物件を購入しようとする方もおられるようですが、道路計画の保証金などと比べると「その金額は微々たるもの」であるため、その目論見が達成される確率はあまり高くないはずです。

    急傾斜地法とは?わかりやすく解説まとめ

    さてここまで、急傾斜地法をテーマに記事をお届けしてまいりました。

    線状降水帯やゲリラ豪雨が頻発する昨今では、土砂災害に係わる危険区域の情報は「命に係わる情報」と言っても過言ではありませんので、不動産売買などに際しては正しい知識を身に付けて、お取引に臨んでいただければと思います。

    なお、砂防4法と呼ばれる土砂災害関係の法律については別記事「土砂災害対策の法律について解説いたします!」にて詳細な解説を行っておりますので、こちらも是非ご一読ください。

    ではこれにて、「急傾斜地法とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。