不動産の取引態様といえば、「売買」と「賃貸」というのが基本となります。
このようなお話をすると「何を改めて・・・」とお思いになられるかもしれませんが、実はもう一つ「交換」という取引の形態があるのをご存じでしたでしょうか。
あまり不動産に詳しくない方にとっては、「何それ?」といった感覚だと思いますが、実は不動産屋さんにとっても「経験したことがない・・・」という方が殆どであるという、非常にレアな取引の態様となります。
なお『実際にやることは?』といえば、土地であれ、建物であれ、不動産を交換するだけというシンプルな取引となるのですが、とにかく取引件数が少ないが故に「どうしてよいものやら・・・」と途方に暮れてしまう不動産業者さんも少なくないのが現実のようです。
そこで本日は、私が実際に経験した「不動産交換契約」の概要をレポートさせていただきたいと思います。
では、早速「交換契約に関する体験記」をスタートさせましょう。
交換契約はこうして始まった
私が初めて経験した交換契約の案件は、売買部門に配属されて5年目の秋に突然もたらされます。
以前、資産運用に関するご相談でご来店された50代の姉妹から、突然のお呼び出しを受けたのが、全ての始まりでした。
この姉妹、親御さんからそれぞれ一等地にある土地を相続しておられ、各々がご主人と共にそこに自宅を建てて生活をしておられました。
お話の内容や姉妹の優雅な立ち振る舞いを見ているだけで「何不自由ない生活を送っている」ことが手に取るように判るお二人でしたが、実はお姉さんの方が旦那さんと共に「田舎暮らし」を考えておられ、自宅をアパートに建替えたいとの希望をお持ちだったのです。
そして色々とご相談した結果、私が紹介した建築会社にて自宅をアパートへと建て替えることとなり、現在はその物件の賃貸管理も私の会社で担当させていただいております。(自宅の取り壊しと共に、田舎暮らしもスタートされました)
こうした経緯がありましたから、今回呼び出されたのも「アパートの建物にトラブルでもあったのかな?」と思っていたのですが、姉妹揃ってのご相談という点については解せないものがあります。
そんな疑問を抱きながらも、待ち合わせ場所である妹さんの自宅に伺います。
まずは簡単な挨拶を済ませて本題に入りますが、そのご相談内容はなかなかにレアなものでした。
実は田舎暮らしを始めたお姉さん夫婦には、結婚している息子さんがおられるのですが、そろそろマイホームの購入を考えておられるとのことです。
但し、なかなか良い物件が見付からず、改めて立地や土地の大きさ等を検討し直していたところ、妹夫婦の自宅が建つ土地がベストとの結論に達したといいます。
一方、妹夫婦は先に田舎暮らしをしている姉夫婦を見て、『自分たちも田舎で生活をしたい』との夢を抱くようになっていたようです。
なお運良く、田舎で暮らす姉夫婦の自宅の近くに「売地」があるのを見付けることができ、既にこの土地を購入済だといいます。
そこで今の自宅をアパートに建替えて、賃料収入を得られる態勢を整えた上での移住を考えていたところに、「姉夫婦の息子がマイホーム用地を探しているという話」が舞い込んで来たという訳です。
つまり、「妹が所有する自宅」と「姉が持つアパート」を交換すれば、姉は息子へマイホーム用地を提供することが可能となりますし、妹夫婦は建替えをせずして築浅のアパートをGETできることになります。
そして、この交換の取引を担当する仲介業者として、私に白羽の矢が立てられたという訳なのです。
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問題は物件の評価!?
このご相談を受け、早速、私は交換契約に向けての準備を開始します。
もちろん、これまでに交換契約の経験はありませんし、会社の先輩に聞いても経験者は皆無という状況です。
そこでネットで情報を調べたり、仲良くしている司法書士などにも相談して取引のノウハウを収集することにします。
また、私の会社が加入する不動産協会のホームページにも様々な契約書の雛形をダウンロードできるサービスがあり、この中に交換契約の書式を見付けれることができましたので、書類作成にあまり苦労はなさそうです。
さて、これまでにリサーチした内容を踏まえて、まずは契約書を作成してみることにしますが、意外なことに『通常の売買』との大きな違いは、「交換対象となる不動産それぞれの価格を表示し、差額の受け渡しをする」という点と、「違約金の取り決め方が異なる」という2つのポイントのみでした。
違約金に関しては、通常の売買ですと「売買価格の10%」といった取り決め方なのですが、交換の場合には、二つの価格が存在するため「価格の高い方の10%」といった取り決め方が一般的である模様。
なお、取引を行うに当たって最も問題となりそうなは「それぞれの不動産に価格を付けなければならない」という点の方になりそうです。
もちろん、当事者同士が納得しているのであれば『交換する物件に如何なる価格を付けようと自由』なのですが、これを許さないのが「税務署」となります。
もしも不動産の価値に大きな乖離があるにも係わらず、差金のやり取りをせずに交換を済ませてしまった場合には、「贈与」という扱いを受けてしまうはずです。
そこで、『迂闊な価格を付けて、後々問題になっては不味い!』と考えた私は、会社の顧問税理士に相談を持ち掛けてみることにしました。
ただ、税理士であっても『贈与とみなされない交換価格を算出する作業』はある程度の手間を要するものであるらしく、「相談料として5万円程の報酬が欲しい」と言われてしまいます。
幸いお金には困っておられない姉妹であったため、税理士の要望にもご快諾を頂くことができ、後日、税理士からのレポートが上がって来ます。
今回、交換の対象となる二つの土地はお隣同士であり、面積も共に30坪程と非常に条件の近い物件ではあるのですが、妹さんのマイホームは築30年の戸建てとなります。
これに対してお姉さんの土地には築3年のアパートが建築されていますし、投資物件として貸出している点などを加味すれば、当然「ある程度は評価に差は生じるはず」とは思っていたのですが、税理士が弾き出して来た2つの物件の価格には2000万円を超える差額が生じていたのです。
この結果を目にして「どんなにお金持ちだろうと、流石にこの差額を知ったら交換を断念するのでは・・・」とも危惧していたのですが、これにも富豪姉妹は動じることなく「決済の場において差額の精算を行う」ことでお話を進めることなりました。
こうして遂に、人生初の交換契約が行われることとなったのです。
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交換契約・決済、そしてまとめ
ちなみに交換取引とは言っても、仲介に入る以上は物件調査や重要事項の説明が必須となりますが、契約の当事者である姉妹にしてみれば『これまで散々お互いに馴染んで来た土地や建物の説明』となりますので、私の説明も「完全に聞き流されている雰囲気」です。
また、2000万円の差金も現金で用意して来るとのことでしたので、今回は契約と同時に決済も済ませることにしました。
そして重要事項の説明に続き、『一応やっておくか的な契約書の読み合わせ』が終われば、待機してもらっていた司法書士に登記必要書類を預けて、取引は完了となります。
非常にレアな取引形態であるため、管理人的には結構気合を入れて契約に臨んでいたのですが、結果的にかなり「拍子抜けした結末」となってしまいました。
但し、交換契約の肝は「如何に贈与の扱いを受けないようにするか」に尽きることが解ったことは大きな収穫であったように思います。
もしこの記事をお読みに方の中に、交換契約を控えた不動産業者さんがおられましたら、クライアントの希望で適当な値付けをして、後でクレームになることだけは無いように、気を付けていただきたいものです。
また、複数の投資物件を持っている投資家さんにおかれましては、「小さなアパート数棟とビル一棟を交換する」等、交換契約を収益物件取得の手段として活用するのも面白いのではないかと思います。
様々な可能性を感じる交換契約を、あなたも是非ご活用されてみては如何でしょうか?
ではこれにて、「不動産交換契約の取引をレポート!」の体験記を締め括らせて頂きたいと思います。