さて、皆様は「供託」という言葉をご存じでしょうか。

ご商売をされている方や、アパート・賃貸マンションなどの収益物件をお持ちの大家さんなら「聞いたことくらいはある」かとお思いますが、その制度や仕組みについて詳しくご存じの方は少ないことと思います。

またこの供託という制度、「不動産の賃貸」において用いられることとなれば、そこには必ずと言ってよい程に「賃借人・オーナー様間でのトラブルを予感させるワード」ともなっているのです。

そこで本日は、「供託金の取り戻し方をお教えいたします!」と題して「供託制度のあらまし」と「賃借人に賃料を供託されてしまった時の賢い対処法」をご紹介して行きたいと思います。

供託金の取り戻し方

 

供託制度とは

ではまず最初に、「供託」という制度の概要からお話しさせていただきたいと思います。

そもそも供託とは、国が運営する「供託所」や国家から委託を受けた「倉庫業者」などが行う金銭や物品の預かり制度を指す言葉です。

さて、このようにお話しすると「公共の預り所なんて、何に利用するの?」というお声が聞こえて来そうですので、供託所の利用例を挙げてみましょう。

例えばある人が、建築業者にマイホームの新築工事を依頼して建物が完成したとします。

しかし、完成した建物には欠陥があり、その修復が終わるまで工事代金の支払いを保留しなければなりません。

ところが請負契約書には「いつまでに工事代金を支払うこと」などといった記載があるはずですから、たとえ工事の不備が原因だとしても易々と工事代金の支払いを拒むことはできない訳です。

そして、このような場合に「支払うべき工事費用を供託」しておけば、施主は支払いを拒んだことにはなりませんし、工事業者も補修工事さえ完了すれば支払いが受けられることが確定していることになりますから、建築会社・施主共に安心感を得ることができるでしょう。

このように「一時的にお金を預けておきたい」というシチュエーションにおいて非常に便利な供託制度ではありますが、どんなお金でも気軽に預かってくれる訳ではありません。

実は供託所にお金を預かってもらうためには、個々の案件ごとに法的根拠が必要とされており「目的による供託の種別」が存在しています。

弁済供託

前項にて例を挙げた、代金の支払などを保留する場合に利用する供託の種別となります。

保証供託

取引に対する保証金などを預入れしておくケースで用いられる供託の種別です。

実は不動産屋さんも開業する時には、一定金額をこの保証供託で預入れをすることが義務付けられており、「取引上のトラブルが発生して不動産業者に損害賠償を請求しようとしたが、支払いが見込めない場合(倒産・支払い能力がない)」などに、被害を被った者はこの供託金(営業保証金)から弁済を受けることができます。

執行供託

民事執行法による差し押さえを受けたものの支払先が未だ確定していない債務などに対して用いられる供託種別となります。

例えば、会社が「これから支払うはずの社員の給料」に対して裁判所から差し押さえの命令を受けた時などには、一旦これを供託することになる訳です。

没収供託

選挙の際などに収める保証金の供託方法となります。

なお落選した場合には没収となるため、この名前が付けられました。

保管供託

金融機関などが経営不振に陥った際などに、資金が散逸するのを防ぐために使われる供託制度となります。

 

このように一口に供託といっても様々なパターンが存在していますし、それぞれの種別にて定められている要件を満たさない供託は拒否されてしまうことになるのです。

一方、供託された資金を取り戻すための手続きについても厳格なルールが定められており、「還付」と「取戻し」の2種類の方法があります。

なお、「還付」は本来お金を受け取るべき被供託者への支払いとなり、「取戻し」は供託を行った者が預り金を受け取る行為を指します。

スポンサーリンク

不動産取引における供託

さて、供託制度についておおよそのことをご理解いただけたところで、不動産取引における供託制度の使われ方についてお話ししていきましょう。

なお数ある供託のパターンの中でも、不動産取引で利用されることが圧倒的に多いのは賃料などの支払いを巡って「大家さんと賃借人の間で行われる供託(弁済供託)」となります。

例えば、大家さんは賃貸借契約の更新を行いたくないが、賃借人は契約の継続を希望していたとしましょう。

このようなケースにおいては、「大家さんが賃料の受け取りを拒む」ことも珍しくはありませんが、賃借人は家賃を供託することで『賃料不払いのレッテルを貼られずに済む』ことになります。

また、大家さんから「賃料の値上げ」を迫られたが、賃借人に応じる気が無い時などにも、従前の家賃を供託しておけば『賃料未払いという扱いを回避』することができる訳です。

ちなみに、このようなお話をすると「供託なんていう手段を執る賃借人が本当に居るの?」という声も聞えそうですが、こうした厄介な入居者は確実に存在しています。

但し、ここまでやる者はそれなりの知識とノウハウを有しているはずですから、大家さんとしても「大いに注意が必要」になるのです。

そして、ここでもう一つ気を付けなければならないのが、賃借人によって供託されたお金を大家さんが何も考えずに「還付」してもらうのは非常に危険な行為であるということでしょう。

実は賃料などが供託されると供託所より大家さんにもお知らせが届き、「一定の手続きを行うことで供託された賃料をオーナー様が受け取ることができる旨」が伝えられます。(これを「還付」と呼びます)

但し、この還付を受けるという行為は更新の拒絶であれば「更新を認めた」ことに、賃料の値上げであれば「値上げの意思を撤回した」ことを意味し、裁判などにおいては大家さんが非常に不利な立場に立たされてしまうのです。(大家さんにとって負けを認めたのと同じ意味となる)

よって、大家さんは迂闊に還付を受けることはできないのですが、問題が解決するまで一切賃料が入って来ないというのも大いに悩ましい問題ですよね。

 

賢い還付の受け方

そこで本項にてご紹介したいのが、「たとえ大家さんが還付を受けたとしても、裁判などで不利にならない賢い還付の受け方」となります。

例えば更新拒絶中の賃料を受け取るのであれば、賃料としてではなく、更新拒絶に対する「損害金」や「違約金」という名目で受け取るのがベストでしょう。

また、値上げ交渉中の物件の賃貸については「賃料の一部として」という但し書きを付ければ、値上げを断念したことになりません。

つまり還付を受ける際の「名目」を工夫することこそが、賢い還付の受け方のコツとなる訳です。

なお、揉めている相手に「賢い受け取り方をした事実」を伝えなければ意味がありませんので、内容証明などで「損害金として●●万円還付を受けた」または「賃料の一部として●●万円の還付を受けた」などの通知を行っておくことも忘れてはなりません。

こうした手段を執れば、後々不利な立場にならずに賃料を手にすることができるという訳です。

スポンサーリンク

供託金まとめ

さて、ここまで「供託の仕組み」と「賃料を供託されてしまった際の対処方法」をお話ししてまいりました。

なお、ご紹介した方法にて還付を受ければその後の交渉で不利になることはありませんが、このような状況で「供託」という手段を使って来る賃借人は、一筋縄ではいかない人物であることは明らかです。

よって、こうした事態に陥ったならば大家さん側も弁護士などの専門家を代理人として、交渉を行って行くのが望ましいかと思います。

供託は非常に便利な制度ですから困った時には積極的に利用すべきものとなりますが、「相手方がこの制度を利用して来た場合には、万全の態勢で対処に当たる」ことが問題解決の最大の近道であることをご理解いただければ幸いです。

ではこれにて、「供託金の取り戻し方をお教えいたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。