テレビの報道番組などで時折耳にするのが、「新築であるにも係わらず、家が傾いた」などの地盤沈下に関する話題です。
そして、これから「自宅を買おう!」「建替えをしよう!」とお考えの方にとって、こうしたニュースは非常に気になるものとなるはずです。
そこで本日は、マイホームにおける地盤改良の工法や種類、そして知っておくべき改良に関する知識についてお話ししてみたいと思います。
住宅と地盤のお話
さて、この「地盤改良」という言葉ですが、テレビ等で耳にする機会は多いものの、「実際にどのような工事を行うか」についてはあまり知られていないのが実情であるようです。
そこでザックリと工事内容をご説明するとすれば、読んで字の如く「建築に当たって地盤を改善し、地盤沈下等を防ぐ工事」という意味になりますが、その工法は実に様々な種類があり、建てる建物の種類や土地の特性によって行うべき改良の方法も大きく変わってきます。
また「地盤改良さえすれば地盤沈下は起きない」とお思いの方が多いかもしれませんが、残念ながらそれは「間違った認識」と言わざるを得ません。
実はどんな工法で工事を行っても、時間の経過と共に地盤沈下は発生します。
ただ、均一に建物が少しずつ沈んでいく分(均等沈下)には問題がないのですが、「不等沈下(不同沈下)」と呼ばれる『偏った箇所のみが沈む現象』が発生すると建物が歪んだり、時には倒壊する危険も出て来ますので、これを防止するのが地盤改良の真の目的なのです。
よって住宅を購入して数十年経った後に、「少し建物が沈んでいる」なんてクレームも多いようですが、均等に沈んでいるならば「問題なし」と考えて良いでしょう。
なお、こうした不等沈下のリスクが一般に知られるようになったのは近年になってからのこととなりますから、古い年代の建物には地盤改良が施されていないケースも多いため、中古住宅の購入に当たっては注意が必要です。
ちなみに現在販売されている建売物件や、ハウスメーカーに依頼して土地に建物を新築する場合には、まず間違いなく地盤の調査が行われ、地盤の軟弱が見つかった際には改良工事が行われることになります。
地盤調査について
前項にて「地盤調査」というワードが出てまいりましたので、本項ではこの調査の概要について少々解説させていただきたいと思います。
先程も申し上げた通り、地盤改良工事には様々な種類がありますから、「対象の土地に一体どのような工事を行うべきか」を知るためには当然ながら調査が必要です。
そしてこの調査においては、地耐力と呼ばれる『地盤の強さ』を計測することとなり、その結果次第で「地中●mの深さまで杭を入れる必要がある」「地盤改良は不要」などの判断がなされますが、建築を予定している建物の構造や規模によってもその結果は大きく変わってきます。
なお地盤の調査の方法についても、いくつかの種類がありますが、木造一戸建ての場合にはSS式(スウェーデン式サウンディング試験)という方法が用いられることが殆どです。
この調査は、一定の荷重を掛けたドリルが「何回転で何センチ地中に埋まっていくか」で地盤の強さを調べる方法で行われ、建物の重量が乗っても沈まない地層(支持層)がどの深さにあるかを調査して行くことになります。
ちなみに、一棟の建物を建てるのに一か所しか調査しないのでは意味がありませんから、建築予定の建物の形状から荷重が掛かる場所を算出し、多い場合には20ヵ所以上のポイントで調査が行われるのです。
木造一戸建てにおける地盤改良工事の種類
さて、地盤調査により建物の重さを支えられる支持層(建物を支えるのに充分な地耐力を有する層)の深さが判れば、次は実際の改良工事が開始されます。
そして地盤調査のデータを基に「如何なる改良工事を行うか」が決定されることになるのですが、木造一戸建て住宅で行われるのは以下の工法が殆どとなるでしょう。
①表層改良
地盤が強く、支持層が浅い位置にある場合(地表から2m程度まで)に用いられる工法です。
地表から支持層まで間の軟らかい土にコンクリートなどを混ぜ込み、地盤を硬くすることで沈下を防ぐ方法となります。
基本的に工事費が安価であり、地中に障害物があっても施工が可能であるのが利点となりますが、工事業者のスキルが低い場合には建築に必要な地盤の強度が確保できないケースがありますし、大量の残土が出ることもデメリットの一つに挙げられるでしょう。
②柱状改良
表層改良では対応できない、深い位置に支持層がある場合(地表より8m程度まで)に用いられる工法となります。
工事の内容としては、特殊なドリルを使って地面に穴を空けながら、土とコンクリートを混ぜ込み、支持層と地表までの間に直径約60cm程度のコンクリート製の柱を作るという方法です。
イメージ的には「ギリシャのパルテノン神殿のような柱が地中に何本も入っている」とお考えいただければ判りやすいでしょう。
この工法によって得られる地盤の強度はかなり高いため、強固な地盤がない地域でも施工が可能である上、木造住宅ばかりかビル工事などでも用いられる改良法となります。
③小口径鋼管杭工法
柱状改良では対応できない深さ(地表より10m以上の場合など)に支持層が存在する際に登場する工法です。(柱状改良で対応が可能な場合でも、現場の状況次第で鋼管杭が用いられることもあります)
非常に深い支持層まで杭を届かせることが可能なため、木造一戸建て以外の鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅や、マンションなどでも施工されることが多い工法となります。
工事の内容は、文字通り鋼鉄製の杭を複数打ち込み、支持層と地表の間に、鉄柱を築いていくというものです。
④各種パイル工法
以前は上記3種類が木造住宅の主な地盤改良の工法でしたが、近年では様々な新たな工法が登場しています。
なお、これらの工法の多くが「●●パイル工法」という名称ですので、本項にてまとめてご説明させていただきます。(「パイル」と杭を意味します)
ピュアパイル工法
柱状改良と同じくセメントの柱を土中に造る工法となりますが、土とは撹拌せずに純粋な(ピュアな)セメントミルクのみで柱を構築するのが特徴です。
地表より10m以内の深さに支持地盤がる際に施工が可能であり、1本柱を造るのに5分程度の時間しか要さないのが最大の利点となります。
既成コンクリートパイル工法
文字通り、既製品のコンクリート杭を地中に打ち込む工法となります。
使用する既製品の杭は直径20cm程度のものが主流であり、地表より20m以内の深さにある支持地盤に対して使用可能となる工法です。
砕石パイル工法
細かく砕いた天然石を地面に埋め込んで、地中に柱を造る自然に優しい工法となります。
柱状に重ねられた小石同士はセメント等で接着されていないため水捌けも良く、建て替えを行う際にも撤去が非常に楽なのが特徴です。
建築に必要な強度は十分に確保できる上に、地上から7m以内の支持地盤で施工可能な工法となります。
木製パイル工法
地中に木製の杭を打ち込んで建物を支える工法となります。
木製の杭と聞くと「直ぐに腐食するのでは?」と不安に思われるかもしれませんが、使用される木材には特殊な処理が施されており、60年以上の耐久性が備えられているといいます。
砕石パイル工法と同様に非常に環境に優しく、地表より12m以内の支持地盤で施工が可能な工法です。
スポンサーリンク
地盤改良各種工法の比較
ここまでお話した4つの工法が、木造一戸建て住宅で用いられる主な地盤改良の方法となります。
なお、地盤の状態が良いときは①表層改良、これで対応できない場合は②柱状改良、更にコンディションが悪いケースでは③鋼管杭といった具合に改良方法が選択されることが多いので、自分の家が「③鋼管杭で改良を行っている」といった場合には『不安な気持ち』になられる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、現在は施工技術も日進月歩で進歩していますから、①②③の順番で工事費用が高額になるというだけで、どの工法で改良が行われていても安全性に問題はありませんのでご安心ください。
ちなみに、如何なる工法を選択するかについては、地盤改良の施工業者が地盤の状況や建物のプランから「最適である」と判断したものを提案してくれますから、基本的にはこれに従っていれば間違いはありません。
また、④各種パイル工法についてはまだまだ新しい工法であるため、全てのハウスメーカーで施工が可能であるとは限りませんのでご注意ください。
なお、現在の法令では建売物件などの売主は「建物の主要な部分に関して、10年間責任(契約不適合責任)を負うルール」となっていますので、地盤(不等沈下)についてもこの責任の範囲に含まれることになります。
そして、売主やハウスメーカーに対しては倒産してしまった場合に備えて、引渡しから10年以内は建物の主要部分の欠陥に対して支払われる保険(瑕疵保険)への加入が義務付けられているのですが、保険の内容によっては「不当沈下に関しては保証の対象外(免責)」というケースもありますので、この点には是非ご注意ください。
ちなみに、こうした問題を補うべく地盤改良を行う工事会社が独自の保証制度を設けていたり、瑕疵保険にオプションとして地盤保証を付加しているケースも増えつつありますが、建売を買う際や、ハウスメーカーで家を建て替える場合には地盤保証の有無、そして保証内容についてもしっかりと確認をするべきでしょう。
今後の発生する地盤改良に関する問題点
このように現在では、軟弱地盤の土地には改良工事が行われるのが当たり前となり、「住宅購入の安全性はこれまでない程の高い水準に達している」と言われています。
しかしながら、こうした状況に伴い「また新たな問題」も生じています。
それは、あまりにも強固な地盤改良を行ったがために、建替えの際に過去に施された改良杭等の撤去に、凄まじい労力と費用が必要となってしまうという問題です。
もちろん不等沈下を防ぐという意味では、万全な地盤改良を行うことは非常に意味がありますが、将来的には不動産を売却する際に「過去の改良杭の撤去費用を売買価格から差し引かねばならない」といった状況にもなりかねません。
ちなみに①表層改良であるならば、そこまで費用が掛からないかもしれませんが、②柱状改良では最大で8mの深さの支持層まで何本もコンクリート製の杭が埋められている状態になりますし、③の鋼管杭に関しては10m以上深さにまで杭が達していることもありますので、その撤去費用は莫大なものとなるでしょう。
なお、こんなお話をすると「昔の杭の上に、新しい建物は乗せられないのか?」という疑問も涌いてきますが、それを行ってしまうと「万が一不等沈下が発生した場合に責任が執れない」として、ハウスメーカーは過去の杭の撤去と、再度の地盤改良工事を求めて来るのが実情です。
今はまだ地盤改良を行っていない年代の建物が建つ土地も多いため、目立ったトラブルとはなっていませんが、数十年後には殆どの土地が「地盤改良済み」ということになるでしょうから、これは正に大問題ですよね。
よって、築年数の新しい建物が建っている土地を買う場合には「どのような地盤改良が施されおり、杭の撤去にどれだけの費用が掛かるか」をしっかり確認した上で取引に臨むべきでしょう。
※たとえ過去に地盤改良が施された土地であっても、建物のプラン次第で昔の杭を避けて新たな地盤改良を行えることもあります。
スポンサーリンク
地盤改良の工法と種類まとめ
さてここまで、地盤改良の工法と種類、工事にまつわるアレコレを解説してまいりました。
地盤改良工事が当たり前となることで、不等沈下を防止し、地震にも強い住宅が作れる時代となりましたが、便利になれば必ず弊害が生じるのが世の常。
今度は過去の地盤改良が、新たな建物を建設する際のネックとなってしまうというのは、実に因果なお話ですよね。
なお不動産業界に身を置いていると、既に過去の改良杭の存在によって、取引上のトラブルに発展しているケースを実際に耳にいたしますから、地盤改良が開始された年代以降の土地や中古物件の購入を検討されている方は、十二分にご注意いただければと思います。
ではこれにて、地盤改良の工法と種類についての知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!
- タグ