アパートや賃貸マンションの運用をしていると、必ず遭遇することになるのが「賃料を滞納する者」や「近隣に迷惑を及ぼす厄介者」たちです。

滞納に関しては賃貸保証会社への加入を必須とするなどの対抗策はあるものの、「生活騒音の問題」や「入居者間でのトラブル」などは、如何に契約内容を厳しいものにしても回避できないのが現実でしょう。

また、こうしたトラブルを放置すれば「質の良い入居者」の方がお部屋を出てしまい、厄介者のみが居座り続けるというパターンも多いですから、場合によっては物件の運用自体にも大きな影響を及ぼし兼ねません。

そして、こうした現実を鑑みれば『少しでも質の良い入居者を集めたい』と思うのが大家さんのお気持ちでしょうが、入居審査の段階で申込み人の人柄までを見抜くのは至難の技となりますから、これは非常に難しい問題なのです。

しかしながら、以前に私がお仕事をさせていただいた不動産投資家様は「独自の方法」で質の良い入居者様を集めて順調な物件運用を行なっておられ、そのテクニックを知ってからは我が社でも同様の手法を採用することにいたしました。(パクったのではなく、許可をいただいた上で導入させてもらいました)

そこで本日は、「定期建物賃貸借契約の再契約を利用した入居者募集体験記!」と題して、この投資家様との仕事の模様と入居者集めの手法をご紹介させていただきたいと思います。

定期建物賃貸借契約の再契約

 

オーナーが提示した風変わりな契約条件

私が初めてその不動産投資家様と出会ったのは「ある収益物件」の売買が切っ掛けであり、当社が仲介業者、投資家様が買主という立場でした。

この不動産投資家様、前職は不動産会社にお勤めでしたが、その後独立して現在は収益物件の買取・転売、そして不動産賃貸業を生業としている方です。

なおこのようなお話をすると「不動産屋さんが不動産屋さんに仲介を依頼することなんてあるの?」というお声も聞えて来そうですが、これは極々当たり前のことで、私の会社で仕入れる建売用地や収益物件も「他の不動産業者の紹介(仲介)」で買うことが殆どとなります。

ちなみに今回のケースでは、私の会社が賃貸管理を任されている物件(築年数15年、木造2階建のアパート)が売りに出され、買主を募集したところ、この不動産屋さんが手を上げたという流れでした。

そして無事に契約・決済とお話は進んで「売買の取引は終了」となりますが、その後の物件管理を「私の会社に任せたい」とのことでしたので、引き続きお仕事を続けさせていただくこととなったのです。

また、この物件には1部屋空室がありましたので早速新規の入居者募集を開始することになりましたが、間もなくしてある客付け業者から「申込みを入れたい」との連絡が入ります。

そこで申込みの内容を確認してみると、入居希望者は40代男性の1人暮らしであり、職業はフリーターで残念ながら収入はかなり低めです。

『これはちょっと困ったな・・・』と思いながらも、とりあえずは保証会社の審査を通した上で、オーナー様に「契約して良いか」の確認を入れますが、ここで思わぬ答えが返って来ました。

それは「契約はして良いけど、当初の1年は定期建物賃貸借契約でお願いしたい」との回答だったのです。

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定期建物賃貸借契約を利用するメリット

定期建物賃貸借契約については別記事「定期賃貸借契約とは?という疑問にお答え致します!」にて既に詳しいご説明をしておりますが、ここでは改めてその概要を簡潔に解説しておくことにいたしましょう。

定期建物賃貸借契約とは1993年の法改正(借地借家法の施行)で新たに設けられた賃貸借の形態の一つであり、文字通り「更新をすることなく契約を終了させられる賃貸借契約」となります。

さて、このようなご説明をすると「賃貸借契約を更新しないなど、当たり前にできるのでは?」と思われるかもしれませんが、これまでの「普通借家契約」では、余程の事情が無い限りオーナー様側からの契約解除、更新拒絶は不可とされていましたし、

期間1年未満の契約を結んでしまうと、法的には「契約期間永遠」という解釈になってしまったりと、あまりに貸主に不利な契約形態となってしまうルールとなっていました。

そして、こうした問題点を是正するために誕生したのが定期建物賃貸契約であり、一定の手続きを踏めば(公正契約である必要はない)決められた期限でパッチリと賃貸借契約を終了させることができるのです。

但し、契約の内容としては「借りる人間に不利なもの」となりますので、定期建物賃貸借契約にて入居者を募集する場合には設定する賃料もそれなりに下げなければならないなど、「メリットがある分、デメリットもある契約形態」となっています。

そこでオーナー様に「募集は普通借家契約でしているのですが・・・」とお話ししてみると、「それは判っているけど、40歳過ぎてフリーターというのは正直引っ掛かるので、この条件ならば入居可能という回答をしてみて欲しい」とのことでした。

また能々お話を伺ってみれば、このオーナー様も定期建物賃貸借契約について充分な知識を持っておられ、『属性の良い申込人(勤続年数などに問題のない、質の良い入居者)にはこのようなことはしないが、怪しいと思われる入居者希望者に対してはこの契約形態とさせていただくことを条件として提示する方針である』とのことです。

なお、この条件を承服してくれるのであれば定期建物賃貸借契約となる1年間の賃料は月額2000円の値引きをするものとし、この期間内に賃料滞納や近隣トラブルが発生しなければ、1年後に賃料を元に戻した上で「普通借家契約」にて再契約するというのです。

確かにこの方法でしたら、質の悪い入居者は1年で確実に退去させることができますし、申込人としても賃料滞納等の問題さえ起こさなければ1年間は安い賃料で入居できる訳ですから、お互いにメリットがありますよね。

ただ、こうしたやり方は私も初めてでしたので、ややドキドキしながら先方に打診してみますが、何も問題なく了承を頂くことができました。

ちなみにその後は何事もなくお部屋の引渡しも終わり、1年後には無事に「普通借家契約」への再契約も完了、再契約の手続きをした私の会社にも事務手数料として幾ばくかの手当を頂けましたので「仕事としても満足がいくもの」とすることができたのです。

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定期建物賃貸借の再契約まとめ

さて、ここまでが定期建物賃貸借契約の再契約を利用した新規入居者募集の体験記となります。

私も定期建物賃貸借契約について、制度として存在することは知っていたものの「賃料を下げて入居者を募集しなければならない」などの事情で、これまで殆ど利用したことがありませんでした。

しかし、このような方法で定期建物賃貸借を利用すれば質の良い入居者を確保し易くなりますし、住んでみれば問題のない入居者を審査落ちにしてしまうというリスクも回避できますよね。

なお現在では、このオーナーさんに了解を得た上で、私の会社でもこの方式を採用しております。

ちなみに、定期建物賃貸借はウィークリーマンションの経営シェアハウスの運営など既に様々なビジネスにおいて利用されていますが、同じ制度でも使い方次第で異なるメリットが得られることを改めて実感させられる出来事でした。

皆様にも是非、定期建物賃貸借を利用した「質の良い入居者確保」をお試しいただきたいものです。

ではこれにて、定期建物賃貸借契約の再契約の体験記を締め括らせていただきたいと思います。