事業用不動産

 

不動産業者に勤めていながらも、なかなか取引する機会が少ないのが店舗や工場などの事業用物件の売買となります。

もちろん不動産屋さんの中には、「事業用物件専門」といった業態の方もおられますし、営業エリアが工場地帯や繁華街である業者さんならば取引件数も多いでしょうが、通常は数年に1回、もしくは10年に1回くらいの取引となることが多いはずです。

実は私も、店舗や工場の取引はこれまで数件しか経験がなく、久しぶりに事業用物件の取引を担当する際などには、少々緊張してしまうのが正直な気持ちです。

なお以前の記事では、客付け業者の立場での事業用物件仲介顛末記を書かせていただきましたので、今回は元付け業者バージョンをお届けすることにいたします。

では、事業用不動産の売買顛末記(元付け編)を見て行きましょう。

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初めての事業用物件元付け

初めての事業用物件の客付け仕事を終えて数年後、私の元に店舗売却の案件が転がり込んで来ます。

今回のお仕事は、私が勤める会社の社長の親戚にあたる方が「所有する店舗を売りたい」とのことでした。

社長直々、それも親族絡みの仕事とあっては断る訳にも行かず、早速物件の調査に乗り出すことにします。

当初、社長からお話を頂いた際には「単に店舗」と聞かされていましたから「商店街などで見掛ける小型店舗」を想像していたのですが、実際に現地に下見に行ってみると、それは某国道沿いにそびえ立つ大型ロードサイド店でした。

なお、現在は閉店していますが、以前は大手ドラッグストアーがテナントとして入っていたとのことで広大な敷地に20台分以上の駐車場、そして床面積500㎡を超える大型店舗が鎮座しています。

『こんな大型店舗の仲介は初めてだ・・・』と少々ビビりながら、社長から借りた鍵で建物の内部を確認してみることにしました。

早速、厳重な施錠が施された扉を開けて店内に入ってみますが、既に電気は切られており、そこには暗黒の世界が広がっています。

そこで営業車に常備してある電気ランタンを灯し、建物の中を隅々まで見て回ることにしました。

ちなみに店の中は殆どの備品が撤去されており、間仕切りもない状態ですから「ガランとした空虚な空間が広がるのみ」で、物音一つしない状態に何やら背筋に寒いものが走る感覚です。

正直かなり怖かったのですが、ここはお仕事ですから覚悟を決めて内部を見て行きます。

そして、この下見を通して気付いたのは、以前のテナントが残したものと思われるスチール製の棚などが残置されている点と、天井に残る2ヵ所の雨漏り跡でした。

早速、社長に報告し残置物の処分と、雨漏り箇所の補修をお願いすることにします。

その後、物件周辺の現地調査法務局や法令上の制限に係わる行政調査を行った後、本格的な募集業務に取り掛かることになりました。

しかしながら、如何せん大型店舗物件の元付け仕事は初めてですから、販売図面の作成一つにも戸惑う始末であり、これはなかなか先が思いやられます。

また、物件販売価格も3億円を超えていますから、レインズやアットホームに掲載してもなかなか反響はなく、知り合いの業者などを介して販促活動を進めて行くことにしました。

さて、こうした努力の甲斐もあってか、募集開始から半年後にようやく待望の買付(申込み)が入って来ます。

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契約までの険しい道程

さて、購入希望者のプロフォールはといえば「地元でそれなりに名前の知れた建築資材を扱う企業様」であり、在庫商品の保管庫としてこの物件を利用したいとのことです。

身元のしっかりとした企業様でしたので、お客様としては問題がないのですが、その後お話がまとまるまでには、様々な障害を乗り越えなければなりませんでした。

まず最初の問題は、建物の更地渡しが可能であるかという買主からの要望についてとなります。

この手の物件においての「更地渡し」は買主からよく出る要望のようですが、建物が建物だけに解体の費用については見当も付きません。

そこで仕方なく、知り合いの解体業者さんにお願いして見積もりを出してもらいますが、これがかなり良いお値段です。

そして社長を経由して、売主様と相談をしてみますが、なかなか色よい返事がもらえません。

仕方なく、より安く解体を請け負う業者を探し回りますが、散々あちらこちらに声を掛けたタイミングで、買主サイドから「やっぱり建物を使うことにした」との連絡が入ります。

正直、更地渡しを諦めていただけたのはラッキーでしたが、可能であればもう少し早く言ってもらいたいものです。

こうして解体の問題が解決しましたので、いよいよお話は契約の段階へと進んで行きます。

 

なお、続いて関門となったのは売買契約書の文言についてでした。

私なりにかなり頭を捻って作った売買契約書だったのですが、買主の顧問弁護士が契約案に多くの注文を付けて来たのです。

但し、指摘の内容自体は契約書の中でも重要な箇所ではなく、どちかと言うと「どうでも良い」ものが殆どであり、「契約書の内容チェックを頼まれた以上、何か役に立った形跡を示さなければ」という意図が見え見えでした。

 

そしてお次は、物件周辺の再チェックをしている際に見付けた水道管の越境問題でした。

来たるべき「境界立会い」に備えて境界標チェックをしていたところ、お隣の土地の地面に不思議な「パイプ」が露出しているのを発見したのです。

本来であれば、隣地の所有者に断った上で敷地に入らなければならないのですが、この時は何故か『これは何としても掘ってみる必要がある』との想いに駆られており、許可なくパイプの周辺を掘ってしまいました。

するとこのパイプ、どうやら水道管であるらしく、方向を確かめながら掘り進んでみると、隣地からこちらの売買対象の土地に越境している模様です。

そこで早速、お隣の方に声を掛け水道管経路の変更か、越境の覚書の作成を依頼しすることにします。

お隣の方は、勝手に敷地を掘られたことに少々ご立腹なご様子でしたが、「越境はマズイ」とのことで費用は隣地持ちで配管の移設工事をしてくれることとなり、これは嬉しい限りでした。

それにしても、この配管越境には本当に気が付くことができてラッキーだったと思います。

そのまま気付かずに引き渡していたなら、後々トラブルに発展することは確実でしたから、実に運が良かったといえるでしょう。

 

『さてさて、これだけ問題が発生すれば流石にこれ以上は無いだろう!』と高を括っていたのですが、最後にもう一つトラブルに見舞われことになります。

ちなみに今回は、敷地周りにある境界標の1点が「スズメバチのエサ場」になっていたという、これまたイレギュラーな状況です。

なお読者の方の中には『エサ場ってなんだろう』と思われている方も多いでしょうが、実はスズメバチはある種の植物に蜜を取りにくる習性があるといいます。

そして問題の境界標の周辺にはこの植物が群生しており、巣がある訳でもないのに日中は常時数匹のスズメバチが飛び交っているのです。

引渡し前には、売主・買主が共に立ち会って境界確認が行われますので『お客様が刺されてはマズイ』考え、役所に駆除を依頼しますが「巣が無いと動けない」と相手にしてもらえず、民間の駆除会社に依頼しても返事は同様でした。

そして困り果てていた際に、ホームセンターで発見したのが「蜂ホイホイ」ともいうべき、コップ型の捕獲器だったのです。(詳細は過去記事「不動産の害虫駆除方法をご紹介いたします!」を参照ください)

但し、この器具は見た目が非常に簡素であり、『こんなもので本当に退治できるのか?』とかなり不安だったのですが、仕掛けて数日後に見に行ってみると十数匹のスズメバチを捕らえており、日中であるにも係らず他の蜂の姿はありません。

そこで用意していた鎌で問題の草を全て刈り取り、一件落着となりました。

こうした苦労を乗り越え、契約は無事に成立し、大きな問題もなく引渡しを終えることができたのです。

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事業用不動産売買まとめ

さて、ここまでが事業用不動産の売買顛末記(元付け編)となります。

前回お届けした「客付け編」でも同様でしたが、取引する物件が特殊なものとなると、戸建てや分譲マンションとは異なる様々な問題が発生するものです。

なお本文中に記しませんでしたが成約するまでの期間中、何度か敷地内に不法投棄をされてしまい、売主様の負担にて「費用を支払って処分してもらう」というトラブルも発生していました。

そして、こうしたトラブルの数々を振り返ってみれば「大型物件の元付けは、物件を管理するだけでも大変な苦労を伴うものである」ことを、今回の取引を通して身をもって教えられた気がいたします。

ではこれにて、「事業用不動産の売買顛末記」を締め括らせていただきたいと思います。