賃貸物件の管理を任せれている不動産屋さん(賃貸管理会社)にとって、最も頭を悩まされることになるのが「埋まらない空室」という問題です。
このようなお話をすると『管理を任されているだけなのだから、不動産屋さんは案外気楽なのでは・・・』と思われるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。(中には無責任な業者さんもおられますが)
特に入退去の管理を行うだけの「契約管理」ではなく、物件の総合的な管理を任されており、毎月の賃料から固定報酬を頂く「入金管理」の場合には、その報酬が不動産会社の貴重な固定収入となっているため、他の業者に管理委託先を変えられないためにも、可能な限りの努力をすることになります。
※「契約管理」と「入金管理」の違いについては、過去記事「賃貸入金管理のお仕事レポートをお届け!」をご参照ください。
そこで本日は、管理人が経験した最大の賃貸空室危機の体験談をお話ししてみたいと思います。
では、賃貸の空室が埋まらない時におすすめな体験記を始めましょう。

退去の嵐
現在の会社に入って2年目の頃、賃貸部門のサブリーダーとなっていた私は、既に10件近い「担当管理物件」を抱えておりました。
なお、サブリーダーとは言っても「給料の多くは出来高に左右される身」でしたので『担当する管理物件が多ければ多い程に売上げに繋がる』と考え、精力的に管理を請け負っていた時期であったと記憶しております。
さて、こうして管理を請け負った物件の中に地域の有力な地主さんが所有する世帯数12戸、鉄筋コンクリート造(RC造)のファミリータイプ物件がありました。
そして築年も15年程と新しめなのですが、惜しむ洛は駅まで徒歩18分という交通の便の悪さとなります。(バス停は近いのですが)
また、近隣に分譲マンションがボコスカと建築されており、この物件においてもちょくちょく「マイホーム購入のために退去します」という入居者が現れていました。
このような状況が続いていたある時、管理物件の直ぐ側でかなり価格の安い分譲マンションの販売が始まった上、やや距離は離れているものの3棟のファミリータイプの新築賃貸物件が入居者募集を開始します。
内心『これはヤバイのでは・・・』と思っていたのですが、そんな矢先に最初の退去予告が舞い込んで来ました。
ちなみに、この退去の連絡が入った段階で「既に2部屋が空室」となっておりましたので、これで空室は計3部屋です。
『早く空室を埋めないと、更なる退去が出た際に対応不能になる・・・』と祈るような気持ちで募集を続けますが、入居のお申し込みが入らないばかりか、それから2週間の内に更に2部屋の解約が発生してしまいます。
これで12戸中5部屋が空室となった計算になりますので、流石に放置することもできずオーナー様に今後の方向性をご相談しに行くことにしました。
そして、直接大家さんにお会いして、現在の「物件を取り巻く状況」などについて細かく説明したところ、「やはり値段を下げるしかないだろう・・・」とのご判断となり、賃料を5,000円カットした上、礼金はなし、その上フリーレント1ヶ月という破格の条件を提示してくれたのです。
この大家さんの英断に『これで決めなければ、不動産屋の名がすたる!』と、かなりの経費を掛けて入居者募集広告を打ちますが、その結果は「今ひとつ」なものでした。
確かに申込み自体は入るのですが、申込人はフリーターや、極端に年収が低いなど『問題のある申込人ばかり』なのです。
ちなみに、「安くした以上は審査に妥協をしたくない」という大家さんの意向もあり、結局は全員が審査落ちとなってしまいます。
そんな最中、再び退去予告の連絡が入り、遂に12戸中の6戸、つまり物件全体の半分が空室となってしまったのです。
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埋まらない空室を埋めるために!
『これは流石に緊急事態である』と考えた私は、多くの賃貸管理物件を持つ不動産屋さん仲間を飲みに誘い、空室対策をご教授していただくことにしました。
なお、大家さんも流石に焦り始めており、毎日のように募集状況を確認する電話が入っていましたので最早一刻の猶予もありません。
そして、様々な業者を飲みに行ってはご飯をおごり、役立ちそうな情報を聞き出すという活動を続ける中で学んだのが「下記のポイント」となります。
- 今回の物件の賃料設定は決して高くないので、極端な値下げは属性の悪い客(質の悪い客)を呼び寄せるだけで、むしろ逆効果である
- 周辺の物件と見比べてもお部屋自体にそれ程の遜色はないので、物件に付加価値を付けて再募集を掛けるべき
- 客付け業者に優先的に案内を入れてもらえるように、AD(客付け会社に支払う広告宣伝費)を付加するべき
そこで早速、このアドバイスを基に新たな入居者募集プランを練って行きます。
まず賃料設定に関しては「連続審査落ちの件」で私も薄々問題点に気付き始めていましたので、元の値段に戻すこととしました。
ちなみに、付加価値についてはオーナー様にお願いして、居室全てに電灯を設備として取付けてらった上、トイレにもウォシュレットを装備してもらいました。
また、物件に併設するオーナー様が所有する月極め駐車場にも空がありますので、物件契約者には駐車場賃料の大幅値引きという特典も付けることにします。
しかし、ここで問題となったのがAD(広告宣伝費)です。
詳しくは過去記事「賃貸仲介の仕組みを知り、投資を有利に進めよう!」で書いていますが、通常の賃貸物件を仲介する場合には「客付け会社の報酬は入居者からの仲介手数料として1ヶ月分」、「管理会社(元付け会社)の報酬は大家さんからの広告宣伝費1ヶ月分」というのが一般的です。
ここに更なる報酬をAD(広告宣伝費)を付加していただき、客付け会社の報酬を増やすのでは、あまりにオーナー様の負担が増え過ぎてしまいます。
そこで考えたのが、本来私の会社が頂く大家さんからの広告宣伝費1ヶ月分の半分を、客付け業者の報酬に当てるという方法でした。
当然、当社の報酬は減ってしまいますが、オーナー様には付加価値を付けるための設備投資や駐車場の値下げをお願いしていますから、「傷みは分け合うべき」という考え方です。
また念のため、社長にも広告宣伝費の値引きについて確認しますが、『地元の有力な地主さんの管理は是非とも続けたい』との意向で、このプランを実行することになりました。
幸い大家さんにもこの計画にご賛同を頂き、計画実行後、僅か2ヶ月にて見事に3部屋の成約を勝ち取ることができたのです。
その後も繁忙期の追い風を受け、半年後には物件を『満室』に戻すことができました。
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賃貸空室対策まとめ
さて、ここまでが管理人が経験した「最大の賃貸空室危機」の体験談となります。
管理を専門にしている業者さんにお聞きすれば、これ以上のピンチに陥ったことがある方もおられるようですが、私的にはかなり背筋が寒くなる経験でした。
もちろん、大口の管理物件を失うことは給料の額にも大きな影を落とす事件ですが、それ以上にオーナー様へご迷惑を掛けてしまうのと、自分の不動産屋さんとしてのプライドが傷付くことになりますので、この時は非常に大きなプレッシャーを感じていたのを覚えています。
また今回の大家さんはとても良い方でしたが、オーナー様の中には1部屋空室が出ただけでも、青筋を立てて煽って来られる方もいらっしゃいますから、是非こうした「不動産屋さんの心」もご理解いただければ幸いです。
また賃貸の空室対策につきましては、過去記事「収益物件の空室率低下に役立つ裏技をご紹介!」の中でも詳しく扱っておりますので、こちらもご参考にしていただければと思います。
ではこれにて、賃貸の空室が埋まらない時におすすめな体験記を締め括らせていただきたいと思います。