
在籍する不動産会社の売買部門へ異動となり、初めての売買契約を無事にこなしたものの、それ以降成果が上げられなかった管理人は、現地販売会を開催することになります。
前回の記事「現地販売会開催の現場をレポート!(売出し体験記・前編)」では、販売会の準備が整ったところでお話を中断しておりましたで、今回は現地販売会の模様から、売出し終了までの流れをレポートさせていただきたいと思います。
では「現地販売会の集客、そして販売会終了へ」の道程を見て行きましょう。

現地販売会の一日
さて販売会用のセッティングが完了すれば、後はお客様が来場するまでひたすら「待ちの時間」が続きます。
この待ち時間のスタイルには、「会社ごとの方針の差」が如実にあらわれるのですが、私の会社では「お客様が来るまで、外で待ち続ける」のがルールです。
会社によっては「車の中でエアコンを掛けて待つ」というスタイルもあるようですが、自動車のアイドリング音は近隣の迷惑となりますし、お客様がご来場された際に『無人のように見えてしまう可能性』もあるため、我が社では「禁止」となっていました。
しかしながら、季節は7月末の「真夏」。
最初の一時間くらいはどうにか耐えられましたが、徐々に汗が止まらなくなって来ます。
そして5000枚もの新聞折り込みチラシを入れたのにも係らず、開始2時間が経過しても、誰一人お客は現れません。
『・・・・帰りたい』、早くもそんなことを考え始めた矢先、突然声が掛かります。
声の主を見ると、ちょっとラフな格好をされた「おばさん」が歩み寄って来ました。
「いらっしゃいませ!」と、汗ドロドロの顔で笑顔を浮かべてみますが、何故かおばさんは「憤怒の形相」です。
おばさん「あんた、あたし隣の家の者だけど、工事めちゃくちゃ五月蠅かったわよ!ノイローゼになったらどうしてくれるのよ!」
どうやら、建築工事の際のクレームが今頃になって噴出してきたご様子です。
管理人「あっ、私は販売要員でして、建築した会社さんとは別の会社の者なんですよ・・・」
しかしおばさんのテンションは下がらず、「あんたに言っても仕方ないけど・・・」と前置きしながら、激しく文句を垂れ続けます。
『完成後一年近く経っても、まだ苦情が来るって一体どんな工事してたんだよ』と心の中で毒づきながら、心を「空(くう)」にして話を聞いている内に、おばさんの気も晴れたらしく、最後には「頑張ってね」と何故か勇気付けられ、また一人の時間が始まります。
蝉の声しか聞こえない状況が続く中、『このまま待っていても仕方がない』と考え、前を通り掛かる人々に徹底的な声掛け作戦を開始することにしました。
もちろん、どんなに大きな声で呼びかけても殆どの方が無視ですが、時折「買う気はないんだけど」と前置きしながら、中を見て下さる方もおられました。
そして気が付くと、既に午後2時を過ぎていましたので、近所のコンビニでトイレを済ませ、お弁当を買って現場で頂きます。
※現地販売会では、当然ながら物件のトイレの使用は厳禁となります。
昼食を済ませた後、『また無為な時間が流れるのか・・・』と覚悟していたところ、初めてまともなお客さんにご来場を頂くことができました。
お客様は小さなお子さん3人を連れた若いご夫婦で、手には私が撒いたチラシを持っておられ、これが非常に嬉しかったのを今でも覚えています。
そこで早速、室内を案内しますが「やっぱり暗いね~」と出だしから残念なお言葉を頂き、それ程盛り上がることもなく内覧は終了。
実はこの物件、いまいち日当たりが悪いという弱点であり、それが売れ残ってしまった要因であることは明らかでした。
但し、実際に室内を見てみると、それ程日が差さない訳でもないのですが、何故か非常に「暗い印象」を受けるという不思議な物件だったのです。
家路に着こうするご夫婦を引き留め、近隣の物件をおすすめしてみますが、周囲の建売は既にチェック済みとのことでしたので「新しい物件が出たら紹介します」とお約束し、来場カードにお名前・連絡先等を頂きました。
なお、その後は全くお客が現れず、この日の売出しは終了となってしまいます。
後片付けを行い、売主の不動産屋さんに来場者数や、近所の方からクレームがあったことを報告したら、明日に備えて撤収です。
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その後の売出し
翌日の日曜日も、朝から現場に貼り付いていましたが、お客様カードを書いてくれたのは一組のお客様のみ。
もの凄く太ったご夫婦で、名刺を渡しているのにも係らず、私のことを「不動産屋!」と上から目線で呼び付けては、的外れな質問ばかりをぶつけて来ます。
他の不動産屋さんからも物件の紹介を受けている様子でしたし、やたらと態度が悪い方々なので、かなり「ぶっきらぼうな対応」をしてやったのですが、お客様カードだけはしっかり記入して帰って行きました。
そこでカードの内容を見てみると、年収もなかなかのものであり、お客様としては申し分はなさそうですが、成約の見込みは薄そうなので、その後も特に物件の紹介はせずに放置することにします。
そして結局2日間の売り出しを終えて、名簿にすることができた(今後もお付き合いをしていくお客様のリストに加えることができた)のは1組のみという結果です。(若いお子様連れのご夫婦のみ)
しかしここで売出しを止める訳にもいきませんから、もう1ヶ月ほど販売会の期間を延長してもらい、その時間を利用して「他の売出し現場をゲットする作戦」を採ることにしました。
翌週は1組、翌々週は2組といまいちの状況が続きますが、その間に『次の販売会物件』も確保できましたので、後は消化試合という雰囲気で最終日の売出しに臨みます。
最終日の恐怖体験
そして最終日の売出しも特に成果がないまま夕方を迎え、撤収準備を開始します。
当然、戸締り等は売出し業者の責任となりますので、雨戸を閉めたり、窓の施錠は万全に行わなければなりません。
しかしこの日、私は大きなミスをしてしまいます。
これまで撤収の際には三階から雨戸を閉めて行き、最後に一階の雨戸を下すのが常でした。
その理由は、ずばり怖いからです。
実はこの不思議と薄暗い建売物件では、売出し期間中に色々と奇妙な現象が起きていたのです。
とは言え、勝手にインターフォンが鳴ったのが一回、消したはずの電気が点いていたのが一回ですから、イタズラや勘違いで処理できるレベルなのは間違いありません。
ただ、撤収の際に一階から雨戸を閉めて行った場合には、真っ暗闇の中を三階から一階の玄関まで歩くことになりますから、流石にこの物件でそんな肝試し的な行為は避けたかったのです。
ところがこの日は、何故か一階から施錠を開始してしまい、自分の間違いに気付いたのは、三階の最後の雨戸を閉める時でした。
しかし、ここから全ての窓を開け、改めて三階から雨戸を閉めて行くのあまりにも面倒です。
そこで覚悟を決め、携帯電話の明かりを頼りに一階を目指すことにしました。
完全に暗闇に沈んだ物件内部は、これまで感じたことのない嫌~な雰囲気と凄味を漂わせており、鼓動のリズムが急上昇していくのが判ります。
そしてようやく階段を降り切り、玄関に向かって歩き出した時、背後から濃厚な気配が迫って来るのを感じました。
「ここで振り返ってはいけない・・・」、本能的にそう感じた私は脇目も振らず玄関を目指し、無事に屋外へと続く扉を開けることに成功します。
胸を撫で下ろし、ドアを閉めようとした時、廊下の突き当たりにある浴室に「女」が立っているのを見てしまいました。
ドアが閉まる一瞬のことなので詳細は判りませんが、顔も体も薄い墨汁で描いたような「ぼやけた印象の女」がこちらを向いて佇んでいたのです。
「女!女!女!」心の中で連呼しながら、足早に車に乗り込み、コンビニで塩を購入し、車や身体にこれでもかと振り掛けて家路に着きます。
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販売会終了
それ以来、私は二度とその物件に足を踏み入れることはせず、売主の不動産業者さんにお礼を述べた後、他の現場で改めて現地販売会を開始することになりました。
また新しい現場では、難なく契約を取ることができましたから、会社での居辛さも解消され、私の中であの恐怖は徐々に薄れていったのです。
そして、ちょっとした油断から極力近付かないようにしていた例の物件の前を車で通過するハメになってしまいます。
徐々に近づいて来る物件を目前に「嫌だな・・・」と思いながらも、ついつい玄関に視線を移すと、玄関前に以前販売会でお会いした『上から目線の巨漢夫婦』が立っている光景を目撃。
あぁ・・・この人たち、結局別の不動産屋さんであの物件を買ったのね・・・。
「4LDK、床暖房、食洗機、怨霊付きの新築」を。
後に調べたのですが、物件が建っていた土地に曰くなどは一切なく、以前は古い木造アパートが建っていただけだそうです。
不動産屋さんをしていると、時折こういうことがあるのですよね。えぇ。
今回は後半から少々オカルト的になってしまいましたが、これにて「現地販売会の集客、そして成約へ!」の体験記を閉じさせていただきたいと思います。
ではまたの機会にお会いしましょう。