重要事項の説明は、不動産取引に欠かすことのできない一大イベントとなります。

なお、過去記事「不動産重要事項説明書作成について解説いたします!」においては、売買契約における重要事項説明書の記載事項や作成のポイントについてご説明しましたが、備考欄に関しては『別の機会に』とさせていただいておりましたので、本日はこの点について解説をお届けしたいと思います。

では早速、売買重要事項説明書作成(備考編)の知恵袋を見て行きましょう。

※本記事にてご紹介している賃貸特約条項の記載例はあくまでも参考資料であり、本記事の情報を用いて行う一切の行為について、管理人は何らの責任を負うものではありません。

売買重要事項説明書作成

 

必ず記載するべき事項

まず初めに「どのような売買契約の重要事項説明書においても、必ず入れておくべき定型的(常套句的)な備考欄の文言」からご紹介をして行きたいと思います。

①物件が存在する地域はテレビや携帯電話の電波が弱い可能性があります。またケーブルテレビ等を利用する場合には費用が発生します。

現代社会においては、テレビの地上デジタル波以外にもスマホ用や、衛星放送用など様々な電波が中空を飛び交っています。

そしてこれらの電波の受信状況は、人々の生活に大きな影響を与えるものとなりますから、たとえ対象物件に電波障害の事実が判明していなくても、こうした文言は備考に加えておくべきでしょう。

②重要事項の説明の法令上の制限などは、今現在のものであり、将来的に変更される可能性があります。

用途地域都市計画施設などに関する法令上の制限については、時代の流れに合わせて変更が加えられることも珍しくはありません。

そこで将来的に制限の変更がなされた場合に備えて、こちらも備考欄に加えておいて損はない文言となるでしょう。

③物件の眺望、日照等は将来的に変わる可能性があります。

将来的に眺望や日当たりが変わる可能性があるのは、至極当然のことのようにも思えますが、物件購入後、近隣に大きなビルなど建った際などには「クレームとなる」ことも珍しくはありませんので、この文言も入れておくのがベターです。

但し、重要事項の説明をする段階で「既に建築計画が明らかな場合」には、計画の詳細を説明する義務がありますから、たとえこの文言が書かれていたとしても、仲介業者はその責任を逃れることはできません。

④物件が所在する地域は地盤が悪い可能性があり、再建築時に地盤改良が必要になる場合があります。また、地盤改良に際しては費用が発生します。

地盤改良に関する記事でもご説明いたしましたが、今や建物を建てる際には地盤調査をするのが当たり前の時代となりましたし、建築を依頼するハウスメーカーによっては「必要以上の改良工事を求めて来る」こともあるものです。

そして、「土地で物件を購入するお客様」や「中古戸建てを購入した方」が新築や建替えをするに当たって、地盤改良の見積もりを取ってみたら「法外な費用が掛ることが発覚した」となれば、揉め事に発展するケースも少なくはありませんから、しっかり防御のための文言を入れておきましょう。

⑤物件周辺には道路・鉄道・学校・病院・工場・商店等が存在するため、騒音・振動・臭気・粉塵等が発生する可能性があります。

「如何なるものがクレームの発生源となるか」は予想も付きませんので、こうした文言も必要でしょう。

特に騒音については個々のお客様よって感じ方が異なるものですし、中には登下校中の子供の声や、幼稚園のお遊戯の音楽が煩いという方もおられますので、一見問題がなさそうな施設についても注意を怠らないようにするべきです。

⑥町内会等自治体に加盟した場合には、費用が発生します。

こちらの文言も「当たり前のこと」のように思えますが、『費用が発生するなど聞いていない』といった苦情が寄せられることがあるようです。

可能であれば、こうした文言を入れなくて済む世の中になってもらいたいものです。

⑦ハザードマップに記載されている事項

近年では行政ごとに地震や洪水、液状化などに関するハザードマップを発行していますので、その内容を記しておきましょう。

なお、「別添資料ハザードマップを参照のこと」などとするのでなく、可能な限り詳細に予測される災害時の被害状況を記するべきです。

⑧図面と現況が異なる場合には現況を優先します。

これは最早「お決まりの文言」となりますが、しっかりと書いておくようにしましょう。

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物件の条件に合わせて入れる事項

そして次にご紹介するのが、重要事項の備考欄に「必ずという訳ではなく、必要に応じて加えるべき文言」となります。

①ゴミ捨て場、道路標識、電柱・ガードレール等がある場合には、その移動・撤去に行政の許可及び移動先の承諾が必要となる上、費用負担が発生します。

物件の前面道路上に表記の施設がある場合には、こちらの文言を加えておくようにしましょう。

引き渡し後に「簡単に移動できると思っていたのに!」といったクレームが入ることは意外に多いものです。

※道路上の施設に関する詳細は別記事「歩道切り下げ、電柱の移動などについて解説いたします!」をご参照ください。

②近隣との申し合せ事項や覚書がある旨

私道が売買対象に含まれており「私道の掃除が当番制で回ってくる」といった申し合わせ事項がある場合や、「隣地と共有のブロック塀がある、越境されている」などの特殊な事情で覚書などが作成されているケースでは、こうした事実に関しても備考欄に記すべきです。

そして、覚書等が存在するケースでは「別紙覚書参照」などと書くのではなく、取り決め内容の概要や書面のタイトル、作成日時などを記しておくのが良いでしょう。

③周辺に特別な施設等がある場合

前項でご紹介した「必ず記載するべき事項の⑤」でも騒音などを発生させる可能性がある施設のことが記されていますが、『確実に生活環境に影響を及ぼすレベルの騒音や振動等を発生させる施設』が近くにある場合には改めて記載しておくべきです。

またこの場合には、対象施設までの距離や、想定される影響についてなるべく詳細に書くべきでしょう。

また嫌悪施設と呼ばれるものが近隣に存在する際には、こちらも必ず記載したいところです。(嫌悪施設については別記事「不動産の嫌悪施設についてお話ししてみます!」をご参照ください)

④地盤改良が行われている場合、建て替えの際などに撤去費用が掛かる可能性があります。

建売物件の売買などには必ず入れるべき文言です。

現在建築されている建物に使用されている地盤改良の杭は、建替えの際に再利用ができないばかりか、その撤去に膨大な費用を要する場合があります。

建て替えや新築に際して、こうした事実が明らかになればトラブルとなることは必至ですから、リスク回避のためにも是非加えておきたい文言です。

⑤駐車スペースは全ての車種に対応している訳ではありません。

物件のカースペースが狭い場合や、車庫入れが厳しい駐車場が物件に付いているケースで使用する文言となります。

また「運転者の技量によっては、駐車が困難な可能性があります」といった運転技術に関する記載も場合よっては必要となるでしょう。

⑥本物件内に敷設されているブロック塀(擁壁)は、隣家所有のブロック塀(擁壁)と一体化したものとなっているため、撤去や補修等に際して、関係権利者との協議が必要となる場合があります。

ブロック塀や擁壁などの工作物については、取引対象の敷地内に存在し、こちらの所有物であるにも係らず、隣家のものと一体化している(繋がっている)ケースをよく目にします。

こうした設備がある場合には後々のトラブルを回避するためにも、この説明を付加しておくべきでしょう。

⑦本物件の2階部分、東側洋室の北側天井付近には雨漏りが発生していますが、本契約における容認事項とすることを買主は確認しました。

建物の老朽化が進み、既に雨漏りなどが発生して際に用いる容認事項の記載例となります。

また、雨漏り以外の建物の瑕疵(欠陥)についても、この例文の形式で対応が可能ですが、重要なのは「容認事項とする問題について可能な限り具体的に記載すること」です。

更に、本来は契約書に記載すべき事項ではありますが「なお、買主は本件について売主へ契約不適合責任に基づく一切の請求等を行わないもとのします。」という文言を付け加えておくのも一つの方法でしょう。

※孤独死や自殺などの心理的瑕疵についても同様のひな型で対応が可能かと思います。

⑧本物件敷地内、東側部分には隣接地所有者●●氏所有の水道引込管(以下 「第三者所有水道管」という)が埋設されています。この第三者所有水道管は越境物となりますが、買主はこれを承諾の上、本物件を購入することを確認しました。

売買対象物件に越境物がある場合の文言となりますが、越境の場合には関係権利者と覚書を交わしてケースも多いと思いますので、こうした場合には前述の「②近隣との申し合せ事項や覚書がある旨」の記載例を参考になさってください。

ちなみに、契約書風の書き方をする場合には、前項と同様に「買主は本件について売主へ契約不適合責任に基づく一切の請求等を行わない」旨を付け加えておきましょう。

※越境に関する覚書の記載内容についてましては別記事「不動産・境界越境問題について解説いたします!」をご参照ください。

⑨本物件が面する道路は建築基準法第42条第2項道路であり道路中心線から水平距離2mの線が道路境界線とみなされます。そして、道路とみなされる部分(セットバック部分)は建物の敷地として算入できません。なお、道路中心線は、特定行政庁の指導に基づき決定されます。

対象物件にセットバックの必要がある場合の備考欄記載例となります。

なお、具体的にセットバック部分の面積を説明するに当たっては、「セットバック面積は約●●㎡と推測されますが、この負担面積は本物件の東側隣接地の建物新築時の建築確認概要書に基づき算出された予想面積であり、実際のセットバック面積と差異が生じる可能性があります。」といった文言を付け加えておくべきです。

⑩本物件の建物にはアスベストを含む建材が使用されている可能性があります。建材に含まれるアスベストは飛散し辛く、健康被害を引き起こす可能性は低いと言われていますが、解体工事やリフォーム工事等によって建材が破損した場合は飛散リスクが高まる上、工事に際しては専門業者による特殊な施工と処理を行うための費用が発生します。

売買する物件にアスベストを含む建材が使用されている可能性が高い場合の備考欄記載例となります。

なお、アスベストは建物が建築された年代によってある程度使用状況の予測が可能となり、1987年以前の建物についてはより飛散リスクの高い「吹付アスベスト」が使用されている場合ありますので、こうしたケースでは今回ご紹介する文例では対応できません。

また、2006年まではアスベストを含む建材が使用されておりましたので、該当する年代の建物を売買する場合には、必ず備考欄に今回ご紹介する文言を入れておきましょう。

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重要事項備考欄作成まとめ

さて以上が、売買の重要事項説明書において用いられることの多い「備考欄の文言例」となります。

備考欄というと、「あまり重要ではない説明」または「補足的な説明」がメインなように思われがちですが、この重要事項説明書の備考欄に限っては「他の説明事項よりも、むしろ重大な内容を含むことが多い」のが実情です。

更に、同じ事実を説明するにしても「誤解を与えてはならない」、されど「お客様の購入意思をいたずらに減退させる訳にもいかない」といった事情から、その文章表現には非常に神経を擦り減らすことになりますので、『重説備考欄の作成は契約業務の中でも最も時間と労力を費やす作業』と言っても過言ではありません。

なお、物件ごとに置かれた状況は異なりますので、完全にオリジナルの説明文を作らなければならない場合も少なくありませんが、これまでご紹介して来た文言例を参考にしていただければ、初めて遭遇する問題についても「何をどう説明するべきか」は何となく見えてくるはずです。

後はそれを如何に的確に、そして無駄にお客の不安を煽らないように文章化できるかということになりますから、ここは正に不動産業者としての『腕の見せ所』と言えるでしょう。

ではこれにて、売買重要事項説明書作成について(備考編)の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!