賃貸物件を所有していれば、避けることができないのが「退去」というイベントです。

如何なる物件でも退去しない入居者などまず存在しませんから、これは至極当たり前のこととなりますが、不動産屋さんにとっても、大家さんにとってもあまり歓迎すべき事態ではありませんよね。

そしてお部屋が空けば、費用を掛けてリフォームを行わなければなりませんし、新規の入居者募集もしなければなりませんから、退去の連絡が入るだけでもテンションは下がるものです。

また当然ながら、退去する者と「原状回復費用の按分」や「敷金の精算」について協議をすることにもなるでしょう。

なお、過去記事「賃貸敷金トラブルについて考えてみましょう!」においては、「どのような場合に入居者から原状回復費用が取れるか?」などについて解説いたしましたが、今回は退去立会いというイベント自体を如何に有利に進めるかについて考えてみたいと思います。

では、賃貸退去立会いのポイントを解説してまいりましょう。

賃貸退去立会いのポイント

 

退去立会いとは

経験豊かな大家さんや、賃貸の営業をされている不動産業者さんにはお馴染みの退去立会いですが、「あまり馴染みがない」という方のために、まずは基本的な事項からご説明をさせていただきたいと思います。

入居者から退去する旨の連絡が入れば、まず行うべきなのがこの「立会い」というイベントです。

ちなみに賃貸借契約書においても「退去時には物件の状況を確認し、原状回復の内容を協議する」旨が記されているはずですが、正にこの「状況確認」が退去立会いということになります。

基本的には、お部屋の荷物が全て撤去された状態で行い、床の傷やクロス(壁紙)の汚れなどを入居者と共に確認した上、原状回復費用の負担割合を相談するのがこのイベントの要点です。

そして物件管理を管理会社に委託している場合には、その会社がオーナー様の代わりに立会いを行うケースが通常ですが、近年では管理会社が「立会い料」を請求することが増えて来ているため、オーナー様が自ら立会いを行うパターンも増えて来ているといいます。

しかしながら、この立会いでの「交渉の流れ」によっては、後に敷金精算トラブルへと直結する場合もありますから、ここは大いに注意を払うべき重要な局面であり、決して気軽な気持ちで臨むべきものではありません。

また、経験の浅い管理会社の社員の方におかれましては、相手が少々ガラの悪いタイプの人間である場合に「胃が痛くなってしまう」という方も少なくないようです。

そこで次の項では、退去立会いを有利に進めるポイントについて解説して行きたいと思います。

 

退去立会いのポイントを解説

では早速、実戦的な退去立会いのポイントをご説明してまいりましょう。

なお、今回の解説では居住用、個人契約の物件を対象とさせていただきます。

立会いの時期

冒頭でも申し上げた通り、「隠れた汚れや傷が発見できない」という事態を防ぐために、お部屋の荷物が全て運び出された状態で立会いを行うのが基本となります。

そして立会うタイミングを考えた場合、パッと頭に浮かぶのは「引越し業者の搬出が終わった直後」となりますが、入居者は引越し屋さんの先回りをして新居に向かわなければならないため、なかなか時間を取ってもらえないのが実情です。

また、近年では引越し業者のプランで「時間が指定できないが、料金格安」というものが流行っていますから、当日まで何時に引っ越しが始まるか判らないケースも少なくありません。

よって一番確実なのは、後日改めてお部屋に集合して立ち会う方法となのですが、遠方に引っ越す方が相手ではこれも不可能となりますから、引っ越し時間が未定の場合には、しっかりと時間を空けておいて荷物が出切るタイミングを計るしか無いでしょう。

ちなみに私の経験上、おおよその荷物が搬出される所要時間は、単身者で1時間、ファミリーで2時間程度となりますから、引越し業者の到着さえ見届けることができれば、立会いが可能な時間の目処が立てられるはずです。

引越し先の住所や連絡先・敷金返還用の口座等を確認する

なお、これは非常に基本的なこととなりますが、退去する者の引越し先の住所や連絡先をしっかり確認するようにしておきましょう。

また、敷金のみでは原状回復工事の費用が捻出できない程に部屋を汚してしまった入居者の中には、虚偽の住所を申告する者もおりますので、免許証や新たな部屋の契約書で住所の確認を行います。

そして反対に、敷金の返還分が出た場合に備え、返金用口座の番号や名義人も確認しておくようにしましょう。

電気・水道・ガス・インターネット等の使用停止を確認する

退去立会いに際しては、お部屋で使用していた電気・水道・ガス・インターネット等の使用停止手続きが済んでいるかを確認しましょう。

インターネットなどに関しては、以前に住んでいた人間が使用停止手続きを行っていないため、次の入居者がネットを使用できないケースもありますので注意が必要です。

こうした事態を避けるためにも、必ず「各種の使用停止手続きが完了しているか」の念押しをするように心掛けましょう。

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物件の設備、残置物について

こちらも基本的なことですが、入居者の備品などを残置されると、後々始末に困ります。

処分には費用も発生しますから、お部屋の隅々までしっかりと確認しましょう。

特に高い位置にある収納の奥などは見落としがちです。

また、エアコンや冷蔵庫など設備として取付けられていた物品(オーナー様が所有者となる住宅設備)をうっかり引っ越し先に持っていってしまう場合もありますので、確認を怠らないようにしましょう。

なお、設備の中でも電灯やエアコンのリモコン、防水パンに付属されているL字型の排水口パーツ(エルボー)などは誤って持ち出される可能性が高いので要注意です。

※残置物と設備の違いについては過去記事「賃貸の残置物と設備の使い分けについて!」をご参照ください。

リフォーム屋さんを立ち会わせる

これは非常に重要なポイントとなりますが、退去後のリフォームを担当する工事会社が決まっている場合には、フォーム業者に立会いへの同席をお願いしてみましょう。

通常は、「お部屋の汚れや傷を立会いにて確認した後、リフォーム業者が見積もりを出し、これを基に原状回復費用の按分を決める」ことになりますが、この方式ですと入居者との間でトラブルに発展することも少なくありません。

例えば、汚れや傷の見落としが後日リフォーム業者によって発見され、立会いで確認した箇所以外の費用負担が発生すれば、入居者はオーナー様に不信感を抱きますし、

「クリーニングで落とせる」と言い切ってしまったクロスの汚れが、実際には「壁紙を張り替えねばならない」ことが後から発覚し、追加で原状回復費用を請求することになれば「トラブルに発展する可能性は一気高まる」でしょう。

そこで登場するのが、立会いの場にてプロとしての意見を述べてくれる「リフォーム業者」という訳です。

最近では、立会いのその場で見積もりまで出してくれる業者さんもいらっしゃいますので、これを利用しない手はありません。

 

証拠写真を撮っておく

物件オーナー様にとって「お部屋を空室にしたままの状態」は、正に身体から血を流し続けているのと同じ状態であるものです。

よって退去した者との敷金精算が完了していなくとも、リフォームにいち早く着手して、新たな入居者を募集する必要があります。

しかしながら、原状回復工事の負担分について争いが生じた時に、お部屋が綺麗にリフォームされていたのでは「証拠がなくなってしまう」ことになりますよね。

そこで便利なの方法が、とにかく退去後の室内を写真に収めまくっておくことです。

また、立会いの際に共に確認したはずの汚損等を、後になって「そんな傷があったことを憶えていない」と言い出す者もいますので、必ず写真は撮っておきましょう。

なお、こうした事態に備えて「お部屋の傷や汚れの位置を記録した書面」を作成し、立会いの場で入居者のサインをもらっておけば完璧です。

ちなみに、写真については入居前の状況もしっかりとカメラに収めておくべきでしょう。

こうした資料があれば、立会いに際して「この傷は入居した時から既にあった」と言い張る者に対して、証拠を突き付けることが可能となります。

「敷金精算の覚書」等の確認書類を交わす

昔ながら不動産屋さんは、原状回復の見積もりを基に、口頭だけで敷金の精算内容を取り決めてしまう方も少なくありませんが、これはなかなかにリスキーな方法 です。

後々のトラブルを回避するためにも、原状回復の借主負担分がいくらになり、敷金からのどれだけ返金するか、そしてこの精算をもって賃貸借契約が終了したことなどを謳った「敷金精算の覚書」等を作成しておくべきでしょう。

なお、立会いの場で工事見積もりが出せるようなら、その場で覚書への署名捺印まで済ませることが可能となりますから、非常にスムーズに事後処理を終えることができます。

またリフォーム業者の同席が叶わず、立会いの場での覚書の取り交わしができない場合には、後から「覚書を郵送して署名・捺印の上で返送してもらう」ことになりますが、敷金の返還を先行してしまうと、覚書を送り返してこない者も多いので、「覚書の到着をもって、返還敷金の振込みを行う」旨を申し添えておくべきでしょう。

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退去立会いまとめ

さて、ここまで賃貸退去立会いのポイントについてお話ししてまいりました。

読者の方の中には、退去立会いを気軽に考えておられた方も多かったことと思いますが、実は気を配るべき点が多数存在するナイーブなイベントであることをご理解いただけたことと思います。

特に退去した人間が遠方に、それも海外などに行ってしまう場合は、ミスをすると非常に面倒なことになりますから、細心の注意を払いながら立会いに臨んでください。

なお、退去業務全体の流れについては次回お届けする「賃貸契約解約の流れをご紹介いたします!」の記事にて詳細なご説明をさせていただくつもりです。

ではこれにて、賃貸退去立会いのポイントを解説する知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。