不動産投資を行うに当たっては、実に様々な知識が必要となって来るものです。

もちろん保有するのが「分譲タイプのワンルーム1部屋のみ」などという場合には、それ程の知識は必要ないでしょうが、これが『アパート一棟』ともなればかなりお話が変わって来ます。

なお、物件の購入に際して仲介業者が介在しているならば「買主がわざわざ勉強をしなくとも」という気も致しますが、それでも売買の手続きや契約内容に関する知識は最低限持っておくべきでしょうし、

問題のある物件を掴まされないためにも、民法や建築基準法、建築に関する素養を持っておくことは重要となって来るはずです。

また購入後には、不動産管理や税金に関する知識も必要となって来ますから「大家生活は日々是勉強」と言っても過言ではありません。

ちなみに、こうした収益物件オーナー様が知っておくべき事項の中でも、「特に重要性が高い」と言われているのが『消防法に関する知識』であり、勉強不足であったがために罪に問われ「大家さん自身が罰金や懲役といったペナルティーを課されるケース」さえあるのです。

そこで本日は「防火管理者とは?わかりやすく説明いたします!」と題して、賃貸物件オーナー様には是非知っておいて頂きたい消防法上の知識をお届けしたいと思います。

防火管理者とは

 

防火管理者って何?

冒頭にて「防火管理者」という聞き慣れないワードが出てまいりましたので、まずはこの資格についてのご説明から解説をスタートさせましょう。

防火管理者とは、消防法上で一定の要件を満たす物件において、「選任」と「所轄の消防署長への届出」が義務付けられた国家資格者を指す言葉となります。

※防火管理者には甲種・乙種の2つの区分があり、管理を行う物件の種類によって甲乙どちらの資格が必要かが変わって来ます。

※甲種の防火管理者の資格を取得していれば、乙種が必要な業務を行うことができますが、乙種の資格で甲種の業務を行うことはできません。

防火管理者の選任が必要な建物については次項で詳細な説明を行いますが、選任の必要であるにも係らず、これを怠った場合には物件オーナー様等に対して30万以下の罰金または拘留という厳しい罰が課せられることになります。

なお防火管理者の選任・届出の義務は物件オーナー様のみならず、業種によってはテナント自身(借主)も負うことになりますのでご注意ください。

また、防火管理者が行う業務は「消防計画の作成」及び「作成した消防計画の指揮・監督」とされており、これを怠って火災が発生した場合には防火管理者自身にも重い責任が圧し掛かって来ます。

事実、過去の判例では避難経路が物品で塞がれていたのを放置したとして、「業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役若しくは禁錮、又は100万円以下の罰金)」が防火管理者に対して適用されたケースもあるのです。

ちなみに「消防計画の作成」の作成というと、非常に難しそうな気が致しますが、各地を管轄する消防署が雛形のダウロードサービスを行っていますし、問い合わせを行えば書き方についても親切に指導してくれますから、それ程不安を感じる必要はないでしょう。

 

防火管理者が必要なケース

では、防火管理者はどのような物件で、また如何なる業種のテナントにおいて選任と届出が義務付けられているのでしょう。

特定用途と非特定用途の建物

防火管理者が管理を行う建物のことを「防火対象物」と呼びますが、防火対象物には『特定用途』『非特定用途』の2種類が存在します。

特定用途

飲食店・デパート・ホテル・病院・幼稚園などの用途に利用させれている建物を指します。

特定用途での収容人員の問題

この特定用途においては、収容人員が30人未満であれば防火管理者を選任する必要はありません。

但し、福祉施設等で素早く非難するのが難しい方々が出入りしている場合には、収容人員10人未満の場合のみ防火管理者の選任が免除されます。

特定用途での延床面積の問題

さて、収容人員の問題をクリアーできなかった建物については、続いて延床面積の問題を検討することになります。

そして対象物件の「延床面積が300㎡未満の場合」なら、乙種防火管理者を選任する必要があるでしょう。

これに対して300㎡以上の床面積がある場合には、甲種防火管理者を選任する必要が出て来ます。

また福祉施設の場合には延床面積に係らず、収容人員が10人以上である段階で甲種防火管理者が必要です。

非特定用途

居住用のみのアパートや賃貸マンション、事務所、工場などがこれに当たります。

非特定用途での収容人員の問題

非特定用途建物では、収容人員が50人未満であれば防火管理者を選任する必要はありません。

非特定用途での延床面積の問題

そして収容人員数が50人以上となってしまう場合には、延床面積によって選任するべき防火管理者が変わって来ます。

なお、延床面積500㎡未満の物件については乙種防火管理者を、そして延床面積500㎡以上の場合には甲種防火管理者を置く必要があるでしょう。

テナントの種類による防火管理者の区別

ここまで「建物全体での特定用途・非特定用途の区別」、そして「防火管理者が必要であるか否か」についてお話ししてまいりましたが、前項において「防火管理者の設置が義務が生じた建物」については、

そこに入居する『個々のテナント単位でも防火管理者を選任を行う必要がある』ことに加え、『営む事業によって防火管理者の区分も変わって来る』のがルールです。

例えば飲食店・デパートなどを営むテナント(特殊用途テナント)については「(テナント単体の)収容人員が30人以上なら甲種防火管理者」を、「30人未満ならば乙種防火管理者」を置く必要があります。

また、テナントが幼稚園や病院(特殊用途テナントであり、且つ避難困難施設)ならば「収容人員が10人以上なら甲種防火管理者」を、「10人未満ならば乙種防火管理者」ということになるでしょう。

なお、こうした建物で事務所や工場等のテナント(非特定用途テナント)を営む場合には、「収容人員が50人以上で甲種防火管理者」を、「50人未満ならば乙種防火管理者」という区分になります。

判別が困難な建物

さてこれまで、建物全体・テナントごとの防火管理者の必要の有無について解説を行ってまいりましたが、ここで気になるのが「防火管理者が必要なのか否かが、わからない物件」についてです。

収益物件の売り情報等を見ていると、1階が飲食店で、2階以上が居住用というタイプの建物を多く目にしますが、こうした建物に防火管理者は必要なのでしょうか。

ここでまず検討しなければならないのが、混在しているテナントの種別となります。

例えば1階に入っているテナントが事務所や工場などの場合には、居室と同じ非特定用途なので特別な問題は生じません。(建物全体の収容人数が50人以上にならなければ防火管理者の選任は不要)

これに対して、1階のテナントが飲食店や介護施設など(特定用途)の場合には慎重な判断が必要となります。

まず同じ特定用途でも、病院や介護施設の場合には殆どのケースで建物全体を特定複合用途防火対象物として扱わなければなりません。(建物自体が特定防火対象物と判断される)

また、居酒屋やレストランの場合には対象店舗の面積が300㎡以上、または建物全体の10%以上を占める場合に限り、特定防火対象物の扱いを受けるのです。

よって、「専有面積の広い飲食店」や「小規模でもクリニックなどが入居する物件」では、たとえ居住用部分が大部分を占めていても防火管理者の選任が必要になることが多いでしょう。

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防火管理者の資格取得について

このように一定規模以上の賃貸マンションやテナントビルのオーナー様にとっては、必要不可欠な資格である防火管理者ですが、その資格を取得するにはどのような手続きが必要となるのでしょうか。

まず前提として申し上げたいのは、この防火管理者の資格取得は「決して困難なものではない」ということです。

基本的には消防署が主催する講習を受け、講習の最後に行われるテストにパスをすれば、誰でも防火管理者となることができます。

またテストと言っても、それ程の難問は出題されませんから各種の国家資格の中ではかなり簡単な部類に入るはずです。

但し、甲種の場合で丸2日間、乙種の場合で丸1日の講習となる上、講習が開催される日程が非常に少ない(月に2~3回)ですから、多忙な方はとっては少々取り辛い資格かもしれません。

再講習

そして講習を受けて試験にパスすれば晴れて防火管理者となれる訳ですが、場合によっては再講習を受けなければならないケースもあります。

これは甲種防火管理者にのみ定められた制度となりますが、甲種の資格者の中でも全員に義務付けられたものではありません。

再講習が必要となるのは特定防火対象物である上、収容人員が300人以上の建物にて防火管理者に選任されている者のみが対象です。

なお、再講習は原則5年に1度となりますから、こうした建物の防火管理者になってしまうと、なかなか厄介です。

防火管理者の業務委託

こうしたルールの下で運用されている防火管理者の制度ですが、場合によっては外部の人間にその業務を委託することも可能です。

まず最も手軽に外部委託を可能とするのが、プロの業者に頼んでしまうという方法でしょう。

当然有料とはなりますが、ビル管理会社などの中には防火管理者を引き受けてくれる所がありますから、どうしても自分でやりたくないという場合には「これも一つの手段」かと思います。

なお、友人や知人にお願いする場合には、自分が遠方に住んでいることや病気などの理由が必要となりますから、消防法で定める要件を満たしていることを確認の上、手続きを行う必要があるでしょう。

 

統括防火管理制度

これまでの解説をお読みくだされば「防火管理者制度が相当厄介なもの」であることは充分にご理解いただけたことと思いますが、保有する物件次第では更に面倒な事態が起こって来ます。

これは統括防火管理制度というもので、消防法で定める一定の建物においては、入居する各テナントが置く防火管理者のまとめ役(統括者)を定めなければならないというルールです。

そして統括防火管理者は、各テナントの防火管理者が作成した消防計画をまとめ、建物全体の消防計画の作成を行わなければならない上に、様々な訓練の実施や非常口などの施設の管理もしなければなりません。

なお、統括防火管理者を置くべき建物としては、

  • 高さ31m以上の建物
  • 3階建て以上、10人以上を収容する病院や介護施設
  • 特定用途で3階建て以上、収容人員30人以上の建物
  • 非特定用途で5階建て以上、収容人員50人以上の建物

などとなりますから、物件の購入に際しては是非ご注意いただければと思います。

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防火管理者とは?まとめ

さてここまで、「防火管理者って何だろう?」というテーマで解説を行ってまいりました。

既に物件を運用されている方の中には、「防火管理者を選任していない!」と焦っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

万が一火災などが発生して、選任・届出を行うべき義務に違反していると厳しいペナルティーを受けることになりますから、心当たりの方は是非とも迅速な対応をお願いいたします。

なお、「防火管理者を置くべきかはっきりしないが、消防署に相談するのは怖い」という方については、消防点検などを依頼している防災会社に問い合わせてみるのがお勧めです。

物件オーナー様になるということは、入居者やテナントで働く方の命を預かることにもなる訳ですから、しっかりと法令を守って収益を上げたいものですよね。

ではこれにて、「防火管理者とは?わかりやすく説明致します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。