不動産投資や収益物件の運営を行う際に「痛感させられる」のが、『賃貸借契約においては、大家さんが非常に不利な立場に立たされている』という点です。

さて、唐突にこのようなお話をされても『今ひとつピンッとこない』という方もおられるでしょうが、例えば賃料の滞納が発生しても「退去勧告に抗う賃借人を追い出すためには裁判所の判決等が必要」となりますし、

余程の事情がない限りは「契約の更新を拒否することもでない」のがルールですから、賃料収入を得られる反面、物件オーナーに降り懸かるリスクは非常に大きなものとなっています。

そして、こうした立場にあるが故に「大家なのに、どうしてこのような悔しい思いをしなければならないのだ・・・」と涙を飲んで来られた方も決して少なくはないはずです。

なお、こうした物件オーナー様を救済するために1993年から導入されたのが定期賃貸借契約という新たな契約形態となります。

そこで本日は、非常に知名度は低いものの、知っておくと非常に便利な「定期賃貸借契約とは?」というテーマで知恵袋をお届けしてみたいと思います。

定期賃貸借契約とは

 

定期賃貸借契約はここが違う

さて、定期賃貸借契約の内容をご説明するにあたり、まずは通常の賃貸借契約との違いを比較しながら解説を進めていきたいと思います。

一般的にお部屋を貸す際に締結する契約は、正式には「普通借家契約」と呼ばれるものであり、契約期間は最短1年以上、オーナー様からの解約や更新の拒絶には「正当事由」が必要というのがルールです。

これだけ聞くとあまり問題が無いようにも思えますが、「普通借家契約」において1年以下の契約を結ぶと、自動的に期限の無い契約(期間永遠という意味)の契約になってしまいますし、

解約等に伴う正当事由についても、単に「大家さんが自ら建物を利用したい」「建物が老朽化してきた」くらいの理由では、なかなか解約が認められないが通常となります。

よって、近隣に迷惑を掛けまくる入居者が住んでいようと、建て替えが必要な時期に差し掛かっている建物であろうと、一旦賃貸借契約を結んでしまうとまず解約はできないのが現実なのです。

※もちろん、契約違反になる程の迷惑者(刑事事件を起こす者等)や、倒壊寸前で居住者の身に危険が迫っている場合には正当事由が認められる可能性は高いですが、紛争に発展した場合にはその判断を裁判所に委ねるしか方法はありません。

これに対して、定期賃貸借契約においては取り決められた期間でバッサリと契約を終了することができることに加え、1年以下の短期間契約も認められることになりましたので、オーナー様にはかなり有利な内容と言えるでしょう。

 

公正証書でなくても大丈夫

さて、ここまでの解説を聞いて「そんなに便利な契約形態が何故あまり世間に認知されていないのか」という疑問を持った方も多いことと思いますが、その理由の一つに挙げられるのが『契約締結の手続きが煩雑である』との誤解を受けている点となります。

ちなみにインターネットでこの契約形態について検索をすると、「定期賃貸借契約には公正証書による契約が必須」などと書かれているサイトを多く見掛けますが、これは真っ赤なウソとなるでしょう。

実は法令には「公正証書等で契約すること」との定めがありますから、これを根拠に『公正証書が必須』との勘違いをしている方が多いようですが、あくまでも「公正証書(等)」ですから、一定のルールさえ守れば一般の方が自分で作った契約書も『有効』と判断されるのです。

なお、公正証書とは公証人役場に行って手数料を払い、公証人に作成してもうらう公文書のことであり、その作成には費用も手間も掛かりますから、正直これは面倒過ぎますよね。

但し、公正証書での契約であれば契約違反に対して「裁判所の判決が無くして強制執行が行える」などもメリットもありますから、不動産の運用においては『公正証書を活用すべきシーン』も多々あります。

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定期賃貸借契約のルール

では、「必ずしも公正証書である必要はない」という点を踏まえながら、定期賃貸借契約を有効にするためのポイントについて具体的にご説明してまいりましょう。

契約内容

まずは契約書に書いておくべき内容ですが、基本的には以前に解説した一般的な賃貸借契約書の作り方と同様のもので問題はありません。

但し、契約更新の条項については「本契約は借地借家法第38条第1項における定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間の満了により本件賃貸借契約は終了します。」という文言を必ず入れておきましょう。

定期賃貸借契約を証する書面の作成

契約書の内容に加え、重要となるのが「定期賃貸借契約であることを証する書面」の作成となります。

なお、このように書くと『作成が難しそう』に聞こえますが、内容は実にシンプルでA4のペラ紙に「借地借家法第38条第2項に基づき、本物件の賃貸借契約は、更新がなく、期間の満了により契約は終了し、明け渡しを行わなければなりません。」と書いた上、物件名・所在地などを示し、借主の署名・捺印を行うのみです。

解約の通知

そして最後が、契約終了6ヶ月前に貸主から借主へと送る「解約予告の通知」となります。

こちらも非常に簡単で、「何月何日に契約が切れますので、定期賃貸借契約により物件の引渡しをせねばなりません」と伝えるだけになるでしょう。

 

さて、以上の3点が定期賃貸借契約を有効にするためのポイントとなります。

他のサイトを見ていると「非常に難しい書き方」をしているところも少なくあいませんが、実は非常に簡単な契約であることがお判りいただけたことでしょう。

 

定期賃貸借契約の活用法と注意点

そして契約の締結方法が解れば、この定期賃貸借契約を『どのようなシーンで活用するか』ということになりますが、これは主に「建物の建て替えを検討しているが、工事に着手するまでの間も部屋を貸して賃料収入を得たい時」や「転勤などの理由で自宅を一時的に貸し出したい時」などとなるでしょう。

アパートなどを運用していて『そろそろ建替え時期だな・・・』と思っていても、一気に立ち退きを掛けるのは至難の技となるでしょうし、全部屋が空くまで待っていては収入が途絶えてしまいますから、

こうした状況では空き部屋に定期賃貸借契約を締結した入居者を入れておくことで、着工ギリギリまで収入を確保することができます。

また、転勤などに際して「折角購入した自宅を遊ばせておくのはもったいない」という時にも、定期賃貸借契約を活用することで賃料収入が得られる上、再び転勤で戻って来る際にも「スムーズに入居者を立ち退かせることが可能となる」はずです。

なお、更新がない契約とはいっても貸主・借主の合意さえあれば「更新に関する特約」を結ぶことは自由ですし、契約終了時期を迎えて『もう少し貸していたい』と思う時には「新たに定期賃貸借契約を結び直す」という選択肢もあるでしょう。

但し、定期賃貸借契約で新規募集を掛ける際は、入居者に不利な契約内容となるため、一般の賃料相場の80~70%の賃料設定を行う必要があることも申し添えておきます。

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定期賃貸借契約まとめ

さて、ここまでが定期賃貸借契約に関する解説となります。

名前だけ聞くと『少々敷居が高そう』にも思えるこの契約ですが、実は非常に手軽なものであることがご理解いただけたはずです。

そして、一度入居者を入れてしまうと『大家さんの意志ではほぼ退去させることが不可能』となる普通借家契約に比べ、定期賃貸借契約はオーナー様にとって大変に有利な契約内容となることもお判りいただけたことでしょう。

また、収益物件の運用を行う上では「近隣トラブルを起こしそうな入居者」や「滞納のリスクの高そうな者」を入居させなければならないケースもあるかと思いますが、こうした場合には当初1年を「定期建物賃貸借契約」として、問題がなければその後に「普通借家契約」に切り替えるという方法も有効かもしれません。

このように使い方次第で収益物件運用を有利に進めることが可能となる定期賃貸借契約を、是非この機会にはご活用されてみては如何でしょうか。

ではこれにて、定期賃貸借契約とは?という疑問にお答えする知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。