賃貸アパートやマンションを運用されている大家さんにとって、空室の発生は非常に由々しき問題であるかと思います。

以前お届けした、「賃貸物件の空室対策について解説いたします!」の記事においては、空室を素早く埋める方法をご紹介いたしましたが、そもそも「空室発生率を下げる」ことはできないのでしょうか。

そこで本日は、「入居者の退去理由から知る、長く住みたくなるお部屋の作り方!」と題して、退去が発生し辛いお部屋の作り方について考えてみることにいたしましょう。

入居者の退去理由

賃貸物件の退去理由を知る

ではまず最初に、賃貸物件を借りている入居者が退去を決断する理由を見て行きましょう。

一口に「退去理由」といっても、その内容は実に様々なものがありますが、じっくりとデータを分析していくと『どうしても退去せざるを得ない理由』『状況次第では退去を回避できる理由』という2つの種類に分類することができます。

そして、『どうしても退去せざるを得ない理由』の例としては

  • 立地の問題/転勤や転職などで通勤が困難になる 等
  • 間取りの問題/結婚や離婚などで必要とする間取りが変わった 等
  • お部屋の面積の問題/子供が増えたことや、新たな趣味を始めたことで部屋の面積が不足している 等

以上のものが挙げられ、こうした動機については物件オーナーがどんなに努力をしても退去を抑制することは困難でしょう。

一方、『状況次第では退去を回避できる理由』を見てみると

  • 近隣住民や管理会社とトラブルを抱えている
  • 建物の管理体制に不満を感じている
  • 建物の設備に不満を感じている
  • 賃料が少々高く感じられる
  • 更新料を払うなら、その機会に住環境を変えてみたい

と言った理由が多いようです。

一見すると、こちらの退去理由も「オーナー側での対応が困難である」ように思えるかもしれませんが、やり方次第ではかなりの確率で退去を回避できますので、次項では具体的にそのテクニックをご紹介してまいりましょう。

入居者の退去率を低下させるテクニックをご紹介

では早速、賃貸物件の退去理由から導き出した入居者の退去を抑制する手法を見て行きましょう。

なお、これらのアイデアは既に実践済みである上、それなりの成果も上げていますので、是非ご参考にしていただければ幸いです。

入居審査を厳しくする

近年では「賃貸保証会社の審査が通れば、誰でも入居させる」という物件オーナー様が増えつつありますが、管理会社の立場から見ればこうした入居審査の姿勢は『退去率の上昇につながる』というのが本音です。

賃貸保証会社の審査のハードルは非常に低いのが現実ですし、「生活リズム」や「社会的な立場」が異なる方々を一つの建物に押し込めば、住民同士のトラブルが発生する可能性が高まるのは当然のことでしょう。

よって、審査が厳しくなり過ぎないように注意しながらも、

  • 属性の近い住人を集める/ホワイトカラー系でまとめる、ブルーカラー系でまとめる等
  • 勤務時間帯の近い住人を集める/夜勤のあり、なし等
  • 雇用形態の近い住人を集める/正社員でまとめる、フリターでまとめる等

といった入居者の選別を行うことで、不思議と退去率は低下していくものです。

なお、建物一棟でこうした入居者の住み分けが難しい場合には、「フロアーごと」いった単位でも十分に効果が得られるはずです。

また、審査に際しては必ずオーナー、または管理会社が入居希望者へ電話を入れて

  • 常識的な電話応対ができるか
  • 連絡に対するレスポンスは悪くないか
  • 質問に対して的確な返答ができるか

という点を確認しておくことも重要です。

入居後、他の部屋の住民からクレームが入った際に「まともに話が通じない相手だった」などという事態に陥らないためにも、一度は会話を交わしてから入居の可否を判断したいところです。

ちなみに別記事「賃貸入居審査のコツをご紹介いたします!」においては、より詳細に入居審査のテクニックをご紹介しておりますので、ご興味のある方は是非ご一読ください。

賃貸借契約書の条項を工夫する

賃貸借契約書の内容は「管理会社にお任せ」という方も多いことと思いますが、実は契約書の内容も『退去率と直結する』ものです。

例えば、「バルコニーでの喫煙禁止」を契約書に謳っていれば、煙草の匂いに関するクレームは激減し、これに起因した近隣トラブルの発生も防ぐことができますよね。

このように「生活のルール」となる賃貸借契約の内容を精査することで、物件の住みやすさは大きく変わってくるのです。

なお、退去率低下のために契約書へ是非入れておきたい条項としては

  • バルコニーでの喫煙禁止
  • 夜間の大音量での音出し禁止
  • 楽器演奏禁止
  • 入居人員変更の届出義務
  • 大家が新たに定めた物件使用ルールの遵守義務

などが挙げられるでしょう。

「入居人員変更」を制限すれば、同居人が増えたことでの騒音クレームなどを抑制できますし、「大家が定めた新ルールの遵守」を義務化しておけば、想定外の近隣トラブルが発生した際にも柔軟な対応ができるはずです。

そして、こうした文言を契約書に加えた上で

契約書に定めのない近隣トラブルについては、貸主・管理会社が借主へ必要な助言を行い、これに対応できない場合は契約が解除になる

という旨のトラブル防止条項を組み込んでおけば、契約書に定めのない住民トラブルにも大家が積極的に介入できるようになります。

※トラブル防止条項は訴訟において「無効」と判断される可能性もありますが、トラブル発生の抑止力として契約書に加えておいて損のない条項であるかと思います。

※賃貸借契約の内容については別記事「賃貸契約書の注意点を解説いたします!(居住用)」「賃貸契約書の特約事項の作り方を解説いたします!」にて詳細な解説を行っております。

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管理体制を充実させる

管理体制の充実というと、「管理会社の変更」や「コンシェルジュサービスの導入」など経費の掛かる対策をイメージしがちですが、お金を掛けずともできることは少なくありません。

具体的な例を挙げるならば

  • 共用部分の清掃を強化する
  • 頻繁に物件を巡回する
  • 高圧洗浄などのメンテナンスを充実させる
  • クレーム対応を迅速に行う
  • 管理体制の良さを上手にアピールする

などの方法が有効でしょう。

共用部分を常に掃除していれば、入居者はそれだけで気持ち良い生活が送れるものですし、頻繁に物件を巡回していれば「共用部分に荷物を置いている」など、後々クレームに繋がりそうな問題を素早く察知できるはずです。

そして、高圧洗浄や消防点検などをしっかりと行えば、物件の居住性、安全性も向上していきます。

また、具体的なクレームが入った際には「即座に警告文を張り出す」など、迅速な対応を心掛けることも重要です。

なお、警告文を貼り出す時には「敢えて貼り出す場所を増やす」「必要以上に大きく貼り出す」などして、『管理を頑張っています!』というアピールを入居者へ行うことも大切でしょう。

継続的な設備投資を行う

退去率を低下させるためには、定期的な設備投資を行うことも重要です。

設備投資に関してはオートロックや宅配ボックスの設置などを行うと、入居者の利便性を大幅に向上させることができますが、あまり経費を掛けたくない場合には、

  • 共用部への防犯カメラの設置
  • 共用部への自動体外式除細動器(AED)の設置
  • 高速インターネット回線の導入
  • 4K対応の衛星放送設備の導入

などを行いつつ、高額設備導入までの時間を稼ぐという方法も有効でしょう。

更新料を値下げする

さてここからは「賃料などに不満を感じている入居者へ向けた対策」のご紹介となり、最も手軽に行えるのが更新料に関する優遇となりますが、ただ更新料を値下げすれば良いというものでもありません。

通常、賃貸借契約の更新料は管理会社とオーナーで折半するのが一般的です。(更新料が新賃料の1ヶ月分と定められていれば、半金を大家さん、もう半金を管理会社が頂く)

よって、いきなり「更新料なし」というのは管理会社から反発を受ける可能性もありますし、入居者に対しても、最初のインパクトは強いものの「お得感を持続させ辛い」という弱点があります。

そこでお勧めなのが、更新の度に段階的に更新料を値引きしていくという手法です。

管理会社へ半金支払うことを考えると、更新料全額の50%が値引きの限界となりますが、2年毎に10%ずつ下げても10年は引っ張れますから、それなりの効果は期待できることでしょう。

賃料も毎回少しずつ下げる

更新料の値引きと合わせて、是非行っていきたいのが「更新の度に賃料を少しずつ下げていく」という方法です。

「そんなことをしたら、ドンドン賃料が安くなる!」とご心配されるかもしれませんが、『2年毎に月額1,000円』の値引きというレベルであれば、オーナー様にもそれ程のダメージは無いように思われます。

僅かな値引き額ではありますが、更新料の値引きと同時に行うことで、入居者が感じる「お得感は相当なもの」となりますし、「長く住めば済む程にメリットを得られる」というシステムは非常に魅力的なものであるらしく、この二つの方法の併用により退去率を大幅に減少させることに成功した事例も存在します。

借家人賠償保険、保証会社の費用を大家さんが負担

そして、退去防止策の最終手段とも言えるのが「借家人賠償保険の保険料、賃貸保証会社の保証料等の費用を大家さんが負担する」という手法です。

これまでに記した2つの方法と合わせれば、入居者のお得感は正に「絶大なもの」となることでしょう。

ちなみに、賃貸保証会社の保証料は意外に高額ですから多少の注意は必要ですが、借家人賠償保険はそれ程の金額でもありませんので、オーナー様を直撃する負担は決して大きなものとはならないはずです。

なお、こちらの手法は「2度の更新に1回(4年に1回)程度のスパンで散発的に行う(今回の更新は保険料等を頂くが、次回は大家さんが負担する等)」か、「賃料や更新料の値下げに限界が来た時に行う」のが効果的でしょう。

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入居者の退去理由から知る、退去防止法まとめ

さてここまで、退去理由から考える退去防止法を解説してまいりました。

記事後半の「賃料などに不満を感じている入居者へ向けた対策」をお読みになられ、「こんなに値引きしたら、儲からない!」と思われた方も多いかもしれませんが、退去となればその度にリフォーム費用が必要となりますし、新規募集を行えば広告宣伝費も発生するものです。

更には新規申込みが入るまでの期間、物件が一切お金を生まない状態となりますから、これらのロスを考えれば「更新料や賃料の値引きをする方が遥かにお得」ということになるでしょう。

目先の利益に捕らわれず、広い目で物件の運用を考え、入居者ファーストの賃貸経営を行うことこそが、不動産投資を成功させる最大の秘訣であると思います。

また、本文中でも申し上げましたが「退去防止策を行うのであれば、入居者に将来的なお得感を与えること」が何よりも重要です。

一度に大きなメリットを提供しても、その恩恵は直ぐに忘れらてしまうものですが、『長く住み続けることで、ドンドンお得さが増す』という持続性を大切に対策を行ってください。

ちなみに、入居時から「更新料の値引き」等の約束をするのではなく、更新が近付いて来た際に、サプライズ的にメリットの提供を行うのが更に効果的な手法であるかと思います。

但し、あまり「もったいぶって」いると、先に入居者から『退去したい』との連絡が入ってくる可能性もありますので、この退去対策では値引きなどを申し出るタイミングが非常に重要です。

ではこれにて、「入居者の退去理由から知る、長く住みたくなるお部屋の作り方!」の知恵袋を閉じさせていただきます。