アパート経営をしている大家さんが、必ず直面することになるのが「敷金精算に係るトラブル」となります。

綺麗にリフォームした部屋をドロドロに汚されてしまった時には、悲しみと怒りが込み上げてくるものですが、「賃借人にどこまで請求して良いのだろか・・・」と頭を悩ましてしまうことも多いはずです。

そこで本日は「賃貸敷金トラブルについて解説いたします!」と題して、大家さんの目線で原状回復と敷金返還のポイントについてお話ししてみたいと思います。

賃貸敷金トラブル

 

敷金とは

ではまず最初に「そもそも敷金とは何なのか?」という点からお話を始めさせていただきたいと思います。

敷金の意味をわかりやすくご説明するとすれば

賃貸借契約に際して、大家さんが損害を受けた場合に備え、入居者から予め預かっておく担保金

ということになるでしょう。

借りる側からすれば「部屋を壊したり、汚したりしなければ返って来るお金」という程度の認識の敷金ですが、本来は家賃滞納などあらゆるリスクに備えた預り金という性質を持っている訳です。

こうした本来の意味を考えれば、ひと昔前まで「敷金2ヶ月以上が当たり前」だったことも理解できますが、近年では少しでも入居時の初期負担を軽減するために「敷金1ヶ月」や、「敷金不要」をセールスポイントとしている物件まで目にいたします。

さて、こうした性質を持つ敷金ですが、実際に退去の時期を迎えて原状回復費用などを差し引こうとすると、これに「納得できない」と言い出す入居者も現在では少なくありません。

ちなみに、このような状況となってしまった背景には、関西地方での「敷引(しきびき)」の商慣習を巡るトラブル(関西では元々敷金を償却する習慣がありましたが、これを利用して2ヶ月、3ヶ月分の敷金を償却した大家さんと入居者間での紛争)や

通常の敷金精算においても、一部の物件オーナーさんや管理会社が入居者へ法外な原状回復費用の請求をする事案が頻発したなどの事情により、敷金に関するトラブルが社会問題として認知されるようになったという経緯があるようです。

更に近年では、

  • 東京都が定めた「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(所謂、東京ルール)」
  • 国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

などのの浸透により、一般の方々にも「必要以上に敷金から原状回復費用を差し引くことは違法である」という考えが定着して行く結果となりました。

しかしながら、手厚過ぎる保護は時に「別の被害者」を生み出すのが世の常です。

現在では、本来は原状回復費用として請求できる費用であるにも係らず、入居者から「それは違法だ!」などの苦情を受け、敷金の返還を余儀なくされるオーナーさんが続出しているのです。

原状回復費用として認められる基準を知る

では、こうした憂き目に遭わないために、収益物件を運用する者は何をすれば良いのでしょうか。

それはズバリ「正しい知識を身に付け、不当な請求をして来る入居者に毅然とした対応を執る」ことですから、本項では原状回復に関する基礎知識を解説してまいりましょう。

そして、まず押さえておいていただきたいのが「原状回復費用を請求することができない」とされる、

  • 経年変化/時間の経過により発生する劣化
  • 自然損耗/通常の使用法にて発生する劣化

による汚れや破損となります。

まず経年変化についてですが、太陽光による壁紙や畳の変色に、網入りガラスの熱割れなどがこれに該当するでしょう。

一方、「畳の上で長年生活していた」となれば、生活しているだけでも『それなりに畳の表面は擦り切れてしまう』のが当然であり、こうした通常の使用により生じる設備の劣化を「自然損耗」と呼び、原状回復の範囲から除外しているのです。

よって、エアコンや給湯器などにおける「時間の経過によって生じた故障」や「機械が寿命を迎えた」というケースについては自然損耗と判断されることになるでしょう。

これに対して、原状回復費用の請求が可能となるのが、

  • 故意による汚損・破損
  • 過失による汚損・破損
  • 善管注意義務違反による汚損・破損
  • 通常の使用範囲を超えて生じた汚損・破損

以上の汚損や破損となります。

故意・過失についてはご説明するまでもないでしょうが、善管注意義務違反とは「お部屋を借りる者が、管理者として果たすべき責任を怠ったことにより生じた汚損や破損」という意味になるでしょう。

また、「通常の使用範囲を超えて生じたに汚損・破損」については、『壁紙をタオル代わりに手を拭いており、大量の手垢が付いた』『ダンスの稽古で畳が擦り減った』などのケースがこれに当たると思われます。

なお次項では、『経年変化や自然損耗については請求できない』という原状回復の原則を踏まえながら、お部屋の設備ごとの原状回復について考えて行くことにいたしましょう。

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お部屋の設備ごとの原状回復

では早速、壁紙やフローリングといった設備ごとの原状回復義務について考えていきます。

壁紙(クロス)に関して

壁紙に関しては、ポスターなどを貼る際に生じた画鋲の穴が「自然損耗(通常の生活で生じる破損)」と判断されることは有名なお話ですが、最も問題となるのはタバコの煙による汚損ということになるでしょう。

原則として、タバコによるクロスの変色は原状回復費用の請求ができることになっているのですが、これに抵抗して来る入居者も少なくないのが実情です。

よってトラブルを防止するためにも、賃貸借契約書には「タバコによる汚損の原状回復費用は全額借主負担」というの文言を入れておくのが無難でしょう。

但し、国土交通省のガイドラインには「壁紙は6年でその価値を償却するもの」と書かれていますから、この知識を盾に『煙草の汚損については費用を負担するが、張り替え費用全額を負担するのは納得できない』と言ってくる者もいるかもしれません。

つまり新品の壁紙でも6年で価値が無くなるのだから、仮に3年間住んで居たなら「たとえ張り替え費用の全額を入居者が負担することになっても、総額の1/2(入居期間3年/耐用年数6年)しか負担義務はないはずだ」というのです。

こうした言い分は、オーナーさんにとって非常に腹立たしいものではあると思いますが、訴訟などになれば入居者に分があるのは明らかですから、ここは大人しく残存年数に応じた請求に切り替える方が無難でしょう。

なお、煙草と同様に故意や過失による「壁紙の破れや汚れ」についても当然費用の請求が可能ですし、壁に付着した手垢の汚れについても『注意義務違反』を理由に費用請求が可能なケースもありますが、こうした場合でも「壁紙の6年償却」を持ち出された場合には、これに従う他はないのが現実です。

畳・襖について

こちらもトラブルに発展しがちな設備となります。

クロス同様、破れや引っ掻き傷、シミなどは問題なく原状回復費用を取ることができますが、畳表での通常使用による擦り切れは対象外となります。

また「畳の表替え」について、契約書の特約で「全て借主負担」としてあるものをよく見掛けますが、裁判ともなれば特約は無効と判断される可能性が高いでしょう。

なお、どうしても表替え費用を入居者に負担させたい場合には、特約に「本来は支払うべき費用ではないのを承知しているが、畳の表替えの費用を借主が支払うことに同意します」くらいの書き方が必要となります。

但し、ここまで厳しい書き方をすると入居者が承諾してくれない可能性も高いですから、敢えて通常の記載方法をした上で「原状回復費用を払ってもらえればラッキー」くらいの腹づもりでいるのが無難かもしれません。

ちなみに、畳や襖については「価値が●年で償却される」という考え方はありませんので、たとえ10年間入居していたとしても『明らかに故意や過失による破損・汚損』がある場合には、原状回復費用を請求することが可能です。

フローリング・クッションフロアー等について

今どきの賃貸物件となれば、床は畳よりもフローリングやクッションフロアーとなっているケースが多いことでしょう。

フローリングについては、日光による日焼け等については経年変化とみなされるものの、傷や汚損は原状回復の対象となる上、償却期間もありません。

但し、細かな傷は入居前に写真などを撮っていても「元々存在していたか否かの判定が困難」ですから、原状回復費用をとれないケースも多いことでしょう。

ちなみに、フローリングの原状回復を行うとなればを「張替え」を想像される方が多いかもしれませんが、張替え工事には多額な費用が掛かりますから、これを全て入居者に負担させるのは現実的ではありません。

このようなケースにおいては、フローリングの補修工事にて対応すれば一人工(職人が一日作業を行う費用)3万円~5万円くらいで原状回復が可能となりますから、補修工事の見積もりをベースに入居者との交渉を行うのがスムーズでしょう。

一方、クッションフロアーについても傷などについてはフローリング同様に請求が可能となりますが、注意すべきは6年の償却期間が適用されるという点です。

よって、どんなに汚損や破損が激しくても6年以上の期間が経過していると、原状回復費用の請求は難しくなってくるかと思います。

窓ガラスや鏡について

窓ガラスについては、当然ながら破損があれば原状回復の対象となりますが、網入りガラスなどに発生する熱割れ(ガラスが太陽光に当たることで、熱による亀裂が発生する現象)については経年変化とみなされるのが通常です。

また、ガラスに防犯フィルムや遮熱フィルムが貼られており、その糊の跡の除去に苦労させされることもありますが、糊跡についてはクリーニング費用の一部として入居者への請求が可能となります。

一方、浴室や洗面化粧台に設置された鏡についても『基本的にはガラスと同様の扱い』となりますが、水道水に含まれるカルキなどが固まった「鱗汚れ」や「白い汚れ」、そして「鏡の中から錆が浮き上がってくる現象」については原状回復費用を請求するのは困難でしょう。

ルームクリーニングについて

こちらもあまり議論の余地がない原状回復工事の項目となるかと思いますが、賃貸借契約書の特約に「ルームクリーニング費用は借主負担」と明記されていれば、問題無く敷金から差し引くことができます。

ちなみに、この特約を契約書に付加する際のポイントはエアコンのクリーニング費用なども合わせて記しておくことです。

入居者の中には「エアコンクリーニングはルームクリーニングではない!」と苦情を申し立ててくるケースが稀にありますので、この点にも是非ご注意いただければと思います。

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賃貸敷金トラブルについて解説!まとめ

さて、ここまで原状回復を巡る敷金のトラブルについては解説を行ってまいりました。

そして同じお部屋の中でも、破損や汚損の状況や対象となる部位や部材によって「現状回復費用が請求できるか否か」の判断がかなり異なったものとなってくることをご理解いただけたことと思います。

なお、敷金の精算に当たって判断に苦しんだ際には国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をご参考にしていただくのがベストかと思いますが、その全てに目を通すのはかなりの手間ですから、そのような折には本記事をご一読いただければ幸いです。

また、入居者との接し方については、強気過ぎる態度や上から目線は、相手を意固地にさせるだけですから「弱気にならず、されど毅然とした態度で交渉に臨む」のが理想的な交渉のスタンスなのではないかと思います。

そして、交渉がこじれて訴訟などにもつれ込んでしまうのは非常に厄介ですから、ある程度のところで「落とし所を見付ける姿勢(本来は原状回復の範疇であっても、ある程度は大家さんがその費用を負担して上げる姿勢)」も重要なのではないでしょうか。

ではこれにて、「賃貸敷金トラブルについて解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。