不動産業や不動産賃貸業を営んでいると、避けては通れないのが物件内での「病死」や「自ら命を絶つ」といった事故となります。

そして、こうした事故はマイホームを購入する方や賃貸物件を借りたい方、そして不動産投資家様にとっても非常に気になるところでしょう。

そこで本日は「事故物件の告知義務についてわかりやすく解説いたします!」と題して、告知が必要となる範囲や期間、事故発生後の物件の活用法などについてお話ししていきたいと思います。

事故物件の告知義務

 

事故物件と告知義務

世間では当たり前のように「事故物件」という言葉が用いられていますが、その意味合いを正確に理解している方は意外に少ないように思えます。

なお以前は「内容は問わず人が亡くなっている物件」を事故物件と称していたのですが、現在では自殺や他殺といった事案が発生した物件を事故物件とする考え方が定着しています。(裁判などの司法の場においても同様です)

よって、老衰、ガンや感染症などによる病死、転倒など不慮の事故といったケースにおいては、事故物件として扱われることはないという訳です。

ただ、自然死であっても発見が遅れて特殊清掃が必要になった場合には、事故物件として扱われることになります。

ちなみに事故物件と言えば「告知義務」という言葉が付きものですが、これは

売主、貸主の告知義務
  • 民法では取引対象の瑕疵(隠れた欠陥)について、売主・貸主は契約不適合責任を負うことになっている
  • 事故物件であることは心理的瑕疵(心理的な物件の欠陥)に当たる
  • 借主、買主が瑕疵を知らずに取引した場合には契約不適合責任に基づき損害賠償請求等が可能になる
  • 事故物件について売主、貸主の告知が必要になる
仲介業者の告知義務
  • 宅地建物取引業法では物件の瑕疵(隠れた欠陥)について仲介業者へ告知を義務付けている
  • 事故物件であることは心理的瑕疵(心理的な物件の欠陥)に当たる
  • 告知を行われなかった場合には宅建業法違反、民法における注意義務違反に問われ、損害賠償請求等を受ける可能性がある
  • 仲介業者も告知が必要となる

という事情に基づくものとなりますから、事故物件の定義に当てはまるものには「不動産取引に際して売主または貸主、そして仲介業者による告知が必要になる」という訳なのです。

事故物件と告知義務を巡る判例

さて、ここで気になるのが事故物件となってしまった場合の告知義務の範囲です。

例えば過去の事件に対して告知が必要だからと言って、「戦国時代に合戦があった」ことを告知する必要はないでしょうし、「マンションの6階で起きた事故を5階に入居する方へ伝えるべきか」は非常に悩ましいところでしょう。

なお、こうした状況において参考とすべきなのが裁判の判例となります。

事故物件についてはこれまでに何度も裁判が起こされ、告知義務の要否について争われていますから、その判例を紐解けば「告知の範囲」も自ずと明らかになるはずです。

そしてまず、告知が必要な期間については

    東京や地方の大都市など「都会」においては、事故発生から6年以上、且つその間に3回以上入居者の入れ替わりがあれば、告知義務なし

と判断されるケースが多いようです。

但し、これが所謂「田舎」と言われる地域になると、事件の風化に時間が掛かるとの理由から、たとえ20年が経過しても「告知義務あり」と判断される場合もあると言います。

つまり、「事件の内容」や「その後の時間経過」と「物件の使われ方」、そして「物件が所在する地域」により、告知や説明が必要とされる期間は大きく異なるという訳です。

一方、告知を行う範囲については

  • 賃貸物件の場合は隣の部屋の事故は告知義務なし
  • マンションのエントランスでの事故は賃貸・売買共に告知義務あり
  • 室内で自殺を図り、病院へ搬送後に死亡したケースでは告知義務あり(責任は軽微)

など様々な判例が存在しており、賃貸と売買では判断に大きな差がある上、状況によっても結果がかなり変わってくることがおわかりいただけることと思います。

ちなみに宅建業法では、お客様が「知っていたら借りなかった、買わなかった」という事実については告知すべしと定めていますから、告知を行うか否かの判断を行うのは『非常に困難な状況にある』のです。

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事故物件のガイドラインの策定

このような状況を受け、国土交通省は2021年にこれまでの判例を基にした「事故物件に関するガイドライン」を策定しました。

そこで本項ではこのガイドラインの内容について解説していきたいと思います。

まず気になるのが事故物件の定義ですが、

事故物件となるもの
  • 自殺
  • 他殺
  • 火災による死亡
  • 自然死だが発見が遅れた(特殊清掃が必要なった)

以上のものが事故物件となりますので

事故物件にならないもの
  • 老衰で亡くなった
  • ガンや感染症などの病気で亡くなった
  • 転倒など不慮の事故で亡くなった

というケースは事故物件とはならず、告知も必要ありません。

なお、ガイドラインの対象となるのは居住用物件のみであり、事業用物件は対象外となりますのでご注意ください。

ちなみに、「仲介業者による事故が発生したか否かの調査」については

売主や貸主への問い合わせ(書面による告知書を記載してもらう)で足り、ネット検索までは不要

となっています。

また、賃貸物件と売買物件の告知を要する期間については

  • 売買物件/期間の定めなし
  • 賃貸物件/おおむね3年間

という基準が示されました。

そして、非常に気になる告知の範囲については

  • 取引対象の物件内で事故が発生した場合/当該物件については売買、賃貸共に告知義務あり(賃貸はおおむね3年間)
  • 事故物件の隣戸の取引/売買、賃貸を問わず告知義務なし
  • マンションの利用頻度の高い共用部分(エントランス等)での事故/売買、賃貸共に告知義務あり(賃貸はおおむね3年間)
  • マンションの利用頻度の低い共用部分(屋上等)での事故/売買、賃貸を問わず告知義務なし(該当共用部分に近い部屋は対象外)

以上のような内容となっています。

さて、このガイドラインの出現によって事故物件の取引が非常にスムーズになったことは事実ですが、注意すべき点として

事故物件イドラインの注意点
  • 国道交通省が策定した仲介業者向けの基準であること(売主や貸主に向けたものではない)
  • 借主や買主から「物件や周辺で人が亡くなった事実はあるか」と問われた場合には、告知義務が発生する
  • あくまでも判例を基にしたガイドラインであり、普遍的な基準ではない(訴訟などでは異なる判決が出る可能性がある)
  • 社会的な影響が大きいと思われる事件はガイドラインの対象外

という注釈が添えられていますので、実際の取引においてはガイドラインを無視して

後で揉め事になることを避けるために、洗いざらい告知を行っている

というケースも多いのが現実です。

事故物件の活用法について

このように事故物件とその告知義務を取り巻く状況を見て行くと、やはり「事故物件を購入するなど、とんでもない!」「自分の物件で事故を起こされるなんて状況は論外だ!」と感じてしまいますよね。

しかしながら不動産業界に身を置いていると、こうした物件を扱うことも少なくありませんから、「事故物件の意外な利用法」や「賃料の下落を防ぐ裏技」も見えて来るものです。

そこでご提案したいのが

といった事故物件の活用法です。

貸し会議室や自習室といった「時間貸しの施設」にしてしまえば、当然ながら告知義務は発生しませんし、ウィークリーマンションや民泊でも不動産の賃貸借契約を締結しなければ問題なく告知なしでの貸し出しが可能でしょう。

なお、ここまではアパートの一室などが対象の活用法でしたが、一軒家の場合ならばリフォームをしてシェアハウスとすることで、十分な収益を上げられる可能性があります。

ちなみに不動産屋さんの中には、事故物件を激安で購入して徹底的な供養(御祓い?)を行い、「御祓い済み!」という宣伝文句を掲げ、堂々と売りに出している方も時折見かけます。

もちろん、「どんなにお祓いをしようとも、そんな家には住めない」という方もおられますが、価格が相場より安く、御祓いという安全装置が付けられていることで、事故物件に対する嫌悪感が薄れてしまうタイプの方も確実に居られるのです。

また、こうした事故物件を不動産投資に利用しようとする投資家さんも存在しています。

事故物件が市場に出回る際には、売るにしろ、貸すにしろ、相場より割安となるのが通常ですから、その差額で収益を上げようというのが彼らの狙いです。

そして、ここまでご紹介してきたどの方法も難しいという方には、物件を一度更地にした上で、月極駐車場やコンテナ型のトランクルームとした上で、年月を経過させるという方法もあるでしょう。

もちろん、更地にして時間が経過すれば告知義務が免除される訳ではありませんが、用途も変わり、年月が経過すれば事件による価格への営業が減少していくことは間違いありません。

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事故物件まとめ

さてここまで、事故物件に関する告知義務や、その後の物件活用法についてお話をしてまいりました。

事故物件は確かに忌むべき存在かもしれませんが、人間が生まれて来る以上、亡くなるのは当たり前のことですし、不動産が人々の暮らしに密着しているものである限り、事故物件の発生を避けることはできないのです。

よって万が一、自分の物件が事故物件になってしまった際には、ただ気を落とすのではなく、その活用法をしっかり見定めることこそが大切なのかもしれません。

ではこれにて、「事故物件の告知義務についてわかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。