先祖代々不動産を受け継いでいる地主さんの中には、土地を他人に貸し付け、そこに借地人名義での建物が建っている物件をお持ちの方も多いことかと思います。

なお、本ブログでは今までこうした借地権が設定されている土地に関する様々な知識をご紹介してまいりましたが、土地を保有している「地主さんの目線」に立った記事については、ここまでお届けせずに来てしまいました。

そこで本日は「底地オーナーが知っておくべき知識をお届け!」と題して、土地を貸し出している地主さんに是非知っておいていただきたい不動産知識をお届けしてみたいと思います。

底地

 

底地とは?

ではまず最初に、冒頭にてお話しした「底地(そこち)」という権利についての解説をさせていただきたいと思います。

土地を他人に貸出して第三者名義の建物が建築されれば、その土地には借地権が設定された状態になる訳ですが、当然ながら土地の所有権は地主さんが保有したままの状態です。

そして、こうした状態の土地を保有している方を不動産業界においては「底地権者」と呼んでいます。

なお、実はこの「底地」という言葉は正式な法律用語ではなく、取引等を行う上で慣習的に使われている用語となりますから、その点は是非ご注意ください。

そしてここで気になるのが、「底地権者とは一体どのような権利を持ち、如何なる立場に置かれているか」という点になるかと思いますので、次項にて詳しく見て行くことにしましょう。

 

底地権者の立場

土地を貸し出している底地権者は、当然ながらその対価として賃料を受け取る権利を有しています。

そしてこの賃料は「地代」と呼ばれ底地権者の収入となるのですが、我が国の法律は徹底的に借地権者(土地を借りている人間)に有利に出来ていますから、その賃料設定はかなり安価なものとなっている地域が殆どです。

また土地の所有者である底地権者は固定資産税の支払い義務を負っていますから、税金を納めると「手元に残る地代の利益は殆ど無い」という方も少なくないようです。

そうとなれば「地代を少しでも値上げしたい」と考えるのが人情ですが、先程もお話しした通り裁判所は借地権者に有利な判断ばかりを下しますので、

地代の値上げをしようとしても「不当な地代の値上げだ!」などと抵抗され訴訟になれば、地主に有利な判決が出る可能性は殆ど無いのが実情でしょう。

さて、このようなお話を聞くと「地主なんてやってられない・・・」という気分にもなって来ますが、実はこうした地代の不足分を補う制度も用意されています。

それは借地契約の更新料や建替えの承諾料、譲渡承諾料などと呼ばれるもので、借地権者が契約の更新等の一定の行為を行うためには、地主にそれなりの対価を支払わなければならいルールになっているのです。

ちなみにあくまで一般論ですが、これらの費用の相場としては「契約更新」や「建替え」で更地価格の3%~5%程度、譲渡承諾で借地権価格の10%と、それなりの金額が底地権者へ支払われることとなります。

※更新料等の詳細については過去記事「借地権更新料の相場と他の承諾料について」をご参照ください。

このように底地権者は「有利な点もあれば不利な点もある微妙な立場」に身を置いている訳ですが、借地権者が『建物を売却したい』となった場合には様々なことに気を配る必要が出て来るのです。

 

借地が売られたらどうなる?

前項にて、借地権者が建物を第三者に売却した場合には、底地権者は譲渡承諾料を受け取ることができると解説いたしましたが、ここでは少々面倒な交渉等が付き物です。

なお本来であれば、借地権者が建物を売却しようとする際には、まず地主に対してどれくらいの譲渡承諾料が必要となるかの打ち合わせをするのが通常となります。

そして、ここで譲渡承諾に必要な費用が明らかになっていれば、借地権者も「建物(借地権)をいくらで売りに出すか」というプランが立てやすくなるものです。

しかしながら譲渡承諾の金額を巡って「底地権者と意見が折り合わない」というケースも珍しくありませんし、中には何の相談も無しに建物の売却を先行してしまうパターンもあります。

では、このように譲渡承諾を巡って争いが発生した場合には、如何なる作業が必要になるのでしょうか。

実は我が国の法律では、底地権者が譲渡承諾を認めない場合には「地主自身が借地権を買い取らねばならない義務」が生じたり、「裁判所が底地権者に代わって譲渡の承諾を与えることができるルール」になっているのです。

よって譲渡承諾を巡って、借地人と話し合いで決着が付けられない場合には裁判に臨む準備をしなければならなくなります。(譲渡承諾など巡る裁判のことを借地非訟と呼びます)

また借地権者が負債を背負い、建物が競売などに掛けられてしまったケースでは更に厄介な問題が降り掛かることになるでしょう。

ちなみにこのケースですと、譲渡承諾の条件うんぬん以前に競売によって新たな借地権者が決まってしまいますから、底地権者はその競落人と譲渡承諾の協議をせざるを得ません。

なお、競落人がまともな投資家や不動産業者なら良いのですが、中には質の悪い者たちも紛れていますから、この点には大いに注意が必要でしょう。

一方、譲渡承諾の問題がクリアできても借地権が設定されている土地に何らかの瑕疵(配管越境や擁壁損壊の等)があった場合には、新たな借地権者は底地権者に対して改善や賠償を求める権利を持つことになりますから、こうしたケースでは更に困った問題が起きて来るでしょう。

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承諾期限と介入権

ここまでの解説を聞くと、借地を売られてしまった底地権者は非常に不利な立場にあるような印象を受けますが、実は法律上「地主を保護する制度」もしっかりと用意されています。

まず一つ目に挙げられるのが、借地権の建物を手に入れた者は2ヶ月以内に譲渡承諾を取付けなければならないというルールです。

もちろん、新たな借地権者が承諾を求めているのに一方的に地主が応じてくれない場合には、裁判所が底地権者に代わって承諾を行うことになりますが、万が一「新借地権者が承諾を取り忘れていた」などというケースでは借地権自体が消滅してしまうことになります。

また底地権者は、新たな借地権者に対して優先的に借地権を買い取る権利(介入権)を有していますから、承諾料の問題で話がまとまらない場合には「建物(借地権)を買い取ってしまう」という荒業を使うことができるのです。

さてここで気になるのが、「どれくらいの金額で借地権を買い取れるか?」という問題ですが、通常は新たな借地権者の建物購入価格が基準となって来ます。

但し、買取る金額が折り合わず裁判などに縺れ込んだ場合には「建物の評価額にて買い取れる」との判決が出るケースが殆どですから、場合によっては「新たな借地権者が大損をする」こともあるのです。

 

借地権者による底地の買取り

借地権が第三者に売買されたケースに続いては、借地権者が自身で「底地を買い取りたい」と言って来たケースについて考えてみましょう。

借地権は資産価値も低く、建物を担保に入れて借入れをするのにも地主の承諾が必要となりますから、ある程度資力のある借地権者なら「底地を買い取りたい」と考えるのも無理はありません。

なお、こうした場合には「単に底地(土地)を売買するだけ」ですから、不動産業者などに依頼をして契約と引渡しをするのみですが、ここでも土地に関する瑕疵(隠れたキズ)の問題が発生して来ます。

例えば借地権者がクリーニング店などを経営しており、何の対策も取らないまま底地を買い取ったとしましょう。

そしてその後、クリーニング店が原因と考えられる土壌汚染が明らかになった場合には、実はその責任を土地の売主である底地権者が負わねばならないルールになっているのです。

土地を汚した張本人が、地主に対して「土壌汚染がある」とクレームを付けるのは実に不条理な気も致しますが、法律上、こうしたケースが発生する可能性は充分にあり得ます。

このようなトラブルを避けるためには、土地の売買契約を行う際に「瑕疵担保責任(契約不適合責任)は免責」という特約をしっかりと入れておく他はないでしょう。

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底地の知識まとめ

さてここまで、底地をお持ちの地主さんには是非知っておいていただきたい知識を解説してまいりました。

地主さんと言うと「何不自由なく暮らしている」というイメージがあるかもしれませんが、実はなかなかに大変な立場に置かれているのが現実なのです。

また、実際に底地を保有している地主さんにとって今回の記事は「背筋に寒いものが走る内容」であったかもしれませんが、

底地は扱い方次第で『非常に危険な代物』となってしまう可能性があるのは紛れもない事実ですから、問題が発生した場合には不動産業者や法律家と相談しながら解決を図るのが得策でしょう。

ご先祖から受け継いだ大切な資産を守るためにも、是非底地に関する知識を身に付けていただければ幸いです。

ではこれにて、「底地オーナーが知っておくべき知識をお届け!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。