不動産の購入や売却を経験したことがある方はご存じのことと思いますが、売買の契約書には収入印紙を貼り付ける必要があります。

なお収入印紙は、『一定金額以上の領収証には貼るのがルール』となっていますし、それ以外にも様々なシーンで貼付が必要となりますから、お仕事上「印紙を扱うことの多い」という職種の方もおられることでしょう。

そして、この収入印紙は「印紙税」という税制を根拠に貼付の義務が生じているのですが、不動産取引においては売買契約書以外にも覚書や賃貸契約書等へ印紙を貼らなければならないケースがありますので、不動産投資家様や地主さんにとっては大いに注意を払うべきものとなっているのです。

そこで本日は「不動産の印紙税について解説いたします!」と題して、不動産取引における印紙税という税制について解説してみることにいたしましょう。

不動産の印紙税

 

印紙税とは

さて、不動産に係る印紙税の解説を始める前に、まずはこの印紙税という税制の概要について少々ご説明をさせていただきたいと思います。

印紙税とは課税主体が国となる「国税」の一種であり、印紙税法という法律で定められた『文書』に対して納付が義務付けられる税金です。

なお納税方法については、課税対象となる文書の当事者が「印紙を購入して貼り付ける」という方式が執られており、貼り付けた印紙に割印を押すなどの「消印」を施すことで納税が完了したことになります。(消印は必ずしも印鑑で行う必要はなく、ペンなどで線を引くだけでも有効です)

また、「納付が不要な文書に印紙を貼って消印を押してしまった場合」や「印紙税法で定められた税額以上の印紙を貼って消印をしてしまったケース」においては、税務署に文書を持ち込むことで還付等を受けることが可能です。

一方、納税義務がある文書に「印紙を貼っていない場合」については『過怠税を徴収されるルール』となっており、税務調査などでその事実が発覚した場合には正規の税額の3倍を収めることとなります。(但し、自主的に貼り忘れを申告した場合は「正規の税額の1.1倍」を収めることで許されます)

更に印紙は貼っていたが消印は押しておらず、これを税務署などから指摘されたケースにおいては、貼っていない場合と同様に3倍の過怠税を支払うこととなりますので充分な注意が必要です。

ちなみに、『印紙を文書に貼り付けるなんて、変な納税の方法だな・・・』と思われるかもしれませんが、日本では明治初期から税制に組み込まれて来たものですし、ヨーロッパにおいては17世紀から導入されていたといいますから、実は「非常に由緒ある税の徴収方法」ということができるでしょう。

 

印紙税が課税される不動産取引上の文書

ここまでのお話にて、印紙税の概要についてはザックリとご理解いただけたことと思いますので、本項では不動産の分野における課税文書について解説してまいります。

①売買契約書

不動産取引において最もポピュラーな印紙税の課税対象文書となるのが「売買契約書」であり、契約書で取り決められた売買価格に応じて下記の金額の印紙貼付義務が生じます。

  • 10万円超~50万円以下  ・・・400円(200円)
  • 50万円超~100万円以下  ・・・1000円(500円)
  • 100万円超~500万円以下 ・・・2000円(1000円)
  • 500万円超~1000万円以下 ・・・1万円(5000円)
  • 1000万円超~5000万円以下・・・2万円(1万円)
  • 5000万円超~1億円以下 ・・・6万円(3万円)
  • 1億円超~5億円以下   ・・・10万円(6万円)
  • 5億円超~10億円以下   ・・・20万円(16万円)

※()内は2022年までの軽減税率となります。

なお、これは印紙税全般に言えることですが「文書1通につき課税義務が生じる」ことになりますので、文書が2通になれば各々に印紙の貼付が必要です。

ちなみに不動産業者が買主や売主の売買契約においては「契約書を1通しか作成しないケース」がありますが、これは印紙税を節約することが目的であり、通常は一般のお客様が印紙を貼った原本を持ち帰り、不動産業者はコピーを受けとることになります。(コピーであれば印紙税の納付義務はないので、原本のみに印紙を貼れば済みます)

②建物の賃貸借契約書

さて続いて解説するのが、建物の賃貸借契約書に関する収入印紙の貼付についてとなります。

不動産投資などを行っている方におかれましては、「賃貸の契約書に印紙なんて貼ったことがない!」と思われるかもしれませんが、確かにこれは誤った知識ではありません。

実は建物賃貸借の契約書については、原則印紙税は非課税ということになっています。

しかしながら、建物賃貸借であっても「礼金」や、店舗・事務所などにみられる「保証金の償却」等については印紙税の課税対象となりますので注意が必要です。(税額については前項で記した一覧と同様)

なお能々考えてみれば、たとえ礼金の支払いがある物件でも賃貸借契約書には「礼金の受け渡しに関する詳細」は記載されし、更新料にしても「新賃料の1ヶ月分」などという表現が用いられますよね。

そして、このような契約書の様式が採られている背景には「具体的な金額の記載を避け、印紙税の課税対象となることを回避する目的」があるのです。

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③借地権の契約書(土地の賃貸借契約書)

一方、土地の賃貸借書、つまりは借地の契約書については原則として印紙税が課税されることになります。

但し、地代は金額が書かれていても記載金額として扱われませんし、敷金・保証金などについても返還されるものであれば賃料と同様に課税はありません。

よって上記の内容のみが書かれた契約書であれば、「記載金額無しの借契約書」となり、1通につき200円の印紙を貼れば納税が完了したことになるのです。

しかし、更新料など返還されない金額が書かれたものは「記載金額あり」と判断され、金額に応じて売買契約書の際と同じ基準(前述の税額一覧表)にて課税を受けることになります。

駐車場等の契約書(施設利用の賃貸借契約書)

月極め駐車場の賃貸借契約書については原則として印紙税は非課税となりますが、状況によっては印紙税の課税対象として判断されてしまうケースがありますので注意が必要です。

但しこれは、駐車場の賃貸を「土地の賃貸借」とみなされた場合(前項で解説した借地契約とみなさる場合)に限りますから、対象の土地がアスファルト舗装されており、区割りの線や車止めなどが設置されていれば、「土地ではなく、駐車場の施設を賃貸した契約」との判断となるため問題はありません。

その一方で、更地に自由に自動車を駐車させているような場合には「土地の賃貸借」とみなされる可能性が高くなりますので、お気をつけていただきたいと思います。

なお同様の理屈で、建物の無い資材置き場等に関する賃貸借契約も借地契約とみなされ「印紙税の課税対象となる」でしょう。

④その他の文書

アパートや賃貸マンションの経営を行う不動産投資家様や、先祖代々受け継いで来た土地などを保有している地主さんについては、売買や賃貸の契約書以外にも様々な文書を他者と交わす機会が多いものです。

例えば、お隣の敷地に跨ったブロック塀がある場合には隣家と「共有物の覚書」を交わすケースがあるでしょうし、部屋を貸している賃借人との間で原状回復工事について特殊な取り決めを行っていることもあるでしょう。

実はこうした覚書や合意書などについても、そこに金額の記載がある場合には印紙税の課税対象とみなされることがあるのです。

先に挙げた例に当てはめるとするならば、「隣地との共有ブロックが壊れた際には、互いに20万円ずつ出し合って修繕を行う」といった内容や、

「原状回復において賃借人が故意に破損や汚損を引き起こしたものと判断される場合には、工事費用とは別途に10万円を大家さんへ支払うこと」などの文言が記載されていれば、印紙税を課税される可能性は充分にあるでしょう。

よって、契約書以外でも他人と文書を交わす場合には「極力金額を記載するのを避ける」のがおすすめです。

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印紙税まとめ

さてここまで、不動産の取引や運用に係る印紙税の知識についてご説明してまいりました。

なお「④その他の文書」の解説などを読むと、『金額が書かれていたら、どんな文書でも課税されそう!』という印象を受けるかもしれませんが、管理人的には「この印象はあながち間違いではない」ように思えます。

事実、仕事仲間やお付き合いのある地主さん、不動産投資家様のお話を聞くと税務調査の際にかなりの確率で「印紙税の納税漏れ」を指摘されているようですから、皆様も充分にご注意いただきたいところです。

また、『これは課税されるかな?』と不安に感じた場合には国税庁や税務署に相談することで直ぐに正解を教えてもらうことができますから、疑問に感じた際には是非お問い合わせをしてみてください。

ちなみに、このようなお話をしていると『たかが印紙代ごとき』と思われるかもしれませんが、「3倍の過怠税は決してバカにできないもの」ですからしっかりと知識を身に付けて、賢い節税を実践していただきたいところです。

ではこれにて、「不動産の印紙税について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。