ご先祖様から代々土地を受け継いでおられる地主さんや、マイホームの購入資金を可能な限り低く抑えたいとお考えの方に深い関わりを持っているのが「借地権」という言葉となります。

なお、借地権については過去記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」にてその概要をご説明し、「借地権更新料の相場と他の承諾料について」の記事では実務上の取り扱いに関する解説をいたしましたが、実は1993年を境に借地権には大きな制度変更がなされているのです。

そこで本日は「旧法借地権と新法借地権について」と題して、改正前後の法解釈の違いや、実務上の注意すべき点などについてお話しさせていただきます。

旧法借地権と新法借地権

 

借地権に関する法改正の経緯

さて冒頭にて、「1993年に借地権に関する大きな制度の変更があった」と申し上げましたが、より正確に申し上げれば「借地権に係わる法律が大きく変更された」ということになります。

それまで借地の取り扱いについては「借地法」という法律が適用されていたのですが、1993年にこの法律が廃止されて新たに「借地借家法」という法律が施行されたのです。

実はここまで使われて来た「借地法」の成立は大正時代まで遡るものであり、法律の内容についても「現在社会と大きな隔たりがあるもの」となってしまっていました。

その上、条文自体にも昔ながらの難解な表現が使われており、一般の方がこれを読んでも『いまいち意味が解らない』ものだったのです。

また、その法解釈においても土地を借りる側の「借地人」にあまりに有利な内容となっており、これを警戒した地主さんが「新たな土地の貸出しを行わない」という状態になってしまっていました。

そして、こうした問題点を解決するために借地借家法という新たな法律が作られた訳ですが、その変更内容については『あまり一般に知られていない』というのが実情でしょう。

 

旧法借地権と新法借地権の違い

ここまでの解説にて借地借家法の成立過程についてはご理解いただけたことと思いますので、具体的に旧法(廃止された「借地法」)と新法(新たに施行された「借地借家法」)の違いについてお話しして行きたいと思います。

旧法借地権と新法借地権の契約期間の違い

一連の法改正の中でも非常に大きな変更点となったのが、借地権の契約期間についての規定となりますので、以下ではその違いについてご説明してまいりましょう。

旧法借地権の契約期間

建物の種類により、堅固な建物(鉄筋コンクリート造等)は30年以上、非堅固な建物(木造)は20年以上の契約期間を設定しなければならないルールとなっており、契約更新後も同様に堅固建物は30年以上、非堅固建物は20年以上の期間設定が義務付けられていました。

なお、「契約に際して期間を定めない場合」や「堅固な建物で30年未満、非堅固な建物で20年未満の期間を定めた(借地人に不利な短期間の契約をした)ケース」では、新規契約で『堅固建物60年、非堅固建物30年』、更新契約においては『堅固建物30年、非堅固建物20年』という契約期間が設定されたものとみなされてしまうルールとなっていたのです。

新法借地権の契約期間

これに対して新法では建物の種類や構造に係らず契約期間を初回が30年以上、1回目の更新で20年以上、2回目以降の更新においては10年以上とするルールへと変更になり、旧法では半永久的であった契約継続期間に一定の縛りを設けることになりました。

旧法借地権と新法借地権の建物の朽廃と滅失に関して

朽廃・滅失は共に耳慣れない言葉ですが、「朽廃(きゅうはい)」とは建物が老朽化で朽ちていくことを指し、「滅失」とは災害などで建物が無くなったり、解体により取り壊されることを指す言葉です。

そして、この法改正においては土地を借りている人間の建物に「朽廃」や「滅失」という事態が起こった際の取り扱いにも大きな変更がなされました。

旧法借地権の建物の朽廃と滅失

旧法では建物が「朽廃」した場合には、地主の特段の申し入れが無くても契約は終了するものとされていました。(但し、期間の定めのない契約の場合に限る)

※朽廃による契約の終了が認めらるには建物がボロボロに朽ちている必要がありますし、裁判等でこれが認めらるケースは非常に稀でした。

但し、これが「滅失」となると基本的に地主は契約の解除ができないものとされていたのです。

新法借地権の建物の朽廃と滅失

そして新法ではこの「朽廃」と「滅失」の扱いに大きな変更が加えられ、「朽廃」についての記載が無くなり、「滅失」と同じに扱われることになりました。

また「地主の特段の申し入れが無くても契約は終了する」という規定も無くなり、契約解約の要件はあくまで『滅失+借地権者の解約申し出』へと変更されたのです。

なお、これでは「むしろ借地人に有利な法律となった」ようにも感じますが、『地主に無許可で再建築を行った場合』については借地人に厳しいペナルティーが課せられることとなり、

地主に許可を得ずに滅失した建物を再建築した場合には、初回更新以降なら「借地契約の即時解除」、初回更新以前なら「更新時期の到来を持って地主からの契約解約が可能」との内容に改められました。

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旧法借地権と新法借地権の契約解除の際の正当事由

そしてこの改正では、借地権最大の問題点とされていた「地主からの解約要件」に関しても変更が加えられることになります。

これまで借地権を地主側から解除するには、「正当事由」という理由付けが必要でしたが、この点についてもメスが入ったのです。

旧法借地権の契約解除の際の正当事由

解約には正当事由が必要とされながらも、明確に「何がそれに当たるか」の規定はありませんでした。

また、たとえ訴訟となっても『余程の事情がない限りは、地主に有利な判決が下ることはない」のが当たり前であり、実質的に『地主からの解除はできない』というのが常識でした。

新法借地権の契約解除の際の正当事由

これに対して本改正では、地主からの解約に関する「正当事由」について以下の通りある程度明確な規定が設けられました。

借地借家法における正当事由
  • 建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
  • 建物の賃貸借に関する従前の経過
  • 建物の利用状況及び建物の現況 等

なお、その中には「立退料」についても規定がなされており、『正当な金額を提示することは契約解除の正式な理由となる』ことになったのです。

新法借地権における定期借地権の設立

これまで新法による改正点を見てまいりましたが、それでもまだまだ借地権については「貸す側に不利な印象」を受けるはずです。

そこで設立されたのが、一定の期間が経過すればスッパリと更新なしに借地契約を終了できる「定期借地権」の制度となります。

定期借地権には「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「事業用借地権」の3種類があり、それぞれに特徴がありますが、その詳細については以前記させていただいた「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」の記事をご参照いただければと思います。

ちなみに定期借地権の創設により、借地借家法においては更新が可能な借地権(定期借地権以外の借地権)を「普通借地権」と呼ぶことになりました。

 

今なお数多い旧法借地権(借地法)の契約

さてここまで、借地に関する新法・旧法の違いを見てまいりました。

確かにこうして比べてみると、「新法が明らかに地主さんにとって有利」なのがご理解いただけたことと思います。

なお、このようなお話をすると既に旧法にて土地を貸し出されている地主さんの中には「今からでも、新法の契約に切り替えられないの?」とお考えになる方もおられるでしょう。

ただ、残念ながらこの質問に関する答えは「NO」ということになります。

確かに1993年以降に締結された借地権契約は新法の規定が適用されることとなりますが、「それ以前に成立した借地契約は旧法の定めによる」というのがルールなのです。

また、借地に建てられて販売されている新築戸建て(建売物件)や借地権付きの中古戸建に関しても、借地契約が成立したのが1993年よりも前であれば「建物の所有者変更」「建替え」があろうとも、旧法の契約が生きていると解釈されますから、流通している物件の多くは借地法(旧法)に基づく物件となります。

物件探しなどをしていて、不動産屋さんに紹介される販売図面の中には未だに「旧法借地権」との記載を見掛けることがありますが、その裏にはこうした事情がある訳です。

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旧法借地権と新法借地権まとめ

このように、旧法借地権と新法借地権には様々な違いが存在しております。

また新法の施行により、以前よりかなり地主さんに有利な借地契約が行えるようにはなりましたが、今なお『借地権者が優位な立場であること』には変わりがなく、

新たに借地として貸し出される土地が急激に増えるといった効果は未だに実感できない状況が続いているようです。(そもそも借地借家法の施行の裏には地主に有利な契約を可能にして、取引の活発化を図る狙いもあった)

但し、この改正により可能となった定期借地権については用途限定ながらも実務でかなり利用されていますから、土地の運用にお困りの地主さんには是非積極的にこれらの制度をご活用いただければと思います。

なお、今後の法改正においては「更に借地の運用が手軽なものとなる内容」が盛り込まれる可能性もありますので、情報が入り次第改めて記事を書かせていただくつもりです。

ではこれにて、旧法借地権と新法借地権についての知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。